絆

番外編 〜平次の受難〜



この家の一人息子、服部平次は足組みをして椅子に座りながら頬付けを付き、不機嫌なオーラをバンバンに出していた。


眉間に刻まれた皺は先ほどから取れる様子もない。


もうかれこれ2時間以上そうしている平次は面白くなさそうにチラリとリビングにいる二人に視線を送った。


リビングからは楽しそうな談笑が聞こえてくる。


その人物は愛しい平次の恋人、工藤新一と。



…何故か、実父、服部平蔵であった。



事の起こりは、平次がお風呂に入っている間に新一が平次のアルバムを見つけたところから始まった。

静華に許可を貰ってリビングで小さい頃の平次の写真を見て楽しんでいると、丁度そこへ平蔵が帰宅してきたのだ。

最初はポツリポツリとしか会話が続かなかったのだが、話していく内に、平蔵が小さい頃の平次の話や今までの事件の話などを語ってくれた。

その話に興味深々な新一はもっと色々聞きたいと平蔵に頼んだらしい。

それに加えて、新一が自分で体験した事件の話や最近の平次の話などをするので、話が尽きることが無い。


お風呂から上がってきた平次は短時間でこんなに意気投合した二人に驚いた。






のだが…。






驚いたのは本当に最初だけで。







後はどんなに会話に加わろうとしても加われず、傍にいようにも楽しそうに会話している二人の近くにも居辛くなり、結局平次は隣のダイニングで会話が終わるのを今か今かと待っているしかなくなったのである。




―― ちゅーか、くっつきすぎやで!!もっと離れんかい!!



新一と平蔵は3〜4人掛けのソファに仲良さそげに二人で座り、テーブルの上のアルバムを一緒に見たり、解決済みの事件の資料などを見たりしながら話しをしている。

話の途中でふいに新一と平蔵の肩と肩が触れた時には割り込んで引き剥がしてやろうかと思った。

その時の衝動はぐっと拳を握り締めたことで耐えはしたのだが。



―― 今!!服と服が掠ったんとちゃうんか!?



再び立ち上がろうとした自分を寸前で抑えて、落ち着け、と言い聞かせる。

今日は何十回、自分自身に落ち着けと唱えただろう。

しかし、些細なことでハラハラしたりムカムカしたりイライラしている平次を他所に二人の会話は少しも切れることがない。


二人を引き離す方法を頭の中で何度も何度もシミュレーションもした。

けれどいざ実行しようと思っても、新一の笑顔を見るとそれもできないでいる。

笑っている新一を見るのは本当に好きだし、幸せだと思う。

けれど、それは自分に対して笑っているとき限定だと、今気付いた。

他の奴との会話で笑っている新一を見て嬉しくないわけではないのだが、あまり会話が長すぎると逆にとても不愉快になるのだと学習した。


つまり、ただ自分が新一の傍に居られないのが非常に嫌なだけなのだが。



―― ちょ!!何見つめ合うてんねん!!



唯目があっただけの二人の行動でも、平次の視点ではこうなるらしい。

最近では平蔵も二人のスキンシップにようやく慣れ始めた。

なので、ちょっとした会話なら今までも何度となくあった。

だが、今回はスケールが違う。二人はかなり話が合うようでとても盛り上がっている。

いつもは仏頂面な父親がよく話しているばかりか、平次でさえ見ることの少ない笑顔も絶え間なく浮かべているのだ。



―― 工藤には俺が居るんやで!!たぶらかすなや!!





