原則:王様の命令は絶対である。




O・U・SA・MA ゲーム

Game.1





草木も眠る丑三つ時。

男たちだけでの飲み会を終えた新一は、お酒が入っているのにも関わらず重い気持ちで家に帰ってきた。

何度となく吐いた溜息を再び吐くと、覚悟を決めたように顔を上げる。

家にいるはずの同居人を起こさないようにそっと家に入ると玄関の扉を閉めた。



……のだが。



「お帰り、工藤」


後から聞こえてきた明らかに怒りを帯びている同居人の声色に、新一はギクッと肩を揺らして動きを止めた。

続いてパッと暗かった玄関のライトが点けられ、眩しさに一瞬目を細めた。


「…た、ただいま……服部、まだ起きてたのか…」

「せや、まだ、起きとんで。目ぇ冴えてしもて眠れへんわ。ほんで?俺に何か言うことあるんちゃうんか?」


“まだ”というところを嫌に強調して不機嫌さを隠すことなく言う平次に、新一はこの場から逃げ出したくなった。

けれど事の原因は自分なのだからと小さく息を吐くと平次にゆっくりと向き直った。


「…聞いちまった…んだよな…?」

「…工藤から直接にはまだやけどな。せやから、工藤からちゃんとこのメールの説明を聞かせてもらおか?」


ずいっと差し出された平次の携帯には、二人の悪友の一人、向日からのメールが映されていた。


「なぁんで俺が次の飲みに参加することになってんのか、全っっ然解らへんのんやけど?俺、飲み行く言うた記憶あらへんし?向日に問い詰めても後は工藤に聞けて言うからこうして待っといたんやで。それに何や、原因は工藤みたいやんな?」


そう、向日からきたメールの内容は『次の男女混合飲み、服部も強制参加することになったからな!拒否は受け付けておりませんので悪しからず!工藤の為だと思ってちゃんと付き合えよ?お前が来るって言ったら、女子の人数が増えるから嬉しいんだよな、俺♪日程決まったらまた連絡するからな♪』というモノだった。


メールを読んだ瞬間、冗談じゃないと断りのメールを向日に送ったのだが、それじゃ新一が困るだろうと言われてしまった。

どうしてそこに新一が出てくるのか不思議に思いながらも向日に聞いたのだが『説明は工藤がした方がいいから、工藤に聞け』というのを最後に、それから返事が返って来なくなってしまったので、仕方なく原因なのであろうルームメイトの新一を待っていたのである。


