ずっとずっと 待っている


心が動く その時を ―――



レッスン

Lesson7




熱くて、思考さえも持って行きそうな舌が悟空の舌を絡め取る。


「んっ…ふぅっ……っ」


拙いながらも、何とかキスの合間の呼吸の方法を覚え、息を吸う。

うっすらと瞳を開けると、整った顔が間近にあり、その金髪がサラリと揺れた。


目を閉じ、三蔵の服をギュッと握って、自分も舌を動かして。

クラクラする感情に翻弄される…と思った途端、ゆっくりと唇が離れた。


「…はっ…ん…? ……さん、ぞ?」


引いて行く熱に目を開けると、三蔵はすでに煙草を手にしていた。



「…今日はここまでだ」



「え? ……えーっ!? 何でだよー!? 早くしねーと……ぁっ……」



そこまで言って、ハッと口を閉じる。


「早くしねぇと、何だ?」

「…なんでもない」


静かな問いかけに、小さく首を横に振った。

三蔵に自分の焦りを知られるわけにはいかなかった。


そう、焦っているのだ、自分は。


だって、早く大人ならなければ、悟浄はいつまで経っても悟空を見てくれないのだから。


それに…早くしないと悟浄に好きな人が出来てしまうかもしれない。


今は好きな人はいないと言っていたが、いつそんな人が出来るかわからない。



だから、早く。



早く大人になって、悟浄の視界に映りたい。




最初は視界に映るだけでいい、なんて本気で思っていた。

悟浄が好みの女の子に声を掛けるときの、あの顔を、こちらにも向けて欲しかった。

あの顔はどうやっても見る事が出来ない悟浄の一部だったから……知りたいと、思ったのだ。


けれど最近では、遊びのキスくらいしてくれないかなぁ、という欲が出て来ている。

悟浄が悟空を好きになる事は天地が引っくり返ってもありえないけれど、遊びのキスくらいは、自分の努力次第で何とかなるかもしれない。

だから日々、三蔵に教えを請うているのだ。





「…馬鹿が」


小さく呟いた三蔵の声は届かなかった様で、悟空は俯いて何やら考え事をしている。

考え事の内容なんてどうぜ、悟浄のことだろう。

悟浄は悟空の考えている事が解らないという風だったが、三蔵からしてみれば解りすぎる事この上ない。

長い間ずっと一緒にいた事もあるが、何より悟空が単純であるのが理由だ。


―― ……馬鹿が……


もう一度、今度は心の中で呟く。


悟浄を想っているやつなんか、抱きたくない。

自分を見ない奴なんてムカつく以外の何ものでもない。

悟浄に好かれる為だけに、三蔵に頭を下げたという事実が、かなりムカつく。



それより何より……一度抱いてしまったら、手離せなくなる。



それが三蔵には一番怖かった。



だから、何度も何度も想いを込めてキスをする。




―― 早くオチて…こっちを見やがれ…




長い溜め息を煙草の煙とともに吐き出した。


最近の悟空はキスに慣れて、たどたどしいながらも求めるように舌を動かしてくる。

何度も何度も深いキスを繰り返すと、潤んだ瞳で見上げてくる。

それがどれだけ心臓に悪いか、自覚がないからやっかいだ。


本当に手を出しそうになって困る。


けれど、悟空に『大人の運動』を教えたが最後、これ幸いと悟浄の元へ脇目も振らずに行ってしまうに違いない。



そんなこと、させてやらない。



例え、悟空の想いが叶う事はないと知っていても、だ。



だから、少し控えることにしたのだ。

しかし、そうすると、先に進まない三蔵に対して悟空が不満を言ってくる。

今のところは悟空の痛いところを突いて黙らせてはいるものの、それもいつまでも続くものではない。



だから早く、オチてくればいい。




そうすれば――その全てを、受け止めてやるのに……。










 











