王様ゲームにおける「命令」は

しばしば「罰ゲーム」と呼称される。




O・U・SA・MA ゲーム

Game.2





暗かったはずの視界がパッと明るくなったことで眉を顰めた新一は、掛けていた毛布を頭まで被ると再び安眠に入ろうとした。

が、次いで聞こえてきた自分を呼ぶ優しい声に少し覚醒する。


「工藤…工藤、起きぃや?ガッコ遅れんで?」

「ん…?朝?」

「せやで。ホレ、顔洗ってメシ食えや?」


朝、ガッコ、メシ、という平次の言葉が起き抜けの新一の頭の中で復唱され、起きなければと脳が新一に命令を出す。

が、そんな脳からの命令も睡魔に勝てず、まだ目が開けられない。否、もとから勝つ気はないのかもしれないが。


「…眠ぃ…」


思ったことをそのまま口に出すと、平次がぷっと吹き出して笑う。


「もーちょい寝かしてやりたいんやけど、1限は必修やろ。起きなヤバイで」

「…あ〜…そっか、必修…」


寝ぼけた頭で、明日は必修が1限から入っているので絶対起こせと、飲みに行く前に散々平次に言ったことを思い出す。

ようやく上半身をベッドから起こすと、平次と目が合った。


「おはよーさん!」

「……はよ…」


まだぼーっとする。何せ昨日は眠りに付くのがあまりに遅かったから。

その原因の人物をぼーっと見ていると、平次は苦笑しながら近づいてきた。


「まだ眠そやな?」

「…ん…」


平次の言葉に大きく頷くと、くしゃくしゃと頭を撫でられた。

その手があまりに心地よかったので、新一は思わず目を閉じて再び夢の世界に入ろうとして。


「コラコラコラ、寝んなや?」


慌てたようなその声にふっと笑うと、ゆっくりと目を開けた。


「…すっげ、眠ぃ…」


ふあ〜と欠伸をすると、平次が不思議そうに覗き込んでくる。


「何や、あんま寝てへんみたいやな?」


その言葉にギクッとする。が、何とかそれを表に出すことなく飲み込んだ。


「…や…べつに…」

「また推理小説でも読んでたんか?」


枕元に置いてあった新刊を見てそう推理したのだろう平次の言葉に、新一は合わせるように頷いた。


「え?あ、うん、まぁ」


夜、部屋に帰った後、新刊の推理小説を読もうとベッドに持って入ったのだが。

楽しみにしていた新刊の推理小説はただ開かれていただけに終わった。

小説に視線を向けながらも頭では別のことを考えており、結果、当然の如く1ページも読むに至っていない。


新一は寝不足の原因となった人物にチラリと目線を向ける。


―― ………フツー……だよな……?


特に不機嫌になっているわけでもなく、上機嫌になっているわけでもない。いつも通りの平次だ。

あんなに遠ざけまくっていた飲み会という名の合コンに行くことになってしまったのだから、何かしら反応があると思っていたのに。

親友のためとはいえ、不愉快に思わないはずがないのだから。


それなのに。


逆に普通すぎるこの態度に新一は違和感を覚えずにはいられなかったのだ。


―― …人の気も知らねぇで…


そう思ってしまうのは、寝不足ゆえだろう。





新一はおもむろに立ち上がると、平次の傍まで行き、少しだけ目線の高い平次を見上げた。


「?工藤?」


新一は不思議そうな顔で自分を見る平次の頬をきゅ〜っと引っ張った。


3秒ほどして気が済んだ新一はパッと手を離し、ニッコリ笑って平次に背を向ける。



「っし!メシメシ〜♪」



部屋のドアを開けたところでようやく平次が我に返って素っ頓狂な声を上げた。



「何や何や何や〜?何で俺、抓られてんねん?工藤〜?」

「さぁな〜?」



冗談交じりでクスクス笑いながらそう言う新一を追いかけてくる平次を見るだけで、あんなに悩んでいたのがウソみたいに消えていくのが解る。



こんな他愛無いやりとりも。


平次とするから、とても楽しい。


絶対自白させたる!と面白そうに意気込んでいる平次を横目に、新一は洗面所へと向かった。






つい平次の頬を抓ってしまったのは。






寝不足だからということにしておこうと思った。










 











