濁りきった白い煙は


空気に溶けて 消えた ――




たばこ

-アナザートーリー 後編-





「…え?」


数分固まった後、やっとのことで新一の口から出たのがそれだった。


―― ホレ見ぃ…できへんやろが…


心の中で呟きながら、いまだ解っていないだろう新一に、同じ言葉を告げる。


「聞こえんかったんか?キスせぇ言うてんのや」

「…何、言って…?」


これだけ言っても解らない新一に、本気で腹が立つ。

新一が絶対に出来ないだろうと知って告げた言葉だったけれど、出来ないと言われると傷つくのは平次の方なのだ。


「工藤が言うたんやろ、別のモンにせぇて…」

「…え…言った、けど…でも…」

「タバコの代わりが欲しいねん。今オンナいてへんし…工藤、何でもしてくれるんやろ?」


思ってもみないことを淡々と述べていく。

女なんて、関係ない。

タバコなんか、必要ない。

ただ…… 工藤新一 だけが ………。


「そ、そんなのっ!彼女作ればいいだろ!お前モテるんだから…」

「オンナ作んの、面倒やねん。」


少しは予想していたものの、新一の口から彼女を作れと言われると、心が痛い。

西の名探偵ともあろう自分が、なんて情けない。

たった一人の人間の、たった一言に一喜一憂させられる。


新一はかなりの抵抗があるのだろう、眉を寄せて辛そうな顔をしている。


「…できへんこと、口に出すもんやないで」


ため息交じりにそう告げると、新一はぐっと息をのんだ。


「っ―!」


何だか怒っているようにも見えるが、怒りたいのはこっちの方だ。

こんなにも自分の気持ちを殺して、新一を逃がしてやろうとしているのに、一向に逃げてはくれない。

平次と新一の力の差など、知っているはずだ。

本気になれば、逃がしてなどやらない。



どんなに…抵抗されて……泣かれたとしても……。



どうして……。



どうして、こうも好きだと…… 愛しいと想う人間が …… 新一なのだろうか ……。




もっと別の人間ならば、こんなに苦しむこともなく。





こんなに…… 心を奪われることも なかったのに ……。





「…もうええわ。早よ帰れや」


怒りを押し殺して、最後にそう言った。

こうして二人でいるのも、自分の方が、限界だった。

キスをしろと言われれば、新一の選択肢は『帰る』しかないだろう。

だからその選択をしてもらえるよう、自分から切り出した。


―― もうホンマにええから……早よ帰ってくれや…


早く。


早く帰って欲しい。


新一にここにいられると、辛い。


好きだと思うたびに胸が締め付けられ。


姿を見るたびにドキドキと心臓が暴れだし。


…… 愛しいと …… 痛感せざるをえない ……。


ただ、帰るまでは……見つめ続けるのを……許してほしい……。



と、何やら新一がガバッと勢いよく顔を上げて睨んできた。


「…キス、すれば…タバコはやめるんだな?」










―― ………………………………………………………………は…?










一瞬呆気にとられたものの、前言撤回をするわけにもいかず、頷いた。


「…あぁ」

「……解った…」




―― ……何、が……『解った』んや?




どうしても、新一の言葉の意味が解らない。


今頃は、キスなど絶対できないと言って、新一がこの部屋から出て行っているはずなのに…?

何故、新一は歩み寄って来て、隣に座っているのだろうか…?


平次は混乱しすぎていて、新一が隣に座っても動けなかった。

そっと肩に手をかけられた瞬間、我に返った。

急速に、心臓がバクバクと音を立て始める。


嘘だと、思った。


現実離れしすぎていて、白昼夢だとも、思った。


けれど、ゆっくりと近づいてくる顔はまぎれもなく、愛しい新一で。




キス、するのだと、今更ながらに、思った。







―― …ア、カン…やろ……コラ……自…分…!







