伝えたい気持ち

〈5〉



ここの公園には、何度か来たことがある。新一がこの公園の桜が綺麗だと平次に教えてくれた。



「で?何の用だよ?」


思い出に浸る気など微塵もないらしい新一は、平次の話を急かした。


まだ少し考えていたいのだが、どうやら新一はそんな事などさせるつもりはないようだ。平次は小さくため息をついて本題を出した。



「……最近、工藤何やおかしないか?」


平次は新一の体がぴくっと反応したのを見逃さなかった。



「……別に……普通だぜ…?」


「言いたい事あるなら言えばええやん!」

「…だから、何もないって。服部、考えすぎ…」

「嘘いいなや!さっきの電話でもそうやで!一人納得しよって、勝手に切ったやん!俺の話まだ終わってへんゆうのにやなぁ…」




「……話って…怒ってただけじゃん……」




「 工藤…?」





何だか本当に新一がおかしい。


わざと平次を怒らせようとしているようにも見える。しかし、平次を怒らせて何になるというのだろうか。


電話でも言っていた新一が平次から聞きたがっているという『それ』。

おそらく、『それ』を言わせたいのだろうが、『それ』とは一体何なのか見当もつかない。

怒ったら口に出る言葉なのだろうか。いや、それだけなら素っ気なくする必要はないと思われる。怒らせたいだけなら頭のいい新一は平次を怒らせる事なんて簡単だろう。それなのに、こんなに回りくどい事をするなんて……?


工藤は何を望んでんのや………?




