Q.世界で一番可愛い人は誰ですか?

A.そんなん、工藤に決まっとるやろ♪




可愛い人  -平次ver-




服部平次はソファに座り、雑誌を膝に乗せたままぼーっと考え事をしている恋人、工藤新一を見た。

新一に惚れて惚れて惚れまくって、このままでは爆発してしまうと考え、新一に想いを打ち明けたのは半年前だ。

その時、新一の方もずっと平次が好きだったのだと涙ながらに告白してくれて。

正直、死んでもいいと思ってしまった程だ。


そして、その愛しい愛しい同棲人は、何故か2日ほど前からこんな様子だ。


その日は結構な大人数――といっても男だけだったのだが――で飲みに居酒屋へ行った。

そしてその時からだ。何だか新一の様子がどこかおかしいのに気付いたのは。

飲みの時に何かあったのだろう。

あれから何を話しかけても、気のぬけたような返事しか返ってこない。


たまにハッと我に返ったように話を聞いていなかった事を謝ってくるのだが、すぐにまた何やら考え事を始めるのだ。

今日も昨日に引き続き、態度がおかしい。

おかしいというか、しきりに何かを考えているのだろう。

かれこれ1時間近く、雑誌をめくることなく真剣な顔でぼーっとしている。


話してくれればいいと思う。

何かあったなら、相談くらいはのれるのに。

例え新一からしてみれば小さなことだって、平次にとっては大きなことだ。

新一から発せられる言葉なら、どんなくだらないことだって聞きたかった。


けれど無理に聞き出すなんてしたくないし、自分は新一の頭の整理がつくまで待っていられる。

そう思うものの、可愛い恋人のすること全てが気になってしまうのが人の性というもので…。


―― アカン、あんま見てたら気ぃついてまうな…


いつもの新一も好きだけど、こんな風にぼーっとしている新一もすごく可愛いと本気で想いながらも視線を反らす。

片手に推理小説を持って、新一の考えの邪魔にならないように、新一の座っている向いのソファに腰かけた。


が。見ないように心掛けて小説を読んでいても、ついつい視線は新一の方へと向かう。


―― …ほーんま、キレーやな〜…めっちゃ、可愛ぇし…何もしてへんのに、何でこない可愛ぇんやろ…


そんな事を考えながら新一を盗み見ていると、ふいに顔を上げた新一とバッチリ目が合ってしまった。


ヤバ、と思った瞬間。


すっくと新一が立ち上がって。


そのまま歩き出し、何だか緊張した面持ちで平次の隣に腰掛けてきた。






そして。






…沈黙…。






何がしたいのか解らず、とりあえず口を開いた。


「…どないしたん?」


何かあるのだろうかと隣にいる新一を見つめる。が。


「…別に、何でも、ない…」


新一は小さく首を横に振るだけだった。

なんやぁ?と平次は首を傾げる。

何でもないというものの、新一はあきらかに何かを言いたそうな表情をしている。

それでも再び何やら考え込んでしまった様子の新一に、平次は苦笑した。


―― 言いたいことがあるけど、どない言うてええか解らん…て顔やな…


とりあえず、言いたいことがまとまったら新一から何かしらアクションを仕掛けてくるだろう。

再び小説に視線を落とし、1ページ程読み進めた時、新一が再度平次を呼んだ。


「は、はっと、り!」


そう呼ぶ声は明らかにぎこちない。

何かあるのだろうことが、解り易いほど伝わってくる。


「ん?」


目が合った瞬間、新一は何かを言おうとして息を吸った。







が。







「…な、んでも、ない…」


その口から言いたいはずの言葉は紡がれず、再び口を閉じて俯いてしまった。

いよいよおかしい、と思う。

新一は何か複雑そうな表情で再び床に視線を落としている。


―― 何があったっちゅーねん?


