君が居てくれることが……



―― 奇蹟 ――





Deep Love

act 16





ぼんやりと意識を取り戻した新一はゆっくり瞳を開けた。

けれど発作の後のダルさがかなり残っていて起き上がるのはもちろん、目を開けるのでさえも億劫ですぐに瞳を閉じた。


―― 逢いたい……。


無意識に心の中で呟いていた。


誰に、と自分に問いたださなくても答えはもう解っている。

この広い広い世界で、新一がこうも逢いたいと願う人は一人しかいない。



もっと早く…出逢えればよかったと思う…。

もっと長い時間…一緒にいられたなら……どんなに良かったか……。

本当は中学生の時にだって、出逢えたはずだった。

あの、雪山で…。

すれ違った、のに…。


どうして自分はあの事件を解決したという中学生に会いにいかなかったのか、今でも悔やまれる。

心の中ではその中学生にとても興味を持っていたのに。

惹かれるものが……あったのに……。



けれど……例えばあの雪山で出逢っていたとしても…何も変わることはないのだろう。


どんなに早く平次に出逢ったとしても、今と変わることなく平次に恋をしているだろう。


今と変わることなく、告白も出来ずに想い続けているだろう。


今と変わることなく、暮らしているだろう。



何も、変わることなどないけれど…。



ただ…。




一つだけ…。




もっと早く平次と出逢っていれば……。










…もっともっと平次の傍に……いられただろう…。










ただ、そんな、当たり前の事だけど。










新一にとっては、何よりも大切な事だから…。










―― もっと早く…お前に逢いたかったよ、服部……










ふう、と苦しそうな息を吐き出すと、ようやく新一は瞳を開けた。

もぞもぞと布団から手を出して天井に翳すと開いたり閉じたりを繰り返す。

まだダルイけれど、身体はもう動きそうだ。少し熱があるかもしれないけれど、これはいつもの事だから特に気にはならない。

布団から出した腕が少し寒くなって再び布団の中に戻す。

そしてふと違和感に気がついた。


―― 何で俺、ここに居るんだ…?


確か自分は大学にいて。

移動中に発作が起こってしまい、グラグラする意識の中、ここで倒れるわけにはいかないと使われていない教室に入ったところまでは。

誰にも見つからないように、と強く願ったところまでは覚えている。

それがどうしてこんな暖かい布団の中で眠っていたのだろうか…?


ガバッと飛び起きるとクラクラする頭で周りを見渡す。

先ほどは寒いと感じたが部屋はとても暖かくなっているし、いつのまにか着替えもしている。

何よりこの部屋には見覚えがあった。

忘れようとしても…忘れられるわけがない、この部屋は…。


「ん?工藤、起きたんか?」

「っ!……はっと、り…」


小さな音を立てた開いたドアから平次が入って来た。

平次は驚きすぎて声も出ない新一に近づくと氷水が入っている洗面器を端のテーブルに置く。


「丸1日目ぇ覚まさへんかったから心配したで」


ホッとしたように言うと平次はベッドの枕の上にある濡れたタオルを拾い上げて洗面器の中へ浸した。

どうやら新一が気絶している間、看病してくれていたようだ。

タオルは新一が飛び起きた時に額から落ちたのだろう。

何か言おうと思うのだが言葉が出ない新一の額に平次の手がそっと触れて熱を測ると、平次は複雑そうに眉を顰めた。


「発作はおさまったみたいやけど、熱あんで。一応熱冷ましの薬、飲んどけや?」


平次は枕元のサイドテーブルに常備しおいた薬と水を手に取ると新一に差し出す。

しかし、新一がそれを受け取ることはなかった。


「っ!!俺に構うなっつっただろ!!」


どうしてあんな酷い言葉を投げつけても新一を助けてくれるのだろうか。

もう助けてくれなくていいのに。

もう構ってくれなくていいのに。

優しさを与えてくれなくて、いいのに。


傍に居るだけで、想いが込み上げてくるから…困る…。


「帰るっ!!」


新一は布団から出ると出来るだけ平次を見ないようにしながら足速に部屋のドアへ向かった。


「ちょお待てや!」


平次が焦ったように新一の腕を掴み引き寄せた。


―― バーロ。止めるなよっ!


これ以上ここにいたら何を口走ってしまうか解らない。


傍に居たいのは、こっちの方なのだから。


「何だよ!?」


新一は自分の負けそうになる気持ちに鞭打ってキッと平次を睨む。


「そない急いで帰らんでもええやろ!熱あるしコレ飲んだら俺が送ったるから…」

「構うな!!離せ!!」


新一は掴まれている手を振り払うように身を引くが、それよりも早く平次の掴む力が強くなって逃げられなかった。


「…まだ帰せへん言うてるやろ」

「うっせぇ!俺は帰るって言ってんだろ!離せよ!」



辛い…。



ここにいると…死にそうなほど嬉しくて……息も出来ないくらい、辛い…。



半ばヤケになって逃げようとする新一の耳に、小さな平次の溜息が聞こえた。

それだけでもう、泣きそうになってしまう。

自分はどこまで平次を困らせてしまうのだろうか。


だから。



だから、離れたのに。



困らせたくなんかなかったから…。





もう一度逃げようと力を入れた瞬間、平次が真剣な声で囁いた。


「スマン、な?」

「え…」


言葉の意味が解らなくて思わず抵抗も忘れて平次を見上げると、平次は手に持っていた熱冷ましの薬を自分の口の中に放り込んでいた。

と、思った瞬間、ぐっと腰を引き寄せられて…。





キス、されていた。





「っ…んんっ…んっ!?」


至近距離にある平次の顔に驚いている隙に、キスは更に深いものへと変わった。

力の抜け切っている唇を割って何かを送り込むように舌が入り込んでくる。

舌で渡されたソレが熱冷ましの薬だということに気付いたときにはもう飲み込んでしまっていた。

コクリ、と飲み込んだことでハッと我に返った新一はすぐさま離れようともがくが、平次は放してはくれない。


「っんぅっ!!」


それどころか、新一の全てを奪いつくすようなキスを仕掛けてきた。


なぜ、自分が平次とキスをしているのかが、解らない。


夢でも見ているのだろうか?



