巡り巡って 返ってくる




片恋 -6-






週末の土曜日。

約束していた映画を観て、思いの外楽しかった事で会話が盛り上がって。


そんな、時だった。


平次の携帯が、着信を告げたのは。



「ん? 何やろ? …めっずらしいわ、オトンからや。 工藤、ちょお、スマン!」

「あぁ、あっちの服見てっから」


さりげなく距離をとり、目に付いた服に手を掛けて見ながら電話が終わるのを待った。


と、そんなに時間を置かず、平次が早足でこちらに戻ってきて…。

少し青ざめているその顔で、悪い知らせだったのだと解った。


「何か、あったのか!?」

「…オカンが、事故に合うたらしゅうて……重体、やて……」

「っ――!!??」


言葉を失っている新一に、平次は続ける。


「スマンけど、今日の予定はキャンセルさせてくれや? 俺、これから大阪戻らな」

「あ、当たり前だろ! 早く行け!」


言って、思い至って財布の中からありったけの現金とカードを数枚抜き出して、平次に渡す。


「時間がねぇだろうから、これ使え! カードの暗証番号はXXXXだから。 後、必要なものがあったら、いつでもいい、メールか電話しろよな?」

「おおきに。 使わせてもらうさかい」


それだけ言葉を交わすと、タクシーを拾って、平次を送りだして。



それから、新一は……何をするでもなく、呆然とその場に立ちつくしていた。





「……嘘、だろ……」





ポツリと呟いた言葉は、誰に届くでもなく、かろうじて声になった。


自分が平次に想いを告げてから、色んなものが連鎖的に壊れていっている気がする。

これも「因果応報」の一つなのだろうか。

そう考えて、ギリ、と奥歯を噛みしめる。


「……何で、だよ…」


行き場のない怒りが、新一の中をぐるぐると駆け巡る。

因果応報というのなら、どうして新一に返ってこない?


どうして…。


―― どうして服部を巻き込むんだよっ!!! アイツはっ!! 関係ねぇだろ!!!


自分に対してなら、甘んじて受けるし、その覚悟だってあるのに。

どうして、平次を巻き込んでしまうのだろうか。


否、自分に一番ダメージを与える事が出来るのがソレだと解っていて、あえてそうなっているのかもしれない。




だとしたら、自分は何て……。





と、ポツリと頬に冷たい感触がして、ハッと我に返る。

空を見上げれば、少しではあるが、雨が降ってきていた。


今日は天気予報で晴れだと言っていたはずなのに……。

天気でさえも、新一のしでかした事を責めている様で。


本降りになり、身体の芯までずぶ濡れになってしまっても……そこから動けなかった…。










 