心の中でそう呟くものの、平次はとりあえず新一の言葉を辛抱強く待つことにする。

焦らせれば、新一が言いたい事を言えなくなってしまうと解っているから、尚更。


いつもの新一ならば言いたいことはちゃんとハッキリ言ってくれるのに、昨日から本当にどうしたというのだろうか。

遠慮している…ということではない気がする。

第一、新一が遠慮して、言いたいことも言えないなどという性格の持ち主ではないことを平次は一番知っている。

となると、新一のこの態度は、何かを考えての行動だろう。


が。


平次は先ほどから推理を巡らすものの、新一が『何を考えて行動しているのか』が、全然みえてこない。




そうこうしている内にしばらく沈黙が流れた。


―― …俺から何や仕掛けてみる、か…?


平次から行動に移すのを待っているのかもしれない、と、発想を変えて推理を繰り広げていると、再び声が上がった。


「はっとり!」

「ん?何や?」


何かを決意したらしい新一のその瞳を垣間見て、とうとう本題に移るのか思った。




のだが。




新一の動きは再び固まってしまった。

平次を呼んだ態勢のまま、微動だにしない。




しばらく待ってみても何も反応がない新一に、平次は呼びかけた。


「く、工藤ぉ?」


すると。




「……コーヒー…」




「…へ?」



「…コーヒー…飲みてぇ…」



平次は一瞬目を瞬かせる。

先ほどまで、本当に真剣に考えて……考えていたはずの新一から出た言葉が…これだった。


―― …コ、コーヒー やて?


今 新一は、コーヒーが飲みたいと言ったのだろうか。

あんなに真剣に考えた末の言葉がどうしてこれなのか、全然理解できないけれど…。



それでも…。



平次は思わず吹き出してしまった。

クスクスと笑いながらも、何だか真剣な表情の新一の頭を撫でてやる。


「ええよ、美味いコーヒー淹れたる」

「…え、あ、うん…」


立ち上がった平次を見ながら、何故か納得がいかないような表情をしている新一の頭をもう一度撫で、平次はキッチンへ向かった。

そしてキッチンに入ると、長いため息をついて口元に手をあてる。


―― 何やねん、あの顔……―――ホンマ可愛ぇvv


本当にそれしか言うことがないのか、と言われるかもしれないが、可愛いものは可愛いのだ。


コーヒーを淹れてくると立ち上がった平次を ポカンとしながら見上げたその顔はとても無防備で。


蒼い瞳を真ん丸にしながら、こっちを見つめてきて。


頬をピンクに染めたまま。あっけに取られていた唇は、平次を誘うように少しだけ開いていて。


押し倒さなかったことを褒めて欲しいくらいだ。


新一が何を言いたいのかまだ全然解らないが、言おうとしてくれていることは解るから。

平次にはそれだけで十分だった。

コーヒーを淹れながら、先程の新一を思い返して口元を緩めた。










 











