触れたい




触れられない










触れたい――










近くて遠い距離

〜前編〜





ハァ、と思わず出てしまったため息に気付いて、沢田綱吉は口元に手を当てた。

今が授業中だということを忘れていた。ちらりと先生に視線をやると、どうやら気付いていないようで授業を進めている。



リボーンが沢田家へ家庭教師に来てからツナの悩みは毎日絶えないでいた。

だけど今日のため息はいつもの悩みからではないから始末におえない。



悩みの種は獄寺隼人、その人だった。



最近、獄寺の態度がおかしいのだ。


ツナに向けてくれる笑顔や尽くしてくれる態度は変わらない。どころか、最初の頃よりもずっと親しくなれたと思う。

だけど、最近になって獄寺はツナに壁を作るようになった。

壁といっても傍に寄らないなどといった大げさなものではなく、普通ならそんなに気にしないことなのだろう。





…ツナに触れない…ただそれだけのこと。






昨日もそうだった。

お昼に獄寺からソーメンパンを手渡されるとき、獄寺の身体に緊張が走るのが伝わってきた。

そして指先をかする事もさせずにツナにソーメンパンを渡した。


髪が突風に煽られてぐしゃぐしゃになったときも、前なら獄寺が慌てて直してくれていたのに、それもなかった。

直そうと手をツナに近づけることはあったが、何を思ったのかそのまま手を引っ込めてしまうのだ。




何故だか、ツナに触れないようにしているのだと感じた。




そういう時の獄寺の表情は、すごく辛そうで。どうしたのかと聞きたいのだが、すぐにいつもの笑顔を向けてくるから聞けないままでいた。




そんな些細な変化でもツナには解ってしまう。





獄寺のことをいつも見てるから。






そう、ツナは獄寺のことが好きだった。

気付いたのはだいぶ前だけれど、男を好きになった自分に慌てたりはしなかったのは、相手が獄寺だったからだと思う。

すんなりと自分の気持ちを認めることができた。

だけど告白なんて夢のまた夢で。傍にいられる幸せに浸っていた。


そんな時に獄寺の態度の変化。




もしかしたら自分の気持ちがバレて気持ち悪がられたのでは、と焦ったが何日かするうちにそれは違うと分かった。

分かってほっとしたものの、獄寺の態度が変わるわけでもなく憂鬱な日々を過ごしている。



でもツナには獄寺の態度の変化に心当たりがないわけではなかった。



―― やっぱりこれって…オレが駄目なせいだよな……



ツナは自分が獄寺に嫌われる要素を持っていることも知っている。



―― 何やらせても駄目だからなぁ…



フゥ、と吐いた深いため息に今度は気付かないまま、ツナは瞳を閉じたのだった。















 
















