手に入れる為に


失うもの




片恋 -5-





土曜日に映画を観に行くという約束をして、平次は次の授業へ行ってしまった。

新一はというと、次の授業まで時間がある。

一旦家に戻ったり、どこかへ行ったりするには中途半端な時間が余ってしまう為、小説を読もうと決めて持って来ていた。


人のいない中庭へと足を進めていた途中、急に呼び止められた。


「よぉ、工藤くん?」


呼ばれて振り返ると、ニヤニヤと何か企んでいそうな笑みを浮かべている男が立っていた。

瞬時に見た事はない、知らない人だと判断した。

顔はとても整っているが、その笑みがどことなく不愉快で、眉を顰める。


「…誰だ?」

「んなコエー顔すんなよな? 一応、先輩だぜ?」

「…先輩?」


オウム返しにそう呟くと、目の前の男は大きく頷いた。


「そ、俺、池垣晃(イケガキ アキラ)っての。 結構有名人なんだけど、知らね?」


名前を聞いた瞬間、溜め息を吐きたくなった。

そう、この男の言う通り、晃は超がつくほどの有名人だ。


晃は高校時代からモデルをやっていたという噂で、顔とスタイルは男でも女でも魅入ってしまうほどカッコいい。

性格も明るく、友達も多いというのも聞いた。

が、有名人とは決していい意味ではなく、むしろ、とても悪い意味だったりする。

『女遊びの池垣』、そんな彼の通り名通り、女遊びがすごく激しいと有名なのだ。

常に4又以上で、それを悪い事だと思わない性格なので、いざこざが絶えないらしい。

それだけではなく、男もイケるとの噂もある。


自分は事件を引き寄せる体質だと認めたくないけれど認めているものの、ここまで引き寄せなくてもいいではないかと嘆きたくなるのは仕方がないと思う。

また厄介事に巻き込まれるのが目に見えて浮かんでくるようだ。


「……知ってます。顔は初めて見ますけど…。 その有名人な先輩が、俺に何の用ですか?」


早くその場から立ち去りたくて、目的を聞きだす。


「ん〜? まぁ、用があるって言えばあるんだけど〜、なぁ〜? そんな冷たくしなくてもよくねぇ〜?」


新一の意図が解ったのか、晃はやたら間延びした楽しそうな声でゆったりと話している。


「用がないのでしたら、失礼します」


これ以上話していていも無駄だと判断した新一は、足早に晃の脇をすり抜けようとして……。

ガシッと腕を掴まれ、阻まれた。


「用がないなら離し…」

「工藤ってさ、ゲイ?」


言われた言葉に、思わず晃を見る目が据わってしまう。


「冗談やめてください。先輩でも蹴り飛ばしますよ」


不機嫌を顕わにする新一を余所に、晃は楽しそうに笑って。

驚くべき台詞を告げた。





「でもさ、服部のことが好きってんなら、そーゆーことだろ?」



「…意味が解りませんね」





心底驚いたものの、持ち前のポーカーフェイスを駆使して一蹴する。

ポーカーフェイスが有効だったのだろう、新一の感情が読みとれなくて晃は面白くなさそうに眉を顰めた。


「しらばっくれんなよな〜 …ったく、名探偵様は面倒くせぇな。 ホレ、証拠」


言いながら晃のポケットから取り出されたのは、携帯電話だった。


「?」


何がしたいのかと不審がる新一の前で、慣れた手つきで携帯を操作し、最後にピッとボタンを押した。

と、小さいが、聞きなれた声と流れてきたセリフに、新一はギクッとする。




『…好き、なんだよ……お前のこと…… 言ってる意味、解るだろ?』




―― …それ……は……





ドクドクと嫌な音を立てて心臓が早鐘を打つ。





『お前に彼女ができんの、すげぇ嫌なんだよ、俺。フツー、友達はこんなこと思わねぇだろ』






再びピッと音がして、再生が止められたことに気づき、新一はやっと我に返った。

あの告白を、聞かれていた。

聞かれていただけではない、録音されて……脅しの材料まで揃えてきている。用意周到だ。

それが解るといち早く、『一番いい方法』を頭の中ではじき出した。


「何が目的ですか? 俺に何をしろと?」


問うと、晃の笑みが深まった。