「おまっとさん♪」

「あ、うん。サンキュ」


新一にコーヒーを渡し、ソファに腰掛ける。

と、新一はコーヒーカップを受け取った体制のまま、じっと平次を見つめている。


「どないした?」


クスクスと笑いながら、新一の柔らかい髪を撫でてやると、それだけで新一の頬に赤みがさした。

新一のこんな顔が見れるのは自分一人だけだと思うと、本当に嬉しくなる。


「…べ、別に…」


小さく呟くように言うと、新一は視線を外してコーヒーに口をつけた。

テーブルに置いておいた小説を手に取り、平次も自分の分のコーヒーを飲もうとカップを傾けると、コーヒーを飲みながらチラチラとこちらを窺っている新一に気づいた。

あえてそれに気づかないフリをしながら、小説を開き、続きから読み始める。


窺うように盗み見ている事に平次が気づいていないと思っているだろう新一を、本当に可愛く思う。

そもそも平次は、新一以上に可愛い人間なんていないと、本気で思っている。


恋人となって半年。

その可愛さは衰えたりするどころか、日ごとに磨かれているように感じる。


新一の笑った顔、怒った顔、拗ねた顔…泣いた顔でさえも、愛しい。

こういうのを、『ベタ惚れ』と言うのだろうと思うが、その言葉に共感さえも覚える。


新一の事ばかり考えている為、1ページも読み進めることができない小説を片手に、最後の一口を飲み干した。




途端。




「はっとり!」


と、新一から声が上がった。

これは新一が腹をくくった時の声だと解った。

ようやく考えがまとまったのかと視線を送ると、覚悟を決めた新一の顔が見えた。

本題が来る、と思った。








けれど。








「……コップ、俺 持ってく、から…」







結局出た言葉が、それだった。

虚を突かれた平次は、何を言われたのかの理解が一瞬遅れた。


「え?あ…あぁ。…おおきに」


差し出された手に空になったコップを乗せてやると、新一は勢いよく立ちあがって平次に背中を向けるとそのまま部屋を出て行った。

その動作が、からくり人形みたいにぎこちない。

いつもの新一からは想像もできない姿だけに、余計可愛いと思ってしまう。


―― ホンマに何やろなぁ〜? 工藤は何がしたいんやろ?