咄嗟にそう考えるけれど、新一とキスができると思うと、やめさせることなんてできなかった。

止めてやらなければ、新一が可哀想だ。

解っては、いる。

頭では。


でも、体はもう、自分が何を望んでいるのかを知っているかのように。


吸い寄せられるように。


けれども、決して気づかれないくらい、少しだけ、首を傾けて顔を寄せた。




そして。

新一の唇が触れた、瞬間。

頭にあること全部、吹き飛んでしまった。

ここが、現実世界とは思えなくて、涙が零れてしまいそうになる。


時が、止まってしまえばと、本気で 願った。


けれどちゃんと時間は進んでいるらしく、そっと触れた新一がすぐに離れていってしまう。



「…何や?」


「…え?」



自分でも意識せずに出た言葉に、新一はきょとんとした顔を向ける。

その顔に、自分の願望が抑えきれなくなるのを感じた。

そんなキスでは、足りない、全然。

だから……。


「…まさか、そんなんがキス言うんちゃうやろな?」


もう一度新一のキスがほしいと願った結果、思わず、わざと怒らせるようなセリフが出ていた。

本当はもっと上手い言い方もあったのかもしれないけれど。

口からはそんな言葉しか、出なくて。


「っ/////!!」


案の定、新一がカッと赤くなって睨みつけてきた。


「すればいいんだろ!!キス!!」


平次の挑発に簡単に乗せられる新一が本当に可愛い。

ぎゅっと平次の服を掴んだ新一が、勢い任せに唇を重ねてきた。

触れた瞬間、やはり、何も考えられなくなるくらいに、意識が飛びそうになる。

けれど、平次の言ったキスをしようとする、その顔を見たくて、うっすらと瞳を開ける。

伏せられたその睫毛は、小さく震えていて。

頬が赤く染まっていて。


…可愛くて……本当にたまらない。


唇を開いて舌を絡めてきた新一に、焼けるような愛しさを感じて………。




…… 死んでもいいと、初めて思った ……。




新一の舌が平次のそれに触れた瞬間……理性なんて、もう、消し飛んだ。

我慢出来るはずがなくて、新一の背中に腕を回して、がむしゃらに、貪る。

驚いている新一を余所に、ゆっくりとソファに押し倒し、一心不乱に新一を味わった。


可愛い。


愛しい。


本当に……好きなんだ、と……。


こんなに長い間離れていたのに……想いは強くなったと知らされるだけで。




…… 苦しかった ……。





「っ…工藤っ…舌、出せや…」


驚いて縮こまってしまった舌を奥まで味わいたくて、唇を少し離して至近距離で囁く。

なにが起こっているのか付いて行けておらず、言葉どおりに出したその舌を、執拗に絡め取った。


「っぅっ…んんんっ…」


くぐもったその声が、平次の体温を上げる。

ふと新一が動く気配がしてうっすら目を開けると、唇の端から混ざり合った唾液が新一の顎と伝うのが見えた。

拭き取ろうとする新一の手首を押さえつけて。

伝い落ちるソレさえも零したくなくて、舐めとって。

再び、新一に貪りつく。


「っ…はっと、んぅっ…ん、!」


言葉を紡ぐ前に、唇を塞ぐ。

今は。

今だけは。

新一の口から、拒絶の言葉は聞きたくなかった。


どうして、と、思う。


どうして自分のものにならないのだろうか。


平次が望むのは……後にも先にも、新一だけ ……なのに……。


こんなにも、求めているのに。


たった一つが。


たった一人だけが……手に入らない…。


がむしゃらな口付けを解くと、新一は口を開けて熱い息を吐き出す。

キスの所為で赤く腫れて唾液に濡れた唇をなぞり、キスの名残を舐めとった。

赤くなりながら平次を見つめて来る新一に、もう、隠しきれないと思った。

新一ももう、解ってしまっただろう、このキモチ。

隠したくないと、思った。


「…ホンマは…タバコなんていらん… …工藤がおれば…それで充分やねん…」


充分、なんてものではない。


それが、全てだ。


「……な、に……?」


混乱している新一を余所に、思いの丈を伝える。


「…もう俺、アカンのや…何しとっても工藤のこと触りたいて思うねん…」


新一の肩に頭を埋める。

額から、じんわりと新一の熱が伝わってきて、涙が出そうだった。

その腕に触れているだけでも、こんなにも。手が震えてしまうくらい、求めている。


「…触って 抱きしめて キスして …全部……全部俺のモンにしたいんや…!」


新一が他の誰かを見る事も、笑いかける事も嫌なのだ。

