きっと…



ずっと……




…… 欲しかった ――





Deep Love

act 15





「よう、服部!」

「偶然〜!」


そう声をかけられて振り返ると、友人の向日と永瀬がヒラヒラと手を振りながら平次へ近づいて来た。


「何、お前、休日だっていうのに男一人で寂しくぶらついてんのかぁ?」


ニヤニヤとからかうように言う向日に平次は苦笑する。


「そんなん、自分らに言われたないで。お前らもたまの休みやっちゅーのに男同士で楽しそうやんな?」


平次が負けじと二人を交互に眺めながらからかうように言い返してやると、向日は少し眉を顰めた。


「うっせ。永瀬がバイク買いに行くのに付き合えってしつこいから俺が付き合ってやってんだよ」

「は?何言ってやがる。もとはと言えばてめぇが暇だから遊びに行くぞって言ってきたんだろうが!」


大きく意見の食い違う二人に平次は思わずクスクスと笑ってしまう。


「で?服部は何してんだよ?」

「別に…ちょお考え事しとって…」


考え事と言うより決断を迫られていると言った方が正しいかもしれないと思ったが、平次はそれを口にすることなく飲み込んだ。

早く『ソレ』を決めてしまわなければと心が逸るけれど、そんな短期間で答えを出してしまってはいけない事で。

家で考えていても埒が明かないので外に出てきて今に至る。

そんな平次の複雑な心境を二人は察することなく、カラカラと笑い出した。


「考え事〜?服部が〜?」

「似っ合わね〜」

「やかましわっ!」


可笑しそうに笑う二人をジロリと睨み付けるが効果は無いようで、二人は苦しそうに笑っている。


「…お前らが俺んことどんな風に見とんのか、よー解ったわ。今度からお前らの課題手伝わへんからな」


そう言ってクルリと二人に背を向けると、二人は慌てたように平次の前に回りこむ。


「悪かったって♪」

「んなツレねーこと言うなよ、服部♪」


謝っているのだろうが、二人の顔はまだ笑っている。

そういえば、この二人に怒った素振りを見せても、効いた例がないことを思い出した。

平次は大げさに溜息を吐いてみせると、しっしと追い払うように手を振った。


「も、ええわ。バイク買いに行くんやろ。早よ行けや」

「あ、そうだ。行くぞ、向日!」

「おうよ!じゃ、またな、服部!」


軽く別れを済ませて歩き出そうとした向日が、何か思い出したようにピタリと足を止めて平次に向き直った。


「そう言えば服部、工藤と喧嘩でもしてんの?」


いきなり出てきた『工藤』という単語に平次はドキッとした。


「あ〜、ソレ俺も思ってた!もしかしてその考え事ってその事だったりするのか?」

「な、何でそう思うねん?」


ギリギリのところで冷静さを保ちながら聞き返すと、二人は顔を見合わせ、頷きあった。


「だってお前らってすっげぇ仲良かったのに、急に別行動始めたからさ」

「そうそう。一日だけ二人が別行動してんのもレアだってのに、もう一週間以上だろ?皆、口には出してねぇかもだけど、マジ驚いてんだぜ?」


その言葉に、平次の方が驚いた。


―― …そ…そない一緒やったやろか…?