ならばこのまま、ずっと覚めなければいいのにと思う。



何かを考えようとするけれど、平次の口付けがそれをさせてくれない。



このまま。身を、任せてしまいたく…なる…。








―― 駄目だっ!!








瞬間、頭の中に響いた自分の声で再び我に返ると、思いっきり平次の胸を押し返した。


「…っに、すんだよっ!!」


キッと平次を睨みつけると手の甲で唇を押さえる。


「バカにすんのもいいかげんにしやがれっ!!」


そう叫んだ瞬間、痛いくらいに両手を掴まれてドンッと壁に押し付けられた。

新一をこんなに手酷く扱う平次は初めてで、新一は目を見張る。

平次の瞳は今までにないくらい真剣で。


「ちょお、黙れや…」


低くポツリと呟くと、平次は再び新一の唇を奪う。



新一が少しでも身じろげば、逃げるなとでも言うように追ってくる。

後頭部に手を添えられ、首を傾けるように何度も何度も角度を変えられて。

こじ開けるように忍び込んでくる平次の舌に、新一は抵抗なんて忘れてしまう。

平次の胸で弱弱しくつっぱねている抵抗ですらないそれだけが、新一の唯一の理性だった。

けれど平次はそれすらも許さないとばかりに、強引で少しだけ荒っぽいキスを繰り返す。



ずっと…触れたいと思っていた…人…。



頭の芯がクラクラして、蕩けてしまいそうに、なる。



舌が絡み合う度に甘い刺激が胸に広がる。



まるで夢のような、新一にとってはこの上ない、至福の時。



永遠に勝る、一時。





抵抗も忘れた頃、ようやく平次の唇がそっと離れた。

肩で息をしながら乱れた呼吸を整えようとする新一がゆっくりと瞳を開けたその時、平次の言葉が一気に現実へと引き戻した。


「これで熱は下がるやろ。ほしたらちょっとは気分良ぉなる思うし…」


その言葉を聞いた瞬間、冷水を浴びせられたように一気に新一の体温が下がった。

そう、これはキスなんかじゃ、ない。

ただ嫌がる新一に薬を飲ませるためだけの、ただの手段で。


「しっ…んじらんねっ!!」


ぐっと拳を握り締めうっすら涙を浮かべたままキッと平次を睨み付けると、一瞬の隙をついて一目散に玄関へと走った。


勘違いも、甚だしい。

自分と平次が少しでも近づけたような、そんな勘違い。

そんなこと、あるわけがないのだ。


新一はさっきの自分の記憶を消してしまいたいと心から思った。



一人で勘違いして…一人で舞い上がる……一方的な、想い…。



「工藤!!」



一瞬だけとった遅れをものともせずに、いとも簡単に新一に追いついた平次は新一の肩に手を掛ける。


「っ!」


新一はその手を乱暴に振り払うと平次を見ることもせずにドアノブに手を掛けた。

が、少し開いたドアに平次の手が伸びてきて、バンッと開かないように押さえつけられてしまう。


「っ何すん…」


カッとなって怒鳴ろうとした新一よりも先に、平次が声を荒げた。


「工藤!逃げんなや!!」

「っ!!」


平次の率直な事実に、新一が反論できるはずが無かった。

ぐっと言葉に詰まった新一に、平次は更にたたみかける。


「俺から、逃げんな!!」

「にっ、逃げてねぇよっ!!」

「ほんなら送られるくらい、されろや!!まだ調子悪いんやろ!?」

「――…っ!」


そう言われて初めて、熱から来るだろう疲労感やら頭痛やらでグラグラしていることに気付く。足元もおぼつかない。

フラフラしている新一の両肩に手を掛けて支えた平次は、強い口調で言った。



「工藤には構うなて言われたけど、俺、それだけは無理や」



その言葉に、新一は驚いて平次を見上げる。


「工藤には俺が居らん方がええんかもしれへんけど、俺には工藤が居らなアカンねん」


「…な、に……」



「ええか?いくら工藤が逃げたかて俺は何があっても捕まえるで!絶対に逃がさへんからな!」



平次の瞳は真剣そのもので。

熱い決意が、瞳の奥で静かに揺らめいたのが見えた。

初めて見る平次の姿に新一は言葉が出なかった。

平次はそんな新一を見て掴んでいる手の力を抜くと、くしゃっと新一の髪を撫でた。


「…送ったるから、中で待っとれや。すぐ支度するよって」


その、優しすぎる、慈しむように自分に向けられる瞳に、新一はきゅっと奥歯をかみ締めて小さな声で「解った」と告げる。

平次の言葉はいつも…いつだって新一の心に直接響いて揺さぶりをかけてくる。



それが…どんなに……。



新一は瞳を伏せると、心の中の嬉しいと思う気持ちには気付かないふりをした。










口移しサイコーvv ひゃっほーいvv(変態/笑)
雪山のネタ出してみましたvv
あんなときから二人が出逢ってるなんて、運命でなくて何と言うんですかっvv
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