―― …最近、三蔵が冷たい…


悟空はそう心の中で思って、少し違うかもしれないと考え直した。

冷たいといっても、三蔵の態度はいつも通りだ。


けれど、『大人の運動』を教えてくれなくなったのだ。


以前はOKしてくれていた一緒の部屋になる事も、たまには静かに休ませろ等と理由を付けて断られる。

いつも八戒や悟浄と一緒にいて、二人きりになれないのも要因の1つだ。

最初はたまたまだと思っていたが、こうもあからさまだと流石の悟空も、二人きりになる事を避けているのだと解るというものだ。


やっと二人きりになれた時も、いつもキスだけで終わり、続きを教えてくれない。

一刻も早く悟浄のタイプに近づきたいと考えている悟空にとって、それは嬉しいものではない。


意図的に避けられると、それは教えたくないと言われているようなもので。

やっぱり男とそういう事をするのは抵抗があるからなのだろうと思って申し訳ない気持ちはあるものの、一度約束した事は守って欲しいというのが本音だ。


それに、駄目なら駄目、嫌なら嫌になったとハッキリ言ってくれないと、悟空には解らないのだ。

三蔵が嫌になったのなら八戒に頼んで。それも駄目なら最後の手段として、そういう大人の店で相手をしてくれる人を探すつもりでいる。

しかし、いくら焦っていても、知らない相手…しかも男とどうこうなんて死んでもゴメンだから、出来るならば三蔵に教えてもらいたい。

だが、三蔵が教える気になってくれなければ話が進まない問題だから、今の悟空に出来る事はないに等しい。

なので、そんな状況がじれったくて堪らないのだ。


遠回しなやり方をしらない悟空は、状況を打破するべく、単刀直入に三蔵に詰め寄った。


「なぁ、三蔵! 何で最近キスもしてくれなくなったんだよ? 教えてくれるって約束忘れてねーよな?」


言いきると、新聞を読んでいた三蔵の手が一瞬動きを止めた。


「…うっせぇ、バカ猿。 忘れてねぇから黙ってろ」


それだけ言うと、三蔵は何もなかったかのように新聞を捲る。

その煮え切らない態度に、ムッとする。


「ずっと思ってたんだけど……三蔵は俺の反応見て面白がってんだろ!」

「は?」


そう、ずっと考えていた。

三蔵の性格からして、男同士が嫌ならば、無理だとスパッと言ってくれるだろう。

だから、嫌ではない事までは、解る。

教えることに抵抗がないのに先延ばしにしている理由として考えた結果、思いついたのがそれだった。


じっと睨みつけると、三蔵はくだらないとばかりに溜め息を吐いた。

その何でもない事に、焦っている悟空は必要以上にイライラしてしまって。

ついに、キレた。


「もー、ムカついた! それなら三蔵には頼まねぇよ! 八戒に教えてもらう!」


言い捨ててクルリと三蔵に背を向ける。

面白がっている、なんて本気で思っていたわけではないけれど、否定してくれない事が寂しくて、ついムキになってしまう。


そのまま部屋を出ていこうとした時。



力強い手が悟空の腕を掴んで引き止めた。





「…なん…だと…?」





振り返る前に、低い声が聞こえ、背筋が冷える。

と同時にグイッと腕を引かれ、そのままベッドに投げられて。驚いている間に、三蔵が上に圧し掛かってきた。


見上げるその表情はすごく怒っていて。


ワケが、解らない。


「え…さんぞ……何で、怒って…?」

「…行かせねぇ…他の男の所になんか…」


不思議そうに見上げて来る悟空に、三蔵の中の怒りが膨れ上がった。



何も知らないのなら、その身をもって思い知ればいい。



そう、思った。



「ちょ、どけよ、さんぞー!」


三蔵の怒りが解って怖くなったのか、悟空は焦ったように圧し掛かる身体を押し返そうとしている。

そんな事をしても無駄だと、知らしめたくなる。


「…フザケんなよ、テメェ…… ……誰が退くかよ…そんなに知りたけりゃ教えてやる」


自分がどれだけ我慢しているのか。



今までどんな思いだったのか。





―― …グチャグチャにしてやる…





怯える悟空の唇を、強引に奪った。


「さんぞっ…んぅっ…」


いつもしている遠慮なんて微塵もせず、思うままに悟空を貪る。

苦しそうに眉を顰める悟空を無視して、更に深く舌を絡め取る。

手を出したら、手放せなくなると思っていたから……ずっと我慢してきたけれど。


―― …手放せなくなる、って…? ……んなの、ハナっから手放せねぇんだよ…


自嘲気味に喉の奥でクッと笑う。


「っ…んむっ…ぅっ…は、んっ…」


鼻にかかった悟空の喘ぎが、ダイレクトに腰にクる。

性急だと自分でも解っているが止められず、悟空の服の隙間から、その下の素肌に手を這わせた。


