この 感情は  何だろう ……… ?



恋心




西浦高校野球部は、今、合宿の真っ最中だ。合宿といっても、前のような野外合宿ではなく、今回泊まるのは学校だ。

各々の強化練習としてこの合宿が開かれたのだ。3泊4日の軽いものだが、7時から朝練をしていつも通り授業をし、放課後遅くまで練習するという結構なハードスケジュールである。


練習が終わるとグラウンド整備をし、近くの銭湯で汚れを落とし、晩御飯を食べた。

そして、夜は大会議室に布団を敷き詰めて眠ることになったのである。

いつも寝つきが激的に悪い三橋は、夕飯を食べた後うつらうつらとしていたが、睡魔には勝てずにそのまま眠ってしまったのだった。疲れが溜まっていたのだろう。

布団を敷いて寝かせてやっても起きる気配がなかった。前の合宿でも同じだったよな、と皆で笑いあっていた。


その他の連中は学校に泊まるということで少しはしゃいでいたものの、疲れがあったのだろう、11時には皆眠りに入っていた。

阿部も例にもれず、三橋の横に布団をしいて眠りについたのである。





 








(冷たい…)






そのひやりとした感覚に、阿部はうっすらと目を開けた。


布団の中に何か冷たいものでも入れていただろうか?と、そんなことを考えながらその冷たいものに眠りを妨げられた阿部は、あくびをした。

ひやりとした正体を確かめるべく、冷たいものに触れた手を見ると、三橋の手が阿部の布団の中に入ってきていた。

そしてすぐに納得する。この冷たい感触は、三橋の手だったのだと。


阿部は何回か三橋の手に触れたことがあるが、三橋の手が暖かかったことは一度も無い。

(何で眠ってる時まで、そんなに冷たいんだよ?)

何だかとてもやるせない気持ちになってくる。

最初から皆に対して一線を引いていた三橋。自分に自信が無くていつもびくびくしている。自分から話しかけることなどほとんどなく、周りを気にして。

今では少しは皆にも慣れてきたけど、おどおどするのは変わらなくて。そして手に触れると、やっぱり冷たいままなのだ。

その度に阿部は訳も分からず三橋を責めてしまいそうになる。



(どうしてそんなに遠慮することがある!?)



(俺を信頼してるって言うならもっと態度で示せよ!!)



(俺はお前の…  )





「っ…!!」




そこまで考えて、次に出そうになった自分の言葉に驚いた。


(俺は…今、何を考えた……?)
















『俺はお前の “特別” になりたい!!』












ドクン…と心臓が大きく揺れた。












(い、嫌、別に…特別なんて…そういう意味じゃねぇし…)

はた、と、自分の考えに首を振る。

(って、そういう意味ってなんだよ//!!)



(大体、三橋は男だ。自分の考えをはっきり言わねぇし、べそべそしてるし…すっげイライラする奴だ。

……まぁ…顔は……可愛いと、思う…。驚いた時なんか、大きな瞳をさらに大きく見開いてて零れ落ちそうで。結構単純だし、自分で言うほど性格は悪くない。

泣きながら笑う顔は…正直ドキッとした。……いや、これは栄口や田島とか他の連中もそう言ってたし。)





『なーなー、普段笑わない三橋が笑ったらすごい嬉しいよな♪』

『ちゃんと相手の目を見るようになったし、いい傾向だよね』

『でもさ、あの大きい目で見られるとドキッとするよな』

『あぁ、分かる分かる』

『つーか、三橋ってよく見ると可愛いよな//♪』




ぎりっと拳を握る。

思い出したらムカついてきた。

(何で三橋に対してそんなこと思うんだよ!?三橋のパートナーは俺だし、譲る気なんてこれっぽっちもない。

パートナーの俺が一番三橋のこと見てるし、理解してる。あいつが可愛いのなんて知ってたし、他の奴らに言われるのはすごく腹が立つ。

自分が一番三橋に近い。三橋の中では自分が一番だ!!

あいつはいつも回りに気を使ってて自分に自信が無くてすぐ泣くし…泣かせたくないとも、思う。

天然だし、喋んねぇし、落ち込みやすいし……でも……時々みせるへにゃっとした笑顔は…すごく……可愛いくて……。

正直、他の奴らには見せたくない。)









『俺、三橋好きだなー♪』









ふいに田島の言葉がよみがえってきた。また胸がムカムカしてくる。



(つーか俺のほうが三橋のこと好きだし………)






















……………好き……………?






















