伝えたい気持ち

〈3〉

〜平次side〜




そうこうしている間に、付き合いだしてから3ヶ月経っていた……




付き合いだしたといっても、大して何も変わらない。しいて言うなら、毎週末には二人で遊びに行ったり、家でゴロゴロしたりという、二人でいる時間が増えたという事だろうか。

そして、平次に向けてくる新一の目が好意を表すようになった。一見、無表情で素直になれず、キツイ言葉を連発するのだが、服部を見る目はどこか柔らかかった。

ふと何気なく言った服部の言葉に対して、本当に嬉しそうに笑ったりもする。

あの日以来、好きなんて言葉には出さないが、体全体で物語っていた。

それが服部にはなんだか心地よかった。何故か、なんて分からない。

このまま……ずっとこのまま一緒にいたいとさえ、思った。





 






週末がやって来た。

今日は家でゴロゴロしようと言う事になり、平次は、この前新一が大絶賛をして自分に勧めてくれた推理小説を読むことにした。熱心に勧めてきた新一の顔を思い出すと、笑みがこぼれる。

新一はというと、今日新しく買ったらしい推理小説を片手に、新一のお気に入りである、平次が買った白くてふかふかのソファに寝転んでいるところだった。そこが平次の家での新一の特等席だ。

二人でいる時間は、何だか不思議な感じだった。嫌な雰囲気などは、少しもなく、むしろ、心地よい。

ただ二人が同じ部屋で違う事をしているだけだというのに、お互いがお互いを感じあえる、ちょうどいい空間。

たまに喉の渇きを覚え、コーヒーを入れたりするのだが、新一に差し出しても気づかない時もある。小説がいい所なのだろう。そんな事を考えながら平次は笑って新一の手の届く場所にコーヒーを置いて、自分の読みかけの本に手をかける。

平次は新一の存在を確かに感じながら、この暖かい空気を満喫する。





 






あたりが暗くなってきたので、そろそろ帰ると新一から告げられた。

「そか。ほなら、送るわ」

「え?いいよ、大丈夫。今日は歩いて帰りたいんだ」

何だか来た時より機嫌がいい。幼い顔で笑っている。

「ん〜、そしたら、俺も歩くし」

唸って考えながら言うと、新一がくすっと笑った。

「ん。じゃあ、送ってもらう。」

そう言ってにっこりと笑って微笑まれると、こっちもつられて微笑んでしまう。新一の笑顔は綺麗だから見るとこっちも嬉しくなるのだ。

自分の家の鍵を取り、二人とも出たのを確認すると、ゆっくりと鍵をかける。

歩いて帰りたいという事は、多分今日読んだ推理小説が思いのほか面白く、いい気分なのだろう。鼻歌を歌いそうな雰囲気だ。


歩きながらも上機嫌な新一を見て、平次はふと笑った。

「そんなにおもろかった?あん小説」

「うん!すっげぇ面白かったぜ!なんか、今までとはちょっと違ってて、いくつもの事件が重なってんだ!」

効果音をつけるとしたら間違いなくキラキラと輝いているだろう新一を見ていると、何だか自分まで楽しい気分になれる。


「でさっ…」


そして、ふと思う。



コイツ、ほんまにキレーな顔してんなぁ……



それに、何や めっちゃ………







ウキウキとした調子で話を続ける新一の横顔を見ながら、つくづく思っていると、新一がそれに気付いた。


「服部?聞いてんのか?」


「あ…あぁ…」


「どした?」


「いや、工藤ってめっちゃ可愛ぇよなぁ」


しみじみと言ったのが悪かったのか、新一はその言葉に真っ赤になって顔を背けた。



「うれしくねぇよ、バカ!」


思っている事全部を口に出してはいけないと小さい頃から教えられていたのに、どうして口にしてしまうのか……自分が単純と言われればそれまでなのだが。

思わず本音がポロッと出てしまうのは人として避けられないものがあるのだと思う。

新一は首筋まで真っ赤にしながらスタスタと先を歩いていく。

そんな怒り方まで可愛いと思っている事を新一に言おうものなら、黄金の右足で蹴り上げられるだろうから、これだけは言わないでおく。


「工藤、怒らんといて!?」


「っ…怒ってねぇよ!」


誰が見ても怒っていると見て取れるのに、どうして新一はすぐばれるような嘘をつくのだろう。……いや、もしかしたら自分では怒ってないつもりなのかもしれない。

平次は新一の肩を掴んで、耳元に囁いた。



「な…工藤…」



その瞬間、新一の身体がピクンと跳ねる。

更に真っ赤になっているが、もう怒りは解けたようだ。



「………お前……ずるい……」



照れだけが残る顔で悔しそうな表情をされても余計可愛いと思ってしまう。男に可愛いと思うなんて、自分はどうかしているのだろうか?

すると、新一に反抗の意味のこもった目で睨まれた。しかしそれは本当に効果のないもので、上目遣いで見られているようにしか見えない。

そういや、そう簡単に納得できるほど素直ちゃうよなぁ…

平次はふ…と笑うと、新一の頬に手を掛け、自分の方へ引き寄せてフワリと唇に………









「ちょっ……ちょっと待てっ!」














キス出来なかった。


新一は真っ赤になって慌てながら腕を突っ張って離れようとしている。睨んではいるが照れているだけで、嫌ではないみたいだ。

嫌ではないはずなのに、どうして駄目なのだろうか…

平次はすこしムッとして言い返した。


「…ええやん」

「やっ…よくねぇって…」

そんな新一の抗議を無視して平次は再び新一の頬に手を掛けた。


「何で?付き合うてんのに?」

「でもっ…それは…」

言い終わる前に新一の唇を平次のそれで塞ぐ。

触れるだけのキス。


平次の服の裾をきゅっと握ってくる新一が正直、可愛いと思った。


少し震えているものの、もう抵抗の色はない。





まだや…… こんなんじゃあ、足らへんわ……





工藤は……許してくれるやろか………?





「!んっ…!?」


ゆっくりと平次は新一の口内に舌を侵入させた。


「んんっ…!」


深く舌を絡めとる。決して新一を逃がさないように。


「も……やめ…」

抵抗する新一をものともせず、両手首を掴み、また深いキスをした。


「…ふっ…」


最初は可愛かったのでつい手を出してしまっていたのだが、気が付くと本気で夢中になっている自分が居た。





新一の唇は思っていた以上に柔らかくて…甘くて………





もっと味わいたいと思った。





角度を変えて何度も何度も深いキスをする。その心地よさにふと目を開けてみると、新一の瞳からは涙がこぼれていた。


「く…工藤…!?」


初めて見た新一の涙に、平次は動揺を隠し切れず、おろおろとするしかなかった。


「っ………」

「す、すまん!な、工藤、泣かんといて?」

とは言ってみるものの、多分、絶対。自分が悪いのだろう。


つい、夢中になってしまって……なんて、言えるわけがない。

そうこうしている間にも新一の瞳から涙がとまる事はなかった。





 






家まで送っていって、もう少し傍にいると言ったがやんわりと断られた。



新一はこの広い家の中、独りで……泣くのだろうか……?



なんだか、胸がちくちくと痛い。


独りで泣かせるくらいなら、自分が傍にいたいと思うのに……


家に入った新一を見送った後、30分はそこから動けなかった。







新一の決意した事など、少しも知るよしもなく―――。





平次視点でお送りいたしました
新一と平次それぞれの考えを書いてみました
さて、次は大きく話しが展開していきます
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