壊れゆくモノ……




片恋 -7-






新一が無茶な呑み方する様になったのは、どれくらい前からだろうか。


平次はそんな取りとめもない事を考えながら、昨日も無茶な呑み方をしているだろう新一の為に鞄の中に二日酔いに効くドリンクを入れた。


―― …ホンマ、何やっちゅーねん、アイツ…


二日酔いで立っている事も辛いだろうに、新一は完璧なポーカーフェイスを駆使して事もなさげな振る舞いをするのだ。

どうして隠しておきたいのかは解らないが、気付いてしまう以上は放っておけなくて、余計なお世話だろうが何だろうが、ドリンクを飲ませるようにしている。


他の人間ならば騙せるだろうそのポーカーフェイスも、平次の前では意味をなさないのだから、いっそもう隠さなければいいのにと思う。

どうしてバレてしまうのだろうかといつも不思議な顔をされるが、これは相手が悪かったと思って諦めてもらいたい。


―― 何や、最近、ずーっと工藤の心配ばっかりしてんなぁ、俺…


苦笑するが、それは嫌なものではなく、むしろ新一の力になれるのならば嬉しいと思うくらいだ。

何か悩みがあるのなら、相談するなり愚痴を言うなりしてくれれば、もっと嬉しいのだが。


―― それをしてくる奴ならええんやけど、な…


『何でもない』と憮然とした顔で答えるのが目に浮かび、苦笑を溢した。


時計を見ると丁度いい時間で、平次はマンションを後にしたのだった。










 











―― ………何の冗談や、これは……


どうやって帰ってきたか記憶にないが、自分はどうやら自宅マンションにいるらしく、座り慣れたソファに身を投げ出した。

先程、新一から伝えられた告白が、嵐のように平次の中で暴れている。


否、告白は、まだ、いい。


本当に驚いたけれど、新一なら。


誰よりも心を許した親友だから。 男同士とか、そんな事関係ないと思えた。


何より問題なのは、「付き合う」か「離れる」かの選択を突き付けられた事だ。



―― 何っっっでその二択やねんっ!!!



平次の抱く新一への想いは、まごうことなく友情だ。

だから、付き合えないと言う結論になる。けれど。

そうなると、新一が傍からいなくなってしまうのだ。


ありえない。 それだけは、何があっても、ありえない。


「離れる」と新一が言ったからには、本当に離れてしまうのだろう。



容易に顔も見る事が出来ない程遠くに、行ってしまうのだろう。




誰にも行き先を告げず、姿を消してしまうのだろう。





そういう奴だ、工藤新一という男は。





―― アカン!! アカンアカンアカンアカン!!!


それだけは、却下だ。無理だ。

本当の親友ならば、「離れても元気でいてくれればいい」なんて言うべきなのだろうが、言えない。


これは友情だ。間違いはない。

けれど、友人の中で、誰よりも必要で誰よりも大切な位置にいるのが、新一だった。


だから、離れたくない。どうしても。


離れてしまえば、自分が自分でいられるか……正直、自信がない。


答えが決まるまで連絡するなと言われただけで、今、人生で一番、凹んでいるのだ。

でもそれは…新一の方もそうだと、解っているからこそだったのに。 だからこの関係がとても心地よかったのに。





『……傍で笑って友達なんて……してらんねーんだよ…』




泣きそうに震えた声の新一が脳裏によみがえる。



あんな、辛そうな顔を、するなんて。




ずっと。





もうずっと、新一は。







平次の見えないところであんな顔をしていたのだろうか。







考えると、胸がギリッと痛んだ。


付き合えないのならば、離れる事が新一にとって救いになるのだろう。

けれど、離れていられないのは、平次の方なのだ。

だとしたら、自分が選べる選択肢は……決まっていた。


でも、こんな気持ちのまま「付き合う」方を選んでいいはずがない。

それこそ、新一への侮辱だ。


「……どないすればええねん…」


一向に進まない思考に、平次は溜め息を吐く。

そうこうして考えている内に、1週間はあっという間に過ぎてしまったのだった。










 