「っ//////!!」





















瞬間、爆発的に自分の顔が赤くなる。






心臓がドクドクとうるさい。






そして。












あぁ、そういうことか、と。解ってしまって。









いつの間にか……いつの間にか三橋を“特別”として見ていたんだ。






(俺は……三橋が、好きだ……///)






だから他の奴らに三橋のことを言われるのが嫌で。三橋の“特別”になりたいと思って。

三橋を見るたびにドキドキしたりイラついたりして。

知らない間に強い独占欲まで持っていたのだ。

そう、解ってしまえばとても簡単なことで…


ゆっくりと手を伸ばし、三橋の手をきゅっと握ってやる。

触れると、心臓がドクドクとすごくうるさいけれど。それはどこか心地良いものだった。

三橋の手を温めるために手を握ったはずなのに、自分の心が温かくなっていく。


答えは、 そう。


とても 単純で。








とても …簡単なこと。






(大概鈍いよな、俺も。)


のどの奥でくっと笑って。

自分の手がこの冷たい手をいつでも温めてやりたいと思いながら、阿部は瞳を閉じた。












 









(どどどど、どうしようっ…)





それが一番始めに三橋が思ったことだった。












三橋がゆっくりと目覚めると辺りはまだ真っ暗で、寝付いてからあまり時間が経っていないのが分かる。

周りの皆は規則正しい寝息を立てて眠っている。

ふう、とため息を吐いて、自分の眠りの浅さを少しだけ恨む。また眠りにつくにはそれなりの時間が必要だから。


そして、ふと気づく。


何だか左手が温かい。守られているような、そんな温かさ。

そっと見た瞬間、三橋はぎしっと固まってしまった。

阿部の手が自分の左手をしっかりと掴んでいるではないか。


とりあえず自分の記憶を整理してみる。

(いい今は学校で合宿をしていて。夕飯を食べて…ね、寝ちゃった、のかな。それで…??)

そんなことを考えてはみるものの、三橋の頭の中の混乱が収まることはない。


オロオロとしていると、隣の布団がもぞっと動いた。

ビクッとして見ると、眠たそうな目でこっちを見ている阿部と目が合った。


「…ん?三橋…?起きたのか?」


寝起き独特の掠れた声が聞こえた。

「あ…う…阿部く…」

どうしてこんなことになっているのか解らない三橋は上手く言葉を紡ぐことが出来ない。

「何だよ、また眠れないのか?」

「え…や…ち、違…」

必死に考えようとするが、混乱が大きくなるばかりでどうしたらいいのかわからない。

その姿をどう思ったのか、阿部はため息を一つ漏らした。


「ったく…しょうがねぇなぁ」


そう言って、阿部は自分の布団をめくった。そこには、人一人入れるスペースがあった。

「ほら、こっち来いよ」

「えっ//!?」


余計阿部の考えることが解らなくなった三橋はどうしたものかと視線を彷徨わせる。

すると、阿部の手が三橋の腕に掛けられて、阿部の布団に引きずり込まれた。

「うおっ!?」

思いもよらないほど強い力でぐいっと引っ張られて。そのまま阿部のふとんに入ってしまった。

布団を掛けられぎゅっと抱きしめられたことにより、何事かとぐるぐる考えていた三橋の思考回路は中断された。


「何だよ、やっぱ冷たいな」

ちょっと不機嫌そうに言い放ち、更にぎゅっと抱きしめられ、体が密着する。

「あああ、あ、べく…ん//??」

「こーしてれば暖かいだろ…」

そう言い残すと、阿部はすぐに規則的な呼吸をし始めた。


(ねね、寝ぼけてるの、かな…//??)


自分が動いて阿部を起こすわけにもいかず、三橋はゆっくりと体の力を抜いた。


(び、びっくりした//阿部くんも、寝ぼけるんだ…//)


力を抜いたはずなのに、自分の心臓はいつまでも激しく脈打っている。

その音で阿部を起こしてしまわないかと不安になる。



でも、暖かいのは本当で…



何だか自分の体もぽかぽかしてきて。阿部の体温がとても心地よくて。



いつもの自分では考えられないほどの早さで、うとうとしてきて。



阿部の暖かさに、吸い込まれるように眠りに落ちていった。
















次の日の朝、同じ布団で寝ているところを仲間に見られてからかわれるのは、また別のお話…vv






〜 fin 〜
初おお振り、アベミハですvv
両思いになる手前の手前、「片思いを自覚する阿部」が一応テーマとなっておりますvv
もちろん三橋もまんざらではございませんvv
何だかもどかしいですが、この二人にはゆっくりと仲を深めていって欲しいと思っていますvv
実はこの話は2時間ぐらいで完成させました♪いつもの自分では絶対ありえない早さです
でも乗ってるときって結構すらすら話しが出来ていくものでして
気が付いたら出来てました(え。/笑)
これは別のお話で続き物にする予定ですので(まだ未定ですけれどι)、次も頑張りたいと思います
ここまで読んでくださってありがとうございましたvv
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