「さすが、話が早いな? …工藤、お前さ、俺とセフレになんねぇ?」

「お断りします」


有り得ない発言を即却下する。自分でも無意識の内に流れるように台詞が出てきた。

当然のことながら、晃からは不満そうな声が上がる。


「んだよ、即答かよ。 ちったぁ考えろっての」

「こっちだって聞けるものと聞けないものがありますので」


ピシャリと断言するも、まぁそう言うとは思ってたけどな、と晃は特に怒っている様子でもない。

その軽さからしてみても、たまたまあの告白を聞いてしまって、男もいける晃が新一に少し興味が湧いた、というところだろう。

男同士と知っていても躊躇いもなくセフレを提案してこれるなんて尊敬する。もちろん、悪い意味で。


「でも男好きなんだろ?」


ニヤニヤとした笑みを湛えながら聞いてくる晃に、新一はグッとお腹に力を込める。


「アイツだけです」


新一のキッパリとした答えに、逆に晃が驚いた。


「……へぇ…? …ずいぶん潔いんだな?」

「証拠まで揃えられたら、隠しても意味ないでしょう」


用意周到な晃の事だ。バックアップはとっているだろう事が予想される為、今ここで晃の携帯を壊してしまっても何の解決にもならない。

だとしたら否定して粘ってみても時間を浪費するだけだ。

新一が出来る最善は、晃の言い分を自分に有利な方向にもっていかせ、片を付ける事なのだ。

思考をフル回転させてその答えを導き出すと同時に、釘をさしておく為に言葉を続ける。


「他に出来る事なら、俺がしますので。 俺が好きなだけで、アイツは違うんですから…アイツは、関係ありませんから」

「ん? 何? そんなに服部が大事なのかよ?」

「アイツに関わらないと約束してくれるなら、ある程度は妥協しますよ、俺?」


晃の質問にはあえて答えず、ニッコリと営業スマイルを見せる。

新一の作り笑顔に絆されたのか、もしくはワザと騙されてくれたのか、晃も笑顔を返してきた。


「まぁ、俺が間男みたいな感じで、楽しいからいいけど。 つか最初から服部とどうこうなんて考えてねぇよ。 アイツは死んでも無理な種類だし?」

「それは良かったです。 出来れば俺もその種類に入れれば更に良かったんですけどね」


心からの本音をぶつけるも、晃は可笑しそうに笑い出しただけだった。


「っははは! それは残念だな? お前は、ドストライクだ♪」


言われた言葉にワザとらしく溜め息を吐くと、新一は携帯を取り出した。


「…アドレスと番号、教えます。 何か思いついたら連絡下さい」

「んだ、そのツレねー態度は? ……ま、今日のところはいいけどな。 その気になったらスグ言って来いよ?」

「では、一生ないですね」


拒絶を全面に押し出してみても晃は少しも堪えていないようで、本当に軽い気持ちなのだと解る。

いつもと違った気分を味わう為に帰り路を変えてみる、というようなノリなのだろう。

新一にとっては迷惑なことこの上ない。


番号を交換して、さっさとその場から立ち去ろうとした時、スル、と頬を撫でられた。


「お前のその強気な目、快感の涙で濡らしてみてぇんだよ……俺の下で、な?」


クスッと笑みを残して。 そのまま、晃の方が先に背を向けて去って行った。


晃がいなくなってから、大きな大きなため息を吐く。

どんなに美形でも、男からそんな事を言われても、嫌なだけだ。



冗談でも、寒気がする。



そう考えて、ハッ、と自嘲気味に笑った。




―― …服部も、そう……思ったんだよな…




そう考えるだけで、涙が出そうになる。

他の人にならどう思われようが、平気なのに。

どうして、平次だけが、こんなにも新一の心を揺らしてしまうのだろうか。



とにかく、平次に被害が出る事だけは避けられた。

それだけで充分だと思わなければいけないのだろう。



何かを壊したら。



その報いは、当然、自分が受けることになるのだ。



新一は壁に寄り掛かって空を見上げ、呟いた。


「……因果応報…だな……」









その意味は、痛いほど、知っていたはずなのに――。










 











