今日もすこぶる暑い。

屋上のコンクリートは容赦なく日光を反射して。




残る夏。




非常に暑い。


頬を伝う汗に嫌気を覚えて、十文字はその軌跡を拭った。
教室での授業に飽き、屋上に避難してきたのはほんの数十分前の事だ。
白いコンクリートの上、日光の照り返しに眉を潜める。
僅かな影に腰を落ち着け、太陽から身を隠す。
まだ午前中だというのになぜこんなに暑いんだ。
響くような蝉の声を聞くだけで、気温が上がる錯覚すら覚えて。

「………あちーな。」

早々とダウンしてしまった黒木。
僅かに冷たいだろうと思うコンクリートに頬を付き、ページを捲る戸叶の指を追う。

「言うな、余計に暑くなるだろ。」

見つめられた戸叶は、咎めるようにそう言うだけだ。
その通りだと十文字も思う。
暑いと言えば余計暑くなる。
喋る気力すら殺いでいく熱気にウンザリしながら、三分おきに繰り返される不毛な会話を聞く。

「とが、あちーよ。」
「……んー暑いな。」
「…肯定すんな余計暑くなる…」

とうとう戸叶も否定する気力さえなくしたか。
だが肯定してどうする。
十文字も思わず不毛な会話に参加して、否定してやった。
否定してから、また空を仰ぐ。
雲がない空なんて、見ていて面白いものではないが。
空は晴天。真っ青だ。
太陽は雲に隠されること無く、灼熱の。

考える気力すら削られる。
無風だ。
滴る汗は、額から頬へ伝っていき。
風があれば少しは涼しいのだろうが。
「もんじ。」
「…んあー?」
空の裾を縫いとめる入道雲から目を離して、転がる黒木を一瞥する。
彼もやる事がないのだろう。
実に退屈そうだ。
「あーあれだ。暑い。」
「聞き飽きた。」
「熱で頭がやられたんだ。」
「自分で言ってりゃ世話ねーぜ。」
「すきだぞ。」
「はぁ?」
「だからジュース買ってきて…」
「てめ。俺をパシリに使う気か?」
その後は無言。
黒木も喋る気力をなくしたか。

蝉が煩い。
照り返しが酷い。

金網の向こう。
聳えるビルの隙間から立ち上る陽炎。
ゆらりゆらりと、蜃気楼さえ垣間見えそうだ。

蝉が。
太陽は真上に近い。
削られていく影に、じっと身を潜めて。
直射日光から逃れるように、黒木が何度か寝返りを打った。
転がって壁際へ。
しかし転がった先には戸叶が既に居る。
構わずその膝に乗りあがる。
黒木の動きを一部始終見ていた二人は、動かなくなったのを見届けて、各々の作業に戻った。
戸叶の指がまたページを捲る。

暑くはないのかと。
戸叶に同情しながらも、言わない。
十文字はグラウンドを流し見た。
陽気で灼熱地獄の中、元気に体育を勤しむ生徒の騒ぎ声。
たまにあちこちで砂埃が舞い上がる。
元気で羨ましいと、尊敬しながら。
放課後、そのグラウンドでアメフトに勤しむのは自分たちなのだと憂いて。


空にもグラウンドにも飽きてしまった。
次は何をして時間を潰そうかと十文字は考える。
それから、ふと戸叶の膝枕で茹だれている黒木の事を思い出す。

「……お。」

十文字が漏らした呟きを聞き逃さずに、戸叶も自分の膝で大人しくする黒木を見た。
背を向けていて、表情は分からなかったが。

「暑いのに寝てるぞ、こいつ。」
「はは、ガキかっつーの。」

そう笑うだけで、戸叶は振り落とす気色を見せない。
それどころか、特に気にする事も無く、紙面へ目を戻した。

「ああ、がきだな、こりゃ。」
「だな。」

持っていた団扇で、少し風を送ってやると、寄っていた眉が僅かに緩む。
面白い。
黒木に風を送りながら、空を見る。
変わらずの蒼天だ。


金網の向こう。
ビルの隙間から立ち上る陽炎が。

蝉の声。
残る暑さ。


空を縁取る積乱雲。

きっともうすぐ雨が降る。







葉月様より。相互記念SS。
「浩二が愛されてる三兄弟」っていう無茶なリクに応えてくださいました!ああ、もう、最高ですvvラブvv
なんだかんだで、浩二を気にしてる一輝とトガがたまりません!思わずニマニマ…☆つーか、描写がうますぎですっ!!
初三兄弟を頼んでしまったんですが…頼んでよかった〜ヾ(@⌒▽⌒@)ノ葉月さん、ありがとうございましたっvvマジで愛してますvv
Index > Top > ノベRoom > 残る夏。