何ができるだろう…?



大切な……



大切な 君の為に ―――





絆

―後編



平次はアクセルを全開にして、バイクを飛ばしていた。


つい先ほど、平蔵と口論している丁度その時に静華から電話があった。買い物をしていたデパートが火災を起こしたというのだ。

電話をしてきたところからみて、静華は安全なところへ避難しているようだった。しかし、一緒にいるはずの新一が近くに居る気配がない。

嫌な予感が外れてくれればいいと願いながら静華に詰め寄る。


『工藤は何処におんねん!?』

『工藤くんは他の人助ける言うてまだ中に…』


そこまで聞くと、電話の途中であったが通話を切り、口論していたことも平蔵がいることも忘れて、すぐさまバイクにまたがった。

新一の性格上そうすることは目に見えていたとはいえ、無茶をする新一を責めてしまうのは否めなかった。


そのビルがある方向を見ると、煙がもくもくと立ち昇っている。

無事で居てくれと必死に祈りながら新一の元へ急ぐ。





平次が到着すると、すでに人だかりができていた。そこからバイクで行く訳にもいかずにバイクを置いて人ごみを掻き分けた。

入り口から少し離れた安全な場所に、避難したらしい人だかりができている。

その中に静華の姿を見つけ、駆け寄る。


「オカン、工藤は!?」

「平次!それが…」

「まだ中に居んのか!?」


静華から電話を受けてから少なくとも20分は経っている。


「さっき、そこに居る小学生の子が出てきたっきり…誰も出てきてへんのよ」


静華が指差した男の子の姿を認めるなり、平次はその男の子の元へ駆け寄った。


「ボウズ!お前、逃げるときこの位の背ぇした黒髪の兄ちゃん見ぃへんかったか?」


いきなりの事に驚きつつも、男の子は首を縦に振った。


「う、うん」

「見たんやな!?何処で見たんや!?」

「え、えとっ…タンスとかベッドとかあってん…」


タンスやベッドなどがあるのはインテリア・家具コーナーがある5階、階段の近くだったと頭の中で見取り図を描く。


「それやったら…5階…最上階やな…」


まだ火は3階と4階の間辺りを燃やしていた。今から入ればギリギリではあるが間に合うだろうと思った。

新一も、皆避難したと解ればすぐに自分も避難するに違いない。

エレベーターやエスカレーターは、頭の良い新一なら100%使わない。こういう時は階段が一番安全だと知っているのだから。

この建物の階段は大きいが1つしかないので、すれ違わずにすむと胸を撫でおろして建物に向ったその時、男の子が続きを口にした。


「せやけど、兄ちゃんの足にタンスが倒れてきたんや…大丈夫やて言うから俺…」

「っ!!」


その言葉を聞いた瞬間、平次は火災がおきている建物へ駆け出していた。


と、走り出した平次の肩を力強い手が止めた。

振りかえると、さっきまで会っていた人物、平蔵がいた。


「オヤジ!?何でここに居んねん?」

「店の人が通報してくれたんや。男が火ぃつけとるところを目撃した言うてな。放火やったらわしらの仕事や」


どうやらただの火災ではなく、放火した犯人がいるらしい。

が、今の平次はそれどころではない。


「どうでもええわ!!工藤が中におんねん、放さんかい!」


平蔵の手を振り解くように肩を振るが、一層強い力で掴まれて怒鳴られた。


「阿呆!すぐに消防が来る!それまで大人しぃ待っとれ!」

「そんなん待ってられへん!!それじゃ遅すぎんねん!!」


新一のことを考えたら、今こうして会話している暇さえも惜しいのだ。しかし、平蔵はそれでも離そうとしない。


「素人が行っても火事に巻き込まれるだけや!」

「俺が行かんで誰が行く言うねんっ!!」


声を荒げる平次に、静華が心配そうに平次の腕に手をかけて言葉を口にしようとした。


「せやけど平次…」


その言葉を遮るように平蔵が有無を言わさぬ声で言い放つ。


「お前が行っても何にもならん。下がっとれ」


それでも一向に引き下がろうとしない平次に、平蔵は舌打ちして口を開いた。


「消防に任せとけ言うとるやろ!…お前が大人しぃ待っとられるんやったら、お前と工藤君のこと、認めたってもええ!」

「っ!?」

