すれ違う……






行き場の無い  想い ―――







Deep Love

act 14





家に到着する直前に、再び発作が新一を襲ってきた。

眩暈に倒れそうになりながら、震える手で何とか玄関の鍵を開けて中に入ると、どさりとその場に倒れこんだ。


外で倒れたら誰に見つかるか分からない。

根性だけで玄関に辿り着いた新一は息つく間もなく激しい痛みにぎゅっと目を瞑った。


「っくっ……ふっ…ぅ…」


心臓あたりの服を力の限り掴んで痛みに耐える。

目の前がグラグラして吐き気もしてきたが、痛みが酷くて気絶さえもさせてもらえない。

自分が息をしているのかも解らずに、ただ痛みが過ぎるのをやり過ごす。



それでも……。



心が感じる痛みよりは…全然マシだと、思う…。









『お前がいない方が、いい…』



―― バーロ…んなハズ、ねーだろ…



平次は新一の本気だと思ったようで、凍りついたように固まっていた。

その姿に心痛まなかったわけではないが、新一はこうするより他になかった。



発作が平次にバレてしまえば平次が新一の心配をして傍に居てくれるのだろうという推理は大当たりで、平次は何かと新一の隣にいるようになった。

自分がいるだけで、平次は不安に襲われてしまうのだ。

倒れてしまうのではないか、と心配してくれるのは、正直とても嬉しい。





けれど。





重荷になっては、いけないのだ。





新一に気をとられている所為で、彼女と楽しく過ごすはずだった時間も全て潰してしまっている。


笑っていられるはずのその時も、新一の心配へと心を費やしている。





そんなことをさせておいて、新一が嬉しいわけがなかった。


自分の所為で…平次の幸せな時間を奪っているのだから……。



―― 疫病神みてー…



自分の存在自体が、平次にとって疫病神みたいなものだろう。

だったら、離れる他にないのだ。


離れて。



新一が傍に居ないのが当たり前になって。




新一の存在を忘れることで平次が幸せになれるのなら…それもいいと、思う。





死ぬほど……苦しいだろうけど……。





けれど、新一にとって平次が全てになっているから…。

その全てを与えてくれた平次が幸せになってくれればいいと、心から願う。



平次には「死なない」と言ったものの、自分の寿命があとどれだけあるのか解らない。

でも、確実に皆より早く尽きるだろう、この命。



―― 先に死んで…お前を悲しませる奴のことなんか……忘れちまえよ……



瞳を閉じると、新一は痛みを和らげるためにゆっくりと息を大きく吸った。

もちろん、そんな行動は何の役にも立たなかったけれど。



あの言葉を言うのに、自分がどれだけ力を使ったか、平次は解っていないだろう。

本当は、家で何度も何度も練習をした。

笑ってその言葉が言えるように。


何でもないことのように聞こえるように、何度も何度でも。


それは決して容易いことではなかった。


心が引き裂かれた方が、マシだと…思った…。



平次の写真の前でソレを練習し続ける自分はさぞかし滑稽だろう。

だけど、そうでもしなければ……どうしても言えないセリフだったのだ……。



もう話しかけてはもらえない。



言葉を交わすことも、なくなる。



笑顔だって…見れない…。



平次にばれてしまった以上、こうなることは覚悟の上だったはずなのに、どうしても後悔が消えない。

だから…平次の行動や言動…笑顔を忘れないように…必死に刻み付けてきたのに…。

もう十分なほど頭の中に刻み込んだから大丈夫……などとは、決して言えない。

「もう十分」と思える限界はないだろうから。







ずっと…見つめていたい…と…想う。






―― ごめんな…服部…



決して届かない言葉を何度も何度も心の中で繰り返しながら、限りを知らない痛みにただ耐えた。















 
















平次は落ち込みの極地のオーラを纏いながらフラフラと家に帰ると、ベッドに倒れこんだ。



―― 流石に…キッツイわ…



新一のあの発作を知ってからというもの、自分が何かと新一の傍にいるようになったと思う。

新一がソレを何だか不快に思っていることも気付いてはいた。

だけど、新一の感情を無視してまで、平次は強引にも新一の傍にいることを選んだ。

偶然を装って一緒に帰宅したり、大した用事ではないのに電話をしたりと、自分でも心配性だと思ったりした。


自分の目の届かないところで倒れられでもしたらと不安でたまらなかった。



同情などでは決して無い。






唯……。






傍にいたいと…想った…。







新一の一番近くにいるのが自分であることを…強く強く、望んだ…。







それなのに…。





自分は、うぬぼれていたのだろうか…?