その時、ふ…と新一が笑った気配がした。



「まぁ………分かるわけないけど………な……」



その言葉を聞き逃さなかった平次は新一に追及しようと腕を掴んだ。

新一はずっと下を向いたまま、やんわりと平次の手を振り払った。



「も…いいよ…服部……」



「……何やて?」


「……もう…やめようぜ…こんな関係…」


「工藤!?」


新一は平次に背を向けた。


「今までサンキュな…………それと……」










「……… ごめん …」












そのまま公園を出ようとした新一を必死に引き止める。



「ちょ…ちょお待てや!くど……」

「離せよ」

今度は乱暴に手を振り払われる。しかし、平次も負けていられない。新一の両腕をぎゅっと掴んだ。


「何でや!?俺何やしたか!?」

「そういう事じゃなくてっ!!」


思わず叫びだしそうになったのを必死に耐えて、新一は静かに言った。

「……………もういいって言った。……離せよ…」

「工藤!」

平次にして見れば、何が言いたいのか少しもわからない。だからそのまま新一を「はいそうですか」と帰せるはずもない。

「言わな分からへんやろ!?何なんや!?」


掴んだ腕に少し力を込めて言う。



「工藤!!」



再び名前を口にした瞬間、新一は弾けたように叫んだ。


「もぉっ…嫌なんだよっ!!」


思いもよらない言葉が新一の口から出て、平次は頭が真っ白になった。


「お前と居るの、もぉ嫌だっ!!」


必死に泣きそうなのを我慢しているように見える。

自分の心臓が早鐘を打っている。これは本当に平次の鼓動なのかと戸惑うくらい、それはうるさく響く。

平次は静かに口を開いた。


「………俺が嫌いになったんか…?もう付き合いたくないんか…?」


「違うっ!!」

「…く…」

「嫌いになるわけないだろ!付き合いたくないわけないだろっ!!」


新一はキュッと唇をかんで下を向いた。


「俺はっ………好きだから……嬉しかった…!」



その言葉に平次は少なからずホッとした。そして続きを促す。

「……ほなら、何で…?」

「っ……」

「言うてや、工藤…」



「………俺…………本当にお前が好きなんだ……… 付き合ってて………楽しかったし… 幸せだった………」



静かにそう告げた後、新一は思い切り叫んだ。


「でもっ!!お前は違うだろ!?なのに何で早く別れるって言わねぇんだよ!?」


「!?」

その言葉で全て分かった。新一が言って欲しいと願っていたのは『別れ』だったのだ。

しかし、何故だかさっぱり分からない。普通に付き合っていたはずなのに


…何がいけなかったのだろう。


そもそもどうして別れなければいけないのか。

何にしても、平次は『別れ』など言うつもりなんか少しもない。

新一は、平次が悩んでいるのにも構わず、言葉を続ける。


「……お前の事好きだから俺からは言いたくなかったのに!お前から言って欲しかったのにっ…!!何で………こんなこと俺に言わせるんだよ……っ」




いつも思っていたこと。




平次はいつも新一に合わせてくれる。嬉しくないわけがないが、それが新一には苦しくもあった。


平次の気持ちが見えない………



「いつもいつも人のことばかり優先しやがって!!自分のことは後回しでっ!!」



新一は涙が出そうになるのをぐっと堪えて、平次から目をそらせた。


「………俺………いつも怖かったんだ………いつお前から別れを告げられるのかって………ビクビクしてた……」






でも……それは………






「俺、別れるて言うてへんやん!?」


「だからっ!!そういうのが嫌なんだよっ!!」


再び平次をキッと睨む。


「俺はいい!!じゃあ、お前は!?俺のことなんて好きじゃないって事は解るのにっ…何で好きでもない奴と付き合えるんだよ!?何で自分の考え言わねぇわけ!?」




お前、 全然分かってねぇ………




俺はどうでもいいんだ………










大切なのは――――…












「俺はっ!!お前の本当の心が知りたかったのにっ!!」

















……大切なのは、お前の本当の心――――






















嫌な時は嫌と言えばいい。

ムカつく時は殴ればいい。

気が乗らない時は断って、一緒にいたくない時は離れれば、いい。



そして、嬉しい時に少しでも一緒にいて笑ってくれるなら、




俺はそれだけで本当に幸せな気持ちになるんだ………





「工藤…」

「好きじゃないのに付き合ってもらっても、キスしてもらっても虚しいだけじぇねぇかよっ!!心がないならいっそ、別れるって言ってくれた方が良かったんだ!!お前の本音が聞けない方が痛いんだよっ!!」



平次のバカなところや真面目なところ、弱いところも全部教えて欲しかった。



いらないと…余計なお世話だと言われても……





  …俺だってお前の助けになりたい………






「俺はお前を不幸にするために告ったんじゃねぇ!!」







お前を手に入れたかったわけでもない。
























伝えたかったのだ。






























ここに、こんなに平次の事を好きな自分がいる事を知っていて欲しかっただけ……












…そして……… 誰よりも………














世界中の誰よりも………



























「お前には幸せになって欲しかったんだっ!!」























だから………








俺は………












本当に振られても良かったんだ………










お前が



















幸せなら――――………




























「……なのに……何だよ……いつまで経っても本音…言ってくんねぇし…… 俺…お前が好きだけど……お前が他の奴のとこに行くって言うんなら…ちゃんと…… ちゃんと… 笑って送ってやろうって……」








そのくらい服部が大切で………










大切で――――…















きゅっと拳を握り締めた新一はフルッと首を横に振った。


「違う……ごめん………解ってんだ……… 服部は優しいから…俺の我侭に付き合ってくれてたんだって事…」


一時の夢だと知りながら、ここまで引きずった弱い自分の所為。


夢は必ず醒めるもので……夢を見たことさえも忘れてしまうかもしれない。そして人は皆、現実に生きるものだ。







でも………服部を好きだって事は……たった一つの真実だから……









「っ……でもっ……でもやっぱり……本当に…お前の事、すげぇ好きだから…………時が経てば経つほど……… 辛ぇよ……」





下を向いた新一の瞳から涙が零れ落ちた。



「だから……」




そこまで言った新一は、平次の胸倉を掴んで引き寄せて――――




















頬に触れるか触れないかの……




















キスを した。






































「バイバイ……服部………」


















瞳に涙をいっぱいに溜めながら、新一は最後に笑った。





そして一目散に公園を後にした。





ここが一番の書きたかったのです♪♪
新一の葛藤と決意。そして別れ。
書いてて自分でも新ちゃんかわいそうだなーと思いましたけど(苦笑)
これから新ちゃん、平ちゃん共に行動を開始する…はずです。
では、次をお楽しみに〜(そんな奇特な方はいないと思われるけど/笑)
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