ましてや他の人に触れられるなんて、考えるだけでも腸が煮え繰り返る。

誰にも、渡したくない。




例え、自分が、嫌われているとしても。





「工藤に嫌われとるっちゅーのは、解っとる!せやけど俺、もう我慢できへん…!」





想いをぶつけるように吐きだしていると、平次の言葉の何かがひっかかったのだろう、新一は一瞬動きを止めた後、素っ頓狂な声を出した。


「は?え…あ…ちょ、ちょっと待て!何で俺が服部を嫌うんだよ?」


返ってきた言葉を不思議に思い、顔を上げる。


「何でて…工藤、そう言うたやんか」


あの夜、自分の事を好きなのかと聞こうとして……できなくて。

そんな平次の心境を読んで、逃げる様に、立ち去って行ったのは新一の方だ。


「言ってねぇし!お前のこと、嫌うわけねぇだろ!」

睨んでくる新一に、そりゃあ言われてはいないかもしれないと思うが、あんな態度を取っておいてよくそんな事が言えるものだと、逆に睨みかえした。


「せやかて、工藤、俺が触ったらめっちゃビビりよるし、俺の傍におる時かてさりげのォ距離とってたやんか!身に覚えがないとは言わせへんで!」

「っ…そ、れはっ…」


どうやら自覚はあるらしい。

やっぱり、と思いながらも、先程の、『嫌うわけねぇ』という言葉が、心に響いていて。

そこだけが、とても、気になって。思わず言葉が滑り落ちた。


「…嫌いやないて、ホンマか…?」

「ったり前だろ!」


しっかりと目を合わせて言いきってくれたその態度に、心底ホッとした。


「…は……よかった…」


これで嫌いと言われていたら、自分はもう、どうしていいか解らない。

ということは、新一が平次から離れていったのは、きっと平次が新一を嫌っていると勘違いしての事なのだろう。

お互いが勘違いして、離れていた、ただそれだけの事だったのだ。

嫌われていない事実が、とても嬉しい。


が、人間は欲張りなもので、嫌われていないと解った途端、新たな願望が平次の胸に生まれていた。

何より、この近すぎる距離がいけない。

そして好きな人とあんなキスをしておいて、何も感じるなという方が無理なのだ。

身体に灯った狂おしい炎は、消す事が出来ない。


少し戸惑いながら、けれども平次は口を開いた。


「…なぁ、工藤… こういうの、めっちゃ卑怯やけど…タバコはやめるて約束する…」


新一の条件を飲むというセリフにホッとしたらしい新一に、今度は自分の条件を突き付ける。


「せやから…俺のモンになれや……」


こんなのは、卑怯だと、解っていた。


それなのに…。


……卑怯者でもいいから……一度で、いいから……。


…手に入れたいと…願ってしまった…。



「……………………へ?」



「…頼むから……抵抗、すんなや?」



否定の言葉が出る前に、再び唇を深いキスで塞いでしまう。


「っぅんっ!?」


驚いているらしい新一を余所に、すごく触れたかったその身体をまさぐり、シャツのボタンを外す。

一度でいい、と。

一度だけでも手に入るなら、後で軽蔑されようが怖くない、と。

本気で思っていたけれど。

新一の素肌に触れた瞬間、そんな考えは吹き飛んだ。

一度だけ、なんて、そんなのは甘い考えだったと思い知った。


「やっ、服部っ…どこ触ってっ…」


感触……声……体温……その、全て……。……知ってしまったらもう、戻れはしないのだ……。


「…工藤、めっちゃ触り心地ええな……気持ちええ…」


ずっと。 それこそ、一日中触っていたい。


新一がとても混乱しているのは解っていた。

けれどもう、止めてやるつもりなんてなくて。 ――止めてやれなくて。



平次が少し触れるだけで跳ねてしまうくらい身体は敏感なのに、唇を噛みしめ、声を押さえてしまう新一に喉の奥でクッと笑う。

堪えてしまうなら。

声を上げさせてやればいい。

そう思って、耳に舌をねじ込んだ。


「ひゃっんっ!」


先程まであんなに堅く閉じられていた口が呆気なく解かれた事に、すごく驚いたけれど。

それ以上に。

自分の愛撫で感じてくれたことに、感動を覚える。


「……めっちゃ……可愛ぇ…」


何だか泣きそうになりながら、新一の首筋にキスマークを残した。

自分が、新一の肌に刻んだというだけで、それさえも愛しくなってきて、痕をそっと撫でる。


「っ…工藤が乱れてんの、めっちゃ、興奮する…」


もっともっと乱れさせて。何も解らなくなるくらい、ぐちゃぐちゃにしたい。