1週間で返事をした。

否、1週間で限界が来たというべきだろう。

これ以上新一と離れている事が、限界だったのだ。


「工藤……俺と、付き合うてや…」


そう告げた時の新一の顔は、今でも忘れられない。


後悔でいっぱいな、あの顔は。


そして。



「…ごめん、な……」



そう、謝って、微笑みながら涙を溢した新一に、驚愕した。



その、顔は。



誰よりも。



今まで見た、どんな表情よりも。




綺麗、で。









切なかった――。









繰り返し謝り続ける新一に謝る必要ないと頭を撫でたが、それは新一の涙を増やしてしまっただけで。

泣かせたくないのに、どうしていいか解らない自分が情けなかった。

抱き締めてしまうと、崩れ落ちてしまいそうで、それも出来なくて。




あんなに壊れそうな新一を、自分は、知らない――。




そしてそれから、新一は無理をして笑うようになってしまった。


誰に気付かれないでも、平次は気付く。


それを新一は知っている筈なのに、無理して繕って。


だから昨日それを伝えようとしたのだけれど、寸前で逃げられた。


―― …ちゅーか、ビビりすぎや! 俺が付き合うのやめるとでも言う思てんのか、あんのアホ!


離れられないのは平次の方なのに、何故それが解らないのだろうか。


今度はちゃんと、無理して笑うなと言ってやろうと再び心に決めた、その時。


「服部!」


明るい、自分の大好きな声が、聞こえた。

振り返ると、いつもの笑顔を浮かべた新一がこちらに走り寄ってくるところで。

つられる様に微笑み、返事をする。


「おう、工藤! ちゃんと遅刻せんで来れたみたいやな?」

「あぁ。 メールサンキューな。 あれで起きた」


ニコニコと笑っている新一の笑顔に、昨日の様な暗いモノは見当たらない。

その眩しいくらいの笑顔に、平次は目を眇めた。


用件を聞き出してやると、ポケットから映画の資料を取り出して一緒に行こうと誘ってきた。

思い返してみるとそれも久しぶりだという事に、今更ながら気付く。

何を遠慮してか、付き合いを始めてから、週末一緒に遊ぶ事がなくなっていたのだ。

以前は毎週と言っていいほど一緒に遊んでいたのにも関わらず、新一が距離を置くようになっていたから、だからこそこの申し出が嬉しくて、即行頷く。

するとOKしたのがそんなに意外だったのか、パッと顔が綻んだ。


この笑顔が、どんなに嬉しいか……きっと新一は知らないだろう。


笑っている平次を見ながら首を傾げる新一に、今度こそ、伝える。


「工藤、ずっと辛そうな顔しとったやろ? せやから、前から言いたかったんや。 無理して笑うな、てな?」

「…っ!」


「辛いんやったら、笑わんでええんやから……俺に気ぃ遣わんでも、ええんやからな?」




そのままの新一でさえいてくれれば、それだけで。




「……バーロ…」


言うと、照れ隠しなのだろう、そっぽを向いてポツリと呟いた。

その耳が赤く染まっている事に新一は気付いていないらしい。


クスクスと笑いながら、平次は以前の様な穏やかな空気を肌で感じていた。



何かふっきれたように笑う新一を見て。

こうやって、ゆっくり、例え時間がかかったとしても。 以前の様に、普通に笑いあえるんだと、安心した。






けれど、それが大きな間違いだと、後に知る事になる。






自分は失念していたのだ。








工藤新一のあの瞳は。



何かゆるぎない決意をした時にこそ、一等その光を増すのだということを。











だから、この時にはもう……これから起こる事を……。











自分の、行動を。












新一は、決めて、いたのだろう――。




























平次視点はこんな感じですvv
今回の話は少し短めですιι
狙ったわけじゃないんですが、次の話と区切る時にキリのいいところにしたら7話目が短くなってしまった、とこういうわけですなvv(笑)
次も平次視点でお送りしますvv


(2011.8.17)
Index > Top > ノベRoom > 片恋7