闇よりも 深く……


光よりも 熱く……





Midnight




現在の時刻――AM.3:20――。

人が誰しも眠りに就く、そんな真夜中。

服部平次も例に漏れず、自分のアパートのベッドで熟睡していた。



………が………。



その平次の安眠も、一人の訪問者によって阻まれることになる。





『ピポピポピポピポピピピピ!!!!』





いきなり響いたその音に、平次は文字どおり、飛び起きた。


「どわぁっ!?」


まだ夢から覚めやらぬ頭で、このけたたましいほど響き渡る音の正体を考える。



『ピポピポピポピポピポピポピピン!!!!』



考えている間もずっと鳴り続ける音に、平次はようやくアパートの呼び鈴の音だということに気付いた。


「な、何やぁ!?」


こんな時間に、誰だろうかと考える。チラリと時計を見ると今はAM.3:22。

このまま布団に戻って寝てしまいたい気持ちはやまやまだが、この呼び鈴が止まらない限りは眠れないだろうと思い、平次は立ち上がった。



―― ホンマ、誰やねんな。安眠妨害もええとこやで。



途切れることの無い呼び鈴の音に急かされるように足早に玄関に行くと、無理やり起こされた苛立ちをぶつけるように思い切りドアを開けた。


「じゃかぁしい!!そないに鳴らさんでも聞こえとるっちゅー、ね…ん……」


しかし平次の怒声も、扉を開けたその先にいる人物を見た瞬間、驚きへと変わる。


そこに立っていたのは、工藤新一。


秘密にしているが……平次の想い人だったり、する。


どういう訳か、新一は息を切らせながら寒いというのにうっすらと汗をかいていた。


不審に思いながらも目の前に新一がいることにドキッと鼓動が高鳴る。


平次がドアを開けると、驚いたように新一が顔を上げた。


「っ!!服部!!」


「は!?おい、工藤!?どないし…」


新一は平次の顔を見ると同時に、ぐっと平次の胸倉を掴んで詰め寄ってきた。


「お前、服部平次だよな!?大阪生まれの大阪育ちで東京の米花大学に通う、俺とライバルの服部平次だよな!?」


いきなり食って掛かったように早口でまくし立てる新一に、平次の頭はクエッションマークでいっぱいになる。


―― また何や変なこと言い出しよって…。



そう心で呟くが、平次は訳が解らない新一の質問にしっかりと頷く。


「せやで。あ、“西の名探偵”ちゅう称号も付けたってや?」


どうして深夜急に訪れてそんな事を聞くのかと質問したい気持ちはあったけれど、それをあえて後回しにする。


ドアを開けた時に、不安でたまらないといった顔をしていた新一を、見てしまったから。


一瞬だけだったけれど、新一のそんな不安そうな顔を見逃す平次ではない。



そして大きく頷いた時に新一があからさまにホッとした事も、気付いた。


「そ、だよな…」


やっと少しだけ落ち着きを取り戻したらしい新一に、ようやく平次が質問を口にする。


「どないしたんや、工藤?何かあったんか?」


覗き込むように新一の顔を見ると、ハッとしたように辺りを見回す。


「あ、悪い、俺…こんな時間にいきなり来ちまって…」


そう言って慌てて踵を返そうとする新一の腕を掴む。


「そんなんええて。どないしたんか言うてみぃや?」


理由も気になるが、この寒い中薄手のパジャマ一枚だけという格好の新一をこのまま帰せるわけがない。


「いや、時間も時間だし、俺、帰る。ホント、悪い」

「せやったら、俺の話し相手になってや?さっき工藤に起こされてしもたし、ちょお眠れそうにないねん」

「あ…」

「ホレ、入れや。今何か飲みモン作ったる」


これくらい強引にでもしないと本当に帰ってしまう性格の持ち主だと知っている平次はそう言うと、新一の返事を待たずにドアを開けたままキッチンへと向かう。

少し戸惑った気配がしたが、すぐにドアを閉めて新一が部屋の中に入ってきたことにふっと口元を緩ませると、平次は新一のために飲み物を作った。










 











「ホレ、熱いから気ぃつけや?」


ソファに座っている新一の前のテーブルにコトッとカップを置く。そして平次はそのまま新一の横に腰掛けた。


「あ、うん。サンキュ」


また何かを考えていたのであろう、新一はコップを目の前に置くまで平次が近づいたことにも気付いていなかった。

その顔はやっぱり少し強張っていて。



―― ホンマ、何があったっちゅーんや?



