君に


触れられる 距離




葛 藤

-2-





「服部、手ぇ貸して?」


言われた意味が解らず、平次は歩みを止めて隣を歩く男を見た。


「手がどないしたんや?」


駅前のコンビニでボールペンを購入し終え、その帰り道での発言だった。

ワケが解らず、ポケットに入れた手を出す事もせずに新一を見ながら首を傾げる。


「いいから、手だよ、手! 手ぇ出せ!」


焦れたのか、新一は強引に腕を引っ張り、平次の手をギュッと握った。



瞬間、身体に緊張が走り、心臓が荒れ狂う。



手を握っただけでこの逸る鼓動が聞こえるわけがないと解っていても、こんなにも煩い胸の高鳴りならば、新一に聞こえてしまいそうで。


思わず手を引きかけた途端、新一は満足そうに笑いながら見上げてきた。


「やっぱり♪ お前、あったけぇ♪ 俺、ちょっと寒くてさ…カイロ代わり♪ このまま家まで帰ろうぜ♪」


「は…? ―――えっ!!??」


そう言われてみれば、新一の手は冷たくなっている。


が、今はそれどころではない。

このまま…ということは、家まであと15分。ずっと手を繋いだままでいろと言うのだろうか。




―― 絶っっ対ムリやろ!!




繋ぎ続けているのが無理というわけではない。

新一の体温を感じたまま、押し倒すなという方が無理なのだ。


そもそも、自分の限界はとっくに超えてしまっている。

どんな些細な触れあいでも、自分にとっては理性を試すようなもので。



「……え、そんなに嫌なのか?」



平次の沈黙をどう受け取ったのか、新一は寂しそうに呟いた。


「ああああ、ちゃうねん! 嫌やなんて絶対あらへんからな!」

「あ、服部も寒い?」

「それもちゃうんやけど、その…」


どうにかして何か通じる言い訳を考えようと頭をフル回転させる。

けれど触れている新一の手が、いつもの様な冷静な判断をさせてくれない。





と。するりと新一の手が平次から離れた。


「ん、わーった! いいよ、服部。悪かったな?」

「え、くど…」

「じゃ、帰ろうぜ♪」


先程の事が何もなかったかのようにニッコリ笑う新一に、胸が痛くなる。

恐らく新一は、平次が新一と手をつなぐのを嫌がっているのだと推理してしまったのだろう。

平次の気持ちを知らない新一がそう考えるのは当然といえば当然なのだ。



けれど。



当然だからと言って、先程のような笑顔をさせたままでいるわけにはいかない。





平次は覚悟を決めると、歩き始めていた新一の手を取って繋ぎ、そのまま自分の上着のポケットに押し込んだ。


「っ! 服部!?」

「とりあえず、片手だけで我慢してもらう事になるけど…… これでちょっとはマシになったやろ?」


冷たい新一の手を温めてやるようにギュッと握る。

すると、驚いた顔をしていた新一が、一拍を置いてとろけるような笑みを浮かべた。



「うん、サンキュ、服部♪」



―― 我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢!! 耐えるんや、俺!!!



はにかむようなその笑顔に、抱きしめてキスしたい衝動を必死になって押さえる。


正直、キツいけれど。


今にも人目に付かないところに連れ込んで、強引にでもキスしてしまいたいけれど。


さっきの新一の笑顔を見てしまえば、手を繋いで良かったと心から思う。

自分が我慢することで新一を喜ばせる事ができるのならば、安いものだ。


それに、手を繋げて一番嬉しいのは、まぎれもなく自分だ。

我慢しなければいけないのは辛いが、こんな、カップルのように手を繋いで歩けるのは言葉に出来ないほど、嬉しくて。

手を出しそうな自分を叱咤しながらも、新一と手を繋ぐことが出来た幸せに酔いしれた。










 











新一の声は、心地よく胸に響き。



その体温は、ヤバいくらい、甘い。



いっそのこと、誰もいない部屋に閉じ込めて。



自分だけを見るように、他の誰もあの瞳に映さないようにしてやりたい。





けれど。


事件を推理する時の、生き生きとした表情や眼光を、とても愛しく想うから。



だから、変わらぬままの新一を、自分の腕の中に抱きしめたい。








新一が自分を好きになってくれたら、どんなに―――。








ふと、辺りの明るさに気づき、ゆっくりと目を開けた。

カーテン越しに差し込む光を見ながら、朝になったのだと気付く。

昨日の夜は、新一の感触がずっと掌に残っていて、遅くまで眠れなかった。


―― 今、何時やろ……?


