なにをすれば



『大人』になれますか――?




レッスン

Lesson3




「……?」


悟空は最初、何をされているのか分からなかった。

驚くほど近くに三蔵の顔があって、唇が、暖かい……と、それだけ思った。

が、すぐに唇に触れているのが三蔵のそれだと気づく。



「っ――!!!???」



声にならない声を出し、悟空は思わずといった様子で体を引いた。

驚くほどすんなりと離れられたのは、こういう反応をすると分かっていた三蔵がすぐに悟空を開放してやったからに他ならない。


「っ…な、な、な!!??」


真っ赤な顔で口元を押さえている悟空に、今時の小学生でもしない反応だと思う。


「…分かったか? こーゆーこった。できねーなら今のうちに言うんだな」




そう、今なら、止めてやれるから。




これ以上進めてしまうと、本気で止めてやれない。






自分が、だ。






少し怯えたような表情で俯いてしまった悟空は色々考えているのだろう。

全ては分からなくても、どういったことをするのか大体は予想がついたはずだ。

考えがまとまるには時間がかかるだろうと、三蔵はポケットから煙草を取り出して火をつけ、煙を吸い込んだ。



―― …お、大人がする激しい運動って……そっそそっそうなのかっ!? そっち系の事なのかよっ!?///



悟空はグルグルする思考を纏めようと、必死に頭を働かせた。


そもそも、悟浄が自分の真剣な告白を、ガキだからという理由でまともに受け取ってくれなくて。


だったらガキじゃなくなれば、悟浄は自分を見てくれるかもしれないと思った。


その為には、悟浄の言う、『ガキにはできないような、腰が砕けるような激しい運動』とやらをする必要があると考えた。


悟浄には聞けない。

だから、三蔵に聞こうと思った。


三蔵に教えてもらって、大人になって。




早く、悟浄のタイプに近づけるように、と。




しかし、さっきの三蔵の行動で、いかに自分がガキであるか思い知らされてしまった。

キスされるなんて、思ってもいなかった。

軽い気持ちで、教えろと言った。

三蔵が怒った意味を、ようやく理解したのだ。


でも、それをしなければ……悟浄に好きになってはもらえないから…。


両想いになれるなんてバカな考えは持ち合わせていないけれど。




少しでも。




ほんの少しだけでも、悟浄が自分の事を好きになってくれる可能性があるのなら……。






自分が選ぶ答えは、一つだけだ。






「さっ、三蔵!」

「……」


煙草を揉み消しながら視線を送ってくる三蔵に、悟空は覚悟を決める。


「えっと……つ、続き、教えてくんねぇかな…?」

「っ――!?」


瞬間、いつもあまり動かない三蔵の表情が驚きに染まった。

固まったまま、ただ悟空を見ている三蔵の瞳に、ふと気づく。


―― あ!


