欲しいモノは 一つだけ ――




たばこ

-後編-





新一は、平次から告げられたその言葉が信じられなかった。


「…え?」


聞き間違いだったらいいと思いながら平次を見ていたが、その口から出た言葉は同じものだった。


「聞こえんかったんか?キスせぇ言うてんのや」


やはり気のせいなんかではなくて。

言葉を告げた平次を、信じられない思いで見つめる。


「…何、言って…?」


何とか声を出してそう言うが、平次は冷たい口調で淡々と言った。


「工藤が言うたんやろ、別のモンにせぇて…」

「…え…言った、けど…でも…」


確かに、タバコをやめて、別のものにしろと…。

その為ならば、自分は何でもしてやると言った。

けれど、平次からこんな要求が来るなんて、誰が考えるだろうか。

新一が考えていたのは、「金輪際、傍に寄るな」とか「今後一切、話しかけるな」とか、そういったものだと思っていたのに。


「タバコの代わりが欲しいねん。今オンナいてへんし…工藤、何でもしてくれるんやろ?」



確かに、何でもしてやると言った。




けれど、それは…。




それだけは、無理、だった。





「そ、そんなのっ!彼女作ればいいだろ!お前モテるんだから…」

「オンナ作んの、面倒やねん。」


新一の言葉をいとも簡単に終わらせてしまうと、平次は感情のない視線を向けてきた。

平次に、キスをするということは…本当ならとても嬉しいことで…断る理由なんてないけれど。

今、平次がキスをしろと言っている意味が、問題だった。


押しかけて来た新一を、諦めさせる為の…一言なのだ…。


平次を好きな、平次が嫌いな男に…キスを『させてやる』のだ。


そんなのは、嫌がらせの他の、何物でもない。




そして……そのキスが……タバコの、代わりでしかないなんて……。




新一にしてみれば大切な大切なキスになるのだろうけれど、平次にしてみればただの代用品だ。

嬉しいはずが、ないではないか。


心から好きな人とのキスを…そんな理由でしたくはない。


新一が唇を噛んで俯くと同時に、平次のため息が聞こえた。


「…できへんこと、口に出すもんやないで」

「っ―!」


正直、頭にきた。


平次を好きだと知っているくせに。

そんな新一を、嫌だと思っているくせに。

キスを させるなんて。

男に惚れた男にキスをさせてやるなんて、どこまで侮辱するつもりだろうか。







それほどまでに…嫌われている、なんて…。











新一はただのタバコの代用品で…それだけの、価値しかなくて…。











酷く、辛い。












何も言えないでいる新一に、平次はハッと息を吐いた。


「…もうええわ。早よ帰れや」


そう、呆れたように言われて。

ハッと本来の自分の目的を思い出した。


自分の目的は、何だったか。



全てを諦めきったような顔で。


まるで死に急ぐかのようにタバコを吸う平次を。


何をしても、止めてやりたくて。


本当の平次に戻って欲しくて。


前みたいに幸せそうに笑う平次の顔をみたい。






……そんな…エゴのような……どうしようもない、願い……。






―― …服部にタバコをやめさせれるんなら…何でもするって誓っただろ!






自分はただの代わりで。






それだけで。







けれど…。











―― それでも、お前の方が大事なんだよっ!!











新一は、ガバッと顔を勢いよく上げて平次をキッと睨む。


「…キス、すれば…タバコはやめるんだな?」


そう答えるのが予想外だったのだろう、平次は少し目を見開いて。


「…あぁ」


すぐに頷いた。


「……解った…」


覚悟を決めた新一は、すっくと立ち上がって平次の傍に近づいた。


新一が近づいてくるのを感情のない目で見つめている平次にしてみたら、コレは最悪の出来事になるのだろう。

本当なら、新一が諦めて帰ることを望んでいるのだろうから。

嫌いな人間にキスをされるなんて、たまったものじゃない。

自分でいいだしたことだから、もう後には引けないけれど、やはり嫌なものは嫌なのだろうと思う。



それでも。



新一にとっては、人生で、最高のことだから。



大切に…大切に心の中にとっておこうと思う。





ドキドキする心臓を落ち着かせようと、気づかれないように呼吸を整えながら、平次の隣に座った。

平次を見上げると、ずっと新一から反らされる事のなかった瞳と視線が合う。

少しだけ躊躇った後、そっと平次の肩に手をかけて。


ゆっくりと、顔を近づけた。




―― …ごめん、な…?…少しだけお前に触れるけど…許してくれよな…?