空を見上げてどれくらい経ったのだろうか、辺りが少し暗くなってきたことで、帰らなければと思い至る。

結局、授業をさぼってしまったが、今の新一はそれどころではなかった。

幾度吐いたか解らない溜め息をもう一度吐いて、壁に預けていた体重を戻す。

そして心情と同様の重い足取りでのろのろと歩き―――丁度門に差し掛かった、その時。


「工藤!」


聞こえてきた声に、身体が震える。

視線を巡らせると、すぐにその人物が見えて、駆け寄った。


「えっ? 服部!? 何でいんの?」


時間も時間だし、授業終了時間も異なっていた為に帰る約束もしておらず、もう今日は逢えないと思っていたから、とても嬉しくて。

そう問いかけると、逆に不思議そうな顔をされた。


「何でて、工藤のこと待っとったからに決まっとるやろ?」

「………え?」


思いもよらぬ言葉に動きを止めると、溜め息を吐かれた。


「何やねん、その反応……“え?”やないやろ。 ちゅーか、メール見てへん?」

「メールって…え、マジ!?」


急いで携帯を取り出して開くと、画面には『新着メールあり』の文字が存在を主張している。

開くと、『まだ帰ってへんやろ? 一緒に帰ろうや! 門のトコで待ってるからな〜』という平次からのメールだった。


送ってきた時間を見ると、今から1時間以上前で。

その後にも、着信と、返事が返ってこない事に対して心配するメールが送られてきていた。

サッと血の気が引く。


「あ! 悪い! 俺、気付かなくて…」


顔を上げて平次を見ると同時に、頭にポンと平次の手が置かれた。


「ええって、逢えたしな。 俺が待ちたかっただけやから、気にすんなや」


一瞬、言っている意味が理解出来なくて。


けれど、理解した瞬間、カッと顔が熱くなった。


自分のポーカーフェイスはどこへ行ってしまったのだと思うくらい、心が感じるままに表情に出てしまう。

多分、不意打ちで言われた事が一番の原因だと思う。

だから、嬉しさが隠せなくて。

咄嗟に強引に顔を反らせて誤魔化してみたものの、ぷっと吹き出した平次には完全にバレてしまっている。


「カーワエエな、工藤♪ ホレ、帰ろうや」

「……あぁ…」


顔が熱いのは自分が一番良く解っていた為、平次を見ることなく頷いた。

平次はクスクスと笑いながらもこっちを見ないでいてくれるので、ホッとする。



先程の事…晃に脅されたりと、予想外な嫌な事はあったけれど。


こんな幸せな事もあるんだと、嬉しく思ってしまった。


後で、そんな自分がどれだけ甘かったかを思い知る事になるとも知らずに。
















だから、やっぱり、その時はまだちゃんと理解していなかったのだろう。














自分が壊してしまったソレは。















そんなに簡単なモノではないという事を―――。
































お待ちかね(?)のオリキャラ登場でございます〜vv
この子は、後に色々しでかす予定ですvv
良い意味でも、悪い意味でもvv
それにしても、オリキャラに寛容な方が多くて嬉しいですvv

ちょっとだけ平次新一がイチャつきました〜vv(え)
もっと大々的にイチャついてくれんかな、と常日頃考えて(妄想して)いるのですが、中々くっついてくれないんですよね、うちの二人はvv
まだまだ先は長いですけど、お付き合いいただければと思いますvv


(2010.10.17)
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