「服部〜!」


大学の授業が終わり、帰りがけに道を歩いていると、遠くから平次を呼ぶ声がした。

いきなり声をかけられて少し驚きはしたものの、平次は声のした方を振り返った。

平次の隣で歩いていた新一も歩みを止め、つられて振り返ってしまう。

すぐに、目ざとい平次と新一は、少し離れた棟にいる友人が窓から身を乗り出して手を振っているのを見つけた。

平次も軽く手を上げて応えると、友人からは一言、言葉を発した。


「島田教授が探してたぜ〜!」


それだけ言って顔を引っ込めた友人の言葉に、平次は弾けたように声を出した。


「げっ!アカン、忘れとった!」

「何?」

「資料借りとって、今日までに返せ言われてんのやった!スマンけど、先にバイクのトコ行っといてや?」

「ん、わーった」


バイクの鍵を新一に投げ渡すと、平次は来た道を戻って行った。


―― 忙しい奴…


平次の後姿を見ながらクスッと笑うと、のんびりとした足取りで約束の場所に向かった。





もうすぐで駐輪場の入り口に着く曲がり角に差し掛かった新一の肩に、いきなりズシッと体重がかけられた。


「っわっ!?」

「よぉ〜、工藤!」


驚いて上を見上げると、岩崎が新一の肩に腕を回していた。


「岩崎?…どうしたんだよ、こんなトコロで?」


岩崎はバイクを持っているからここにいてもおかしくは無いのだが、バイクで大学に来るときは必ずと言っていいほど、友人か女を後ろに乗せて帰る。

だが、今は周りを見ても岩崎以外人はいなかったから、新一は少し疑問を感じたのだ。

すると岩崎はクッと笑い、新一の肩をぐいっと引き寄せた。


「工藤に会いたくて、待ってたんだよ」


こんな風に岩崎に抱き寄せられて低い声で囁かれると女は殆どオチるんだろうな、などと冷静に考えながらも岩崎の腕を退かせ、新一は真実を解き明かすために口を開いた。


「バーロ。どうせ忘れ物取りに戻った向日を待ってるってトコロだろ」


自分の推理を口にすると、岩崎はヒューと感心したように口笛を鳴らした。


「さすが名探偵。すげぇな」

「初歩的な推理だぜ。それにお前、向日の荷物持ってるし」


新一は岩崎が抱えている荷物の中に向日のものが混じっていることに最初から気がついていた。


「んだよ、解ってんなら最初から聞くなって」


オモシロクね〜、などとぶつぶつ呟いている岩崎に、新一は不敵の笑みを浮かべる。


「念のため、事情聴取」

「いい性格してんぜ」


大きな体で子供みたいに拗ねる岩崎に、新一はクスクスと笑ってしまった。

そんな新一に、岩崎は一瞬目を見開いたが、すぐにつられるように笑い出した。


「それにしても残念だったよな、工藤?」

「は?何が?」


本当に残念そうに溜息を付きながら話題を変えた岩崎に、新一は首をかしげた。

何かそこまで残念がるようなことがあっただろうかと記憶を辿る。


「何って…」


岩崎は新一が解っていないことにキョトンとした顔をしたが、すぐにニヤッと意地の悪い笑みを浮かべる。

何だか嫌な予感がした新一は一歩退いたのだが、岩崎にガシッと肩を組まれてしまい、逃げられなくなった。

そしてクスクスと笑いながら新一の耳元に囁かれた。


「そりゃ、工藤とキスできなくなったから…だろ?」

「ばっ!!バーロ!!ふざけんなって!!」


腕で岩崎を押しのけようと思っても、岩崎の力は思いのほか強くて中々離れない。どころか、岩崎はあまり力を入れていないようにも見える。

力の差が何だか悔しくて新一は更に足掻くのだが、それは岩崎にとって特に意味を成さないものらしい。


「いいじゃん♪俺と工藤の仲だろ♪もちろん、工藤がしてぇっつーんなら今からでも アッツいキスしてやるぜ?」