チュッ、と唇を触れさせて。


平次が嫌な顔をしない内に、そっと離れた。




―― …ヤバッ…涙、出そうかも…




触れあえた事が、嬉しすぎて…。




そのまま顔を逸らそうとした新一に、平次の声が降ってきた。


「…何や?」

「…え?」


―― …何って、何が?


言っていることが分からなくて、ポカンと目の前の人物を見ていると、平次はため息を吐いた。


「…まさか、そんなんがキス言うんちゃうやろな?」

「っ/////!!」


呆れたように新一を見る平次に、思わず足が出そうになってしまう。


―― うっせー!どうせ俺はそんなキスしかしたことねーよ!!///


心の中で叫びながらも、当初の目的を思い出した事で行動に移らずにいられた。


「すればいいんだろ!!キス!!」


こうなりゃ、意地だ。

平次が言っている…そのキスをする為、ガッと平次の服を掴んだ。

そのまま、勢いに任せて再び唇を触れ合わせる。


そして。

勇気を振り絞って…唇を開く。


すると平次も少し口を開けてくれて。

新一は、恐る恐る舌を出した。


ドクドクと自分の心臓の音が煩い。

閉じた睫毛が震えているのが自分でも解る。

平次の舌と触れた途端、雷が落ちたような、そんな痺れるような衝撃に襲われた。

それでも懸命に、たどたどしい動きで舌を動かした。











その、瞬間。











「っ……っぅんんっ!?」


急に背中に腕が回されて、痛いくらいの力で抱きしめられた。

それに驚く暇もなく、ただ新一に合わせただけの深いキスが、奪いつくしてしまうかのようなソレに変わった。


舌が差し込まれ、新一の舌が絡め取られる。

びっくりして平次の胸を押し返すが、背中にまわされた平次の腕の力が弱まることはなく、全然びくともしない。

どころか、軽く体重を掛けられ、ゆっくりとソファに押し倒された。


「んぅっ!…はっ…っ」


その間にも、平次の舌は止まることなどなく。

お互いの唾液が混ざり、濡れた音を立てながら平次の舌が新一の口腔を蹂躙する。

思わず舌を引いてしまうが、それを許さないとばかりに執拗に絡め取られた。


「っ…工藤っ…舌、出せや…」


そう、言われて。

訳が分からないまま、言われた通りに舌を出すと、すごい勢いで絡められる。


「っぅっ…んんんっ…」


何とかではあるが、呼吸は、できるのに……苦しい…。


とても…苦しい…。


嬉しくて…嬉しすぎて……胸が、苦しくなる……。


混じり合った唾液が飲みきれず、唇の端からツ、と新一の顎を伝った。

それが恥ずかしくて、口元を拭おうと手を上げると、平次の手に掴まれて押さえつけられた。

そして、唇が離れ、平次の舌が溢れた唾液を舐めとっていって。

すぐに再び唇が塞がれた。


「っ…はっと、んぅっ…ん、!」


何かを言おうとしても平次の口付けが許してくれない。







このキスがどんな意味だって、もう構わない。













―― …嬉しくて…死ぬ、かもっ……













熱い息が。体が。平次が。






自分を抱きしめ、キスをしているのだから。












どれくらい、時間が経ったのだろうか、ようやく平次は唇を離した。

途端に酸素を求めて、新一は荒い呼吸を繰り返す。


「っは……ぁ…っ…はっ…」


キスの余韻で呼吸もままならない。

平次はそんな新一を目を細めて見つめ、新一の唇の端を親指の腹でなぞって、それをペロリと舐めた。

飲みきれず零れてしまった唾液を舐められたのだと解り、新一は沸騰したように赤くなった。

肩で息をしながら、信じられないとの意味を込め、真っ赤になりつつ平次を見る。

と、先ほどまでとは一変し、揺らいだその瞳と視線が合った。



「…ホンマは…タバコなんていらん…」


「……え?」


誰に言うでもなく呟かれた平次の言葉は、新一の耳にかろうじて届いた。

タバコがいらないとはどういう意味だろうか。

あれ程、タバコを吸いまくっていて、やめるのも無理だと言い張ったというのに。

その意味を聞こうと口を開いた瞬間、信じられない言葉が聞こえた。




「…工藤がおれば…それで充分やねん…」





―― ………… え …?





