参加者を集い

王様ゲームを始めましょう――




O・U・SA・MA ゲーム

Game.5






「くーどう♪」


大学で午前中の講義が終わり、食堂へ向かおうと階段を降りかけた時、前からぞろぞろとやってきた見知った悪友の1人が新一を呼んだ。



「……」



こういう呼び方をされる時は、絶対。間違いなく。ろくな事はない。


学習していた新一はくるっと踵を返して逃げようとして……失敗した。


「どーこに行くんだよ、工藤♪」

「ほら、川口が呼んでんぜ?」


後ろから来た悪友達に肩を掴まれ、行く手を阻まれてしまい、瞬時に理解した。彼らはグルで、計画犯だ、と。


「…あんだよ?」


逃げられないとと悟った新一は、話を早く切り上げろよと言う意味も込めて呼びかけてきた川口をじろりと見る。


「んだよそんな顔すんなって♪」

「カワイイ顔が台無しだぜ〜?」

「バーロォ。 で、何か用か?」


ちゃかす他の悪友達を一蹴し、川口に向き直ってその表情を見た時、聞いた事を一瞬で後悔した。

新一をからかってやるぞと顔に書かれてると言っていいほど、意地の悪い笑みを浮かべていたから。


「別に用って程の事でもねぇんだけど…昨日は大丈夫だったかぁ?」

「っ…だ、大丈夫だったけど…」


新一をからかう気満々だと解ってはいても、この話題が来るとは思わず、そっぽを向いてしまった。


正直、酒が弱いと言われるのはあまり嬉しくないのだ。

そもそも弱いとか逃げるとか思われるのが嫌だし、何よりも、必ずと言っていいほど、その後には『可愛い』というセリフが付いてくるのだ。


「や、俺らもさ、酒に弱い工藤にあんなの飲ませて悪いなって言ってたんだぜ?」

「つーか、工藤酒弱いんだから、やめれば良かったのによ」

「言ってくれれば俺らが飲んでやったのになぁ」


ニヤニヤと笑って言ってくる悪友達の手に飲まれまいと思っていたが、こうも酒に弱いと連呼されたら反撃もしたくなる。


「うっさい! 俺はそんなに弱くねーし、普通だっての!」


確かに、昨日は潰れてしまったかもしれないが、あれは誰でも潰れるだろうシロモノを呑んだから、だ。


「いやいやいや、だって飲みの時一番に潰れんの工藤だろ?」

「すぐボーっとしちゃうもんな?」

「まぁ、可愛いからいいんだけど?」

「バーロォ! 可愛いとか言うな!」

「可愛いモンは可愛いから仕方ねぇじゃん?」

「そうそう、褒め言葉だぜ、工藤♪」


その言葉通り、悪意は感じないし、軽い口調なのであしらいたければスルーすればいいとは解っている。

けれど、それは新一には出来なかった。



何よりも。悪友達に本気で男の自分の事を可愛いと思われているのが、一番の問題なのだ。



よしよしという風に肩や頭に置かれた手を振り払って、宣言する。


「褒めてねぇよ、ソレ! つか、昨日のは色々混ぜてあったから誰でも酔うだろ! 普通の飲みだったらすぐには酔わねぇよ!」

「んじゃ証明できるか? 今日も飲みするんだけど…?」

「行く! 絶対ぇ行く!」


間髪入れずに返事をした。


この辺りでそんなにお酒に弱いわけではないのだと言う印象を植え付けねばならない。

…もちろん、そんなに強いわけではないと解ってはいるのだが、プライドの問題だ。


「男に二言はねぇよな?」

「ったり前だろ!」


しっかりと相手の目を見て頷いてやれば、川口は嬉しそうににっこりと笑った。


「オッケー♪ んじゃ工藤は参加な♪」


周りにいる悪友達に聞こえるように声を張る川口に、近くで騒いでいた永瀬が逸早く反応した。


「へぇ、めっずらし。 工藤、オッケーしちゃったんだ?」


ふーんと興味深げに笑っているその瞳には、いつもより嬉々とした感情がにじみ出ている。


「お、マジ? 絶対行かねぇと思ってたのに! 作戦勝ちだなぁ」


