傍にいてくれるなら



それだけで ―――




君の隣

-2-




あれから、何日か経過した。


あの後、目が覚めると平次は隣にいなくて、居間で起きてきた友人と話していた。

皆は何も知らないのだから、ここでぎこちない動きを見せれば、平次と何かあったのかと気付かれてしまうと考えた新一は、必死にポーカーフェイスをかぶり、友人たちと平次のマンションを後にしたのだった。


先に何もなかったようにしたのは自分の方だ。


けれど、ここまで徹底的に平次に何もなかった事にされると、どうしたらいいのか分からなくなってくる。


そう、平次は本当に今まで通り、変わらぬ態度を貫いているのだ。


以前と変わらずくだらない話をして。

以前と変わらず食事したり、遊びに誘ってきたり。

本当に全て、今まで通りだった。


あれが夢だった、なんて考えるほど馬鹿ではないけれど。

夢であればこんなに悩まなかったのにと思う。


そもそも、平次はどういうつもりであんな事をしてきたのだろうか。

あれはただの性欲処理だったのだろうか。

でも、平次ならば、わざわざ新一でなくても引く手数多だろう。

1回だけでも、なんて女は沢山いると言う話は聞いている。

欲情していた時に、たまたま新一が目の前にいたものだから、そういう事になってしまったのだろうか。


けれど、平次がそういう人間でない事は、新一が一番知っているから。


だから、考えれば考えるほど、解らなくなる。

名探偵の頭脳を使って必死に考えてはいるのだが、答えはずっと出ないままだ。

平次に直接聞いてみようかとも考えたのだが、それでこの友人関係が壊れてしまうのが怖くて。



何故だか、解らないけれど。




忘れてくれ、と言われるのが。どうしようもなく、怖くて……。





新一は何もなかったように振る舞うしかなかった。










 











「あ、工藤くん!ちょっと待って!」


本日最後の講義が終わり、帰宅する為にドアに向かった新一の後ろから、待ったの声がかかった。


「?どうしたんだよ、藤井?」


振りかえると、同じ講義を選択している藤井理子という女の子が小走りで寄ってくる。

茶色のウェーブがかかった長い髪を左の高い位置で一つに纏めており、大きな瞳とクルクル動く表情がとても可愛い、オシャレな子だ。

理子はおもむろに綺麗に折ってある紙を新一に差し出し、頭を下げた。


「ね、コレ、田崎くんに渡してくれない? 携帯番号とメールアドレスなの!」


その名前に、悪友の一人が頭の中に浮かんだ。

田崎元(タザキ ハジメ)は大学からの友人で、カッコよく、身長もあるし体格もそれなりでとてもモテるのだが…性格の方に一癖ある奴だ。

落ち着ているが、良くも悪くも思った事を口にしてしまう……いわゆる毒舌。

あまり笑わないけれど、笑った顔はとても親しみやすい為、女子いわく『ちょっと遠くから眺めていたい男』なのだが、それと同時に『私の前だけで笑って欲しい』と、人気だったりするのだ。


「え? でも、こういうのって自分で渡した方が……」


そこまで言って、言葉に詰まった。

そう、重要な事を忘れていた。


田崎は、女嫌いなのだ。


高校の時に2年間付き合っていた彼女と色々あったらしく、それからというもの女には冷たい。

『女の本性を見た。あれは魔物だ』と、飲みに行った時に話していたのを思い出す。


新一の考えが解ったのか、理子は苦笑して頷いた。


「うん、私から渡したら絶対受け取ってくれないでしょ?」


慰めでも、「そんな事ない」と言えない事がいたたまれない。


「工藤くんから渡してもらってもやっぱり断られるかもしれないんだけど、私よりは全然可能性あるもの! だから、お願い!」


断られる事は覚悟の上なのだろう。

それでも。友達からでも何でも、どうにかして田崎と繋がりを持ちたいと願う理子は可愛いと思う。

『魔物だ』と告げる田崎に、そんな子ばかりじゃないと教えてあげるくらいは協力したくなった。


差し出されている紙を理子から受け取ると、笑みを向ける。


「わーった!俺も頑張ってみっから!」

「っ! ありがとう!! お願いします!!」


本当に嬉しそうに喜ぶ理子に、新一もつられて嬉しくなって。

引き受けて良かったと、思った。










 











