名前を 呼んで――


君が俺の名前を呼んでくれたら それだけで




自分の名前が とても愛おしくなるんだ――。




NAME。




「なぁ、工藤♪」


そう言うときは絶対。必ず。100パーセント。ろくなことがないのは経験上知っていた。


「嫌だ」


平次が何か言葉を発するよりも先に新一が拒否をする。その行動に平次は少しだけ苦笑を漏らした。


「まだ何も言うてへんやん?」

「い・や・だ!」


読んでいた雑誌から視線を外し、平次を見上げて強調するように強く言い、べっと舌をだしてあっかんべーをする。


「またそないな可愛え顔しよってから。キスしたなるやん♪」


それが逆効果だったらしく、平次は嬉しそうに笑っている。


「ば、ばかっ!」


いつまで経っても慣れない平次の言葉に、新一の頬はすぐに赤く染まってしまう。


「あ、その顔も可愛え♪」


新一の表情全てを可愛いなどと言う平次は、新一の大切な恋人だ。

が、しかし。甘い言葉など言われなれていない新一は、平次の一言一言に翻弄されてしまうので、少し悔しい思いをしている。



口では到底かなわないと悟った新一は再び雑誌に目を向けた。

くすくすと笑いながら新一の正面に平次が回りこんできたかと思うと、先ほどの言葉を懲りることなくまた口にした。


「な、工藤♪」

「だから、嫌だって言ってんだろ!」


断固拒否する新一に、平次は面白そうに質問を投げかけてくる。


「何言うか解っとんの?」


その質問に、新一は一瞬だけ言葉に詰まってしまう。


「解んねーけど…お前がそういう声出すときは絶対ぇろくでもねー事考えてる時だから、嫌だ!」

「ろくでもないて…そないなことあらへんやん?」


不満そうに口を尖らす平次に、新一は小さく溜息を吐いた。



実際、今までに聞いてきたが、全てろくでもないことなのだ。

膝枕してくれだとか、相合傘をしてみようだとか、キスマークつけたいだとか、一緒にお風呂に入ろうだとか、そんなことばかりだ。

別に嫌なわけではないのだが、何しろ新一にとっては慣れない事ばかりなので付いていけないのだ。


とは言っても、話を聞いてしまうと断ることも出来ず、結局膝枕や相合傘やキスマークも付けさせてやったし、お風呂も一緒に入った。



だが、毎回毎回そんなことばかりではいけないと、新一も先手を打ったのだ。


「聞くだけも、アカン?」


そんなふうに悲しそうな声を出すなんて反則だと思う。

結局はその声に勝てなくて、新一は平次の言葉を聞いてしまうのだから。


「…何だよ?」


今日も平次のそんな声に勝てず、ちらりと平次を見上げて聞いてやる。

すると、ぱっと笑顔になった平次は新一の隣に腰掛けて肩を抱いた。


「工藤、俺んこと名前で呼んでや♪」


「絶っ対嫌だ!」


即答した新一に、平次は果てしなく落ち込んだという。










 











―― ちょっと、言い過ぎちまったかな…?


シャワーを浴びた後リビングで寛ぎながら、新一は少しだけ自分の言葉を反省した。

あの後、この世の終わりとばかりに落ち込んだ平次を何とかしようと話しかけたりしたものの、平次の機嫌が浮上することはなく、一緒に食事を済ませると平次はすぐにお風呂に入ってしまい、上がって来るなり自分の部屋に閉じこもってしまったのだ。