新一はただ、狂ったように平次を求めてくれればいい。



肌蹴たシャツの隙間から、誘うような新一の胸の突起が顕わになって、吸い寄せられるように撫でた。


「ぁ…服部、それ、やっ!」


ビクッと身体を震わせる新一に、口元がますます緩む。


「ん?…あぁ、ココか?」


今度は抓むように触れてやると、甘い声が漏れた。


「っあっ…やめ、なん、かっ…」

「…気持ちエエんやろ?可愛ぇ、工藤…」

「ちょっ…お、前っ…ぁ…っ」


もっと感じて欲しくて、指先で突起を転がしながら、所有印を散らしている途中、新一が逃げるように身体を捻った。

逃げられてしまうかもしれないと、途端に恐怖が押し寄せて来る。


―― …スマンけど、ホンマ逃がしてやらん……逃がしてやれんのや……


「っ…ん…何や…?」


何を言われても離すつもりはないと教えるように、新一を絡め取っている腕の力を強くして、事もなさげにそう聞いてやる。



が、新一の口から出た言葉は、最も平次の勢いを削ぐものだった。








「ぅあっ…俺…っの、ことっ…好き、なの…か…っ?」












―― ………………………………………………………何やて…………? ………ちゅーか、今このシチュエーションでそないな事聞かな解らへんのか………?











こんな事をしでかしているのだから、答えは一つしかないというのにこの男は。


「…工藤…お前、さっきの俺の話の、何を聞いとったんや?」


これで本当に東の名探偵だろうかと素直に口にすると、心外だとばかりに新一は睨んできた。


「ちゃ、ちゃんと聞いてたけど!でもお前、言ってねぇから…」


言われて考えてみると、確かにそうだ。

けれど、そんな事言わなくても状況で解るはずだろう。否、解って欲しい。

同じ男を襲う事なんて、好きでなければ出来るはずがない。


―― ……まぁ、工藤やから、な……しゃーないか……


心の中で苦笑して、しっかりと新一に向き直る。


「…好きや…」


「…えっ……」


「…好きやで……工藤が、好きや…」


心の底から。 こんなにも。


溢れんばかりの想いがあるのに、それを伝える言葉がなくて歯がゆい。


恋なんて……愛なんて、そんなちっぽけなものではないのだ。



新一の手を取り、想いを唇に乗せてそっと口付ける。


「…めっちゃ、好きなんや…」


この手も、指先も。何もかもが愛おしい。


「っ////!ぁ、服部っ///!?」


手に、指に、舌を這わせた事に驚いた新一が手を引こうとするが、それを阻み、丹念に舐めていく。

それが新一だというだけで、こんなにも身体が熱くなる。


思う存分新一の指を堪能してから、行為を再開していく。

驚いて思考が上手く働かないのだろう、新一から大きな抵抗はない。

この隙に、全部奪ってしまおうと、思った。

卑怯だけれど、こんなことでもなければ、自分は一生、新一に触れられないから。

だから代わりに、沢山新一を気持ち良くさせてやろうと決めていた。

一刻も早く新一のナカに入りたいのはやまやまだが、新一を傷つけたいわけではないから。


そう、この身体で、工藤新一を、愛したいのだ。


と、今までずっと固まっていた新一が動く気配がした。

もう我に返ってしまったかと少し残念に思ったが、何をされたか全部覚えていて欲しいから、これで良かったのだろう。

けれど…。


―― これでホンマに嫌われる事になるんやろな…


つい先程、嫌いじゃないと言ってくれたばかりなのに、それを壊してしまったのは平次だ。

心で矛盾した想いを抱きながらも、熱くなっている自分を止める気なんてなくて。

新一の肌にキスマークを残しながら、押し返される事を覚悟した。



それなのに。



「っ――!?」



新一は、そっと平次の頭を包みこんだのだ。


その暖かさに、思わず身を引いてしまう。

何が起こっているのか本気で混乱しかけていると、新一が話し始めた。


「…俺っ…お前には嫌われてると、思ってて……すげぇ、辛く、て…」

「…くど…」

「俺っ…俺は……ずっと、服部のこと、好きだったから…余計…」



「っっ――!!??」



心臓が、止まったのかと、思った。

ともすれば、世界自体が止まってしまったのではないかと、本気で考えた程……驚愕した。

頭の許容量を超えてしまうと、本当に頭が真っ白になるのだと体感した。




今、新一は、何と言った…?