理子と別れ、すぐに田崎にメールを打った。


『今大学?』


すると、即座に返事が返ってくる。


『そう。B棟の外テラス。何?』


相変わらず端的な返答だ。一見、怒っているようにも見えるが、これが田崎の普通なのだ。

冷たいと思われるのも、恐らくこの性格ゆえだろう。


B棟は、新一が今いる場所からかなり近いところにある。


『渡すものがあるから、すぐそっちに行くな! ちょっと待ってろよ?』


そう返信して携帯をポケットにしまうと、新一は急いで目的地へ向かった。




程なくして目的地にたどり着く。

そこには1つしか人影がなく、それこそ目的の田崎本人だった。


「田崎! 急に悪い!」

「別に。で、何だよ、渡したいものって?」


その問いに、手に大切に持っていた紙を差し出す。


「コレ、お前に」


新一からそれを受け取ろうとせず、差し出された紙をチラリと見てから、怪訝そうな顔をした。


「…………………………ンだよ、コレ?」

「携帯の番号とアドレス、だってさ」


そう言うと、田崎はあからさまに嫌な顔をした。


「イラネ」


想像していた答えだが、新一もここで引くわけにはいかなかった。


「んな事言うなよ。 皆が皆、お前が考えてるような女の子じゃねぇんだから……受け取るくらい、してやれば?」

「いらねーよ。 前から言ってんだろ、当分オンナと関わりたくねぇんだよ」

「でも、この子すげぇ可愛いし、性格もいいんだぜ? 俺が保証するって♪」


新一は、田崎が女嫌いと聞いてから、こんな話を持っていかないようにしていたし、田崎の前では女の話もあまりしないようにしていた。

その態度の変わりように田崎も不審に思ったのだろう、半目でジロッと睨んでくる。


「……やけに粘るな? 紹介する見返りは何をもらう予定なんだよ?」

「バーロォ。そんなんじゃねぇよ。 普通にいい子だからさ。協力してやりてぇなって」


笑顔の新一に、田崎は大きなため息を吐いた。


「…協力、ねぇ?」


ふと、田崎は何か閃いたように眉を上げる。


腕組みをして少し考えるそぶりを見せた後、新一に向き直った。


「んじゃ、工藤が俺の質問に答えたら、受け取ってやる」


予想外の言葉に、少し驚く。


「質問? 別にいいけど…」


質問があるなら、普通に聞けばいいのにと思いながら、頷いた。

田崎は腕を組んだまま、真っ直ぐに新一を見据え、真面目な顔で言った。




「工藤って服部と付き合ってんの? 恋人同士として」




「っっっ!!??」


いきなり平次が出てきた事に驚いたが、大体、男同士が付き合うなんて、どこからその発想が出てくるのだろうか。

何かの冗談か、とも思ったが、田崎のその表情はいたって真剣で。

田崎は本当に平次と新一が付き合っていると考えているのだと理解し、顔に熱が集まる。


「バッバーロー!!なななっ何言ってんだ!!んなワケあるか!!」


思わず辺りを見回した。

全然人がいなくて助かったと思う反面、何を言い出すのかと睨みつける。


「へぇ? …付きあってもねぇのに、あんなコトするんだ?」

「え?」


『あんなコト』の意味が解らずに首を傾げると、田崎はニッと不敵に笑った。













「この間の飲みで、お前ら、ヤッてただろ?」













この間の飲みは、平次の家で行なって、その時のメンバーに田崎もいた。













そして、この前の飲みと言えば――――。













「っっ―――!!!???////」













頭の中に、平次にされた色んな事がフラッシュバックした。

急速に顔が熱くなる。


知っていた。


どうして、何故。


皆ツブれて眠っていたハズなのに。


実際、自分の方が余裕なくて、確認なんて出来なかったけれど。

咄嗟に、誤魔化さなくてはと思い、勢いよく首を横に振った。


「んだよ、嘘吐くんじゃねぇよ。ちゃーんとこの目で見たし、お前の声も、聞いたし?」


その言葉に、田崎に誤魔化しは通じないと悟る。

自分の目や耳で確認した事なら、疑いようがないから。


あんな自分を見られたのかと思うと、もう、本気で泣きたくなった。


「ち、ちがっ!! あれ、はっ…俺っ……違っ…!!/////」


何か言わなくてはと思うのだが、考えれば考えるほどに思考が空回りするだけで。

顔が熱すぎて、心臓が煩い。