そういえば、悟浄が『男と男』は無理だと言っていた事を思い出した。

悟空は男の悟浄を好きになったから、関係ないと思えるけど、三蔵は違うだろう。

自然の摂理にも反しているし、男とキス以上なんて絶対死んでも嫌だと思うのが普通なのだろう。


「あ、悪い! 三蔵が嫌なら、いいから! そ、そうだよな、気持ち悪いもんな!」


自分だって、三蔵や八戒、悟浄以外の男からそんなことされたら、すごく嫌に決まっている。

三蔵の気持ちも考えずに教えろと喚いた事を、今更ながら後悔した。


「…………ご、ごめん、さんぞー…」


ポツリと謝罪する。


と、その途端、強張っていた三蔵の顔が、今迄見たこともないくらい、優しく微笑んだ。



「…ったく、バカ猿…」



仕方ない奴、とでも言うように、暖かい瞳が悟空に注がれる。

三蔵の表情にびっくりしている隙に、三蔵の腕が伸びてきて、再び腰を引き寄せられて。



唇が、重なった。



「っ――、さんぞっ…/////」

「…教えてやるから黙ってろ…」


いきなりの事で思わずといった風に三蔵の胸を押し返している手を掴んで、更に近くへと引き寄せる。


―― …柔らけぇ、な…


重ねたその唇は、三蔵が思った以上に柔らかくて、歓喜的なものだった。

少し唇を離してはくっつけ、重ねては離れという軽いキスを繰り返しているのだが、そんなキスでさえも悟空がガチガチになっているのが丸分かりだ。

心の中でクッと笑いながら、少し離れて、そっと囁く。


「……おい、口を開けろ」

「え?」


何を言われたのか分からなかったのか、聞き返してくる悟空の唇が解かれた。

その瞬間を逃さず、舌を滑り込ませる。


「――んうぅ!?」


奥で縮こまっている悟空の舌を絡め取り、堪能する。

舌が触れた瞬間、悟空がビクッと身体を揺らした。

離れないように悟空の頭の後ろを片手で押さえ、何度も何度もキスを繰り返す。

角度を変えたり、強弱をつけながら続けていると、徐々に悟空の身体から力が抜けてきた。

表情も、とろんとした様なものになっている。


「……お前も舌、絡ませろ」

「…え…どう…?」

「…俺と同じように、すればいい…」


言って、教えるように舌を動かして悟空を促す。

最初はどうしようとばかりに縮こまっていたのだが、ゆっくりと悟空も舌を動かした。

絡み合った途端、ゾクゾクとした感覚が悟空の身体を駆け抜ける。


―― ど、したんだろ……俺。 ……すっげぇ、きもちー…


三蔵が舌を絡め取ってきたのもとても気持ちよかったが、自分でも舌を動かすと、それ以上の気持ちよさが生まれる。

もっと、この感覚を味わいたくて、三蔵の服に手をかけ、もっととねだるように舌を絡めた。


「さ、んぞ…んぅっ…」

「……それでいい……」


求めるように自分に縋ってくる悟空に、三蔵は唇の端を上げる。

ご褒美といわんばかりに、荒々しく、身体から快感を引き出すようなキスをあげた。


―― ……いい…顔だな……


うっとりしたような悟空の顔に満足しながら、キスを堪能する。







と。







ノックもなしに、部屋のドアがガチャッと音を立てて開いた。


そしてすぐに見慣れた赤い髪の男が顔を覗かせた。


「ぅおーい、メシだっ…て…よ……」


その赤髪の男は、中にいる二人を見た瞬間、言葉を失った。



すぐに離れてしまったが、先程の二人のキスシーンがバッチリと目に焼きついている。



固まってしまって動かない悟浄を他所に、悟空がメシという言葉に逸早く反応した。


「え?メシ? 食う食う!行こうぜ、三蔵!」


先程の事などもう忘れてしまったかのようにベッドから降りると、食堂へ急ぐ。

ふと、出口のところで固まっている悟浄を不思議そうに見上げ、首を傾げた。


「どしたんだよ、悟浄? どけよ。通れねぇだろ?」

「あ、ああ…」


ハッと我に返った悟浄は横にずれて、塞いでいた出口を開けた。


「ほら、悟浄も行くぞ! さんぞー!先行ってるかんなー!」


言うが早いか、返事も待たずに、悟空は一目散に食べ物の方へと走っていった。



悟空の後姿が見えなくなり、ボッと煙草に火をつける音で、ようやく何が起こっていたのか頭で理解した。

ベッドに腰掛けたまま煙草をふかしている三蔵を、ギッと睨みつける。


「…てめぇ、何してんだよ!」


思ったより低く、怒りを含んだ声が出たと思うのは気のせいだろう。


「見たとおりだ」


いつも通りなその態度に、悟浄の苛立ちが大きくなった。


「……三蔵サマよ、お子ちゃまに手ぇ出すほど溜まってんのか?」

「馬鹿言え。悟空が望んだことだ。…どうせお前の入れ知恵だろう」

「っ……!」


その言葉に、肺を潰されたような衝撃を受けた。


……どの『言葉』に…?


ふと浮かんだ疑問を、頭を振って払い飛ばす。

そう、『悟空が望んだこと』の方ではなく、『悟浄の入れ知恵』の方が図星でびっくりしただけだ。

自分でそう結論を出した時、すぐ近くから三蔵の声が聞こえた。


「おい、邪魔だ、とっととどけ」


いつの間にか、煙草を銜えたまま部屋から出ようとする三蔵がすぐ傍に立っていた。


言いたい事は沢山ある。

けれど、何を三蔵に言う必要があるのか。

悟空が望んだ事で、三蔵も抵抗がないのなら、別に男同士でキスしていたって問題ではない。

大体、自分が口を出すところではないだろう。


「おい!」


苛立った三蔵の声に我に返り、身体を引いて通り道を開けると、三蔵は悟浄を見ることなく、そのまま食堂の方へ歩いて行った。

悟浄もまた、遠ざかっていく三蔵を見ることなく、脳裏に焼きついた場面に頭をグルグルさせていた。




キスを、していた、悟空のその表情が……。




すごくエロい顔を、して、いて……。







……… 見惚れた ………。










―― 冗談じゃねぇ!!



頭を大きく振って、自分の考えを断ち切った。

そんなこと、あるはずがないのだ。

何が悲しくてヤロー同士のキスにそんな考えを持たなければならないのか。

そう思うのだが、何故だが胸のあたりに何かが絡みついたようで、もやもやとする。


心の奥のむしゃくしゃが晴れなくて、悟浄はおもむろに部屋に入ると、テーブルに置いてあった三蔵の煙草を取り出し、火を付けて吸う。

2回程吸いこんで、まだ長いままの煙草を揉み消す。

そしてすぐに別の煙草を取り出し、同じように2回程吸って灰皿に押し付けた。


その行動は三蔵の煙草が空になるまで行われた。


三蔵の煙草を全部使ってやって、最後の1本を揉み消したところで悟浄は長い溜息を吐いた。


―― …何、やってんだかな〜


鬱憤を晴らす為に行ったのだが、落ち着いて考えると自分でもアホだなと思う。

こんなの、ガキのような、幼稚な嫌がらせだ。



けれど。



そんなくだらない事でも、何かをしないではいられなかった。



たとえ、切れてしまった煙草を買いに行くのが自分になるだろうと知っていても。















三空で微々エロでございました〜vv
さーて、これから浄空を頑張っていきますvv


(2009.07.10)
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