“本当はタバコなんていらない”と言った平次。


次いで“新一がいれば”という言葉。



新一が傍にいてくれれば、タバコなんて必要ない、と…そう、言っているのだ。



けれど。




「……な、に…?」




意味が、全然、解らない。





新一を嫌って傍に寄せ付けなかったのは、平次の方なのに。

だけど、先ほどの言葉は、新一に傍にいてほしいと言ったようなもので…。

混乱している新一に、平次は苦しそうな声で言った。


「…もう俺、アカンのや…何しとっても工藤のこと触りたいて思うねん…」


上に乗られた状態で、平次の額が新一の肩に置かれた。

腕を掴む平次の手が震えていて。

余計 混乱 した。




―― さわる…?俺、を…?…何で?




壊れたロボットのように繰り返しその単語だけを脳内で繰り返していると、腕を掴まれた手にぐっと力が込められた。






「…触って 抱きしめて キスして …全部……全部俺のモンにしたいんや…!」






祈るような … 叫ぶような … そんな声だった。



触って?


抱きしめて?


キス、して?


全部…新一の全てを、平次のものにしたい…?








―― …それって…まるで…服部が俺のこと…








そこまで考えて、首を横に振る。

そんな都合のいい、ともすれば夢のようなことが現実で起こりうるはずがない。


自分は確かに嫌われていて。

3ヵ月も音信不通になっていた。

それでタバコを吸いすぎな平次が気になって、マンションまで押しかけて。

平次を好きなことを知っていて、あえてキスなんかさせられて。

そんな事をさせるくらい、平次は新一を嫌っているというのに…。



「工藤に嫌われとるっちゅーのは、解っとる!せやけど俺、もう我慢できへん…!」


その言葉に引っかかりを感じて、新一はようやく我に返った。


「は?え…あ…ちょ、ちょっと待て!何で俺が服部を嫌うんだよ?」


「何でて…工藤、そう言うたやんか」


嫌そうな顔でそう言う平次に、新一は心の底から否定した。


「言ってねぇし!お前のこと、嫌うわけねぇだろ!」


何でそんな事になってんだよ、と睨むと、それを上回る位の勢いで睨まれる。


「せやかて、工藤、俺が触ったらめっちゃビビりよるし、俺の傍におる時かてさりげのォ距離とってたやんか!身に覚えがないとは言わせへんで!」

「っ…そ、れはっ…」


本当の事なので、それ以上の抗議はできなくなった。

けれど、それは平次が嫌いだからそうしていたのではない。

というか、逆だ。


―― バーロ!オメーにドキドキしてたんだよっ!!


触れられるとビクッと体が反応して、熱くなってしまって。

傍にいるだけでも意識しまくって、以前はどうやって平次と接していたか思い出せないくらい、ドキドキしてて。


好きだからそうなっていたのに、どうやら平次は自分が傍にいるのが嫌なのかと思っていたようだ。

そんなこと、全然ないのに。

でも、本当の事は言えないので、どう弁解しようか考え出した時、平次がポツリと呟いた。



「…嫌いやないて、ホンマか…?」



顔を上げると、じっとこちらを見ている平次と眼が合う。


「ったり前だろ!」


嫌いなわけが、ない。

そんな誤解があるのなら、一刻も早く正したい。

しっかりとそう肯定すると、平次は肩の力を抜いて、再び新一の肩に頭を預けた。


「…は……よかった…」


心から安心したような呟きに誤解が解けたことを知り、新一も安心する。


―― …じゃあ服部が俺から離れてたのって、俺に嫌われたと思ってたから、か…?