……もはや、末期である。





もう我慢ならないと、ガタンッと派手な音を立てて平次は立ち上がった。


リビングを素通りして部屋に帰ろうとした平次に気付いた新一が声をかける。


「服部?部屋帰るのか?」


愛しい新一の呼びかけに答えないワケにはいかない平次は少しだけ足を止め、ちらりと視線だけで二人を見やる。


「話が盛り上がっとるみたいやからな。俺、居らんでも工藤は楽しそうやし?」

「え?ちょ、服部…」

「工藤の気ぃ済むまで二人で話せばええんちゃう?」


不愉快さを隠すことなくそれだけ言い捨てると、平次は足早にリビングを後にした。

ポカンと呆気にとられたように平次が去っていった扉を見ていると、隣から盛大な溜息が聞こえた。


「あないな息子でスマンな、工藤くん」


くしゃっと髪を掻き揚げると再び大きな溜息を付いた平蔵に、新一は苦笑した。


「いえ。慣れてますから」

「慣れとる、か。ホンマにあいつは…」

「俺もちょっと悪かったと思いますし。一応謝ってきます」


くすくすと笑いながら言う新一を見ながら平蔵はポツリと呟いた。


「工藤くんが息子やったらえかったわ」


溜息と共に呟かれた言葉に新一は苦笑して立ち上がった。


「でも、俺はあいつがここに生まれてよかったと思ってますよ」


平蔵が意外な言葉を聞いたとばかりに顔を上げて新一を見ると、新一は平蔵に視線を移した。


「あなた方がいたから、真っ直ぐでちょっと熱くて喧嘩っ早いけど…優しいあいつになってくれたんです。あなた方がいなければ、俺はあいつに出逢うことも出来なかったんですから」




平次を誰よりも愛し、育んできてくれた。





奇跡に近い出逢いを、もたらせてくれた。






そして。






……認めて、くれた。










どんなに嬉しかったか、言葉では表現などできない。


























「お二人には感謝してもしきれませんよ、お義父さん」






















ふわりと綺麗な笑顔を浮かべて小さく頭を下げた新一は平次の後を追って足早に部屋を出た。


















平蔵は新一が居なくなると煙草に火をつけて大きく吸い込み、ゆっくりと吐き出した。



―― お義父さん、か…。



お父さんと呼ばれることは平次以外にはないと、新一と一生一緒に居たいと平次から告げられたときから、それは思っていた。


けれどそれは違うのだと、解った。


例え男だったとしても…平次が心から愛した生涯の伴侶の新一は、もう自分の息子なのだ。



家族が増えることに、変わりは無い。



実際、新一から『お義父さん』言われると、予想以上に舞い上がっている自分が居る。

こんなに嬉しいとは思ってもみなかった。

知らぬ間に自分が笑顔になっていたことに気付くと、苦笑して煙草をもみ消した。



―― 工藤くんなら、嫁にもろてもええなぁ…



新一がこの家に来ると、それだけで自分達に笑顔が増えているのが手に取るように解る。

一緒に居るだけで本当に幸せなのだろうと、二人を見ているとそう素直に思えるようにもなった。

二人が出逢えたことに心から喜びを感じているのだろうことも解る。


だから…だから、認めて欲しいと、思ったのだろう。


二人の出逢いは、命あるからこそ、できたものだから。


生まれてきたことを、本当に感謝しているのだろう。


新一がいるからこそ、そんな当たり前のことに気づく事のできる人間になったのだろうと嬉しく思う。



普段、平次はそんなことを微塵も感じさせもしないが。



―― 素直ちゃうな…ホンマに嫌んなる程そっくりや…



それは、平蔵だって、同じこと。


平次が生まれた日のことを、よく覚えている。


静華と二人で生まれたばかりの平次の顔を覗き込みながら、想った。










『 生まれてきてくれて  ありがとう 』










平蔵は瞳を閉じると背もたれに体重を預けてふっと微笑んだ。















 
















