恋模様

<前編>


日も沈み、空には星が瞬いていた。今夜は満月に近い月で、あと数日もすれば満月になるだろう。

吹き抜ける風は暑くもなく、そして寒くもなくいい風だった。


そんな時間に、泥門高校の制服を着た男三人は、慣れた様子でラーメン屋に入りテーブル席に座った。

店員が注文を取りにやってきたのは、席についてすぐだった。




「俺チャーシュー!大盛りな♪」


一番最初に注文した少し長めの黒髪の男は、泥門のアメフト部・泥門デビルバッツのライン、背番号52の黒木浩二。


「トンコツ。こっちも大盛りで」


テーブルを挟んで黒木の向いに座った短髪の男がすっと手を上げて自分の分を頼む。

この男は黒木同様、泥門デビルバッツのライン、背番号51の十文字一輝。

黒木の隣に座っている男はメニューを見ながら眼鏡を少し上げ、言葉を放つ。


「そんじゃ俺はミソ大盛り。あと、餃子1つとチャーハン1つ」


この男も同じく、泥門デビルバッツのライン、背番号53の戸叶庄三。

戸叶がパタンとメニューを閉じると、横の黒木から抗議の声が入った。


「あ、ずりぃ!俺もチャーハン1つ!」

「何がずりぃんだよ。あ、以上で」


戸叶がそう言うと、店員が注文が繰り返し確認を取った。

少々お待ちくださいとの言葉に店員が去って行くと、三人は各々、水を飲んだり手を拭いたり伸びをしたりした。




部活の帰りにどこかで食べて帰ろうということになった三人は、色々食べたい物を上げてはいたものの、結局は行き付けのラーメン屋に落ちついたのである。


「あー、疲れたぁ。」

「十文字、あれだけしか食わねぇのか?」

「後で替え玉頼むぜ」

「お、あそこに7玉食べたって奴がいるじゃん♪おし、十文字も負けんな!!」

「馬鹿野郎。んなに食いたくねぇよ」

「えー。十文字ならいけるって!9玉いけ、9玉!!」

「戸叶、この馬鹿何とかしてくれ」

「十文字ならいけると思うぜ?」

「てめっ、汚ねっ」




とりとめもない話題で盛り上がっていると、注文した品がテーブルに届けられた。


自分の品を手元に引き寄せ、食事が始まる。


「あ、戸叶、コショウくれ」


一番コショウに近い席に座った戸叶は、十文字にコショウを渡してやる。


「ほらよ」

「トガ、俺もコショー!」

「十文字に言え」

「あ、そうか。十文字、コショー!」

「ちょっと待て馬鹿。まだ俺が使ってんだよ」


少しだけコショウの取り合いに発展した後、三人とも注文した品に口をつけた。




三人で食事をするときは大抵、黒木が一人で色んなことを話すのを、二人がたまに口を出しながら聞くというのがパターンだった。


今日もいつものように黒木が喋っており、そのパターンに陥ると思われたのだが……。





ふと、黒木が話している途中で口を閉じてしまった。


その事にすぐさま気付いた二人は「どうした?」「話さねぇのか?」と食べながらも続きを促す。

すると、黒木は拗ねたように口を尖らせて二人に抗議した。


「…なんかさぁ、俺ばっかり話してんじゃん。お前らも何か話せよなー」


今更何を言い出すのかと、二人は苦笑した。


「今メシ食ってんだよ。嫌なら黒木も黙って食え」

「あ〜?それじゃ面白くねーじゃん」

「俺はメシ食ってるときに面白さなんか求めてねぇよ。さっさと食え」


そうそう、と戸叶も餃子を口に含みながら黒木に水を渡してやる。

しぶしぶといった形でラーメンに箸を伸ばした。

しかし、一口食べると空腹を思い出したのか、勢い良く食べ始め、もう上機嫌になっていた。

十文字と戸叶は目線が合うと呆れたように、それでも面白そうに笑った。


黒木はラーメンを口元まで運び食べようと大きく口を開けたとき、ふと二人が笑っているのに気付いた。


「んあ?何笑ってんだよ、二人とも?」


口元まで持っていった箸を戻し、顔を上げて二人を見比べるように眺める。

戸叶はニッと笑ってからかうように言う。


「へぇ、良く気付いたな」

「気付くっつーの!」

「馬鹿なのにな」


間髪置かず十文字も馬鹿にすると、黒木は立ちあがって箸でビシッと十文字を指差した。