「あなた…」


何を言い出すのかと、平次と静華は驚きを隠しきれずに平蔵を見る。


「工藤君なら大丈夫や!しっかりしとる子やし…」


平次の抵抗が止んだことに後一押しだと思った平蔵は安心させるように言う。







瞬間、平次の怒鳴り声が響いた。








「じゃかぁしいっ!!」







今度は平蔵が驚く番だった。

静華も目を見開いて平次を見た。


「アホな事言うてんなや!!工藤が危ない目におうてる言うのに黙って見てられるかい!!」


叩き落すように平蔵の手を振り払うと、ギッと睨みつける。

平次の身を案じてくれていた平蔵と静華の気持ちも痛いほど解る。

それでも平蔵は、決して許されない言葉を言ってしまったのだ。

新一を助けに行かないのなら二人の仲を認めるが、新一を助けに行けば一生二人のことは認めないと言うのだ…。

そんな二択など、平次にとっては選択ですらない。




答えはもう―――決まりきっている。





「もう認めてもらお思わへん!工藤を助ける!!」



新一を助けられないのなら、認めてなんか欲しくなんかは ない。


認めて欲しいから新一を連れてきたのではない。




新一だからこそ、認めて欲しいのだ。



新一が自分の全てで。



かけがえのない、存在なのだから。





「俺らを認めんでもええ!せやけどこの想いを否定することだけは させん!!」


約束したのだ。

どんな時でも……傍にいると……。

二人で、乗り越えていこうと。


今の平次には新一以外に大切にしなければならないことなどある訳がなかった。

これからもずっと、そうなのだろう。



それだけは変わらない、真実。




「それでも止める言うんなら……俺はオヤジ達を一生許さへん」


もう一度平蔵を睨みつけると、ヘルメットを片手に燃え盛る建物の中へ。新一の傍へと、平次は走った。










 











煙が充満してきた中、新一は幾度となく足を引き抜こうと努力していた。

少しだけ呼吸が苦しくなってきた。

一酸化炭素中毒や酸欠などで逃げ遅れる人が多いのが、火災の怖さでもある。

煙を吸わないようにハンカチを口に当てて、なるべく状態を屈めてなおも足を引っ張る。

こんなことなら、阿笠博士が作ったメカを持ってきておくんだったと後悔した。

だが、後悔だけでは何もならないと知っているので、諦めずに足に力を入れる。



その瞬間、煙の中から声が聞こえた。



「工藤!どこや!!」

「っ!?」


それは紛れもなく、平次の声だった。新一は驚いて辺りを見まわした。




「工藤、居るんやろ!!返事せぇ!!」


再び聞こえた平次の声が幻でないことを確信して、新一も声を出す。


「服部…?」


それは平次のように大きな声ではなかったが、平次はその一言だけで新一の場所を正確に見つけ出して近づいてきた。

ようやく平次の顔が見えるほど近づいたと思うと、平次はおもむろに新一の足を捕らえている家具に手をかけた。


「工藤、いけるか!?」

「は…っとり、何でっ…」


平次は今、平蔵のところへ行っているはずで。どうしてこんな所にいるのだろうか。


「今はそないな事気にしとる場合とちゃうやろ!?」


呆然としている新一を他所に、平次は手際良く新一の上に圧し掛かっていた家具を退かせていく。

ふいに新一の足が自由に動くようになったかと思うと、ぎゅっと抱きしめられた。


「っとり…?」


その体温に、ようやく新一は我に返った。


「……無事で、よかった…」


抱きしめられていることで、平次の体の震えが伝わってくる。

こんなときなのに、平次の温もりに心から安心していた。


「…ごめんな」


新一も平次の体に手を回して、その存在の大切さを実感する。

少しの間抱きしめ合っていたが、それも本当に少しだけで、すぐに二人は放れた。

新一は頭を守るためだと渡されたヘルメットを素直に受けとって被ると、平次が立ち上がった。


「ほな、逃げるで!!」


新一も、差し出された平次の手を取って立ち上がる。

その力強い腕に、新一は微笑んで平次の後に続いた。










 