岩崎は肩を抱いたまますっと新一の頬を撫ぜると、少しだけ顎を持ち上げ、面白そうに顔を近づけてきた。







「どうするよ?しちゃう?」





「っじょっ…!!」







冗談じゃないと怒鳴ろうとしたその時、怒りを纏った低い声が聞こえた。








「ほぉ?面白ろそうなこと言うてるやん?」








声の方を向くと、そこには青筋を浮かべて腕組みをした平次がいた。少し息が切れているのは急いで戻ってきてくれたからだろう。


「服部!」

「げっ…服部…」


対照的な二人の反応に、平次はジロリと岩崎を睨み、二人を引き離した。


「げって何やねんな、岩崎?罰ゲームせんで済んだんは誰のおかげや思てんねん?」

「あ〜?俺としては別に工藤とキスしてもよかったんだけど?」

「俺が嫌だっつーの!」


間髪を入れずにツッコムと、岩崎は楽しそうにいたずらっ子のような笑みを浮かべた。


「ま、工藤って照れ屋だからなぁ?」

「言ってろ!」


相手にしてられないとそっぽを向いた新一に岩崎はしつこく付きまとう。


「ツレねー事言うなって?俺にはお前だけなんだぜ〜?」

「んな事言ってっから彼女と続かねぇんだよ、お前は!」

「何ソレ?もしかしてヤキモチかぁ〜?」

「どういう思考回路してんだよ!」


一発蹴りをくらわせてやろうかと思った瞬間。

鋭い平次の声が飛んできた。


「工藤!」


声だけで平次が怒っているのが解る。


「帰んで!」

「え?あ、あぁ」


どうして怒っているのかと推理をしようとする前に、平次はスタスタとバイクの方へ歩いて行ってしまった。

後を追いかけて行っていいのか少し戸惑っている新一に、岩崎が小声で話しかけてきた。


「な、服部、何か機嫌悪ぃな?何かあったのか?」


岩崎にも平次が怒っていることに気づいているのだから、相当だろう。


「いや、別にさっきまでいつも通りだったんだけど…」


本当に先ほどまで何事もなかったのに、この変わりようはどうしたことか。

もしかしたら島田教授と何かあったのかもしれない。

そんなことを考えていると、岩崎はピンと閃いたように手を打ってニヤニヤした笑みを新一に向けてきた。


「工藤〜?お前何かしたんじゃねぇの〜?」

「え!?何で俺!?」

「だって俺、心当たりねぇもんよ」

「俺だって…」


ない、と言いたいけれど、平次が怒っているのには当然理由があって。

今日、岩崎と平次が会って話すのは今が初めてなので、岩崎の言うとおり原因は岩崎ではないだろう。

となるとやはり原因は自分であるという結論しか出ない。



やはり合コンのことだろうか。

今まで忘れていたものの、新一の所為で嫌いな合コンに行くハメになったことを思い出して怒りが湧き出たのだとしたら…。


―― …ヤベっ…つじつま合っちまった…


「おっ!やっぱり工藤、何かしたんだ?」

「…そ、れは…」


新一が口ごもった瞬間、再び平次の声が飛んできた。


「工藤!」


声と同時にポン、とメットを投げ渡される。少し慌てるが、新一は何とかそれを受け取った。

平次はもうバイクに跨っており、新一が後ろに乗るのを待っている。

岩崎は小さく溜息を吐くとくしゃくしゃと新一の髪をなでた。


「ま、いいや。ケンカして家にいられなくなったら俺ん家来いよ?」

「ん。悪ぃ」

「いいって。じゃぁな」


明るい笑顔を浮かべた岩崎はそのまま向日を迎えに歩いて行ってしまった。

新一は少しだけその後姿を見送ると、覚悟を決めてメットをかぶってバイクの後ろに跨った。










 