「馬鹿じゃねぇ!!馬鹿にすんな!!」



慣れている反応に、十文字は笑いながらヒラヒラと手を振る。


「ハイハイ」

「んだよ、二人してタッグ組むんじゃねぇよ」


戸叶はカッカッカと笑いながら、自分の餃子を箸で掴んで黒木に差し出した。


「ほら、餃子一つやっから、んな剥れんな」


「……二つで手を打ってやる」


戸叶の言葉に大人しくイスに座り、もらった餃子をぺろりと平らげた。

そしてまた、三人でラーメンを食べることに集中する。







三分のニほどラーメンを食べ終わると、黒木はふと頭に浮かんだ疑問を口にした。




「ななな、二人とも好きな奴いんのか?」




いきなりのその言葉に、十文字と戸叶は思わず食べていたラーメンを吐き出しそうになってしまった。

ぐっと我慢して二人とも水を煽る。

二人の動揺に気付かない黒木は楽しそうに更に追及してくる。


「二人が彼女いねぇっつーのは知ってるけどなー、好きな奴とか聞いたことなかったしなー♪」


黒木は自分の思っていることをすぐに口に出してしまう直球タイプだということは知っていたけれど。

何もそんな質問を食事中にしなくても、というのが二人の素直な感想であった。


どつきたい感情を抑えて十文字は小さくため息をついた。


「…そんなモンいねーよ」

「えー、ツマんねー」

「ツマんなくていいっつーの」


十文字は軽くあしらうようにしっしっと手を動かして、どんぶりの中に浮かんでいる半熟卵を口の中に放り込んだ。


その様子を見ていた戸叶はニヤッと笑ってぼそりと呟いた。




「…嘘だな」





「っ!?」


十文字が驚いたように戸叶に視線を送る。


「あぁ!?何、十文字好きな奴いんの!?」


面白いことを聞いたとばかりに、黒木は目を輝かせて十文字を見た。


「ば、ばかっ!いねぇって言ってんだろ!?おい、戸叶っ!」


慌てて否定するも、戸叶は余裕の笑みを浮かべたまま十文字を見ている。


「俺は正直に言ってるだけだぜ?」

「いねぇモンはいねぇっつーの!」

「嘘はいけねぇな、嘘は」

「戸叶っ!」

「なぁ、どっちだよ!?」


二人の口論を聞いていた黒木は、どっちを信じて良いのか分からないようで少し眉を顰めている。


戸叶は一息つくと、事もなさげに十文字に向って言い放った。










「……そういやぁ、セナって好きな奴いるんだってよ」










瞬間、ガタンッと大きな音を立てて十文字が立ちあがった。それと同時に身を乗り出して戸叶の胸倉をガシッと掴んで詰め寄る。


「誰だ!?俺の知ってる奴かよ!?特徴は!?」

「さぁ。そこまでは聞いてねぇ」


戸叶は胸倉を掴まれたままニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながらさらりと言う。


「他に何か言ってたか!?つーか、いつ、んなこと聞いたんだよっ!?」

「昨日の教室移動中。」

「お前ら仲よかったのか!?何で詳しく聞かねぇんだ!!」



恐ろしい勢いで戸叶を問いただす十文字を、それまでポカンと見てた黒木が口を開いた。


「じゅ、十文字ぃ?どーしたんだ、熱くなって」


黒木の声を聞いてはっと我に返った十文字はぱっっと戸叶の胸倉を放した。


「あ、わ、悪い」

「別に」


実際そうなるよう仕掛けたのは自分なのだから、そう素直に謝られると苦笑してしまう。



「ま、十文字は好きな奴いねーみてぇだな?」



面白そうに笑いながら言う戸叶の顔を見て、十文字はカマを掛けられたんだと理解した。

言葉を失ったらしい十文字は顔を赤くしてドサッと椅子に座った。


「っ!!そーゆーことかよっ!」


引っかかってしまった自分にため息がでる。


でも、仕方がない。


どうしても。セナのことになると十文字は歯止めが利かないのだから。


いつからそんな風になってしまったのかも今ではもう思い出せない。


もしかすると、最初からそうだったかもしれない。




「カッカッカ。悪ぃ悪ぃ」


全然悪びれもしない顔で戸叶は笑った。その隣で黒木があまりの解らなさに逆切れをしている。