あの後、崩れ落ちるガレキや燃え盛る炎と煙に翻弄されながらも、どうにか平次と新一は外へ出た。

2階で消防隊の人たちの手助けを受けて、今は救急車の中で手当てを行ってもらっている。

擦り傷と軽い火傷程度だった平次に比べ、新一は火傷と足を引き抜こうとした際に足首にできた酷く擦れた傷があったため、手当てが長引いていた。

新一が手当てを受けている救急車の近くに腰を下ろした平次は、やっと安堵のため息を吐いた。

今考えれば炎の中に飛び込むなど、自分でもかなり無茶をしたと思いながらも、新一を助けられたことに喜びさえ感じていた。



ふと、近づいてくる人の気配を感じて顔を上げると、そこには静華が立っていた。

目が合った瞬間、怒鳴られた。


「ホンマに無茶して!どないに心配した思うてるの!!」


怒られるとは覚悟していたので、平次は苦笑して頭を掻いた。


「堪忍なー。まぁ無事やったんやし、結果オーライやろ」


平次の平次らしい反応を見て、静華の怒りが少しだけ緩んだ。


「ホンマにもう…」


大きなため息を一つ吐くと、静華は少しだけバツが悪そうに言った。


「堪忍な、工藤くんのこと止めてやれへんで…」


静華から思いもしなかった言葉が出たことで平次は少なからず驚いたが、すぐにいつもの表情に戻った。


「ん?あぁ、ええで、そんなん。」


平次の軽いリアクションに、静華はあっけに取られたように平次を見る。

平次の大切な人を危険な場所に行かせてしまったということで静華は多少なりとも罪悪感を感じていたのだが、平次は事もなさげにそう言ってのけた。


「え?工藤君、大切な人なんやろ?」


不思議そうに平次を覗き込むと、平次も困ったように苦笑した。


「そやで。せやけど、俺がその場におったとしても工藤を止めるんは無理やったろうしなぁ」


工藤って結構頑固やし、という平次の呟きを無視して、静華は困惑気味に言った。


「えっ!?何やの、それは?そんなんあかんやん!?」

「ええねん」


くすっと笑って平次がそう言う。


「何がええ言うの!?大切な人が危険なところに行くいうのに止められへんで…」


静華にとっては到底理解のできないことだった。大切な人を危険な場所に行かせてそれでいいだなんて、どうして言えるのだろうか。

それとも平次にとって新一はその程度のものだったのだろうかと平次に詰め寄るが、平次は口元に笑みを称えたままゆっくりと言った。





「ええんや、オカン」





平次の表情は穏やかだった。





閉じていた平次の目がゆっくりと開かれ、静華を見据えた。


「工藤が危険な場所に行く言うんなら、俺も一緒に行く。工藤を助ける。」


「……」


その揺るぎ無い平次の態度に、静華は何も言うことが出来なかった。





「心配いらへんよ。……俺が工藤を護るんやから…」





そう言って笑った平次の顔は、とても立派に思えた。








「…護る言うんは容易いことちゃうで」

声が聞こえて来た方を振り向くと、いつからいたのだろう、平蔵が居た。


「…盗み聞きは趣味悪いんとちゃいまっか〜?」

「お前が気ぃ付かへんから盗み聞きになるんや」


早くも二人が口論になろうかというその時、救急車のドアが開いて新一が出てきた。

それにいち早く気付いた平次は、平蔵をそっち退けで新一の元へ駆け寄る。


「工藤、大丈夫か?」

「あぁ、傷自体は大したモンじゃねぇし…つーか、服部心配しすぎだって」


くすくすと笑いながら平次を見る新一に、平次は拗ねたように口を尖らせた。


「せやかて工藤…」


そんな平次を見て更に笑う新一に、少しだけ拗ねたような素振りを見せた平次だったが、いつしかその笑顔につられるように微笑んでいた。




その様子を見ていた平蔵と静華は息を呑んだ。




初めて見る、平次のその笑顔。


嬉しそうな。心から愛しそうな、その笑顔。








「…いつのまにあんな笑顔できるようになったんやろねぇ」


親がなくとも子は育つとはいうものの、一緒に暮らしてきたときに見ることができなかった笑顔がそこにはあった。


「……」


平蔵は腕を組んで足元に視線をやった。

『せやけど二人なら…怖ないねん』

『服部と一緒なら……乗り越えていけるって思うんです…』

そう平蔵と静華の前で言いきった二人は、とても強く見えた。


先ほどの平次の決意が頭の中で反芻している。


護ると言った平次が、新一を護った。護れるほどに強くなったのだろう。

いや。新一を護るために、強くなったのかもしれない。

新一でなければ、ここまで強くならなかったのかもしれない。


「二人やったら…か…」


ポツリと呟いて目を伏せる。




平蔵と静華に向かって怒鳴った平次は。






今までで一番、たくましく。






そして ……強く、大きく見えた。






解っていなかったのは、自分の方だったのだと。実感させられた。


護るべき人を。愛し愛される人を見つけられたのだろう。










平蔵は目を開けると、平次と新一に近づいて言い放った。


「平次、お前はまだまだ半人前や。認めることなんかできるかい」