真実を知って、新一は力が抜けた気がした。


お互いがお互いに嫌われていると思い込んでいて…。

嫌いな奴の傍にいたくないだろうと、お互いを想って身を引いていたのだ。


「…なぁ、工藤…」


考えの途中に名前を呼ばれ、思考を中断して平次に視線を向けた。


「…んだよ?」


頭を上げた平次と視線が合った事で思わず笑って首を傾げると、平次は少し戸惑った後、おもむろに口を開いた。


「こういうの、めっちゃ卑怯やけど…タバコはやめるて約束する…」


そう約束してくれたことに、新一はホッと胸をなでおろして。


よかった、と、そう言おうとした。















…のだが。













次いで言われたセリフに、新一は動きを止めた。















「せやから…俺のモンになれや……」















「……………………へ?」








自分でも間抜けな声が出たと思う。

が、その言葉の意味を新一が理解する前に、平次が切なそうに瞳を細めながら顔を近づけてきた。



「…頼むから……抵抗、すんなや?」


「っえっ!?」



言うが早いか、平次は再び新一に深いキスを落とす。


「っぅんっ!?」


いきなりのことに何が起こっているのか分からない新一を余所に、平次はシャツのボタンを外し始めた。

もう片方の手はボタンをはずす時間も惜しいと言わんばかりに、少しだけ荒い手つきでシャツの上から体を撫でられる。

ここまできて、ようやく新一は平次が何を言いたいのか分かった。


―― っ…!俺のモンって、そういう、意味かよっ///!



男が女を抱くように……。


新一のことを、抱きたいと……。


抱いて、自分のものに…してしまいたいと……。



解った瞬間、顔から火がでるほど頭に血が上った。

と、ボタンを外されたシャツの隙間から平次の手がするりと体を撫でた。


「やっ、服部っ…どこ触ってっ…」


慣れない感覚に、必死で自分の上からどかせようとするが、平次の重みでびくともしない。


「…工藤、めっちゃ触り心地ええな……気持ちええ…」


どこかうっとりしたような声色でそう呟かれ、新一は恥ずかしさで死ぬかと思った。

つ、と首筋を唇でなぞられ、どこかゾクゾクとした感覚が走り抜ける。


「っ〜〜〜/////」


平次が与えてくれる感覚は強すぎて、少しでも気を抜けば声が漏れてしまいそうで、新一は必死で唇を噛みしめた。

沸騰する頭で、何とか冷静に話し合う場を作ろうと、思考錯誤する。


ハッキリ言って、新一は混乱していた。

平次のことは本当に好きだ。

けれど、さっきのさっきまで新一は平次に嫌われていると思っていたのだ。

それが急にこんな展開になって、心が全然ついて行っていない。

どうにかして、冷静に考える時間が新一には必要だった。


―― どどどっ、どうすればっ…


思考を巡らせた、その瞬間。


平次の舌が、グチュッという音とともに新一の耳にねじ込まれた。



「ひゃっんっ!」



他の事を考えていた所為もあって、何のためらいもなく声を出してしまった。

自分で出した声が信じられない。

顔が真っ赤になるのを自覚しながら咄嗟に口元を手で覆って、平次から顔を背けた。






しばらくそうしていたのだが、あれほど新一の体を這いまわっていた平次の手がぴたりと止まったことに、恐る恐る平次の方に視線を向けて。





……驚いて目を見開いた。





平次が、蕩けてしまいそうなほど優しく、熱をはらんだ瞳で微笑んでいたから。


「……めっちゃ……可愛ぇ…」


平次はチュッと音をたてて新一の頬にキスを落とすと、首筋に顔を埋めてキツク吸い上げた。


「んっ…///」


少しの痛みと、甘い快感がそこから波紋のように広がっていく。

平次の唇が…とても熱いと感じる。

首筋に所有印を残した平次は、その赤いアトを指で優しく撫でながら新一と視線を合わせた。


「っ…工藤が乱れてんの、めっちゃ、興奮する…」

「っ////!」


―― …っんで、オメーはそんなに直球なんだよっ////!!