「ひゃ、ぅんっ…さ、んぞ…なに、んんっ…」

「……っ」


悟空の手触りは、想像よりも全然よくて、確かめるように何度も何度も撫でる。


それでも全然足りなくて。


全身で、感触を楽しみたくて。



悟空の服を毟り取るように捲り上げ、けれどその時間も惜しくて、全てを脱がさず、腕の所で留めて。

素早く経文をテーブルに投げ置き、着物の部分を肩から滑り落としてハイネックを脱ぎ捨てると、再び悟空の上に覆いかぶさる。


直接触れあうその感触が、堪らないほどの興奮を呼び起こす。


悟空の首筋に唇を寄せ、キツク吸い上げた。


「っ…さ、んぞっ…っふっ…」


震えながら自分を呼ぶ声が可愛くて、ふっと笑みを浮かべる。


「大丈夫だ。 お前は感じたまま、啼いてろ」

「…え、泣く、って? んぅっ…んん、…」


意味が解らず首を傾げた悟空に答えを返すことをせず、唇を塞いだ。

もう怒っていない事が解ったのだろう、悟空は抵抗を止め、三蔵に身を任せている。


そんな些細な事が、三蔵の心を暖かくしているなんて、目の前のガキが気付く事はないのだろう。



それでもいいと、思って。







胸に手を這わせた。














その時。









ノックもなく、部屋の扉が開いた。










横目で確認すると、固まっている赤い人物が見える。

これが八戒だったならヤバかったが、見られたのが事情を知っている…むしろこのゴチャゴチャの原因になっている悟浄だった為、小さく舌打ちをするまでに留めた。


「…取り込み中だ… 出ていけ」


一度低く凄んで、そのまま行為を進めるべく、悟空の首を舐め上げた。


その途端。


「……て、めぇえっ!!」


出て行くどころか、怒りを爆発させながら足音荒く、悟浄が踏み入ってきた。


「ざけンなこの野郎!!」


猛烈な勢いで飛んでくる足技を、三蔵は身体を引いてかわす。


「わ〜〜!? 何してんだよ、悟浄ッ!?」


避けられた勢いのまま三蔵に殴りかかろうとしている悟浄を、悟空は慌てて止めた。

本気で怒っているのが分かったから、必死に悟浄の身体を押し留める。


「ちょ、落ち着けって悟浄! いきなりどうしたんだよ!? つか何で怒ってんだよ!?」

「離せサル! こンの生臭ボーズ、ブッッッ殺す!!!」



必死の悟空に勝る勢いで怒りをぶつけて来る悟浄に、三蔵は苛立ったように口を開いた。


「関係ねぇテメーに口出されることじゃねぇよ」

「っ!!」


三蔵の台詞に我に返ったのか、息を飲んで、悟浄の動きが止まった。


「テメェは悟空をフったんだろーが! だったら俺が悟空に何をしてもテメェには関係ねぇだろ!」


途中で邪魔された怒りを込めて、怒鳴りつける。



大体、ブッ殺したいのはこっちの方だ。



悟空の心を奪っている、殺したい程憎い男。



「前にも言っただろうが。 ムカついてんのはこっちの方なんだよ!」



三蔵と悟浄が睨みあう中、解っていない悟空だけが不思議そうな声を上げた。


「え?え? 何? 三蔵も怒ってんの? 何で!?」


何で何でと連呼しながら、三蔵と悟浄の顔を交互に見比べている悟空に、緊張感というものが薄れる。

悟浄もそう思ったのか、睨みあっていた視線を外して、舌打ちをした。


「っわぁったよ! 邪魔したなっ!!」


吐き捨てるようにそう言って部屋から出た悟浄は、壊れるんじゃないかと心配になる位荒々しくドアを閉めて行った。

全然付いていけていない悟空は、呆然と悟浄が去って行ったドアを眺めている。


「…マジで悟浄どーしたんだろ? なぁ、三蔵?」

「俺が知るか」


教えてやる義理もない。

興が逸れ、三蔵は煙草に火を付ける。



「……あれで気付かねぇなんて、イカレてやがる…」



悟空に聞こえないように呟くと、溜め息と一緒に紫煙を吐きだして。 手を差し伸べた。



「…悟空、来い」


「え?」




「続き、知りてぇんだろ? …教えてやるよ」




まだ混乱しているのか、悟空は悟浄が出ていった扉と三蔵の顔を見比べている。




「悟空」





少し強めに呼んでやると、悟空の視線が三蔵に定まって。










そっと三蔵に近づき、その手を取った――。





















三蔵サマの手を取っちゃいましたーーー
おいおい浄空はどうしたよってお思いかもしれませんが、このお話はちゃんと浄空です!!
まぁでも三空もあるよってなことで、今まさにその場面なんです、はいvv

もうちょっとしたら完成……できるといいナ


(2011.05.23)
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