二人は驚いたように平蔵を見た。すぐに眉を顰めた平次が、新一を護るように平蔵と新一の間に立ちはだかる。


「もう認めんでええ言うたやん」

「えっ!?何で んな事になってんだよ!?」


どういう経由でそういうことになったのか少しも知らない新一は驚いたように平次を見た。

少しの間平次と睨み合うと、平蔵はふっと眼光を和らげた。


「認めはせぇへん…せやけど、半人前同士、一緒に居ったらええ」

「…え?」


平蔵は呆気にとられた顔をしている平次から新一へと視線を向けた。


「工藤君」

「は、はい」


話し掛けられた新一は思わずかしこまってしまった。


「こいつは半人前やから、これからも支えてやってくれるか?」

「え?」


平次を親指で指しながら、平蔵は静かに言う。

その意味に薄々気付いた平次が期待の声を漏らした。


「オヤジ…それって…」


そんな平次を無視して、平蔵は未だかしこまったままの新一を見た。


「どうや、工藤君?」


驚いて固まったままの新一は、反らされることのない平蔵の視線の奥に優しさを感じた。


「はっ、はいっ!もちろんです!!」


急いで返事をすると、平蔵の瞳は更に優しく新一を見た。



反対する『要素』は沢山あるけれど。


二人の、強い絆を。見てしまったから―――。





反対する『理由』は。どこにもなかった……。






それよりも、こんなにも人を愛することが出来る平次を誇りに思う。




「二人で、生きていけばええ…」


平蔵はくるりと踵を返す前に、ほんの少しだが、初めて二人に笑顔を見せてくれた。


「しっかりやるんよ」


そう言って微笑んだ静華は、立ち去っていく平蔵の後を追って歩き出した。




しばらくの間、平次と新一はどうして平蔵が考え直してくれたのか不思議に思いながらも、いきなりの事でボーっと立ち尽くしていた。


「は…っとり……もしかして……許して、もらえた…のか…?」


認めることはしないと言った。それでも、二人で生きていけと…。

恐る恐るといった風に口を開く新一を平次は力強く抱きしめた。


「っ!?お、おい?」

「やったで!!」


ぎゅっと力を入れて新一を抱きしめ、少しだけ苦しそうに抗議しようとしてくる新一の唇を塞ぐ。

人がいないとは言え、少し探せば見つかってしまうこの場所で平次がキスをしかけてきたことに、新一は抵抗しようとした。が、平次の暖かさにふっと体の力を抜くと、ゆっくり目を閉じ、平次のキスに応えた。


嬉しいのは新一も同様で。平次を求めていることも、本当で。


二人はしばらくの間キスを交わし、喜びを分かち合った。












そうして余韻を残しながらも離れると、お互いの顔を見合わせて笑う。


「…何で考え直してくれたのか解んねぇんだけど…」


新一にとっては、平次が何故認めなくていいと言ったのかも、平蔵が認めないと言いながらもどうして許してくれたのかも、解らなかった。

ただ、新一がいない間に何かがあったのだろうと、その理由を平次に問いただすと、平次は新一に軽いキスを落としてきた。


「そんなんどうでもええやん!これからオヤジ達の前では隠さんで堂々としとれるんやから!」


そう言って嬉しそうに笑う平次を見ていると、新一もそんなことはどうでもいいのかもしれないと思えてきた。

ただ解っていることは。

平次と新一が、お互いを何よりも大切に想い合っているということを。平蔵と静華が理解してくれた、ということ。


大切な人と、ずっと一緒にいられるという、事実。


「一生、離さへんからな、工藤!」


新一の瞳を見据えてそう言った平次に答える代わりに、新一は微笑みを浮かべると 今度は自分からキスをしかけていった。


―― 離れねぇよ……どんなことがあっても……


これからも多くの試練が二人に与えられるのだろう。

考えるとキリがないことではあるけれど。今は考えることをやめて、お互いを確かめ合う。


今はただ、愛しい人の温もりに溺れた…。










そうやって、これからも。



どんな困難にぶつかろうとも。



二人で。乗り越えていくのだろう。






ずっと。






永遠に――。











〜 fin 〜


いかがでしたでしょうかっ
『平新で服部君の両親にカミングアウト。反対されるけど最後には説得し、認めさせる』という9,000HITリクをいただきました、にしもと様に捧げますvv本当にありがとうございますvv
小説を書くのが遅い私ですが、今回はスムーズに尚且つ楽しく書かせていただきました
しかし、平蔵を登場させる予定がなかった私にとって(え。/笑)今回の話は、ある意味苦戦いたしました。
平蔵や静香がエセだ〜と思ってもそこは軽く流していただけると、かなり助かります(笑)
短編にするつもりが…結構、長くなってしまいました、ね…ιιも、申し訳ありません〜ιι
いや〜、でもリクって本当に嬉しいものですねvvすごく頑張ろうという気にさせてもらえましたvv
少しでもご期待にそえるものになっているのなら、本当に嬉しいと思いますvv
Index > Top > ノベRoom > 絆2