「…服部のこと、諦めなきゃって思って……でも、諦めらんなくて…こんなとこまでっ―!?」




瞬間、新一の両片を掴んで引き寄せていた。

ありえないと思った。

聞き間違いかとも思った。

けれど、今の言葉を、間違いにしてしまう事だけは、させるわけにはいかなかった。


「今、何て言うた!?」


先程言われたばかりの言葉を聞き返しているが、決して聞こえなかったわけではない。

どころか、馬鹿みたいに新一のセリフが頭の中を堂々巡りしている。


「今言うたこと、ホンマやな!?取り消しはきかんで!俺を好きやて、言うたな!?」


ただ、もう一度、聞きたかった。



ずっと……ずっとずっとずっと…… 夢にまで見た言葉が、新一がの口から紡がれる所を。



その一言を待っていると、新一は頬を染めたままフワリと微笑み、頷いた。







「…… 好き ……」






「っ――!」







瞬間。



言葉では言い表せないような感情が湧きあがってきた。




遠く、決して手の届かない……どんなモノよりも欲しかった一言。




言葉が出てこなくて、代わりに、力の限り新一を抱き締める。

すぐに背中に回された腕に、本気で泣きだしそうになって……胸が、いっぱいになった。


「…っ俺、めっちゃアホや……この3ヵ月我慢しまくって工藤と会わんよーにして……それでも触りたい思うから、紛らわす為にタバコ吸って………あ〜、もう、今はそんなんどうでもええわ!」


そう、過去を悔むのは、後でいい。


「…今 工藤が俺の傍に居んねんから…」


今何よりも大切なのは、目の前の愛しい人なのだ。

初めて見た、心から幸せそうな新一の笑顔に、吸い込まれる様にキスを落とした。


最初、新一からもらったキスも、表現できない程嬉しかったけれど。


想いが通じ合ってからしたキスは、心を暖かいもので満たしてくれる。



そしてこれが、本当のキスというものなのだと、解った――。










 