以前はどうだったかと平次は真剣に思い返してみる。


朝は一緒に大学に行って。違う講義があったとしてもお昼は必ず一緒に食べて。大学が終わる時間が別々でもどこかで時間をつぶして一緒に帰っていた。

休日は一緒に遊んで、遅くなればお互いの家に泊まったりして。


「………」


思い返せば思い返すほど、新一と一緒にいた記憶しかない。



そんな些細なことさえも気付かなくなるほど、傍にいた。


「喧嘩ちゃうけど…ちょお事情あんねん」


結構深刻な事情だったりするのだが、それを知らない二人はふーんと呟いた。


「つか、お互い避けてるみたいだけど、服部の方がたまに工藤見てるよな?」

「だから、服部が工藤を怒らすようなことをしたってのが俺らの予想なんだけど?」


二人の言葉に、平次は息を呑む。そして小さく溜息を吐くと、くしゃくしゃと髪を掻き上げた。


「……お前ら鋭すぎやで……せやな、怒らせたっちゅーのは否定できひん…」


自分のエゴで新一の傍にいて。


どうやら嫌がっているようだと気付いていたのに、それでも、傍に居続けて。



新一に、あんなことを言わせてしまった。



配慮が足りないせいで、言いたくもないことを、自分が言わせてしまった。



『お前がいない方が、いい……もう俺に構うな…』



頭の中で響く新一の言葉に、ズキッとした痛みを感じて胸を押さえる。


辛そうな顔をした平次を見た二人は焦ったようにまくし立てた。


「何したか知らないけど、謝っちまえよ」

「そーだぜ。早くケリつけねぇと、このままずるずる引きずっちまうぞ?」

「…せやな…」






けれど、まだ、会えない。







まだ、『決心』が、つかない、から。







今度こそちゃんと二人と別れた平次は、手の中にある小さな紙包みを大切そうに持ち直すと、顔を上げた。











 












5限目の始まりの鐘が鳴り響くと同時に、ざわついていた教室内も徐々に静かになっていく。

平次は教室内をぐるっと見回して、新一が居ないことに首をかしげた。

この講義は新一も選択しており一緒のはずだ。それに新一が遅刻するのも珍しい。


―― 変やな。さっきまでおったのに…


そう考えて、ハッとした。


ガタンと勢いよく立ち上がった平次に驚いている友人に自分の荷物を任せると、返事も待たずに教室から飛び出した。


新一が講義に来ない理由は一つしかない。




……発作だ……。




発作が起きてどこかで気を失っているのだろう。



平次は頭をフル回転させて、新一の居場所の特定にかかった。

4限目の新一の講義の教室に急ぐ。

そしてその近くに人が来ない場所、あるいは使われていない教室などがないか記憶を辿った。


4限目の講義に行く新一を平次はちゃんと見ていた。学校に救急車が来ていないので、大勢の人がいる授業中には発作は出てないだろう。

となれば、4限目と5限目の間の休憩時間にいきなり発作が起こったに違いない。

新一は人に心配をかけるのを酷く嫌うので、どこか人の居ないところへ移動してあの発作に耐えていると推理する。

近くにずっと使われていない教室があったのを思い出した平次は一目散にそこへと急いだ。


息を切らせながらその教室へ飛び込むと、案の定新一が倒れていた。


「っ工藤!!工藤っ!!」


抱き起こすと、新一は気を失っているらしく力なく平次にもたれ掛かってきた。

布越しに伝わってくる新一の熱に、平次は心底ホッとした。

早鐘を打つ平次の心臓は走ってきたからという理由だけではないだろう。


ぎゅっと強く抱きしめて新一の存在を確かめる。




とても、怖い。




失ってしまうことが…怖い…。





深呼吸を繰り返して自分の心を強引に落ち着かせると、新一を抱き上げる。


久しぶりに近くで見る新一の顔をまだ眺めていたい気持ちを抑えると、人に見られないように移動してタクシーを拾った。

幸い人通りが無かったので、誰かに見られるという事体は回避できた。

気を失った新一を家まで送り届けようと思ったが、自分の家の方が近いこともあり、平次のマンションへ行ってくれと運転手に告げる。





家に入ると、まっすぐに寝室へ向かい、ベッドに新一をそっと寝かせる。

まだ少し苦しそうな呼吸をしている新一を見て、平次は心配そうに眉を顰めた。


「アホやな、工藤…何で俺を呼ばへんねん…」


いつも新一はたった独りで発作の痛みに耐えてきたのだろう。





苦しいときはいつだって呼べば飛んで行くのに。





何も出来ないかもしれないけれど……傍にいることくらいは、できるのに……。







新一が苦しいときこそ…傍に……いたいのに……。










広い広い家で独り……新一は何を思うのだろう……?

















…… 誰を …… 想うのだろう ……?
