クスクスと笑いながら、平次はまるで悪戯をしかけられた時のように、嬉々として推理を始める。


新一が何かしようとしているということは分かる。

一生懸命、何か行動しようとしていることも、分かる。

けれど、やはり何をしたいのかが解らない。


解らないのに。


それなのに、どうしてあんなにも可愛いと想うのだろうか。

これは永遠の謎だと考えながらも、謎のままでいい、などと思ってしまう。


ともかく、あんなに可愛すぎる新一を前にすると、抱きしめたくなって堪らないのも本当だ。

今は話を聞いてやろうと、触れるのを我慢しているのだが、正直、どこまで耐えられるか自信はない。

実際、可愛すぎてヤバイ。

触れたら最後、話を聞くどころではなくなってしまうので、何とか我慢しようと自分の胸に誓う。


と、戻ってきた新一の姿が視界に映った。

目が合った瞬間、新一が一直線に歩み寄って来てソファに腰掛けたと思うと、ガシッと平次の腕を両手で掴んだ。


「は、はっとり!」

「おわっ!? 何やぁ!?」


思わず本気で驚いて声を上げてしまう。

そんな平次に構うことなく、新一はじーーっと見つめてくる。

平次は自分の鼓動がドキドキと早くなっていくのを感じた。


恋人の関係ではあるものの、目の前でこっちを見つめてくるのは好きな人なワケで。

そんな、好きで好きで好きで仕方ない愛しい人に見つめられて、何も想うなと言う方が無理だろう。



正直、心臓がもたない。



抱きしめたいとか、キスしたいとか。


それ以上も、もっと とか…。



そんな感情が後から後から溢れ出してしまう。




先程、手を出さないと誓ったはずなのに、この恋人は、いとも簡単に決意を揺るがせてしまう。

その想いを実行してしまわないために、自分から行動に出た。


「ど、どないしたんや?」


何とか話を聞いてやりたいが為に、自分の欲望と闘っている平次に、新一は躊躇って。


「………… なんでもない」


先ほどから繰り返されている言葉を口にした。

瞬間、ガクーッと体の力が抜けるのが分かる。



負けだ。



自分の、完敗。



完敗でいいから、とにかくそんな顔で見つめるのは止めてほしい。



これ以上は自分の心臓が保たないどころか、新一の話を聞く前に押し倒してしまうだろうと思った平次は、思いきって口を開いた。


「く、工藤さん? 何や話があるんちゃうん?」


そう訪ねると、新一は驚いたように固まった後。


カッと赤くなった。


「! くどお…?」


どうしてそんな反応になるのか不思議に思いながらも、赤くなった新一につられるように少しうろたえてしまう。

すると新一はソファから立ち上がった。


「べ、別に何もねーよ!」


それだけ言うと、逃げるようにリビングを出て行った。パタン、と扉の閉まる音が聞こえたので、自分の部屋に帰ったのだろう。


そんな新一を呆然と見送りながら、自分が何かしたのか考えてみる。

けれど、先ほどの質問で、どうして赤くなるのかが全然解らない。

怒らせるような質問もしていないはず。




そう、思うけれど…。







―― …アカン……めっっっっちゃ、可愛ぇ…







口元に手を当ててクスクスと笑いながら、ソファの背もたれに体重を預けた。

欲目だろうが何だろうが、可愛いすぎるのに違いはない。

自分は本当に。心底。

新一に惚れているのだなぁと実感しなおす平次だった。










 











とにもかくにも、あれでは新一が口を割る可能性は限りなく低くなったと思っていいだろう。

自分が我慢できなくなって聞いてしまったことに苦笑する。

新一が部屋へ籠った後、顔を合わせづらいだろう新一を考慮して5分程時間を置いて部屋を訪れ、あまり部屋の外へ出たくない様子の新一に、一緒にいたいと頼みこんで部屋から出てきてもらうことに成功した。

その後はいつものように過ごしたのだが、やはり新一はどことなく上の空で。

次の日になっても、新一はずっと考え込んでいる。


気になって、仕方がない。


ここまで新一が悩むのは、本当に本当に珍しいことで。

平次が心配になるのも当然と言ったところだろう。

それでも何も言おうとしない新一に、平次はついに我慢の限界を突破した。


―― もう、埒があかん!


そもそも、自分はうだうだ考えるより行動派なのだ。

とは言え、新一に聞いたとしても、余計に口を噤んでしまうだろうことは火を見るより明らかだ。

だが、新一に聞けないことなら、他の人に聞けばいい。






大学が終わり、新一に先に帰ってもらった平次は、新一がおかしくなったあの日、飲みをしてた友人達に声をかけた。


「ちょお、聞きたいことあんねんけど…」


おもむろにそう切り出した平次に、何だ何だと友人は素っ頓狂な声を上げる。


「聞きたいことぉ?」

「何だよ?」

「3日前に、飲みしたやんか? ほんで、工藤と同じ席で話しとったやろ?」


そう言うと、みんな少しだけ考えた後、思い出したように頷いた。


「え? 3日前…あぁ、そうそう」

「それが、どうしたんだよ?」

「俺が席立って居らん間、工藤と何の話してたんや?」


当然の事ながら、そんなことを聞かれるとは思っていなかったのだろう友人たちは一瞬押し黙った。


「…へ?」

「何…なんだっけ?」


少しの沈黙の後、苦笑がもれた。


「分かんね。いろいろ話したから…」

「3日も前のことだろ?」

「酒入ってたし、覚えてねぇよ」


軽い感じで受け流そうとする友人たちをキッと睨むと、近くに居た1人の肩をガシッと掴んだ。


「覚えてへん、じゃアカンねん! ちゃんと思い出せや!」

「お、おい、何でそんなムキになって…」

「じゃかあし! これは重要な事なんや! ええから早よ思い出せ!」

「え、あぁ」

「…うーん…」


平次の勢いに押されながらも、それぞれ思い出す努力をするように、考え始める。


皆が考えこんでシーンとなった所へ、悪友の永瀬が通りかかった。


「お前ら、集まって何やってんだよ?」


ひらひらと軽く手を振って近づいてきた永瀬を見つけると、1人が思い出したように声を上げた。


「あ、永瀬! 3日前居酒屋で一緒に飲んだだろ? 服部居なかった時って何話したか覚えてるか?」

「は? あの時の話?」


話の展開についていけていないものの、頭のキレる永瀬は少し考えるそぶりを見せて。

すぐに思い当ったように顔を上げた。


「ああ、そういや、三浦に女できた事話してて…恋人に甘えられたら嬉しいよなって話した気がすっけど?」

「……はぁ?」


―― そんなん、話してたんか?