一度眠った新一が起きて、もうタバコを吸うなと念を押し、安心したように再び平次の腕の中で眠りについてから、何時間が経過しただろうか。

まだ感動さめやらぬ平次には睡魔が襲ってこず、ずっと新一を見ていた。

ずれてしまった毛布を新一に掛け直しながら、その首筋に散らばる赤い所有印を見て、思わず笑みが零れた。否、口元がにやけてしまう。

新一の頬にそっとキスを落とし、起こさないように抱き締める。


想いが通じ合ってからずっと新一を抱いていて……後で時計を見てからずいぶん驚いたものだ。

身体に付いた火は自分でも止められなくて、新一が初めてだということも忘れて無理を尽くしてしまった。

行為が終った後、落ち着いてからようやく気付くとは、自分も大概余裕がなかったのだと思う。


涙目で新一が、もう無理だと訴えてきても、止めてやれなかった。



どんなに新一に触れたかったか。


どんなに新一に惚れているのか。


どれだけ新一に恋い焦がれたのか。


解るまで、許してなんてやらないと……離してなんてやれなかった。



けれど、これでも手加減したのだ。……自分なりに。

だって、こんなのでは、まだまだ全然足りない。

まだ、自分の想いの、何憶万分の1にも満たないくらいの気持ちを吐きだしただけなのだ。

こんなにガッついてしまうなんて、まるで中学生のようだと苦笑する。


けれど止めてやれない。


止めてなんか、やらない。


自分でもコントロールできない。


あれだけで終わったことに、感謝してくれてもいいと、本気で思うくらいには。


―― …せやけど…… まだまだ、時間はあんのやから ……焦る事は、ないやんな……


ずっと、一生、一緒に……傍にいるのだから。

一生離れられないように、新一にはもっともっと平次の事を好きになってもらって……それと同じくらい、自分ももっともっと新一の事を好きになっていくのだろうと、想う。

男同士なので結婚は出来ないし、子供も出来ない。周りからの祝福もない。

けれど、未来がこんなにも楽しみなのは、相手が新一だからなのだろう。



と、もぞっと動いた新一が、ゆっくりと目を開けた。


「…あ…スマン、起こしてしもたか?」

「…ん〜……いや……なんか、普通に、目、覚めた…」


まだ寝ぼけ眼な新一にクスクスと笑い、髪を撫でてやる。


「…はよ……服部……」

「おはよーさん」


言って、キスをすると、新一は一瞬きょとんとした後、一気に真っ赤になった。


「めっちゃ可愛えなぁ、ホンマ♪」

「なっなっ…//// からかってんじゃねーよ、バーロォ!」


クルリと寝がえりを打ってそっぽを向いてしまったのは十中八九照れ隠しなので、その行動すら平次にとっては可愛いとしか思えない。


「からかってへんて♪ ホンマにそう思うてんのやで♪」

「余計悪いっつーの!///」


布団に丸まる新一はとても可愛いのだが、いかんせん、顔が見えない。

新一は顔を見られたくなくてそうしているのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。


「あ〜、スマンて。 工藤、こっち向いてや?」

「………」


―― …これは…『怒ったフリしたのにすぐ振り向いてしもてどないすんねん』、て考えとるな、コイツ…


新一の沈黙からもこれだけの事が解る。

解りにくいと言われる新一だが、平次からするととても解りやすい。

素直に振り向かせる為に、平次はとっておきの台詞を口にした。


「…なんや、タバコ吸いたなってきたなァ…?」

「えっ!? う、嘘だろ!?」


約束したじゃねぇか、と言いながら、焦ったように速攻で平次の方を振り向いてきた。

意地の悪そうな笑みを湛えている平次の視線と新一の視線が、混ざり合う。


新一は、一瞬、不思議そうに目を瞬かせて………すぐさま、カッと赤くなった。


「っ///! ……は、服部…まさか…///」


恐る恐る言う新一は、もう平次の言葉の意味を理解してくれたのだろう。

嬉しくなってコクリと頷いた。


「工藤にキスしてもらえへんかったら、また吸いたなるかもしれんなぁ?」


そう、あの時したように……タバコを吸わない代わりに新一のキスを、と強請っているのだ。

当然、本当にタバコを吸いたいわけではない。


「…卑怯だっ///」


更に顔を赤くしている新一は、可愛いとしか言いようがない。

恐らく、あの時は平次にタバコをやめさせようと必死だったから何でも出来たのだろうけれど、今こんなに明るい時に、しかも新一からキスをするなんて、恥ずかしくて堪らないに違いない。


新一は少しだけ視線を彷徨わせた後。


チュッ、と軽いキスをしてくれた。


それだけで、平次は涙が出そうな位、嬉しくなってしまう。

けれど、自分の発言の間違いに気付き、苦笑した。


「…やっぱ、訂正や」


「え?」


「タバコなんや関係あらへん。そないな理由がのぉても、もう、ええんやったな…」



タバコという理由がなくても。そんなモノを引き合いに出さなくても。



新一のキスをもらえるのは、自分の特権なのだ。







「…… 工藤のキスが欲しい …… もう1回、 キス、してくれへん …?」






「……うん…///」







心のままにそう伝えると、新一は眩しそうに目を細めて笑って。



平次の望んで止まないキスを……くれた。



唇が触れあう、ただそれだけなのに。本当に、心から、喜びが溢れ出してきて……幸せだと、想う。





「…めっちゃ、幸せや…」





思わずポロリとそう溢すと、新一は一瞬言葉に詰まった後、「……バーロォ…」と呟いて…… 柔らかく、笑った ……。





「………俺もだよ……」





蕩けそうな顔、とは、こういうことを言うのだと、平次は思う。





そして、きっと。






新一の瞳に映る自分も……。







そんな顔をしているのだろうと、想った……。


























〜 fin 〜
      
終わりです〜vv
「タバコはマジべらぼうむちゃくちゃ身体に悪いので吸わないに越したことはないよって言うか周りも結構な迷惑的被害を被ってんだよマナーを考えろこのヤロウ」な小説、やっと完結です〜vv(違…/笑)

や〜、やっと幸せにイチャコラしてくれて、一安心してますよvv
寝起きにキスされた新一は、きっと昨夜のあれやこれを鮮明に思い出したに違いありませんvv
そしてそれを解ってて、あえてチューしたんですよ、平次vv

何か前後編っていっても、思ったより長くなってしまった感が否めないんですがιι
ここまでお付き合いくださった方、本当にありがとうございますvv

それにしても、前回アップしてから1年と4日か……長かったなぁ…vv(笑)
  
      
(2010.07.24)
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