ようやく落ち着いてきたのか、隣で静かな呼吸を繰り返している新一の頭を抱き寄せると、額にキスを落とす。


自分が何をしているのか解っていたけれど、やめる気にならなかった。




「…逃がしてやらへんで…」





誰に言うでもなくポツリとそう洩らすと、平次はゆっくりと新一の唇に唇を重ねた。


これがキスという行為で、それは好きな人同士がするということも解っているけれど。



そんなこと、今の平次にはどうでもよかった。






ゆっくりと、本当にゆっくりと新一の唇を味わうように啄ばむ。


乾いてしまった新一の唇を濡らすように何度も舐め、そのままスルリと舌を侵入させた。


―― …熱…


新一の口内は平次より熱く、少し熱があるのかもしれないと思う。


その熱さえも奪うように、力なく縮こまっている新一の舌を掬い取った。




正直、平次はあまりキスが好きではなかった。


今まで彼女達とキスはしてきたが、どうしてもソレが好きになれない。


柔らかくて気持ちよくないことはないのだが。


心が、繋がらなくて。


キスをするとやるせない気持ちに、なってしまう。




その、はずなのに…。




新一とのキスは、本当に気持ちがいい。


ずっと…ずっとずっと…していたいと、思った。



どうしてそう思うのだろうかと考えようとしたけれど、すぐに考えを中断させた。


考えたところで答えなどでるはずがない。


そんなことより、今はもっと新一を感じていたい。




この想いだけが、今の平次にとって全てだった。




更に何度も唇を重ねる。


その間に新一のシャツのボタンをゆっくりと外していく。


完全にボタンを外すと前をそっと開いて新一の肌へ手を這わせた。


きめ細かく透き通るように白いその肌に、酷くそそられる。


―― な、に考えてんのや、俺ッ!!


できるだけ新一の肌を見ないように瞳を閉じてしまうと、最後に少し強めに新一の舌を吸い上げてようやく新一から唇を離した。


邪念を振り払うようにぎゅっと瞳を閉じて頭を左右に振り、持ってきたタオルを手に取ると、うっすらと浮かぶ汗をそっと拭ってやる。やはり、直視しないように視線をさ迷わせながら。

背中に腕を回し上半身を起こして汗でしっとり濡れたシャツを脱がしてやると、用意しておいた自分のシャツを着せ、そっと新一をベッドへ横たえてボタンを留めようとシャツに手を掛けた。




と。見ないようにしていた新一の素肌が、平次の視界に飛び込んできた。





「っ…」





ヤバイ、と思ったが何故か固まったように新一の白い肌から目が離せない。






そのまま吸い寄せられるように、新一の肌に唇を落とす。





―― 〜〜〜っ!!ホンマ、何やねんな、俺は…っ





そんな自分を非難するような言葉を心の中で吐きながらも、唇で、つ、と新一の素肌をなぞりながら鎖骨にチュッと音を立ててキスを落とした。



もう、自分が新一に欲情しているのは、身体の反応で解っていた。





全てを手に入れたいと……思ってしまうけれど…。






平次は手の動きを止めるとぎゅっと拳に力を入れ、耐えるように瞳を閉じて深呼吸を数回した。



確かに、新一は全てにおいて魅力的で、このまま行為に進んでしまいたいと願う自分はいる。





けれど。






それ以上に。






新一の……心が、欲しいと思った……。








―― …心があらへんかったら……多分…意味ないんや……







身体だけを手に入れても、きっと空しいだけ。



失うものは大きく……得るものは、ない…。







平次は高ぶっている身体の熱を下げようと何度も深呼吸を繰り返した。


そして着替えさせた新一のシャツのボタンを留めると、上に毛布をそっと掛けてやる。



もう、自分の気持ちを誤魔化すことなんて、できやしない。




欲しい…。





心ごと……。






全部………。






工藤新一が  欲しい ―――。







けれど……。






いまだに、この感情を何と呼ぶのか…解らない。






人に対してこんな感情を抱いたのは生まれて初めてで。







それだけが、ずっと平次の胸の中でくすぶっている謎。



でも、それでいいと思う。



この感情がどんな名前であっても新一が大切であるという事実は変わりはしないのだから。





もう傍にいれないなんて、耐えられそうもない。











心は…決まった…。











一つの決心を胸に、平次はそっと瞳を閉じた。











平次はまだ自分の想いにいきつきませんιι
や、でも、男が男を好きだなんて簡単には考えつかないものですvv
平次の行動の意味も、後ほど明らかになるかと思いますvv
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