「10代目!帰りましょう!」


授業終了のチャイムが鳴り響き、教室が放課後の活気を取り戻している。そんな中真っ先にツナに明るい声が飛んできた。


「あ、うん」


とっくに帰り支度を済ませた獄寺はニコニコ笑いながらツナの机の隣に立って待っている。

急いで自分の帰り支度を済ませたツナは獄寺に向かって笑顔を向けた。


「待たせてごめん」

「いいえ。それじゃ、帰りましょう!」


笑顔を返してくれる獄寺に鼓動を高鳴らせたが、ふともう一人の友達の姿が見えないことに気付いた。


「あれ、山本は?」


きょろきょろと辺りを見回して山本を探す。するとたちまち不機嫌な声が聞こえてきた。


「アイツなんか放っておけばいいっスよ」

「そ、そうもいかないよ」


ツナが山本の話をするとすぐに不機嫌になる獄寺に苦笑して山本の席に視線を向けると、丁度こっちへ歩いてきている山本と目が合った。


「あ、山本!今日は部活?」

「ああ!一緒に帰れなくて悪いな!」


軽く手を上げて謝る山本に、ツナは笑顔で首を振った。


「ううん!じゃ、部活頑張ってね!」


短い会話で別れを告げると獄寺と一緒に歩き出した。


帰っているときは獄寺が色々と話題を振ってくれるから二人の間に会話がとぎれることはない。

山本と三人で帰るのも好きだったが、獄寺と二人きりになれる貴重なこの時間がツナはとても大切だった。

ツナの隣に獄寺がいるということがツナの心臓をドクドクと忙しなくさせるけれど、それさえも心地よいと思ってしまう。


獄寺の顔はもちろん、煙草を吸う仕草やだらしない制服の着こなしさえもカッコイイ。

獄寺の視線が前にあることをいいことに、ツナはじーっと見惚れたように獄寺を見た。

今見れる獄寺の表情全部、自分だけが見ることが出来ると思うと嬉しくて。そんな獄寺を見逃してしまうのがもったいなくてツナは目を逸らせない。



―― 好きだなぁ…すごく…



そう想いながら獄寺を見ていると、急に獄寺がツナに視線を向けた。


「…ですよね、10代目!」


「えっ!?あ、う、うん!」


獄寺に見惚れていて話を聞いていなかったツナはいきなり振られた話題に思わず頷いた。


自分でもおかしいと思う反応に、獄寺もそう思わないはずが無く、獄寺は覗うようにツナを見た。


「どうしたんスか、10代目?」

「な、何でもないよ。は、早く帰らなきゃね!」


本当はゆっくり時間をかけて一緒に帰りたかったが、どうしたのかと覗き見てくる獄寺の視線から逃れようとワザと話題を変えて足早に歩いた。


だって見惚れていて話を聞いていませんでした、なんて言えない。


スタスタと歩いていると、慣れない早歩きをした所為か足元にあった石に躓いてビタッと転んでしまった。


「っ痛ぁ〜」


間抜けすぎる自分の失態に、穴があったら入りたい心境だ。

ツナが転んだことに慌てた獄寺はツナに走り寄る。


「じゅっ、10代目!!大丈夫ですかっ!!」


駆け寄ってきた獄寺の腕がわずかにツナに向かって動かされたが、それも一瞬のことで、獄寺はスッと元の位置に腕を戻した。


「お怪我はありませんか!?」



心配そうな瞳を向けてくれる獄寺だったが、やはり前のように手を貸してくれない。






手を差し伸べても、くれない。






そんな事実がツナの心を酷く締め付けた。



「…そ…なに…オレに触るのが…嫌…?」



薄々気づいては、いたのだ。








ただ……。








「え…?」

「なんでもない。ごめんね、こけちゃって」


ツナは獄寺に笑顔を向けると、自力で立ち上がって服に付いた土を払い落とした。


本当は、分かっていたのだと思う。


獄寺が自分に触れない事実の意味を。


何時の頃からか獄寺はツナに壁を作り、ツナに近づかないように心がけているようにも思える。



―― 嫌われちゃってた…んだろうな、きっと…。



でも嫌われる理由はツナには痛いくらい良く分かっていた。

そもそも、最初から好かれる理由がないのだ。

ボンゴレ10代目だから仕えているものの、あまりのツナの駄目っぷりに愛想を尽かしたのだろう。



―― 仕方ないよね。だってオレ、助けてもらってばっかりで、獄寺くんに何も返せてないもん。



そう解ってはいても、自分から獄寺に『無理して仕えなくていいよ』などとは口が裂けても言えない。



どうしても獄寺と離れたくないと自分の心が叫んでいた。



―― ホント、駄目だな。オレって…。



ふぅ、とため息を付くとツナは何事もなかったかのように歩き出した。




数歩進んでから、獄寺がピタリと足を止めていることに気付き、振り返る。



「獄寺くん?」



振り返ってみた獄寺は驚愕に目を見開きながらツナを見ていた。そんな獄寺にツナが驚くと、獄寺の表情が辛そうに歪んだ。







「…そんな顔しないでください…」







「え?」







その言葉に首を傾げると、獄寺がツナの前まで来て止まり、じっと見下ろしてきた。

ツナは何を言っていいのか解らなくて…何か言ってもいいのかも解らなくて獄寺の瞳を見返すことしかできない。


獄寺はゆっくりとツナの頬に手を伸ばした。

が、やはりそれが触れることは無く、あと数センチで頬に触れるというところで手は止まっている。

獄寺の手の暖かさは感じられるのに触れられないのがツナにとって辛かった。


そしてとうとうツナの不満が爆発した。



「っ…獄寺くん…本当はオレの傍にいたくないんでしょ…」


「え?何を…」






「嫌いなら…嫌いならハッキリそう言ってよっ!!」



思わず叫んでしまった自分の言葉にハッとして獄寺を見ると、獄寺は驚いたような傷ついたような顔をしていた。



―― 傷つけたっ…オレがっ……



自分で言った言葉に涙が出そうだった。

それでも必死に唇をかみ締めると、獄寺に背を向けて全速力で走った。


頭に血が上ってたとは言え、自分から終止符を打つようなまねをしてしまった。



―― バカだ…オレ、バカだっ!!



家に着くと挨拶もそこそこに、すぐさま自分の部屋のベッドに潜り込んだ。


その後すぐにリボーンが入ってきたけど、オレの様子がおかしいと気付いたのか「出てくる」と一言残してどこかへ出かけてしまった。


ツナは布団の中で零れそうになる涙を必死に堪えた。

泣いてはいけないと、自分が泣くのはお門違いだと自分に言い聞かせる。

何をやっても駄目なツナが獄寺に嫌われるのは当然のことなのに、獄寺に酷い言葉をぶつけてしまった。

獄寺に対する罪悪感と自己嫌悪でツナの頭はいっぱいだった。















ツナ、言い逃げ…(笑)思ったよりもちょっとだけシリアスっぽくなっちゃいましたιι
獄寺も獄寺なりに葛藤をかかえているのです。うん。
後編はエロ入ります
もちろん、期待するほどのものじゃございませんが!!(笑)

あ〜、そういえば1話に纏めるつもりだったのに、気がついたら前後編になってますね……ιι
やっぱり文才ないっすね〜あっはっはっは〜



……私は泣かなかったと思います……(笑)
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