次いで声を上げたのは向日だったが、二人のその台詞に違和感を覚えて眉を顰めた。


「? どういう意味だよ?」


新一はそんなに付き合いのいい方ではなかったが、5回に1回くらいは飲み会に参加している。

それなのに『絶対行かないと思った』という向日や『珍しい』という永瀬の発言にはいささか疑問を覚える。


「どうもこうも、なぁ?」


永瀬は楽しそうに首を竦めて笑っている。

こういう顔をした永瀬は解っていない新一を見て楽しんでいるのだ。


―― このヤロー、いい性格してるぜ…


心の中で呟き、永瀬は諦めて向日に聞こうと口を開きかけた時、向日が周りを見回して首を傾げた。


「つーか、服部は?」

「え? あぁ、あいつの授業は午後からだから、もう少ししたら来るんじゃねぇの?」

「あ〜、ナルホド。 だからだな」

「だから、何だよさっきから?」


どこか納得したように一人でうんうん頷く向日の肩に手を掛け、少しの焦燥感を胸に確認する。

と、答えたのは永瀬だった。




「工藤、知ってっか? 今日の飲み、ぶっちゃけ合コンだぜ?」


「そゆこと」






「………………えっ!?」





思わず身体が固まった。

二三度瞬きをして、頭の中で冷静に考えながら二人を見るが、その瞳に嘘はなくて。


急いで川口の元へ行き、確認する。


「ちょ、川口! 今日の飲みって合コンなのかよ!?」

「おう、そうだぜ♪ や〜、昨日の女の子達がさ、また飲もうって言ってくれたんだけど、工藤と服部付きでって頼まれててさ〜♪ 服部は来てくれるか微妙だったから、工藤が参加するって言ってくれて助かったぜ♪」


―― そういう事かよっ!!


顔を見た時から嫌な予感はしていたのだ。


「先に言えよ、そういう事は! つか、合コンなら俺は…」


行かねーぞ、と言葉を発する前に被せるように川口が強い口調でニッコリと呟いた。


「迷いもせず行くっつってたよなぁ、工藤」

「っ…!」


ぐっと言葉に詰まる。確かに、言った。


「絶対ぇ行くっつってたぜ」

「即答だったよな」


他の悪友達もニコニコと笑いながら頷く。


「…それ、はっ……」


何とか弁解しようと頭を働かせるが、多勢に無勢だった。


「二言はないって言っちゃったなぁ、工藤」

「当たり前だってタンカきってたぞ」

「…っ…」

「まさか、ここまで言っておいて今更行かねぇとか言わねぇよな?」

「流石にそれはねぇだろ、工藤?」

「工藤はそんな事するはずねぇよな?」

「そんな小せぇ男じゃないよな?」

「っ〜〜〜」


何というえげつない攻撃だろうか。

もちろん女の子と飲みをしたいという悪友達の気持ちは解るけれど、新一抜きでもいいだろう。


反論の言葉を失ってしまった姿を見かねてか、向日が新一の肩をガシッと抱いて、庇うように川口達の間に立った。

助け船を出してくれるのだろう向日に驚いて、新一は目を見開く。


「こーら! あんま工藤虐めんなよな! 気持ちは解るけど!」

「……解るのかよ…」


最後の一言で、向日に感謝する気持ちが半分以下に減った。


「や、だって工藤っていじりやすいもんよ」

「…嬉しくねぇ」

「ま、今回は諦めろ。 俺らここにいるメンツは皆行くし、いざとなったらどうにでもなるからさ」


な、と明るい笑顔を向けられ、色々思うところはあるものの有難い仲裁を素直に受け止めて、頷く。


「…次からはちゃんと聞いてから返事するよ」


今、固く。心に誓った。

おう、と笑って新一の頭を撫でた向日は、それにしても、と感嘆の息を吐く。


「つーか、ホントすげぇなぁ、永瀬は」

「?……何で永瀬だよ?」


突然の台詞に意味が解らず首を傾げる。


「ん? あぁ、永瀬が川口たちに、『工藤は、服部が居ない時にお酒が弱いところを付いてからかってやると、ムキになって絶対参加するって言うから試してみな』って言ってたんだよ」