自分なりに色々推理してみたけれど、どれも正解ではない気がする。


そんな顔をするなと抱き締めてやりたい気持ちを押さえ込み、新一に飲み物を勧めた。


「冷めへんうちに飲めや?身体あったまるで」


新一は小さく頷くとコップを手に取り、中身を見て少しだけ驚いた顔をした。


「…ホットミルク…?」

「ん?あぁ、せやで。ホンマはコーヒー淹れよ思うたけど眠れへんようになるやろ。何や、コーヒーの方が良かったんか?」


それなら淹れ直そうかと腰を浮かせると、新一はぶんぶんと首を横に振った。


「そういう意味じゃねぇよ。…ホットミルク、飲みたい気分だったから…心読まれたのかと思っちまってビックリしただけ」


ふっ、と、ようやく小さな笑顔を見せた新一に、「さよか」と平次も笑った。


それから二人の間には沈黙が流れた。


沈黙と言っても、嫌な空気ではなく、むしろ暖かい雰囲気だ。


こんな風に自然体で。何も話さなくても居心地が良いと思えるのは、新一も同じだと以前笑って言ってくれた。

その事を思い出してふと新一に視線を送る。


と、熱いカップを両手で包み込むように持って冷ましながら飲む新一の姿に、平次はドキッとした。



―― アカン…可愛ぇ。めっちゃ、可愛すぎやで、工藤…



好きだと気付いてから、新一の行動全てが可愛くて、愛おしい。

長い間片想いをしてきて多少は見慣れたはずなのに、ちょっとした仕草が、本当に可愛いと思う。



一秒ごとに新一に魅かれている自分がいる。



毎日が、とても大切だと思えるのは、新一がいるから。





けれど…。





叶わない恋だということも、知っている。








突き刺さるような胸の痛みを誤魔化すように、ホットミルクをコクリと飲み下す。


「………………た…」

「え?」


ポツリと消えそうな程小さな声で何か呟いた新一に、平次は顔を上げた。


「…ゆ、め……見て…」

「ん?夢?どないな夢や?」


新一が話してくれる気になったことを知ると、平次は続きを促してやる。


「…思い出したくもねぇ…」


本当に嫌そうな顔でそう呟くと、ぷい、とそっぽを向き再びホットミルクに口をつける。

そんな仕草が可愛くてクスッと笑うとジロリと新一に睨まれた。


「そない嫌な夢やったん?」


中身の少なくなったコップをテーブルに置くと、平次は少しだけ新一に向き直る。


聞くことで新一の不安が取り除かれるなら、自分は毎日話を聞いてもいいと思う。


新一は平次の言葉に視線を泳がせると、小さく、途切れ途切れに言葉を紡いだ。









「……お前が…服部が、いなくなる、夢見た……」




「え?俺?」






不思議そうな声を出す平次を見てちゃんとそこに居ることを確かめると、新一はゆっくりと瞳を閉じた。


今日の夢が、頭の中に鮮明に残っている。


夢の中でも、いつものように…当たり前のように一緒に居て。

当たり前のように、笑いながら隣で話をしていたのに。





一瞬。





ほんの一瞬視線を外しただけなのに。





再び平次に視線を戻すと平次が居なくなっていた。










―― 服部…?