いつでも、どんな時でも自分の傍には新一がいるということを疑ったことは一回だってなかった。



当たり前のように新一が傍に居て…。



当たり前のように、新一が自分に笑顔を向けてくれると…。



何が起こったって、ソレが失われることなどないと信じていた。






『お前がいない方が、いい……もう俺に構うな…』






一瞬、何を言われたのか解らなかった。

否、本当は唯自分が解りたくなかっただけなのかもしれない。



けれど…。



傍にいるな、と。



直接的な言葉で、そう、言われてしまった。



―― ウソや!!工藤がそないな事思うはずあらへん!!



咄嗟に心の中でそう叫んでいた。

硬いポーカーフェイスの瞳の奥深くに、悲しそうに揺らぐ新一の嘘が、微かだったが見えたのだ。


けれど。


遠ざかっていく新一を追いかけたかったのに、もしもう一度同じ言葉を言われたらと、怖くなった。

新一に否定された恐怖で身体が固まったように動いてはくれなかった。



去る者を追うことはしない平次だが、こればかりは“はいそうですか”とはいかない。

こんなに気が合って、一緒に居るだけでも楽しくて…心地良い新一から離れろと言われても、出来るわけがない。
平次は男友達の中で新一が一番好きだし、新一もそう思ってくれていると信じていたのに。

もしかしたら、平次が思うほど新一は自分のことを好きではないのかもしれない。

もちろん、嫌われていないということは態度でよく解る。

けれど、新一の【一番】は他にいるのかもしれない。

そう言えば、以前新一は好きな人がいると言っていた。

新一の【一番】はその子なのだろう。…けれど……男の中だけでいいから新一の【一番】になりたいと心から思う。



そう考えてから、心の中にあるひっかかりに、平次はふっと苦笑を零した。



―― …ちゃう、な……



男の中の【一番】でいい、なんて、本心ではないのだ。






新一の中で唯一の【一番】でありたい…。





新一の好きな人のことを考えるとチリッと胸が焼けるように痛むけれど、考えずにはいられない。

新一が好きな人に気持ちを伝えないと言っていたのは、どうしてだろうとずっと考えていた。



だけど。



もしかしたら、発作のせいかもしれないと、思った。



新一は自分で死ぬことを受け入れていて。それでも死なないと、死ぬ意思は微塵も無いけれど。

でも、死というモノは本人の意思に関係なく突然に襲ってくるものだ。

そんな、先に死んでいく新一が、どうして愛する人に想いを打ち明けられるだろうか。



もちろん、嫌われたくないから伝えないという新一の言葉も本心なのだろう。



けれど。










伝えられない のかもしれないと、思った。










愛する人に想いを伝えるだけ伝えて、死んでしまうのなら…残された人がどんなに苦しむか、新一は解っているのだ。

愛する人だからこそ、そんな想いをさせたくないのだろう。





自分の感情を押し殺してまで、愛する人を傷つけまいとする新一の深い想いは…。







何て…残酷で、痛くて、辛くて……優しすぎる、愛だろうか……。







ぎゅうっと胸が締め付けられるような痛みに襲われた平次は拳を握り締める。



新一のことを考えると酷く苦しい。



姿を見るだけでも、とても苦しい。




傍に……いられないから……苦しい…。





それならば新一のことを考えないようにすればいいと、解っている。



見なければ…







いっそ、忘れてしまえばいいのに……。









けれど、それだけは出来ないことも、自分で解っている。






だから、苦しい…。






苦しくて苦しくて……堪らない…。







どうすればこの苦しみから逃れられるのだろうか。























平次は瞳を閉じると、長く息を吐いて、ゆっくりと目を開けた。



―― アカン…



自分の弱くなる気持ちに叱咤して、ゴロンと仰向きに寝転ぶと、平次はキッと天井を睨みつけた。

苦しみから逃げようとしているだけでは何も解決はしない。

傍にいられない苦しみを消すには、新一の傍にいるしかない。

今平次がすべきことは、新一の傍にいるためには何をすればいいのかを考えることだ。


平次は天井に手をかざして、ぎゅっと握り締めた。






死ぬなんて、絶対に許さない。









自分を置いて逝くなんて、させない。













手離すつもりは……毛頭、ない…!!















勢いをつけてベッドから飛び起きると、平次は素早く身支度を済ませ目的地へとバイクを走らせた。










さて、平次が動き始めますvv
どこへ向かったかは後ほど明らかになるかとvv
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