そう言いたくても言えない新一は、赤い顔で平次を睨みつける。

と、掠めるように平次の手が新一の胸の突起を撫でた。


「ぁ…服部、それ、やっ!」


そこに触れられた瞬間、電流を流されたような感覚が体を支配した。


「ん?…あぁ、ココか?」


クスクスと笑いながら、平次は再びそこに手を触れ、今度は意志を持って撫で始める。


「っあっ…やめ、なん、かっ…」

「…気持ちエエんやろ?可愛ぇ、工藤…」


やめろと言う新一の言葉を平次は聞いてくれず、強弱をつけて触り始めた。

快感に思考回路が支配されそうになるが、一番聞きたいことを、まだ平次から聞いていなことに気づいて、新一は平次から逃れようと体を捻った。


「ちょっ…お、前っ…ぁ…っ」

「っ…ん…何や…?」


逃れようとはした…のだけれど、実際平次が新一の体の自由を奪ってしまっているから、あまり動けない。

どころか、逃げようとした事に気づいたのだろう、平次の手に少し力が込められた。

これでは少しも離れることができない。

とにかく、これ以上この行為を進められて、自分が何も考えられなくなる前に確かめねばと、新一は呼吸の合間に平次に問いかけた。






「ぅあっ…俺…っの、ことっ…好き、なの…か…っ?」






言いきった途端、平次の動きがピタリと止まった。


ホッとしたのもつかの間、平次は怪訝そうな呆れ顔で新一を見た。



「…工藤…お前、さっきの俺の話の、何を聞いとったんや?」



更に、ホンマに名探偵か?と付け加えられる。


「ちゃ、ちゃんと聞いてたけど!でもお前、言ってねぇから…」


言葉にしてもらわないと、新一は不安だった。

あの日から平次に嫌われていると思っていたのに…それは違ったという事を今聞いて…。

平次が新一を求めていてくれるのだと、解った。


けれど、これは、ありえないと思っていたくらいの奇跡で…ともすれば、都合のいい夢かもしれない。

ちゃんと言葉で伝えてくれないと、信じられなかった。





また自分一人の勝手な思い込みだったら…。











「…好きや…」











「…えっ……」





聞こえてきた言葉に、思わず平次をじっと見上げる。



「…好きやで……工藤が、好きや…」



言われて、手をとられ、そのまま口づけられた。



「…めっちゃ、好きなんや…」



手に口づけを落としながら、たまに軽く吸い上げ、更に何の躊躇いもなく新一の人差し指を咥えて舌を這わせる。


「っ////!ぁ、服部っ///!?」


咄嗟に手を引くも、それは叶わず、平次の思うままに舐められた。

そして十分に新一の指を堪能した平次は、先ほどの行為を再開していった。

再び肌蹴た新一の首筋に唇を寄せていく。


「っ////!」


新一はどうしていいか分からず、ビクッと体を震わせた。


正直、怖い。


自分が自分でなくなる、感覚。





けれど…。




平次が求めてくれるのならば…。




素直に嬉しいと、思える…。








新一は少しだけ震える腕を上げ、鎖骨にキスをしている平次の頭をそっと抱き締めた。


「っ――!?」


瞬間、平次が驚いたように顔を上げた。

訳が分からないとばかりに新一の顔を凝視する平次に、勇気をふりしぼって、伝える。


「…俺っ…お前には嫌われてると、思ってて……すげぇ、辛く、て…」

「…くど…」






「俺っ…俺は……ずっと、服部のこと、好きだったから…余計…」






何とか言葉を紡ぎだした瞬間、平次の顔色が驚愕に染まった。


「っっ――!!??」


本気で固まって微動だにしない平次を見つめながら、新一は心の中身を全て吐き出す。


「…服部のこと、諦めなきゃって思って……でも、諦めらんなくて…こんなとこまでっ―!?」




瞬間。




我に返ったのだろう平次に、痛いくらい両肩を掴まれ引き寄せられた。



「今、何て言うた!?」



真剣な平次の顔がすぐ近くにあることに、新一の心臓は高鳴る。

もう一度口を開こうとする前に、平次が畳み掛けるように声を荒げた。


「今言うたこと、ホンマやな!?取り消しはきかんで!俺を好きやて、言うたな!?」


『俺を好きて言えや!』と……平次の心の声が聞こえた気がした。


そんな平次が愛しくて。


愛しさが、溢れ出してきて…。


ふっと頬を緩めてコクリと頷き、ゆっくりと口を開いた。








「…… 好き ……」








「っ――!」






感極まったように言葉に詰まった平次は、全て奪い去るように新一をキツク抱きしめた。

手加減をしてないだろうその腕の力の強さに、新一は嬉しくなって平次の背中に腕を回す。

この嬉しさは、きっと、言葉になんかできない。

ジワリと視界が揺れて、頬を熱い滴が伝う。


「…っ俺、めっちゃアホや……この3ヵ月我慢しまくって工藤と会わんよーにして……それでも触りたい思うから、紛らわす為にタバコ吸って………あ〜、もう、今はそんなんどうでもええわ!」