名前を呼んでも返事がなくて。



ついさっきまで隣にいた平次が忽然と消えてしまったことに、酷く焦った。


周りを見回しても、人の気配すら、なくて。




探して。





探して、探した。






けれど、全然見つからなくて。






友達にも聞いて回ったけれど、服部平次などという人は知らないという。



そんなはずはないと大阪まで行ったけれど。



服部平次を知る人が、いなくて。



両親である平蔵と静華でさえも、そんな子供はいないと、言って。




記憶という記憶を辿って、ほんの少しでも手がかりになるものを片っ端からあたったのに。









やっぱり、平次は居なくて…。









まるで最初から…服部平次という人間自体この世に存在していなかったようで。


「…す…げぇ……怖、く、て……」




血が凍って…世界が、止まった…。




あんな恐怖を、どう表現すればいいのか、解らない。





表現できないほどの…恐怖…。








目が覚めて。


夢だと解っても恐怖は消えなくて。



直接、確かめなければと、なりふり構わず家を飛び出してきた。





電話とかメールとか。



そんな簡単な連絡方法も思い出せなかった。






平次のマンションの呼び鈴を鳴らし続けていても、緊張していた。








もしも本当に平次がいなかったら…自分は、どうなってしまうのだろうか。












思い出すとまた緊張で指先が冷たくなってきた。
















自分が凍りつく、あの感覚。






















けれど。






















途端に、ぎゅうっと暖かい平次の腕に抱きしめられる。


まるで新一の中の冷たいものを根こそぎ包み込んで溶かしてしまうような、そんな暖かさで。



そんな平次の温もりに、心底ホッと胸を撫で下ろして、新一はゆっくりと背中に手を回す。


「アホやな、工藤。俺はどこにも行かへんで。安心せぇや?」


少し笑っているのだろう、嬉しそうな声色で優しく囁く平次に、新一は素直に頷いた。


「…ここに居てくんなきゃ…俺が困る…」


ワザとぶっきらぼうに言うその台詞に平次は更に嬉しくなって口元を緩ませる。



腕の中に納まっているこの愛しい人に教えてやりたい。



その言葉が、どんなに嬉しいか。



新一の事を、どんなに愛しく想っているのか。



新一の傍に居たいのは、自分の方。





「…んな笑ってんじゃねぇよ…」


少し怒ったような声でそう言う新一は、平次の背中に回していた腕を離すと、平次と少しだけ距離を取った。


「あのな、それで、俺言いたいことがあるんだけど…」

「何や?」


嬉しすぎて口元の緩みを止められないまま、新一に視線を向ける。











と。


































































「…俺、お前の事が好き、だ…」


































































「………………………………………………………………………………え………………?」













































いきなりすぎて、平次の頭は真っ白になった。



―― …今…何や……え…?…好き…?…何…誰が……え…?



混乱する平次を他所に、新一は俯くと淋しそうな声で呟く。


「俺、お前がずっと傍にいるって思ってたけど…そんな事、あるわけねぇんだよな…」


いつかは、絶対。




平次は、新一の傍からいなくなってしまうだろう。




夢の中で、平次が消えてしまって、気付いた。




それが、当然の事なのだ。






そして、どうして自分は伝えなかったのかと、心底後悔した。






伝えたからと言って、何かが変わるわけじゃないのは重々承知しているけれど。










それでも。














抱えきれないほどの想いを残したままでいいわけが、ない。














だから、後悔しないように、言おうと、思った。














平次のマンションに走ってきている最中、もしも平次がまだそこに居てくれたなら。












自分の素直な気持ちを、心からの想いを。伝えようと、決めた。











「……んなマヌケ面するなよな。いきなり悪かったって」






苦笑する新一を、平次はまだ信じられない気持ちで見ていた。





今自分は新一に好きと言われたのだろうか?






否、好きでたまらないのは、自分の方だろう。






好きで、好きで。










毎日毎日新一のことばかりを考えて。











新一のことを考えない日は絶対になくて。











夜、新一の夢を見て目が覚めて。




火照った身体を収める為に、悪いと思いながらも、新一とするところを想像しながら一人で慰めてしまうくらい、新一ばかりを想っていて。














こんな…夢のようなことが現実に起こりえるのだろうか…?


