「なっ!? 永瀬! あれはオメーの入れ知恵だったのかよ!?」

「人聞き悪ぃな? アドバイスと言ってくれよ?」


反省の色を見せるどころか不敵に笑って見せる永瀬を殴りたいと願うのは人として当然だと思う。


「それに、イジられる工藤見てんの、楽しいじゃん」


前言撤回。殴るだけでは気が済まないかもしれない。

とはいえ、騙されてしまったのは新一の落ち度だから、溜め息を付いて睨みつけるだけに留めた。


「…性格悪ぃぞ…」


ボソッと呟いてやれば、永瀬には珍しく、声を上げて笑った。


「はははっ! つーか、推理の時はスゲェのに、何でこういう時は簡単に騙されっかなぁ、工藤は」


くしゃくしゃと頭を撫でられ、子供扱いの様なその態度も精神的に疲れ切った新一はそのままにしておいた。


タッグを組んで騙し打ちをしてくるとは、何という友達だろうか。


けれど、悪友とは、得てしてそういうものである。





新一が飲み会に行く事を了承し、一件落着したところで、お腹がすいたので移動しようという動きに変わる。


「これから工藤も昼メシだろ? 食堂?」

「あぁ、そのつもり」

「んじゃ一緒に行こうぜ♪ 今日は何食おうかな♪ 工藤と永瀬は何にすんだ?」

「ん〜、俺は……」


階段を降りながらそこまで言いかけて、急に背中にドンッという衝撃が襲ってきた。


「っ――っ!!」


普通であればこの位の衝撃、一歩出した足をしっかりと踏みしめてバランスを取り直せばいいだけなのだが、踏みしめるはずの地面がそこにはなくて…階段を下りるために前のめりになった不安定な態勢から、それをする事は出来なくて。