平次は新一を抱きしめながら、愚痴をこぼすように呟くも、すぐに首を横に振って顔を上げて。

これ以上ないというほど…優しい瞳で微笑んだ。


「…今 工藤が俺の傍に居んねんから…」

「…ん…」


すぐに熱いキスが降って来て。

ようやく、想いの通った、キスをした…。





「……工藤…続き、ええか…?」


掠れた声でそう囁かれ、自分の顔がカッと熱くなる。


「…そーゆー顔すんなて……止まらんようになるやろ…」


耳にキスをされながら、平次の手はすでに止めるつもりなどないようで、ズボンの上から新一を撫でた。


「っぅああっ!はっと、触ん、なっっ!」

「…反応しとるやん…めっちゃ、嬉しい…」


言葉通り、新一は平次のキスによって反応していた。

大体、あのキスは反則だと、本気で思う。


「バーロッ…言うなっ…くっ…」

「何でや?めーっちゃ可愛えのに…俺かてもう、限界やし…?」


ぐいっと腰を押し付けられ、平次のモノが熱くなっているのが解った。

恥ずかしさで死にそうになりながら、けれども平次も新一を求めているのが解って。

ぎゅっと平次に抱きついた。


「……す、するんならっ…しろよっ////!」


精一杯の強がりでそう言うと、可愛くてたまらないとばかりに平次が笑った。










 