「全然分っかんねー!なぁ、どーゆー意味だよ?」

「さぁな」


確信を得た戸叶はすっきりとした様子で再びラーメンを食べ始めた。

十文字は照れ隠しからか、もしくは少し憤りを感じているのか、残りのラーメンを勢い良く食べ始め、ぺろりと食べ終わってしまった。

そして更に替え玉を注文している。

これ以上詮索しても馬鹿にされるのがオチだと判断した黒木は、不満を覚えつつも戸叶の方に話を持ちかけた。


「じゃあ、トガはどうなんだよ?」


「俺?俺はいるぜ?」



爆弾発言をさらりと言う戸叶に、二人の驚きの視線が注がれた。


「嘘っ!!マジ!?」

「本当かよ、戸叶!?」


二人の驚く姿に、戸叶は苦笑した。


「何、いちゃ可笑しいか?」


それでも動揺せずにまだラーメンを食べている戸叶の肩に黒木は手をかけた。


「な、誰 誰??」

「教えね」


あっさり秘密と言う戸叶から何とか聞き出そうと黒木も頑張る。


「トガ〜、教えろよ!!」


しつこく粘る黒木にちらりと目線だけを寄越し、軽くため息を吐いた。


「…いい加減、気付きやがれ。馬鹿」


その言葉に十文字が勢いよく戸叶を見た。心底驚いたような顔をして瞬きさえも忘れている。

訳が分からず騒いでる黒木を尻目に、十文字と目が合うと戸叶はニッと笑って見せた。


流石、十文字。分かったみてぇだな。

ま、分からせるつもりで言ったんだから、分かってくれなきゃ意味ねぇけど。


「分かんねぇから聞いてんだろー!なぁ、誰だよ!?」

「ま、お前は分かんねぇままでいろ。」


余裕の笑みに、黒木はどうやって口を割らそうかと食事もそっちのけで唸り出した。







その時、ガラリと店の扉が開いたと思うと、見なれた人物が顔を出した。

小さな身長。細い身体。それでもフィールドでは頼りになる光速の脚を持つ男。


「っ!!」


瞬間、十文字は食べていることも忘れ、勢い良く立ちあがった。



「あれ?十文字くん?」



その男、泥門デビルバッツの21番、小早川瀬那は立ちあがった十文字を見て驚いたような声を出した。


十文字は箸を置いてセナに近づき、その小さな身体を見下ろした。


「セナ?何でここにいるんだよ?」


その問いかけに答えたのはセナではなかった。


「ラーメン食いに来たからに決まってんだろ」


瀬那の後ろから店に入ってきたのは、泥門デビルバッツ背番号80のモン太…雷門太郎だった。

モン太を目にした途端、十文字の眉間にわずかに皺が入った。


「んだよ、サルもいたのかよ」

「サルって言うな!」

「まぁまぁ」


ムキーッと怒りを露わにするモン太に、セナが慌てて仲裁を入れる。

それでも怒りがまだ収まらないらしいモン太を抑えようとセナがわたわたしている姿を見て、戸叶はさりげなく助け舟を出す。


「んなトコつっ立ってねーでさっさと座れば?」


その言葉に、モン太も気が逸れたのかコロッと態度を変え、三人のテーブルに近づいた。


「セナ、座ろうぜ♪」


モン太は、三人に一言も確認を取らずにその4人掛けのテーブルにイスを一つ持ってきて座った。

勝手に一緒していいのかな?と考えていたセナの腕を十文字が軽く引っ張った。


「こっち。座れよ、セナ」


十文字は自分の隣のイスをわずかに引いてセナを誘う。


「あ、うん。ありがとう。お邪魔します」


セナはにこっと笑って誘われた十文字の隣のイスに腰を落ちつけた。





何を食べようかとさっさとメニューを見ていたモン太は、注文する品が決まったようでビシッとポーズをつけて行った。


「俺は醤油大盛りで!セナは?」


ほいっとメニューを渡されたセナは少し思案した。


「うーん。僕も醤油ラーメンにしようかな」


セナの注文が決定すると、店員を呼んで醤油の大盛りと醤油を一つずつ注文して一息ついた。

すると、注文内容を聞いていた黒木が驚いたようにセナを見る。


「はぁ?セナ、そんだけしか食わねぇのか?」

「え?あ、うん。黒木くんはいっぱい頼んでるね」


テーブルに並べられた料理を見てセナは驚きの声を上げた。