永瀬の言葉に、友人たちは弾かれたように声を上げる。


「ああ!」

「そうそう!」

「甘えてこられると可愛いよなって話してたぜ!」


―― ……それで何であの態度になんねん……


そりゃ、恋人が甘えてきてくれたら、すごく可愛い。

けれど、だからと言って、それがあんなにぎこちない態度につながるとはとても思えない。

せいぜい、『可愛いと思う派』と『思わない派』に分かれるくらいだろう。

いろんな答えを考えてみるけれど、全然解らない。


頭の中で疑問だけが堂々めぐりしている平次に気づく様子もなく、永瀬は言葉を続けた。



「んで、工藤に甘えられたら、恋人もさぞ嬉しがるだろうな…とは言ってやったけど?」


「っ――!!」




瞬間。




全てが一つにつながった。





その言葉ゆえにあの態度をとっていたのだとしたら… それは ――。









途端に、新一を愛おしいと思う気持ちが爆発的に溢れ出してきた。


そうなると、すぐに逢いたくなって。



「おおきに!ほなな!」


短く礼を述べると、平次はすぐさま友人たちに背を向けてバイクに跨った。


「え?服部?」

「おい?」


いきなり急変した平次の態度に友人たちはそろって首をかしげている。

展開についていけない様子の他の友人たちと違い、逸早く何かに気づいたらしい永瀬がふっと笑った。


「何か知らねぇけど、謎は解けたようだな?」


挑発するような永瀬の言葉に、平次は不敵な笑みを浮かべる。


「当たり前や! 俺を誰やと思てんねん?」


そう言い残すと、笑いながら肩をすくめた永瀬を視界の端に捉えながら、アクセルを全開にした。










 