「ああっ…はっ…もう、やめっ…あっ」


制止の言葉は、平次が腰をぐっと押しつけてきたことにより、途中であえぎ声に変わってしまった。


「っ…せやかて、工藤のナカ…気持ち良すぎっ、なんやから…」


熱い息を吐き出しながら、動きを止めることなく新一を追い立てていく平次は笑ってそう言った。



あの後、ベッドに連れていかれ、衣服を脱がされて。

体を触られ、高みに追い詰められて、一度平次の手の中で達してしまった。


それを恥ずかしいと思う前に、後ろの秘部を解かされて。

平次はすぐに新一のイイところを見つけ、そこばかりを責めてきた。



新一に負担をかけないように、長時間慣らしてくれたのだが、快感が強すぎて逆に苦しくて。

それを訴えると、余裕のない顔でキスをされて。

平次と、繋がった。






幸せで幸せで…溶けてしまうかと思った…。








が。








「っはぁ、っあ…んんっ…あっあっ…」


今の新一には、幸せを噛みしめる余裕すらなくなっていた。


何度熱い精を放っただろう。

何度こうして平次に貫かれただろう。

これ以上ないというほど高みに昇らされて。

意識を失いそうになる度に、許さないとばかりに最奥を突かれて。

考える余裕なんてもうないところまで追いやられていた。


「っ…工藤、好きやっ…くっ…」

「ぅああっ…あ、はっ…」


ずっと続けられている行為の所為で、新一のイイところ全てを知ってしまった平次は、更に新一の快感を引き出そうと動きを止めない。

何度かもう許してくれと訴えてはいるのだが、平次に好きだと囁かれると、体は正直に反応してしまう。


「くっ…締めすぎやでっ…」

「ぁっ…ち、がっ…んっ…」

「…何が違うねんっ…っ…めっちゃ…っ締め付けてくんでっ…」


ぐぃっと抉るように奥を突かれ、新一は悲鳴にも似た声を上げた。


熱い。


熱くて、苦しくて、キモチ良くて…。


どうにか、なってしまいそうだ。


「っあぁっ…もっ…はっ、とりっ…はっとりっ…あっ」


涙を零しながら何度も何度も平次の名前を呼ぶ。


もう、無理…。


これ以上は、もう…。


それに気づいたのか、平次がフッと笑って新一の前髪をくしゃりと撫でた。


「っ…工藤、限界…か…?」


そう問われ、新一は必死に首を縦に振る。


早く、この熱を解放したくて。


早く、どうにかして欲しくて。


平次はそんな新一にキスを落とすと、至近距離で新一の瞳を見つめた。


「…っ俺も、もう限界や…一緒に、イこか…?」


呼吸をするのでいっぱいいっぱいな新一は自分の意思表示として、きゅっと平次の首に腕を絡めた。

瞬間、ナカにいる平次がぐっと大きくなって。

息もつけないほど、荒々しく揺さぶられる。


「っ――ああっ…んっ…はっぁあっ…っと、りっ…」


「…くっ…ホレ、イけや…っ…俺で、感じて…イッてまえっ…」


視覚、触覚、聴覚さえも平次でいっぱいにされて。

何も考えられないくらい、頭が真っ白になった。


「ぁっ…もっ…イッ…っ…ぁあああっ!!」


「っ…工藤っ…好きやっ…好き、やでっ…く、ぅっ!」


新一がイくのと同時に。


平次は、新一の最奥をついて動きを止め、熱を開放した。




好きという言葉に“俺も”と返したかったけれど。




それを言うことなく、新一はそのまま眠るように意識を手放した。










 











新一が目覚めると、辺りはすっかり明るくて、その眩しさに眉をひそめる。


「…あ……大学…」


ふと頭に浮かんだ言葉をポツリと呟く。

と、すぐに後ろから腕が伸びてきて、ぎゅっと抱きしめられた。


「今日は土曜やで、工藤」


クスクスと笑いながら新一を抱きしめている声の主に、ドキッと心臓が高鳴る。

ゆっくりと振り向くと、溢れんばかりの笑みを湛えた平次がそこにいた。

目が合った瞬間、昨日の行為を思い出し、新一はカッと赤くなってしまう。


「何や、照れてんのか、工藤♪可愛ぇな♪」

「…別に、んなんじゃ…ねーし…」


真っ赤になりながらそんなことを言っているのだから、説得力がないのは百も承知だ。

だが新一の性格上、そう言うのが精一杯で。

そんな新一を見ながら楽しそうに笑う平次は、新一を向かい合うように抱き寄せると、軽いキスをした。


「無理させてしもたから、まだ寝足りへんやろ?もうちょい寝とき」


その言葉に顔が赤くなるも、平次の言葉通り、まだ全然寝足りなかったので、素直に頷く。


ぎゅうっと抱きしめられると、ドキドキ幸せな気持ちになりながらも、不思議と睡魔が襲ってきた。

うつらうつらとしながら、新一は思い出したように呟いた。


「タバコ…もう絶対ぇ、吸うなよ?」

「もちろんやで!」


潔い返答に心からホッとして、平次に擦り寄って、瞳を閉じた。









「もう、離さへんからな…工藤が傍に居ってくれたら、他にはホンマに何もいらんねん……」









そんな優しい平次の声を聞きながら。






新一は再び暖かな夢の世界へと落ちていった。









次に目が覚めた時から。






平次が隣にいてくれる事を。






心から幸せに、想いながら ―――。

















〜 fin 〜

終わりました、『たばこ』vv
前編と後編、長さが違うのは、気のせいではございませんvv
ええ、ございませんともvv
これ、書き進めていくうちに、どんどん長くなってしまいましてιι
気づいたら、あれ、何かコレ長いなぁとゆーカンジになっておりましたとさvv
一時、トチ狂った私は、『あっはっはっはvvこの際、引き伸ばして引き伸ばして、DEEP LOVEを超えるくらいの長編にしたろかvv』とか、本気で考えてましたからねvv
とゆーことで、これ以上続けたらもうヤバイと思い、(まぁ悪くない区切りだろうってトコで)切りました
や、切らなかったらどこまで続いたか見物だったとも思いますけれどねvv(笑)

この『たばこ』は、『両想いだけど勘違い』とゆーイメージで書かせていただきましたvv
ノリだけで書いてたら、こんな感じになっちゃったんですけど
や〜、平次が新一を押し倒すトコ、書いてて楽しかったですvv(笑)
3ヵ月以上も、見つめることも、触れることも、傍にいることもできなかった平次は、そりゃー我慢の限界だったでしょうしねっvv
あ〜、とーっても楽しかったですvv

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございましたvv


どうか ほんの少しでも 貴女様のお心に届きますように-----vv


花蘭 でした

(2008.10.13)
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