まだ寝ぼけ眼のまま、時計を探そうと視線を巡らせて、ふと暖かい事に気づく。


「……?」


その原因を確かめようと、暖かい場所……自分の腕の中を見た。

そこには新一が、スヤスヤと眠っている。


ドキッと心臓が跳ねるけれど、新一のあどけない寝顔に、平次はふっと笑みを浮かべた。

推理で犯人を追い詰めていく時とは全然違う、幼い表情がとても可愛い。


―― …あ〜、アカンな〜。 工藤のことばっかり想てるから、こないな夢見てまうんやんな〜…


心の中で苦笑する。

本当に、夢にしては心臓に悪い。





が、何か心にひっかかりを感じ、首を傾げた。





―― ………………ゆ、め………?





腕の中の新一は、とても暖かい。


願望は夢の現れだと言うけれど、こんなハッキリとした夢は初めてだ。







―― …………………………………………







否。





夢だと思いたいけれど、これは夢ではない。


本当は頭で、これが夢ではない事を理解している。




では、これは何だ?




どうして自分のベッドに新一が一緒になって眠っているのだろうか?




コンビニから帰った後、確かに一人で自分のベッドへ横になったはずだ。

そして新一の手の感触を思い出しては眠れずに頭を悩ませて。

ベッドに入ってからかなりの時間を消費して、眠りに就いた。


考えれば考えるほど、何故隣に新一がいるのか解らない。




そもそも、何の拷問だ、これは?




平次にすり寄るような格好。



無防備な姿。



着崩れて、顕わになった首筋。



うっすら開いた、ピンクの唇。



平次のベッドで眠る、新一。












急速に意識がハッキリしてきて。

平次は文字通り、飛び起きた。



「なっ!! 何やぁ!?」



―― っっっっっなななななんで工藤がここで眠ってんねん!!!///



もしかして無意識に押し倒し、あらぬ事をしてしまったのだろうか。

否、それなら絶っっ対自分が覚えているはずだ。

忘れるなんて、そんなもったいない事をできるワケがない。


では、何故だ。


そんな思考の迷宮に迷い込んだ平次を余所に、新一はゆっくりと目を開けた。

ボーっとしながら混乱する平次を見上げて、何度か瞬きを繰り返す。


「ん…あれ……?……あぁ…寝ちまってた…」


新一は目をこすりながら起き上がった。


「くくっ工藤!?ななな…」

「…え…?」


寝ぼけ眼で不思議そうに平次をじーっと見て、その後自分にかかっている毛布を見比べて気づいたように口を開く。


「…お前がいつまで経っても起きて来ねぇから起こさなきゃと思って。…で、声かけたら服部がいきなりベッドに引きずり込んだんだろ……覚えてねーの?」

「っっ――!?」


引きずり込んだ!?


全然記憶にない。


とすればそれは全て無意識の内なのだろう。


「一緒になって寝ちまったら拙いって思ってたけど、お前暖けぇから…」


いつの間にか寝てた、悪ぃ、と小さく笑う新一に、平次は愕然とした。


無意識がこんなに怖いものだとは。

ともあれ、引きずり込んで襲ってしまわなかった事だけは心から褒めてやりたいと思った。

襲ってしまったが最後、新一との暮らしもおしまいだ。

暮らしどころか、新一に嫌われ軽蔑されていたかもしれない。

それだけは死んでも嫌だ。


「……んなに怒んなくてもいーだろ…悪かったって言ってるのに…」


平次の沈黙をどう受け取ったのか、拗ねたように新一が呟いた。


「え!?ちょー待て!俺怒ってへんて!」

「…んな顔で言われても説得力ねぇぞ?」

「いや、ホンマちゃうねん! 今日1限必修やったのに、寝坊してしもたからヤバい思てただけやし!」


嘘も方便だ。

今の自分の気持ちが新一に悟られない為ならば、どんな嘘も付き通して見せる。


「え…あ、ヤベ…俺も忘れてた、必修…」


平次の言葉に気づいたように顔を上げた。

起きなきゃ、とベッドから抜け出す新一に、気づかれないように安堵のため息をついて、自分もそれに続く。


「起こしに来てくれたのにスマンかったな?」

「いいよ。俺も寝ちまったし、同罪だろ」


同罪という言葉に、チクリと心臓が痛む。


同罪であるはずが、ない。

自分の方が何倍も、何万倍も、罪を犯しているのだろうから。





頭の中で、何度も何度も新一を犯す。


甘い声を上げさせ、快感に涙を流す新一を、何度も何度も貫いて。


何度も何度も、自分のが溢れるくらい、新一の中に注ぎこんで……。





―― ………工藤、お前、解ってへん……





その笑顔が。表情が。存在が。








どれだけ自分の理性を崩させているのか という事を……。
















To be continued...

平次の葛藤はすごいっすねvv
とりあえず、平次は我慢しまくってたもんだから、意識がなかろうと新一に触れたいという想いが具現化してしまうと思いますvvvv
葛藤〜は続く〜よ〜、ど〜こま〜で〜も〜vvて感じで頑張ってもらいますvv


(2009.07.01)
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