「長い時間待たされたんや。納得いく説明を聞かせてもらおやないけ」


最後の手段として向日の家に行っても良かったのだが、”新一”が関わっているのなら迂闊に行動できない。

理由を聞けると思って待っていたのだが、よほど言いにくいことなのだろう、新一にしては妙に言いよどんでいる。


「く〜ど〜う〜!?」


新一は困ったように少し視線をさ迷わせていたが、やっと思考が落ち着いたのかパンっと顔の前で両手を合わせて平次に謝った。


「悪いっ!!どーしても断れなくなっちまって…」

「俺がそういうん嫌いなん、工藤がいっちゃん知っとる思うとったんやけど?」


そう、平次がそういう飲みに行くことを嫌っていることを新一は良く知っていた。

だからこそ平次は新一が原因で自分が飲みに行くことになるなんて予想外で、向日のメールが嘘ではないかと疑ったほどだ。

新一は人が嫌がることは絶対しないし、平次が嫌だと思うことをさせる人間でもない。

だから、多少なりとも訳があるのだろうと推理した。


「…ご…ごめん…」


シュンとして俯く新一を見やると平次は溜息を吐いてくしゃっと髪をかき上げた。


「コレ、飲みやのうて人数多い合コンみたいなもんやんか?気ぃ進まんわ」


向日のメールの文章を見ながらそう言うと、新一はやっと顔を上げて平次を見た。


「お、俺だってそう思って何度も何度も違うことにしろって言ったんだぜ!?なのにソレじゃなきゃどうしても納得しねぇって言うから……」


新一の弁解にひっかかりを感じた平次は眉を顰める。


「違うこと?…ちょお待て、最初から解るように説明せぇや?何かアイツらに言われたんか?」


平次の言葉に新一は再び視線を床に移し、少し躊躇った後、ポツリと言った。


「……言われたっつーか………罰ゲーム………」

「はぁ?ゲーム?」


意表をついた言葉に平次は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。


「…最初はフツーに飲んでたんだけど…王様ゲームしようってことになって……最後のゲームで王様が2番が7番に……キスしろって命令して……」


解りやすく最初から順序立てて説明していく新一の言葉に、まさか、と平次は目を見張る。


「…2番が岩崎で……俺、7番に当たっちまって……」

「何やねん、ソレ!!工藤、キスされたんか!!??」


間髪いれず響いた平次の怒声に、新一はビックリして思わず平次を見上げた。


ちなみに、岩崎というのは二人の友人だ。もちろん、男。この岩崎という男は身長がやたら高くて、新一でも視線を合わせるのが少し大変な程だ。

顔は整っており、男らしくがっしりとしたスポーツマンでモテるのだが、いかんせん性格が少しだけ軽い。

王様にキスしろと言われた岩崎は何の抵抗もなく『ま、しょうがねぇか。工藤とだったら全然いいし♪ディープでやっちゃっていい?』なんて言ってのけたツワモノだ。


思った以上に声を荒げる平次に押され気味になりながらも、新一はぶんぶんと首を横に振った。


「あ、いや、絶対ぇ嫌だって言い張ってやったけど……」

「当然や!!」


一応ホッと胸を撫で下ろしたらしい平次だが、まだ少し不機嫌さが覗える。

こんな平次に続きを言っていいものか悩んだが、言わないでいられないので言葉を続ける。


「…で、キス以外だったら何でもするって言っちまったら……代わりに、今度女の子交えた飲み会するから服部も絶対連れて来いって言われて……」


しかし、考えてみればみるほど平次にとっては迷惑この上ない話だろうと思う。

勝手に飲みに行って。勝手に盛り上がって王様ゲームなんかして。

そして勝手に次の飲みに強制参加を決められているのだから。

自分が平次なら冗談じゃないと激怒するところだろうと新一はキュッと唇をかみ締めた。


「でもやっぱり俺だけの問題なのにお前まで巻き込むのは駄目だよな!今からでもアイツらに言って来て…」


―― やっぱ、違う罰ゲームにしてもらう!


