狂おしい程の 想い ――




片恋 -1-




恋がこんなに辛いものだったなんて、知らなかった。


好きになった相手がたまたま同姓……男で。


『両想い』なんて言葉は、考えるだけ無駄だと、気持ちに気づいた時から知っていた。



だけど、その時はまだ、知らなかった。





片想いよりも辛いものがあるだなんて……。










工藤新一はゆっくりと目を開け、ぼんやりとする頭で辺りを見回した。

一番最初に目に入ってきたのは電灯で、眩しくて目を細める。

しばらくしてようやく、自分の置かれている状況を思い出した。

昨晩は家で一人、浴びるようにお酒を飲んでいたのだった。


「……頭……痛ぇ……」


小さく呟いた自分の声でさえもガンガンと頭に響く。

いつもの事ながら、呑みすぎたと後悔する。

瞼を堅く閉じて、脳裏に浮かぶ、呑みすぎた原因の色黒の親友に愚痴をこぼす。


「…オメーの所為だ……バーロォ…」


言ってみるが、それが心からの言葉ではない事を自分が一番知っていた。

昨日、また平次が大学の女の子に呼び出されて告白を受けていたらしい。

原因はまさにそこにあった。


いわゆる、嫉妬、だ。


自分が男の服部平次をいつ好きになったかなんて、もう思い出せないけれど。

気付いた今はもう、抜け出せないくらい深みに嵌っていて。

きっと、出会った時から、特別な想いを抱いていたのだと思う。


他には、いないから。


新一が新聞から姿を消した、ただそれだけで、新一を訪ねて来た人は。


探す為に行動してくれる人を、他には知らない。


小さくなってしまった新一の正体を見抜いてくれる人を、他には知らない。


服部平次が最初で最後。




本当は、自分は蘭に恋をしていると思っていた。

確信もしていた。


それなのに。


そんな感情を一瞬にして消し去ってしまう程、鮮やかに、心の中に居続ける人がいた。


蘭に対して抱いていた想いが『恋』ではない、と。

『恋』とはそんなちっぽけな感情ではないと。

体感、して、しまった。


一時は自分の感情が信じられなくて、恋愛感情としての『好き』ではないと言い聞かせていたのだけれど。

それも、平次への想いを確信する手助けにしかならなくて。

程なくして、それが恋であると認めた。


だからと言って平次に告白なんて出来るはずもない為、ずっと友達でい続けようと考えていた。




最初の内は。




けれどすぐに、頭で考える事と心が思う事は、全くの別物なのだと思い知らされるだけで。

正直、辛い。

その最たるものが、嫉妬という感情だった。


平次はモテる。かなり。

今のところ全て断っているらしいのだが、平次が女の子に告白される度、新一の心が悲鳴を上げていた。

いつ、平次の好みの女の子が現れるか解らない。

いつ、平次が女の子と付き合ってしまうか解らない。


いつ……平次が自分の傍から離れていくか……解らない……。


それが例えようもなく、怖かった。


いくら親友だと思い込もうとしても、到底無理な話で。

胸の奥でもやもやとしたものが消えなくて。

あまり眠れなくなって。

多少強引でも、眠れるように、お酒を使う事を覚えたのだった。


二日酔いの痛みなんて、すぐに消える。

やっかいなのは、消えることなどなく、二日酔いの痛みでさえ霞んでしまう程の胸の痛みだ。

平次を見なければ想いが消えるだろうかと思ったりもしたが、気付いたら平次を見てしまう自分がいる。

平次と逢わなければ忘れられるだろうかと思ったりもしたが、1日大学を休んだだけで我慢出来なくなって逢いに行ってしまう自分がいる。

結局は現状を維持する事しか新一には出来なくて。


「…バーロ…」


今度は自分に向けてポツリと呟くと、新一はふらつく足取りで、酒の匂いを消す為にバスルームへ向かった。










 