「おい、何拗ねてんだよ?そんなに怒るなって」


部屋に帰った新一は、話しかけてもこっちを向こうとしない平次に苦笑した。


「拗ねてへんわ。俺は別に怒ってへんし」


口ではそう言っているが、明らかに原因はそれしか思い当たらないし、不機嫌さを隠せてもいない。


「ごめんって。機嫌、直せよ?」


椅子に座って頬杖をついている平次を覗き込むようにして視線を合わせる。

しかし、すぐに平次の視線はぷいと反対方向へ向けられる。


「怒ってへん言うとるやろ」


その態度のどこが怒っていないと言うのだろうか。

100人に聞いてみても全員一致で『怒っている』と言われるだろう態度をとっている平次に自覚症状はあまりないみたいだ。



―― 可愛いって言ったらコイツは余計怒るんだろうな。



クスクスと笑いながらあやすように平次の頭を撫でてやるも、まだ機嫌が直らないらしい。


「ったく…」


新一は苦笑を洩らすと椅子に座っている平次の後から首に腕を絡めるように抱きつく。



そして身体を屈めると、取っておきの言葉をそっと平次の耳元で囁いた。




















「ごめんな…?……… 平次 ……」















瞬間、平次が勢い良くガバっと立ち上がった。



「え?うわっ!」



思わず首に回していた手を放してしまった。

どうして突然逃げるように立ち上がったのかと新一は平次を見る。






「服部、どうし……」






新一の言葉はそこで終わってしまった。













何故なら、平次は新一が囁いた方の耳を押さえ、新一を見ながら真っ赤になって絶句しているのだから。

平次のその反応に、逆に新一が驚いてしまった。


「…そ、んなに、驚くことねぇだろ…?」

「っ!お、驚くっちゅーねんっ!!」


我に返ったらしい平次が真っ赤な顔で叫ぶように言う。


平次はドクドクと忙しなく鼓動を刻む心臓を押さえた。

本当に、心臓が飛び出るかと思うくらい、驚いた。



あんな声で…名前を呼ぶのだから。






それも、耳元で。






愛しい人からそんなことをされては堪ったものではない。







「不意打ちは卑怯やで」


怒りなどどこかに飛んで行ってしまった平次はがっくりと肩を落とし、溜息を吐く。



―― 工藤には敵わへんわ…ホンマ…



いつだって自分は新一に振り回されることになる。

けれど。

振り回されようが新一の傍にいられるだけで幸せを感じられることも、知っている。



「ごめんごめん」


あまり謝っているように聞こえない謝罪でも、もう怒る気にはなれない。すぐに許してしまう。

楽しそうに笑いながら平次の頭を撫でている新一の手首を掴むと、平次はゆっくりと顔を上げて新一の視線を絡め取る。





























「アカン。その気になってしもた」








































「………………………え…?」

























聞こえてきた言葉が聞き違いではないかと新一がゆっくりと平次の方を向くと、意地悪そうな笑みを浮かべた平次と目が合う。


「覚悟せぇや、工藤?火ぃつけたんはお前やからな?」


むしろ聞き違いであって欲しいと思ってしまうような平次の笑みに、新一は身を引いた。


「うっ、嘘だろっ!?何であんなのでその気になんだよっ!!」

「アホ!あんなん誘っとるとしか思えへんわ!!」


あれよあれよという間に新一はベッドに押し倒されてしまった。


「ははは服部!」


新一が一生懸命平次を説得しようとするのだが、平次はもう止まらないようでいそいそと新一の服を脱がしにかかっている。


「俺を放っといたんと驚かせた罰や!」

「なっ!!放っておいたのは謝っただろ!?それに驚くなんて思ってなかったし…」

「言い訳は聞かへん。…しっかり啼いてもらうで、工藤?」


平次はぺロリ、と舌なめずりをするように唇の端を舐め、妖しい笑みを湛えながら新一を真っ直ぐに見据えると、そのまま新一に覆いかぶさって行った。


「ちょっ…んぅっ…!!」


そして言葉通り、新一は平次にこれでもかと言うほどしっかり啼かされたのだった。














〜 fin 〜
KiMさんより、拍手のコメントでネタを提供していただきました〜vv
KiMさん、本当にありがとうございます〜vv

いや〜、この、『絆』おまけのおまけも、書いててとても楽しかったです〜vv
可愛くて賢い息子の嫁(新一)『お義父さん』なんて呼ばれたら、流石の平蔵だって喜んじゃいますよねvv
でもでも、『お義父さん』なんて呼んでると、今度はまた平次が拗ねたり嫉妬したりするかも??vv(笑)
しかし、嫉妬する平次は可愛いですねvv
二人でイチャイチャラブラブイチャコラするのって、ホント素敵ですよねっvv
平新って王道だし萌えるし、これ以上ないほど素晴らしいですよねっvv

ちなみに、最後の最後の場面を書いてる時に、「あ、このタイトル、新一の受難に直した方がいいかも?」と思ってしまいましたvv(笑)
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