呆然としている平次をどう解釈したのだろうか、新一は小さく溜息を吐くと顔を上げた。


「嫌な思いさせちまったのは謝る…。でも、覚えておけよ!俺がお前を好きだってこと!」


その言葉を聞いて、平次はようやくこれが夢ではないことを実感した。


良く見てみれば、そう念を押す新一の顔が真っ赤で。



思わず、手を伸ばして、抱き締めていた。



「っっ!?」



慌てて平次の腕から逃れようとする新一をキツクキツク抱き締めると、平次は新一の耳に口を寄せる。




「…好きや…」


「…え…?」




抵抗が止んだ新一を更に強く抱き締めると、再び口を開く。




「…俺の方が、絶対工藤のこと好きや……俺の方が工藤に惚れとる…」




「…な、に……?嘘、だろ…お前…」




今度は新一が混乱する番だった。



平次は目を見開いている新一の考えがまとまる前に、その唇を奪った。



「っぅ…!?」

「…っ…」



自分でも性急だと思わずにはいられないけれど、新一の唇に触れることが出来た喜びで止めてやることなんて出来なかった。



ただ嬉しくて。愛しくて。



貪るように、新一の口内を侵していく。



「っ……んっ………っっ」



新一が呼吸をするのも許せなくて、息もつかせぬキスを繰り返す。



愛しくて愛しくて、堪らない。



キスを止めることなく、崩れるようにソファに新一を押し倒すと、更に深く深く唇を重ねた。



舌を絡め取って。唾液を送って、飲み込んで。歯列をなぞって奥まで味わう。





キスだけでこんなに夢中になるなんて。





好きすぎて、どうにかなってしまいそうだ。













ふと、目を開けると、苦しそうな新一の顔が視界に飛び込んできた。


そしてそこでようやく、平次は我に返った。



ヤバイと思って唇を離すと、新一は荒い呼吸をしながら空気を取り込む。


「っっはっ!は、ぁ…はっ、はっ…」


平次も息を乱しながらも、新一の髪を梳いてやり、チュっと額にキスを落とした。


「…スマン…止められへんかった…いけるか、工藤?」


まだ喋れないのだろう、肩で息をしながら真っ赤に潤んだ瞳で睨み上げてくる新一に苦笑する。



―― 可愛ぇ…vv



「おっ…まぇ……っ…の、ヤロ…っ」


「スマンて。せやけど好きな奴に好き言われたら止められへんやろ、普通」


「っ…す、きっ…って、…ほ、と…かよっ…」


「ん?」


まだ呼吸が整わないらしい新一の言葉に、平次は首を傾げる。


「っ……好き、って…俺、を…好きって……ホント、か、よっ…」


少し不安だったのだろう、そう聞いてくる新一に平次はこれ以上ないと言う程瞳を和らげた。





「好きやで、工藤…ごっつ、好きや…」


「っ…」





何度でも、伝えてやる。





自分の想いが、中途半端なものではないことを、解って欲しい。





「…なら…許して、やるっ…」



そんな強気な台詞を言いながら、新一の瞳からは涙がポロリと零れた。


「泣くことないやろ?そないに嬉しいんか?」


「…っバーロっ…信じられねぇ、だけだっつーの…」




絶対、聞くことは叶わないと、諦めていた言葉。


けれど、諦められない想いがあって。




「俺も…まさか叶うなんて思わへんかった……めっちゃ、嬉しい…」


ぎゅうっと平次は新一を抱き締めた。



新一は、知らない。




好きなのは、きっと自分の方。





そして、泣きそうなのも…自分の方…。





嬉しくて泣けるなんて、思わなかった。





「…な、今日泊まっていけや?一緒に寝よ。そしたら怖い夢も見ぃへんやろ」


「…泊まって…って…」





サッと新一の頬に朱が走ったのを見ると、平次はクスクスと笑った。



「ん〜?俺がヤラシー事する思うてんのか?」



ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる平次を、赤い顔をしたままジロリと睨みつける。


「んな事思うわけねぇだろ!」



―― 今日の今日両想いだと解ったってのに、コイツっ///



からかわれたとプイっとそっぽを向いた新一に、平次は更に可笑しそうに笑った。










「そら、するけどな?」



「…………なっ…!?」










新一は思わず、怒っているのも忘れて勢い良く平次に視線を戻してしまった。




「大丈夫やて♪今日はキスだけで許したるから♪」




―― キスはすんのかよっ!!///




新一のツッコミは心の中で留まり、言葉になることはなかった。

ぎゅっと新一を腕の中に抱き締めると、平次は髪にキスを落とす。


「工藤の嫌がることはしたないし……時間はたっぷりあるんやから」

「え?」



「俺ら、ずっと一緒におるんやから♪な、工藤?」



嬉しそうに破顔した平次に、一瞬目を見開くが、すぐに新一も嬉しそうに笑って頷いた。



「…あぁ…」



きっともう、悪夢を見ることはないのだろう。





二人が一緒に、いるのだから――。





永遠に―――。












〜 fin 〜
短編…久しぶりの、短編です…vv
頑張りました、短編 偉いぞ、短編(何/笑)
夜寝る前に突発的に思いついたネタですvv
一心不乱に平次の元へ走る新一を書きたかったのですvv(書けてませんがιι)
そして今回の告白は新一にさせてみましたvv
やっぱり平新書くのって、楽しいですね〜♪♪

ここまで読んでくださってありがとうございましたっvv


(2007.4.12)
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