シャワーを浴びて、石鹸の香りでお酒の匂いを隠す。

頭が割れんばかりの二日酔いと呼ばれる頭痛は、完璧なポーカーフェイスを駆使する。

が、新一の顔を見た瞬間、平次は眉を潜ませた。


「工藤また呑んだんか!? いつもいつも言うてるやろ、呑みすぎやて!」


一緒に大学へ行く為に迎えに来た平次は、待っていた新一の顔を一見しただけで、簡単に嘘を見抜く。

この時ばかりは推理力の鋭い平次を恨めしく思ってしまう。

気付かないでいてくれたら…どんなに楽だろうか。


「いいだろ別に。つか言われる程呑んでねぇよ」

「嘘言いなや! そないな顔して全然説得力ないっちゅーねん! ちゅーか、呑む時は俺を誘えて言うとるやろ!」

「…俺はお前と違って一人で呑むのが好きなんだよ……向日とか誘えばいつでも…」

「ア・ホ! お前、一人で呑む時の限度解ってへんやろ。 俺が止めたる言うてんのや!」


コツンと軽く小突かれ、押し黙ってしまう。

心配してくれる平次の心が嬉しいと、素直に思う。

その反面、友達としての心配をもらっても嬉しく思っていない自分がいる。

こんな醜い自分の心を自覚してしまうから……だから、気付かれないように頑張っているのに。

そんな努力を嘲笑うかのように誰よりも新一を解ってくれるのだ、この男は。

黙った新一の目の前に、すっと平次の手が差し出された。

渡されたのは二日酔いによく効くドリンク剤だ。


「ホレ、いつものやつや。 早よ飲んでまえ」


『いつもの』という言葉を強調して、呑みすぎを責められる。


「…家で飲んだからいらねーよ…」

「はっ! アホか! いつも言うとるやろ、お前の嘘は解る、てな。 ええから、飲めや」


何の迷いもない瞳を見ていられなくて、視線を反らせる。

家で一人で浴びるようにお酒を飲む事を初めてすぐに、平次は鞄の中に、新一専用の二日酔いに効くドリンク剤を常備するようになった。

新一がいらないと断ろうものなら、その場所から一歩も動かないのだ。

自分が歩きだせばしぶしぶながら付いてくるだろうと、平次を置いて先に行こうとした事もあったが、強い力で腕を掴まれて、阻まれた。

大学に遅れてしまうという脅しも効かない。


一度、流石の平次も大学に遅れたくはないだろうと思って、平次が折れるまで腕を掴まれたままじっとしていたこともある。


『そないに飲みたくないんか。 大学遅れてまうし……しゃーないな、今度はちゃんと飲めや?』


そんな言葉を言われるのを期待しての行動だったのだが…。


結論から言えば、3時間経っても、平次は動いてくれなかった。


その間、必死に平次を説得しても効果はなく。

午後から平次は必修の授業があるのを知っていた為、これだけはサボらせるわけにはいかないと、結局新一が折れたのだ。

本当は1限目も必修だったと後から解って、激怒したら、『工藤が飲まんのが悪いんやん』と事もなさげにのたまった。

この言葉で、この事に関して平次は何が何でも折れてはくれないのだと解ってしまったのだ。


本当は、二日酔いに効く薬は飲まないようにしている。

だって、飲んでしまっては、意味がないから。

心の痛みをまぎらわせる為に、お酒を飲んでいるのだ。


心の痛みを、頭の痛みと思い込ませて……。


頭の痛みだけが、身体中を支配するように……。



胸の痛みを消すくらい、もっと……。





……もっと……。





と、考え込んでいた新一を覗きこむように平次の視線が合わされて我に返る。


「工藤? まぁ〜た 飲みたないて、駄々、こねる気か?」


ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる平次にカッとなり、差し出されたドリンク剤を奪うように受け取った。


「なっ!? だっ、駄々なんてこねてねーだろ!///」


蓋を開けると、一気に飲み干す。

飲んでいる最中も平次がクックッと笑っており、早飲みに拍車を掛けた。


「っ…飲んだぞっ!」


飲み終えてキッと睨みつけると、笑顔の平次に良く出来ましたとばかりに頭を撫でられる。


「ちょっ、やめろよな!? ガキじゃねーんだから…」

「ガキみたいな呑み方してるからや。 ほれ、早よ行くで!」


ポン、と叩かれた肩に、小さな熱が灯る。

こんな些細なやりとりが、どれだけ新一の心を揺さぶっているか、知らないだろう。

否、知らない方が、いいのだ。

後れを取った分を小走りで追いつき、ふっと思い出してポケットから財布を取り出す。


「あ、服部! これの金…」

「金はいらんて言うとるやろ?」

「でも! 前からずっと受け取んねーじゃねーか! 1本ならまだしもこんなに沢山奢ってもらえねぇって!」

「嫌やったら、工藤が無茶な呑み方やめればええ、とも言うとるやんか。 せやろ?」

「っ…それ、は…」


ぐっと言葉に詰まる。

だが、どんなに正論を言われても、呑まないという選択肢は、新一には用意されていないのだ。

そうでないと、想いをぶつけてしまいそうで、困る。

平次が、だ。

だから毎回、ドリンク剤の代金を渡そうとするのだが、平次は頑として金は受け取らないのだ。

物品で返そうとするも、買う前に先手を打たれて止められる。

財布から抜き出した五千円札が行き場を失って宙で泳いだ。

しゅんとなった新一の頭に、優しい手が置かれる。


「今日、晩メシ食いに行こうや? そん時奢るっちゅーんでチャラや」

「…でもお前…そんなの意味なくなるじゃねぇか…」


今日、晩御飯を奢ったとしても、数日中に、そのお礼だと言って今度は平次が奢ってくれるのだ。

次の機会に奢ろうとするが、奢られる理由がないと却下される。

これでは本当に意味がない。


「素直にありがとーて言うとけばええねん。 ホンマ工藤はどないしたら素直に飲むようになるんやろな〜?」


―― …キスしてくれるのなら、いくらでも…。


咄嗟に心の中でそんな言葉が零れた。


一度だけでも。



平次の唇に触れる事ができるのならば…何だってするのに…。



ハッと我に返って自分の頭をゴンゴンと叩く。


「え、ちょ、何してんねん!?」

「何でもねーよ。ただの眠気覚まし」


言うと、平次はため息をついて苦笑した。


「何や悩みがあるんなら言うて来いや? いつでもええから」

「っ――!」

「ほれ、急げや工藤! 遅刻すんで!」


唇をきゅっと噛んで、足早に進む平次の後へ続きながら、聞こえないように、ポツリと小さく呟く。





「……じゃあ…教えてくれよ……」





この想いは。



お前にとっては邪魔にしかならない、この想いは。




どうやって、消せばいいのか…。






……  教えて  欲しい  ――。



























新連載スタートでございますvv
や、連載中の片付けてからにしろよ、という意見はごもっともでございますが、こればっかりはιι
長い目で見ていただけると有難いですvv

とゆことで、またまた新一の片想いから始まりますvv
…ん〜、何か新一の片想い話、多いですね〜ιι
まぁ、サイト傾向(てゆうか花蘭の文才がない故)だと思ってくださいましvv
これから存分に平次新一を動かしていきたいと思いますvv


(2010.08.29)
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