「工藤!」


家にたどり着いた平次は足早に玄関を抜け、新一のいるリビングのドアを開けた。


「え、あ、お帰り」


あまりの騒々しさに、何事かというような表情をしている新一の隣に座り、思いっきり抱きしめた。


「わっ!?/// い、いきなり何だよっ!?///」


赤くなって抗議する新一の額に、チュッとキスを落とす。



「工藤が最近 何やおかしかったの、あれ、甘えようとしてくれてたんやろ?」



新一の瞳をまっすぐに見ながらそう告げる。



と、新一の瞳がこぼれ落ちそうな程開かれて。





「っ―――///!!??」





一瞬のうちに、これ以上ないというほど真っ赤になった。

そんな新一に、答えをもらったと思った。


―― ビンゴ、やな♪


あまりに恥ずかしさに暴れて平次の腕から逃れようとするその一瞬先に、ぎゅっと抱きしめる。


「好きやで、工藤」


そう、心からの想いを口にすると、新一の体がピクッと跳ねて、そのまま力が抜けるのが解り、思わず微笑んでしまった。



『新一に甘えられたら、恋人もさぞ嬉しがるだろう 』と言われて。


新一は平次が嬉しがってくれるのなら、と。


平次が喜んでくれるのなら、と。


甘えてみようと 考えたのだろう。




「工藤、甘え方知らへんもんな。めっちゃ、悩んだんちゃう?」

「っ///」


クスクス笑いながら言うと、新一の顔は更に赤く染まった。


『甘える恋人』=『可愛い』という方程式がなりたっていると聞いた新一は、とても悩んだのだろう。

可愛いと言われるのを極端に嫌う新一のことだから、考えに考えに考え抜いている新一の姿は容易に想像ができる。

そもそも、『甘える』とはどうすればいいのか、全然知らなかったに違いない。

そして何とかして甘えようと試みた結果が、惨敗だったわけだが。



そんなことでは…ないのだ…。




きっと、新一は。


平次に好かれる為だけに。


平次を喜ばせる為だけに、苦手とすることを頑張ろうと決意してくれたのだろう。




そう考えると、愛しさが体中から溢れ出して止まらない。


愛しい、という気持ちはどうしてこうも、際限がないのだろうか。


「めーっちゃ、可愛ぇvv」

「…うっせぇ…」


平次に全て見破られてしまって、照れ隠しのために拗ねたような態度をとるところも、可愛くてならない。

ぎゅーっと抱き締め直して、優しく囁いた。


「俺な、こうやって工藤が腕の中に居ってくれてるだけで、甘えられてる思てんのやで?」

「え?」


不思議そうにきょとんとして平次を見つめる新一の頬にキスを落として、続きを告げた。


「工藤、他の奴にこないなこと させへんやろ? 俺にだけしか、せぇへんやろ?」

「…」


新一がコクリと頷く。


「他の奴らに見せへん工藤を見せてくれるのって、俺に甘えとるってことやんか!」


「―っ!」


「俺には、それが、めーっちゃ嬉しい♪」


それが。


何よりも嬉しくて。


それだけで。


何よりも、幸せになるのだ。




「…ばーろ」


少し言葉に詰まった後、新一は泣き笑いの表情で平次にぎゅっと抱きついた。

こういうところが可愛いのだと、どうして新一は気づかないのだろうか。いや、気づかないからこそ新一なのかもしれない。



と、新一がおずおずと平次を呼んだ。



「あ、あの、さ…はっとり」


「ん?」


「我が儘…言って、いいか?」


「大歓迎やで? 何や?」



少し腕の力を緩めてやり、視線を合わせながら新一の頬をそっと撫でる。


躊躇したそぶりを見せた後、新一は頬を染めながら口を開いた。







「俺、今… キス、したい …」




「っ!――っ、…!」







驚いて言葉さえも出ない平次を余所に、新一は頬に触れている平次の手にそっと自分の手を重ねると、熱っぽい眼差しを向けてきた。








「…キス…しろよ……」








瞬間。







カッと一気に体が熱くなって。







頭が 真っ白に なった ――。








「っっ――んぅっ…」








気づいたら新一を抱きしめて荒々しいキスをしかけていた。

何度も何度も角度を変え、奪うようにキスを繰り返す。


「っ…俺を狂わせて…どないするっ…つもりやねん……?」


何とか自分の理性を総動員させて少しだけ唇を離して呟く。

その言葉の意味を理解したのか、新一の頬が見る見る内に赤くなった。


「えっ、ちが…っんっ…」


赤くなるその顔も平次を煽るだけのものでしかなく、言葉を最後まで聞くことをせずに再度新一の唇をふさぐ。


体の奥から湧き出てくるような、愛しいと想う感情を伝えるように、舌を絡ませあう。


最初は驚いていた新一の体からも次第に力が抜けていって。


ゆっくりと平次の首に腕を絡めてきた。



求められていることが本当に嬉しくて、更に夢中になってしまう。



「んっ…は、とり…もっと、キスっん…」



キスの合間に、もっとと強請ってくる新一は、眩暈がするほど、色っぽい。






今、こうして平次の首に腕をまわして。



もっともっととキスをせがんでくる、その行動が。



『甘えている』というのだけれど…。






多分きっと。






この可愛い可愛い恋人は知らないのだろうと思った。

























〜 fin 〜

甘いモノが食べたくて書いたら、こんな感じになりましたvv(笑)
とゆことで、短編ですvv
付き合っていても、この二人はこうやって色々あって、イチャイチャベチャベチャするんだと思いますvv
我が家の平新は、お互いがお互いを大好きすぎて、ちょっとしたすれ違いとか誤解とか発生させてしまいますvv
でもその後、ちゃんと仲直りして、以前より糖度を増していきますvv

ちなみに
平次verと書いたからには、もちろん、新一verもありますvv
新一の心情をほとんど書かなかったのは、この為ですvv
なので新一verでどれだけ新一もぐるぐる悩んでいるか解っていただければと思いますvv
まぁ、結局はただのバカップルですvv
うん、最高じゃないかな、バカップルvv


(2010.5.29)
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