運転中、一言もしゃべらなかった平次に、新一はこれはますますヤバイと感じた。

何と言えばいいのか考えている内に家に着いてしまったのだが、部屋へ入っても一言も発しようとしない平次に、新一はぎゅっと拳を握り締めて口を開いた。


「服部…その…ごめん、な…?」


そう言うと、振り返った平次とようやく目が合った。

このまま沈黙をキープするより罵声でも浴びせられた方がマシだと思い、平次の次の言葉を待った。




が。




「?何がやねん?」


どうして新一が謝るのだろうかと不思議がって首を傾げる平次の態度に、新一は少なからず驚く。


「え?あ、いや、だって…俺の所為で合コン行くハメになったから……だから怒ってんだろ?」


恐る恐るそう告げると、素っ頓狂な平次の声が返ってきた。


「は?そんなん気にせんでええて言うたやん?」

「……え…?」

「何や、工藤まだ気にしとったんか?アホやな〜」


怒られると覚悟していたのに、平次はそう言うと笑い始めた。

その態度は本当に合コンのことなど気にしておらず、むしろ今思い出したといった感じだ。


「……え……いや、だって…」

「ん?」

「…じゃぁ、服部、何で怒ってんだよ?」


今の自分の疑問を正直にぶつけると、平次は一瞬ヤバイという表情をして黙ってしまった。


「……」

「だってさっき、絶対ぇ怒ってただろ?」


岩崎にも分かったくらいなのだから、絶対勘違いなどではないはず。


「………」

「何かあんならハッキリ言えよ?俺、ちゃんと聞くし」


どんな事を言われようと、平次の言葉はちゃんと聞くつもりでいる。

平次の言葉を待っているらしい新一を見ながら、平次は苦笑した。


「気ぃ使わせてしもてスマンかったな。誰が悪いとかそんなんちゃうし…ちょお気持ちがついていかへんかったっちゅーか」


独白のような平次の呟きに、新一は眉を顰めながらも頭の中で推理する。



誰が悪いとかでは、ない。


ということは合コンのことで苛立っていたわけではないのだろう。


先ほどの、気にしなくていいという言葉からも嘘は欠片も感じられなかった。


けれど気持ちがついていかないとはどういうことだろうか。


原因になる人はいないが、明らかに平次は怒っていて。けれどそれは平次の気持ちがついていかなかっただけで。












そんな事をいろいろ頭の中で試行錯誤を繰り返した結果。











「…意味解んねぇんだけど…」











そんな結論に至った。










そらそーやろな〜、と言う笑いを含んだのんびりとした平次の声に、新一はますます訳が解らなくなる。


「何ちゅーか…岩崎は嫌いちゃうけど、たまにシバき倒したなることがあんねんな〜」

「シバき倒すってお前…」


何考えてんだよ、と小さくため息をつくと、平次はクスクスと笑いながら新一の頭をポンポンと軽く叩いた。


「大丈夫やて。そんなんせぇへんから」

「あ、あぁ…って、何で岩崎?」

「ん?例えばの話や」

「………」


平次の例え話は全然意味が解らない。

考え込んでしまった新一の頭を再び平次の手が撫でた。


「コーヒー淹れるけど、工藤も飲むやろ?」

「え?あ、ああ。頼む」

「了解♪持って行ったるから、リビングで待っといてや」


すぐにコーヒーを淹れにキッチンへ向かってしまった平次の後ろ姿を見つめながら、新一は新たなる謎に頭を悩ませたのだった。















じっくりゆっくり話が進んでおりますvv
じゃれ合ってる二人を書くのは、とても楽しいですねvvvv
エロはなくとも(笑)、平次と新一が絡んでいれば、もう何でもいいですvvvv

もう少ししたら、話が動く(んだろうか)…と思いますvv


(2009.02.17)
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