断るにしても、もう少し言いようがあったかもしれないと、新一は溜息を吐いた。



一緒に住み始めてから喧嘩などはあったが、平次が新一を避けるなんて一回もなかった。

だからこそ、今隣に平次がいないのがなんだか落ち着かない。

いつもなら本当に心地よく思えるリビングも、平次がいないだけでこんなにも淋しい。



落ち込ませるつもりでは、なかったのに。






平次の名前を、呼ばない理由。


いや、正確には呼べないと言ったほうが正しいだろうか。



実際、付き合い始めてから苗字で呼び合うというのも他人行儀かもしれないと考えたこともあった。



けれど、名前を呼ぼうとすると、どうしても呼べない。



大切な。





大切な名前だからこそ、口に出すことが躊躇われるのだ。








ふ、と息を吐き出すと、立ち上がって平次の部屋へと向かった。

平次の部屋の前に着いて、ちょっと躊躇ってから小さくコンコンとノックをしたが、返事がない。


「?寝てんのか?」


喧嘩をしていたとしても、ノックをしたら返事をするというのが二人の暗黙のルールだったので、寝ているのかとそっと扉を開いて中に入った。

電気は点いておらず、規則正しい寝息が聞こえてきたことに、新一はホッと胸を撫で下ろした。


―― よかった…居た…。


男同士の恋愛がいつまで続くのかは誰にも解らない。

新一はこの気持ちに終わりがないことを確信していたし、平次もそうだと言ってくれてはいたが、どうしても不安は消せないのだ。

だから平次が居るだけで、新一はホッとしてしまう。



ゆっくりと足音を立てないように平次に近づき、暗闇の中でも平次の顔が見えるほどの近くでようやく止まった。

眠っている平次の顔を見ると、触れたくなる。

起こしてはいけないとハッと我に返って伸ばしかけた手を引くと、新一は切なげに眉を顰めた。



絶対に言えない。





でも、今だけ。





服部が眠っている、今だけ。






一回だけ。






呼んでみても、いいだろうか…。









ポツリと。本当に小さな小さな声だった。











「……平、次…」










名前を呼ぶだけで胸がきゅうんっと苦しくなった。


それだけで涙が浮かんでくる。


心臓はばくばくして、顔が熱い。



想いが……溢れ出して来る……。




―― 好きだ…好きだ…好きだっ、好きだ…




こんなにも。





どうしようもなく。





お前のことを。










―― …愛してる…























「何や、工藤?」


瞬間、聞こえてきた嬉しそうな声に、新一は凍りついた。

むくりと上半身を起こした平次に、新一は本気で倒れそうになった。


「なっ!!ま、まさか、起きて…」

「そのまさかや♪」


ニッと笑って肯定する平次に、新一は咄嗟に踵を返して逃げようとした。

が、それより早く平次の腕が新一を捕らえて引き寄せる。


「ばかっ!離せ!!」


軽々と平次の腕の中に納まった新一は、真っ赤になりながら抵抗を試みている。

そんな抵抗を物ともせず、平次はぎゅっと抱きしめる腕に力を込めて、新一の首筋に唇を寄せた。


「何で逃げるん?俺、めっちゃ嬉しかってんで?」


本当に嬉しそうに紡がれるその言葉に逃げる気を無くしてしまった新一は、ふと平次の鼓動が早いことに…抱きしめる腕が微かに震えていることに気がついた。


「は、っとり…?」

「…スマン…こないに嬉しいと思わんかったわ…めっちゃ、感動…」


そう言う平次の声も掠れていて。

思わず振り返って平次の顔を見ると、新一に負けずと劣らないくらい赤くなっていた。


「服部、顔、赤い…」

「…工藤もやろ…」


お互い見詰め合って、プッと噴出すと、どちらともなくそのまま唇を重ねていった。










しばらくベッドで抱き合いながらキスをしていたが、ふと平次が唇を離して愛しそうに新一を見た。


「工藤、照れてまうから…ええよ、服部で」

「服部が照れちまうから、だろ」


そう言い返すと、平次は唇を尖らせて新一の肩を布団に押し付けた。


「なんやとぉ〜」

「わっ!くすぐってぇって!」


平次の下敷きにされた新一は動けずに、平次が与えてくれるキスの雨に笑みを洩らす。

くすくすと平次も笑いながら、じゃれるように新一にキスをする。

平次はちゅっと唇にキスを落として、蕩けるような笑顔を新一に向けた。


「でも、たまには、呼んだってな」

「…あぁ…」


ニッコリと笑顔を返した新一は、平次の頬に手を掛けてお返しとばかりにキスをする。

そうして溶けそうなほどの幸せな時間を二人は過ごしていくのだった。







君が居るから






幸せ……。









君が居るだけで










幸せ ――――。










〜 fin 〜

Web拍手用の小説ですvv
長い年月を経て、Novelへ下ろしてきましたvv(笑)
名前ネタでございますvv
名前ネタは多いからこそ、一度は書いておかないとと思いたち、書いてみましたvv
……実にすみません……ιι

短編はあまり書けないので、書けたら即行Web拍手行きになりますvv
はい、もうお分かりですねvv
『NAME。』も上記理由で拍手掲載してましたvv(笑)

名前で呼び合うのも好きなんですが、やっぱり二人は「工藤」「服部」と呼び合うのが一番ですvv
お互いを呼び合う「工藤」「服部」には底知れぬ愛を感じますvv
ふとした、特別な時なんかに名前呼びをするといいですねvv
名字呼びが好きなだけ、と言えばそれだけなんですがvv(笑)

ここまで読んでくださってありがとうございましたっvv


(2006.11.05/2010.03.19)
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