ふと近くに人の気配がしたかと思うと、すぐ傍に田崎が近づいていて。

頬に、そっと触れられた。


「つーか、お前もあーゆー顔すんのな? ……すげぇ可愛かったぜ?」

「っ///!?」


ビクッとして後ろに身体を引くと、フッと笑みを浮かべながら、離れた距離を1歩で縮めてきた。


「声もすげぇ、可愛かった。 俺もお前 喘がせてみてぇな」

「っ〜〜〜〜!!??///////」


もう、声すら出ない。

今、この場から逃げ出す事ができるなら、自分は何だってしてみせるのに。

空を飛べと言われるのならば、喜んで飛ぼうと思うくらいには、混乱していた。


ジリジリと距離を取ろうとしても、田崎は余裕な表情で近づいてくる。

後で怒られてもいいから逃げようと決意して後ずさると、トン…と背中に冷たい壁の感触がした。

逃げようとして少しずつ後ろに下がっている内に、壁際へ追いやられてしまったのだ。


ならば、と、田崎の脇を走ってすり抜けようと思った瞬間。

田崎は新一を囲うように壁に両手を付き、退路を完全に断ってしまった。




「言っとくけどな、あの後俺も勃っちゃって、大変だったんだぜ!? お前の所為だからな!?」




「なっなっなっ…!?///////」




コイツの、こういう包み隠さない言い方は、本気でどうにかした方がいいと思う。


男の新一に欲情しました、とハッキリと言ってのけたのだ。












「…責任…とってくれるか…?」












もう、限界だった。









「そそそっそんなの知らねーよっバーロ!!///」


怒りと羞恥をぶつける様に怒鳴る。



が、田崎はそんな新一にきょとんとした後、プッと吹き出した。


「っははっ!!工藤、マジおもしれぇな!!すげぇ真っ赤!」

「っ――!!////」


真っ赤な顔で怒鳴られても迫力がなかったのだろう、田崎は本気で楽しそうに笑っている。

こっちがどんな思いをしたか知らないで。

恥ずかしかった。 恥ずかしすぎて死ねると思った。


「もっ、もう知らねー!!」


ヤケになって田崎を押しのけ、歩き出す。

が、すぐに田崎の手が伸びてきて、腕を掴まれた。


「待てよ、工藤!」

「誰が待つか、バーロー!」


手を振り払おうと抵抗するのだが、掴まれた力が強くなっただけで中々離れない。


「んじゃ、逃げんなって」

「っ――!」


逃げると言われ、カチンときた。

そりゃ、さっきまでは逃げようと画策していたけれど、真正面から向かってそんな事を言われて逃げる程軟弱ではない。

強い瞳で睨みつけると、田崎は満足そうな笑みを浮かべる。


「キスしてくれたら、離してもいいぜ?」

「っ…バッ!!!////」


怒鳴ろうとお腹に力を入れた瞬間。

田崎は、新一の手の中から何かを引き抜いた。

それが、理子から渡されたあの紙だということに、少し経ってから気づいた。


「工藤のそんな顔も見れたし、まぁ、受け取るだけはしてやんよ」


そう言われ、新一は当初の目的を思い出す。


「あ……あぁ……サンキュ…」


思わず口から出てしまった言葉に、田崎は面白そうに笑った。


「さっきまで怒ってた奴に、よく礼なんか言えるな?」

「っ! うっせー!」


プイっとそっぽを向いた瞬間。


グッと腕を引かれ、バランスを崩して。



気がつくと、田崎の腕の中に納まっていた。





と。





ふいに頬に暖かいものが触れた。





















「じゃあな、工藤?」


ニッと笑みを浮かべた田崎は、新一を解放して、そのまま去って行く。






頬に残されたキスの感触に。






新一はその場からしばらく動けなかった。














はい、実は見られてました〜vv(笑)
まぁ、4人もいれば、1人くらいは起きるでしょ、普通vv
で、新ちゃんの痴態を見たら、そりゃ反応しちゃうでしょ、普通vv

て感じで、オリキャラ出しちゃいましたvv
オリキャラは動かしやすくて、書いててとても楽しいですvv
どの話の中でも登場するオリキャラは(今のところ)向日永瀬ですvv
後はその話だけのキャラクター、と思ってていただいて良いかとvv

さぁて、この続きはどうしようvv(うおいっ)


(2010.03.19)
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