家に帰ってシャワーを浴び、少しだけ思考が落ち着いたことで、急速に平次が心配になってきた。

少し前に、大阪の母親のいる大阪青山大学病院まで辿り着いたとメールがあった。

まだ、意識は、戻らないのだ、と。


「アイツ、大丈夫……じゃ、ねぇよな…」


大丈夫でいられるはずがない。

静華も心配だが、平次もとても心配で。

そう思うと、居ても立ってもいられなくて。阿笠博士にお金を借りて、取るものも取らず、家を飛び出して……大阪に、向かった。


静華の無事を必死に祈りながら乗っている新幹線はやけに遅く感じて。

心に芽生えた不安と戦う事で、精一杯だった。


ようやく大阪青山大学病院に辿り着いたころには外は暗くなっており、心もかなり、消耗していた。

受付で確認すると、静華はまだ集中治療室に入ったままだと教えられて。

焦る気持ちと裏腹に、ゆっくりとした足取りでそこへ行くと……椅子に座って俯いている、平次が、いた。

平蔵がいないのは、一旦静華の身の回りのモノなどを取りに帰っているのだろうか。


「…服部…」


呼びかけたその声は小さいものだったが、周りが静かすぎる為、思いの外大きく響いて。

驚いたように、平次が顔を上げた。


「っ!? え、工藤!? 何でココにおんねん!?」


言われて、そういえばそうだと、自分でも思った。


「あ、や、考えナシに飛び出して来ちまって……俺……」


平次が心配で、気付いたら来てました、なんて。

よけいなお世話だったかもしれない。ただ、自分が近くにいたかったから……。

言葉を濁していると、フッと平次が笑う気配がした。


「…心配、させてしもたみたいやな…」


その声は普通を装っていたが、疲れている事が新一には解った。


「いや、つか、俺が勝手に…… まだ、意識戻らないのか…?」


聞くと、平次は小さく頷く。

とりあえずこんな所で立っているのも違うので、平次の隣に腰かけた。

が、それ以降お互い何も言わなくて、沈黙が周囲を支配した。


こんな時、気がきいた言葉の一つや二つ言えない自分が嫌になる。


でも、言わなくても、解る。 平次が、苦しんでいる事が。

無理をするなと新一に言ってくれたように、平次にも無理をするなと言ってやりたかった。


けれど、口にするのは躊躇われて。



その代わりに、そっと肩を寄せ。




コツン、と頭を平次の肩に置いた。





「っ…!」





温もりに驚いた平次は一瞬動きを止めて……。




バッと顔を手で覆って俯き、肩を震わせた。



「っ…服、部…」


「…スマン、けど…… ひとりに、してや …」



泣いている顔を見られたくないのだろう、平次はそう言うけれど、新一はそれをするつもりはなかった。


辛い感情が、解るから。 伝わってくるから。



これ以上、傷つかないで欲しくて。




我慢しないで欲しくて。





椅子に膝立ちになって、平次の頭をそっと抱き締めた。


「っ…――!?」


ビクッと身体を震わせた平次に構わず、抱き締める腕を少し強める。


「…見ねぇから………見えねぇから……… 大丈夫だから … ――… 一人で我慢、すんなよ ……」


本当は一人になんてなりたくないはずだ。


新一だって平次を独りにしていたくはない。



だから、ずっと、ここに。





傍に、いるから。






それを伝える代わりに、ギュッと平次を抱き締めた。

瞬間、グッと腰を抱かれて。

気付いた時にはもう、抱き締められていた。


平次の顔は、新一の肩に埋められて、見えないけれど。

それでいいと思って、震える平次の背中を労わるように撫でる。


「……っ…――工藤……」


小さく呼ばれた名前に。涙が一粒、零れ落ちた。




長い。 長い、長い時間。




そうやってずっと、抱きしめ合っていた。










 