フワリと浮いた新一の身体は、呆気なく重力に従った――。








「「!! 工藤!!」」









身体に感じる浮遊感と、焦った向日と永瀬の声が聞こえるが、為す術なく下へと落ちていく事に覚悟を決め、ギュッと目を瞑る。















と、すぐに、ドンッ――という衝撃が来て………けれど、思ったより全然痛くない事に気付き、恐る恐る目を開ける。



「っ〜〜びっ…くりした……大丈夫かよ?」



すぐ目の前にいた悪友、岩崎の顔に一瞬、驚いて。

頭がゆっくりと置かれている状況を、把握する。



どうやら階段から落ちた新一を、10段程下にいた岩崎が受け止めてくれたようだ。

視線を下ろすと、岩崎の右手は手すりを掴んで自分と新一の体重を支え、左手は新一の腰に回ってしっかりと抱きとめてくれている。

岩崎の反射神経と運動神経の良さが幸いしたのだろう。

片手で軽々支えられている事がちょっと不本意だが、安堵して息を吐いた。


「あ、あぁ…悪い。 助かった」


落ちる恐怖にドキドキしている心臓を落ち着けようと、何度か深呼吸を繰り返す。


「うわあああ、工藤、大丈夫か!? 悪い、俺がつまずいちまって!」


酷く焦った声が後ろから聞こえ、首を動かして振り返ると川口が青褪めた顔で走り寄って来た。

どうやらあの軽い衝撃は川口だったらしい。


「全然平気。 岩崎が助けてくれたし」

「マジごめんな!! 岩崎ナイス!!」

「ったく、気ぃつけろよな? 急に工藤が降ってきてビックリしたっつの」


必死で謝る川口に笑ってやると、岩崎は苦笑しながら溜め息を吐いた。

周りのみんなもホッと胸を撫で下ろしている。



場の緊張感も収まったところで降りようと足をパタつかせて……しかし、何故か岩崎の腕が緩む事はなく、不思議に思って首を傾げた。


「? 岩崎? サンキュ、もういいから下ろせよ?」


肩に掛けた手をポンポンと叩いて下ろすように促すが、岩崎は複雑そうに眉を寄せるだけだった。


「ん〜…工藤、お前ってちょっと軽すぎねぇ?」

「は?」

「いや、だって、マジ軽いんだけど? ちゃんと食ってんのかよ?」


予想外の台詞に一瞬呆気にとられたが、本気で新一の重さに驚いている岩崎に苦笑が零れる。


「食ってるって」

「でも、腰とかすげぇ細ぇし。 何コレ?」


手すりを掴んでいた手を離したのだろう、抱きとめる腕とは別の手の感触が腰を辿っていく。


「わっ! 触んな!」

「いやマジ折れそうで怖ぇんだけど? 落ちてきた事よりも、そっちの方がびびったし」

「んな簡単に折れるかよ。 いいから下ろせよ」


と、二人のやり取りを見ていた悪友達からクスクス笑いながらの野次が飛んで来た。


「おーい! お前ら、イチャイチャしてんなよな〜」

「そーだぜ! ラブラブカップルかっつーの〜」

「見せつけてくれるね〜」


からかうように飛ばされるヤジに『バーロー』と返そうとして、けれどそれは岩崎がぎゅーっと抱き締めてきた事により、言葉にならなかった。




「羨ましいだろ♪」




ニッと自慢げに笑う岩崎の髪を軽く引っ張って講義する。


「何言ってんだよバーロォ!! 早く下ろせって!!」


引っ張った力が思いの外痛かったのだろう、少し眉を寄せて苦笑した岩崎は少し思案し……意地悪そうな顔で微笑みながら新一の顔を覗きこんできた。








「つれねーなァ、新一? 昨夜は俺の下であんなに善がってたのによぉ?」








「なっ!?」







新一が絶句するのと、ヒュ〜と口笛が聞こえたのが同時だった。


次いで、ワッとその場が盛り上がる。


「なんだよ、お前らそーだったのかァ〜?」

「早く言えよな〜♪」

「俺はばらしても構わねぇっつたんだけど……新一は恥しがり屋だからさ……ベッドの上でも、な?」

「工藤〜、俺らの仲だろ、照れずに教えとけって♪」

「照れ屋な恋人持つと苦労すんな〜?」

「おー♪ でもそこが可愛いんだけどな?」


次々にノッてくる悪友達に、笑顔で答える岩崎。ノリがいいのがコイツらの良い所でもあり、悪い所でもあり…今回は断然後者だった。


耐えきれなくて声を上げようとしたその一瞬先に、永瀬が静かに口を開いた。



「バーカ。 誰が誰の恋人だって?」



「…永瀬」


意外にも永瀬から待ったがかかり、やっとこのバカ騒ぎも終わるのだと息を吐いた。










が。














「新一は俺のモノだぜ? 身も心も、な?」













その言葉に、新一はピシッと固まった。


「おぉ〜!?」

「マジで〜!?」

「三角関係かぁ〜!?」


「大体、岩崎は新一の事何も解ってねぇよ。 新一って、ベッドの上では意外と大胆なんだぜ?」


言って新一に流し眼を向けて微笑んでくる男の発言に、周りが更にヒートアップする。



忘れていたわけでは決してない。



こいつは、永瀬という男は。



面白そうな事を更に面白くするために手段を選ばない奴なのだ。





信じた自分が馬鹿だった。後で永瀬とはちゃんと話をしようと決めた。もちろん、蹴りは確実に入れるつもりだ。

その前に早急に片づけなくてはならない案件に着手しようと息を吸い込んだ時。


「お前ら、何してんねん?」


呆れたような声が聞こえて視線を向けると、その声の主、平次がいた。


「服部!」


唯一の味方が登場した事によりホッと胸を撫で下ろす。


「ちゅーか岩崎ィ。 早よ工藤下ろして離れんかい」

「何だ、服部もう来たのかよ。 来るの早ぇよ」


じろりと平次に睨まれた岩崎はぶつぶつ文句を言いながらも、ようやく新一を下ろしてくれた。

睨み合った二人の間に何かいつもと違うような空気を感じて…でもそれもすぐに消えてしまう。

不思議に思いながらも、状況を把握していないながらも助け船を出してくれた平次の元へ駆け寄る。


「サンキュ、服部、助かった」

「ちゅーかホンマ何してんねん? 昼メシこっちで食お思て来てみたらコレやし。」

「……だよな…」


溜め息混じりに苦笑されれば、新一には返す言葉があるはずもなく、乾いた笑が零れる。

その間、悪友達は平次の言葉で空腹を思い出したようで、止まっていた足を動かして食堂へと向かい始めた。


「つーか思い出したら本気で腹減った!」

「おーそーだった! 早くメシ行こうぜ!」

「何食う〜?」


皆の意識がようやく自分から外れた事に安堵のため息を吐いて、けれどじっとこっちを見ている色黒の男には事の顛末を話さなければ納得しないのだろうと容易に想像でき、疲れがどっと押し寄せてきた。


状況を説明するのも時間がかかるし、何よりくだらなさ過ぎて話したくもないレベルである。


「…とりあえず、説明する前にメシにしようぜ?」

「せやな、お前、めっちゃ疲れた顔しとるし」


ポンポンと優しく頭を撫でられて告げられた言葉に一瞬驚く。


何も言わなくても心情を汲み取ってくれる平次は、いとも簡単に新一の心を浮上させてくれるのだ。


それを嬉しく思いながら、歩き出した平次に遅れないよう、新一も足を動かした。




















To be continued...

なんぞこれ。。。
いえドン引きされる前にちょっと言い訳させてください!!ιι
最初はこんな話入れる予定じゃなかったんですが、大学生のモブ&オリキャラと新一の絡みを書くのが楽しくて気が付いたらこんな…ιι

…つまり、その……すみませんでしたιι(笑)


(2013.1.27)
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