「これがフツーだっての!うわ、マジ信じらんねー!」

「食が細ぇな」


戸叶もチャーハンを食べながら黒木の意見に賛同した。


「そうかな?あ、でも十文字くんもそれだけだよね?」


トンコツラーメンのどんぶりが一つしかない十文字を見つけると、セナは同意を求めるように尋ねた。


「俺は替え玉頼んだぜ」

「え、ほんと?」

「だからセナは小せぇんだよ!」

「うっ…」


黒木に痛い所をつかれて、セナは言葉に詰まる。


「十文字なんか替え玉9個食うんだぜ!?」

「ええっすいごねー!!」


感心したようにセナが十文字を見た。


「馬鹿、信じんなっ!!つーかまだ言ってやがったのかよっ!」


信じきっているセナの額を軽く小突くと、黒木を諌めるように少し睨みつけた。


「んだよー。食えよー」


ぶーぶー文句を言っている黒木を無視して、十文字は「あんな馬鹿、相手にすんな」とセナに耳打ちをした。

もちろんその言葉が聞こえた黒木は十文字に文句を飛ばした。

それに便乗してモン太も十文字にヤジを飛ばす。



そんな中、注文の品を届けに来た店員は、あまりの盛り上がりに席に行くのを少しだけ躊躇したと言う。










 











そんなこんなでわいわいと盛り上がりながら食事を終えようとした時、ピリリリリリと誰かの携帯の着信が鳴り響いた。


「おわ、俺だっ」


モン太はそう言うと席を立って電話に出た。

何やらすこしだけ電話をした後、すぐにテーブルに戻ってきて自分の荷物を持った。



「悪ぃ、セナ。俺ちょっと学校行くな」

「え、どしたの?」


セナは何事かと驚いてモン太を見上げた。


「担任が課題のプリント持ってきてたの忘れててよ。それ今から取りに来いってどやされたぜ」


ふー、とため息を吐きながらモン太は頭をガシガシ掻いた。


「着いていこうか?」


心配になったセナは食事中なのも忘れて箸を置き、自分も席を立とうとした。


「うんにゃ、セナはまだ食ってんだし、いいよ。俺、プリントもらったらそのまま家に帰るな」


モン太は立ちあがろうとしたセナの目の前に手を翳して断った。


「そっか、わかった。じゃあ、また明日!」

「おう、そんじゃな!」


大きく手を振ってモン太はラーメン屋から出ていった。





それからしばらくすると、セナも食べ終わり、雑談の時間になってしまっていた。

話の内容は、もちろんアメフトのことばかりだ。

各々アメフトについて熱く語る。やはり皆、アメフトが好きなのだ。



こうしてアメフトの話が延々と続くかと思われたが、ちゃんと止める人間はいるもので。


戸叶は残りの水を飲み干すと、三人に向って言った。


「おい、もう夜遅ぇからそれぐらいにしとこうぜ」


そう言われて三人が時計を見ると、かなり夜遅くになっている。


「そうだな。そろそろ帰るか」

「うん」




いそいそと帰る支度を整えて皆ぞろぞろとレジに向う。


一番最後になった戸叶がテーブルに置いてあった伝票を持って行く。









と、伝票を見ていた戸叶がぴたっと立ち止まり、口を開いた。









「……おい、あのサル、金払ってねぇぞ…」









「はァ?」


「はぁぁあ?」


黒木と十文字が同じように伝票を除きこんだ。















「「「…………」」」















ブチブチッと三人が切れた音が聞こえた気がした。






「「「あんの馬鹿猿〜〜!!!!」」」






三人は見事にハモリながら怒鳴り、怒りを露わにした。




次の日どんなことになるのか容易に予想できたセナは苦笑する他なかったという。




To be continued...
前編は恋愛というより男の友情話みたいな物になってしまいましたねιι
でも、私は高校生のこういう何気ない日常の絡みが大好きなのですvvいいですよね、若いってvv(笑)
後編はばっちり十セナ、トガ黒になってます(予定??)ので!!

(2005.07.21)
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