コツコツと足音が聞こえてきた事で、平次と離れた時、見知った顔が……平蔵が見えた。


「平次、コレ……え、工藤くん、か? どないし…… あぁ、心配して、来てくれたんやな…おおきに」


笑った平蔵の顔からも疲弊が見てとれて、切なくなる。

立ち上がった新一は一礼をする。


「すみません、俺、いきなり押しかけてきてしまって…」

「いや、ええんや。 静華もきっと、喜ぶ思うで」

「せやで。 オカン、何や知らんけど、工藤の事、めっちゃ気に入っとるみたいやし」


いつもの調子で笑う平次に少しだけホッとしていると、平蔵が驚いたように目を見開いた。


「平次、お前……」

「? 何やねん?」

「…いや…… そうか。 工藤君のおかげやな…」

「え? 俺?が、何か?」

「いや、ええねん」


嬉しそうに笑う意味が解らず、首を傾げるが、平蔵は首を横に振っただけだった。

平次も意味が解らない様子で訝しげな表情をしている。

その時、集中治療室のランプが、消えた。


「え…?」


どうしたのかと声を出す前に扉が開き、看護婦や医者が出て来る。

緊張で、ドキン、ドキン、と心臓が強く脈打つ。

その中で一等貫禄のある医者が平蔵の前で止まり、笑みを浮かべた。


「もう、大丈夫ですよ。 奥さん、意識取り戻しはりましたよ」


「っ!!!」

「っ――!!」


声にならない声を上げた平次と新一とは違い、平蔵は深々と先生に頭を下げた。


「ありがとうございました。 もう、会うてもええんですか?」

「少しだけやったら、ええでしょう。 どうぞ」


足早に入って行った平蔵を見送って、平次に視線を向けると、こっちを見ていたのだろう平次と目が合った。


「? 何? 早く行ってやれよ?」

「やっぱりな、そう言う思てたわ。 ホレ、工藤も来いや」

「え!? 俺はマズイだろ!?」

「ええから!」


まさかの平次の発言に首を横に振ったのだが、腕を掴まれ、強引に連れて行かされた。


中に入ると、酸素マスクやら点滴やらで痛々しい姿ではあったが、以前見た時と変わらない静華の笑みがあった。

先に入った平蔵が静華の手を取って何やら話している。


ふとこちらに静華の視線が送られて。


「心配かけさせて、スマンかったね?」


以前と変わらない、優しい声が、聞こえた。


ようやく、身体中から緊張が抜け落ち、安堵した。


「ホンマやで! ごっつ心配したっちゅーねん! 早よ直さな承知せぇへんで!」

「そうやね、養生するわ。 ……工藤君、ありがとうね…」

「え、いえ! 俺、何も出来なくて…」


謙遜でも何でもなく、事実そのままにそう言ったのだが、静華はフッと笑った。


「嫌やわ、平次がこないに落ち着いてんの、工藤君のおかげやろ?」

「…へ?」

「なっ!? 何言うてんねん、オカン!?」


声を上げた平次に、平蔵の睨みが飛んだ。


「大声出すな、平次。 ホレ、もう行くで。 静華、ちゃんと養生せぇや? また明日来るから」

「アンタも、家のこと、しっかりしぃや?」


静華らしい返事だったことに少し笑い、そうして病室を出たのだった。










 











平蔵はまだ少し医者と話をすることがあるからと、二人で先に帰っているように言われた。

病院を出て、タクシーを待っている間、平次のこれからの予定を聞きだした。


「とりあえず、1週間大阪にいるってことでいいんだな? んじゃ、大学の手続きはしといてやるよ」

「おおきに」

「気にすんなって」


嬉しそうに笑う平次につられる様に笑みを浮かべた新一はそう言って、クルリと平次に背を向けた。


「じゃあ、俺はここで…」

「え…は、はぁああ!? ちょ、工藤、何言うてんねん!? ウチ泊まるんやないんかい!?」


驚いた声でそう言う平次に腕を掴まれる。


「え? んなワケねぇだろ。 すぐ帰るし」


最初からそのつもりだった。

けれど、それで騙されてくれないのが平次だ。


「ほ〜? ほんで? どないして帰るつもりやねん、工藤くんは?」


その優しい声色と言葉に、ギクリとする。


「そりゃ……その……色々…」


「ドアホ! もうバスも電車も新幹線も飛行機も出てへん時間やろ!!」


やはりその事に気付いていたのかと溜め息を吐きたくなる。

一瞬でも誤魔化せないかなと思った自分の考えは、甘かったらしい。


「…じゃあ、俺、ホテル取るから…」

「ウチに泊まればええやろ!」

「え!? んなの無理!」


咄嗟に、即答してしまっていた。

自分が心配でたまらなかったから来ただけなのに、これ以上の迷惑はかけられないと思っての発言だったが。

平次の機嫌を凄まじく悪くしただけだった。


「何でやねん! 俺と一緒に居るん、そないに嫌なんか!?」

「え!? ち、ちがっ、そんな事…!」

「せやったら、問題あらへんな!? 行くで!」

「あ、おい、でも…」

「行・く・で!」

「……」

笑顔で、けれども怒りを纏いながら強くそう念を押されると、新一は頷く事しか出来なかった。


平次の家に泊まれる事に喜びを感じないわけではないけれど。


自分が居ることによって。


また、平次に災いが降りかかってしまわないかと。





それだけが、不安だった。























事件(?)発生の回でしたvv
一応、今後の布石的な事件のつもりですvv
先は……長いですが……ιι

ちなみに病院の名前は作者様の名字をお借りしましたvv
考えるのがめんど……しっくりきますvv
次はちょっと時間を遡って、平次視点でお送りしたいと思いますvv


(2011.6.19)
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