今頃3次会で盛り上がっているだろう友人達の元へ行って説得をしようと玄関のドアに手を掛けた瞬間、後から平次が呼び止めた。


「待てや、工藤!」

「何だよ?」


どうして止めるのだろうかときょとんして平次を振り返ると、平次は複雑そうに眉を顰めながら腕を組むとしっかりと新一を見据えた。


「……俺がその飲み行かんかったらどないなんねん?」


最悪のパターンを想像して苦い顔になった新一は、この罰ゲームを言い出した王様の向日を恨んだ。


「………岩崎と……キス……しなきゃいけねぇけど……」

「……」


けれど、それは本当に最後の最後の手段であって、罰ゲームで男とキスなんて死んでもしたくはない。

どうにかして向日を言いくるめて別の平次に迷惑が掛からない命令にしてもらうか、そんなゲーム無効だと逆切れするか。

でも、どうしても駄目ならば……バードキスで…一瞬くらいなら…と考えるも、やはりそんなことは出来ないと首を振る。


「だからこうして頼んでんだろ!?俺もどうせその飲み行くし、金も払うから……」

「ええよ」



「………は?」



一瞬、平次が何を言ったのか解らなくて間抜けな声を出してしまった。

そんな新一に苦笑しながら、平次は繰り返す。


「せやから、行ったる言うとんのや」


助かったと胸を撫で下ろすべき平次からの言葉なのに、新一は固まったように平次を凝視した。


「………えっと…………何で…?」

「はぁ!?工藤が頼んだんやろが!」


それはそうだと自分でも思う。


でも…。


「いや、そうなんだけど……そんなアッサリ頷くなんて思わねぇだろ」

「…」


今度は平次が言葉に詰まり、新一から視線を外す。


「だってお前、一回も飲みに参加したことねぇし、そういう話出るだけで嫌そうな顔するだろ?だから相当嫌いなんだろうなって解ってたし…」

「嫌そうな顔て…」

「他の奴らは気付いてねぇかもしれねぇけど、俺の洞察力甘くみんなよ。とにかく、話だけでも嫌な位だから…OKしてもらえるなんて思わねぇよ、普通」


新一が言う通り、平次は飲みとかそういう場が好きではないみたいなのだ。

だからと言って、嫌いというわけではないと新一は密かに思っている。


平次はルックスや性格共に良いので飲みや合コンに誘われることはそう珍しいことではない。

新一も合コンは好きではないが、飲みなら付き合い程度には行く。

しかし、平次は同じ大学になってから一度も飲みに行ったことはないのだ。

同じ家に住んでいる新一が誘っても頷いたことなどない。

いくら暇そうな時を狙って誘っても、バツが悪そうに苦笑して楽しんで来いというだけだ。

それなのに、いつも必ず迎えに来てくれるのだから忙しいからという理由ではないみたいだ。


ちなみに今日は、何時に解散になるか解らなかったので迎えに来ると言い張る平次を何とか断ったのだが。


別に平次が嫌なら行かなくてもいいし、無理やり来てもらったって平次が楽しめない飲みならする必要もないと思う。

が、だからこそ、そこまで徹底して飲みに参加しなかった平次があっさり行くと言うなんて誰が想像できるだろうか。


「事情が事情やからしゃーないやろ。……それとも、工藤は岩崎とキスしたいんか?」

「んなワケねぇだろ!!」


アホか、てめぇ!と怒りを露にしながらキッと平次を睨むと、間髪入れず返ってきた返事に平次はふっと笑った。


「せやろ?工藤が困っとんなら、助けたるわ」


新一はあまりに直球な平次の物言いに、何だか恥ずかしくなって視線を反らす。


「サ、サンキュ…」

「ま、せやけど、俺の知らんところで勝手に決められたんはいい気分ちゃうけどな〜?次はちゃんと俺に言えや?」


その声は怒っておらず、むしろクスクスと笑っているのだが、罪悪感からか新一はピタリと動きを止めた。

そして恐る恐る平次に視線を戻す。


「れ…礼はちゃんとするぜ?」

「ええよ、そんなん。今回はしゃーないと思うしなぁ」


せやけど向日は殴ったろ、と呟く平次に、新一は勢い良く首を横に振った。


「そんなの駄目だ!俺の気がすまねぇだろ!」

「は?せやかて…」

「駄・目・だ!何か礼くらいさせろよ!俺にして欲しいことの一つや二つや三つくらいあるだろ!?今度から料理作れとか家賃全部払えとか講義のノート代わりに全講義とれとか!」


一気にまくし立てる新一に平次は可笑しそうに吹き出した。


「そんなん思うてへんて」

「いいから、言えよ!言うまで部屋帰らせねぇからな!」


どうしても引きそうにない新一に、平次はうーんと考える素振りを見せた後、閃いたように新一を見た。


「ほんなら工藤には1コ言うこと聞いてもうっちゅーことで、どないや?」

「へ?そんなのでいいのかよ?しかも1コだけ?」


新一は拍子抜けしてしまった。

あれだけ徹底的に行かなかった飲みに付き合わされるハメになった平次になら、何を言われても仕方ないと覚悟していたのに。

そう思って、新一はフルフルと首を振った。気を抜いてはいけない。

多分、その1コがとても大きい願い事なのだろう。


「せやせや。ええか?」

「んなの、いいに決まってんじゃねぇか!お前の課題でも部屋の掃除でも何でもやるし、欲しいモンがあるんなら買ってやるよ」


何でもこい、と少しだけ平次に向き直る。

平次はあまり新一に頼みごとをしない。と言っても、ちゃんと言うことは言うし、我がままもある。

が、それはあくまで我がままの範囲内であって、新一に頼るということが極端に少ない。

だから、今回のことは反省しつつも、平次が自分に頼ってくれるのならそれも悪くないと思う。


「で?俺は何すればいいんだよ?」

「……せやな……また後で言うわ」

「何だよ、言えって。気になるじゃねぇか」


平次がそこまで言うのなら、相当、新一にして欲しいのだろう何かがあるのだと思った。

自分も、平次が困っていることがあるのなら助けてやりたい。

けれど等の本人は複雑そうな表情で苦笑するだけで。


「ん〜、言うこと聞けて言うたけど、ホンマはまだちゃんと決めてへんのや。せやから決めたら言うわ」


平次はいつものように笑みを浮かべるが、新一は何となく引っかかりを感じた。

が、すぐにふう、と息を吐いて頷く。


「……解った。…早くしろよ?」

「何でそないに急かすねん?」

「…借りっぱなしっての、嫌なんだよ。スッキリしねぇし…」

「あぁ、了解や」


何だか思うところありそうな新一の言葉にあえて詮索をせずに頷くと、携帯の入っている新一のポケットを指差した。


「とりあえず、向日にメールしときぃや。一応俺もするし」

「え、ああ、うん」


言われたとおりに携帯を取り出して向日へメールを打つ。

その合間にチラリと平次に視線を送ると、目が合って『ん?』と首を傾げられた。


「…えと…マジでいいのか…?」

「疑り深いやっちゃなー?ホンマにええよ」

「そか…」


解ったと小さく呟くとメール作製を再開させた。

が、そうは言ったものの、新一の頭の中ではどうしても納得いかなかった。

まだ平次がいいと言ったことに現実味を持てない。が、それは仕方のないことだと思う。


―― …何で…?


新一はその夜、その謎に思考回路を支配されつつ眠りに付いたのだった。














ハイ、新連載でございますvv
このお話は楽しいお話になれば(いいな)と思っておりますvvvv
中編で・・・いえ、後で泣くことになると思うので言わないことにしておきますιι


(2007.10.27)
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