熱を与えてくれるのは





君 ――





Deep Love

act 12




『びょ、いん……行っても…変わ、んね…よ…』


その一言で、平次には全て解ってしまった。

この発作が初めてではないということ。

APTXという、新一の身体を縮めてしまった毒薬の所為だということ。










…新一が…死んでしまうかもしれないと、いうこと……。










理解した途端、頭は冴えているのに身体が凍ったように動かなくなってしまった。

苦しんでいる新一をベッドまで運んでやらなければならないと考えるのに、身体はピクリとも動いてはくれない。





平次にとって、死はいつでも事件と共に付いて回るものだった。


呼吸・脈の停止。

出血多量。

死後硬直。

など、頭では理解している。




死がどういうものか、解っている。















……もう二度と……会えないということ……。















新一はいつでも自分の傍にいてくれると思っていた。

本当に当たり前のようにずっと一緒に居られるのだと信じきっていた。

そんな当たり前だった日常が一気に音を立てて崩れ落ちる。







心が、急速に冷えていく。




















ナニモ、カンガエラレナイ…。

























「服部!」


新一の力強い声で、平次はハッと我に返った。新一と瞳が合うが、どうしても身体が動かない。

すると、新一は額に汗を浮かべながらも微笑んで見せた。




「大丈夫、だ…から。俺、死なねぇか、ら」




瞬間、自分に熱が戻ってくるのが解った。




新一の言葉が熱となって平次の身体を解かしていく。




まだ恐怖は残っているものの、身体は動くようになっていた。





「工藤!!」


すぐにプツリと力尽きたように新一の身体が崩れるのをしっかりと受け止めると、平次はまだ混乱している頭で次にどう動くべきなのか考える。

意識がなくなった新一をひょいっと抱き上げ、あまり振動が伝わらないようにベッドへと運んでやった。

抱き上げたときに新一の身体が熱っぽいことに気付いた平次は、急いで洗面器に水を張り、氷を浮かべてそれにタオルを浸して硬く絞り新一の頭へと乗せてやる。

乾いたタオルも持ってきて、新一の肌に浮かぶ汗をそっと拭った。

まだ苦しそうに眉を顰めてはいるものの、発作はおさまったようで荒いが規則正しい呼吸が繰り返されている。



新一の落ち着いたと解る様子にホッと胸を撫で下ろしてみるものの、未だ平次の心は早鐘を打っていた。

心臓がドクドクと忙しなく脈を刻む。


「…工藤…」


名前を呼ぶが、当然新一からの返事は無い。


先ほどもそうだが、昨晩眠ってしまった新一を抱き上げたとき、平次は心底驚いた。


軽すぎるのだ。


そして、よく見ると新一は嘘のように身体が細いことに気付く。ウエストなどは抱きしめてしまえば折れてしまうのではないかというほどだ。


もともとスラッとしていた方だったが、これはちょっと痩せすぎだろう。

平次と比べると一回りほども違うその細さに、平次は切なそうにため息を吐いた。



どうして気付かなかったのだろうか。





こんなにも…新一は弱っていたのに…。





新一の見せる瞳はいつだって、初めて出逢った時から変わらずに強い光が灯っているから。

だから…強いのだと、思っていた…。


新一から悩みを告げられることは本当に少なく、自分の方が相談を持ちかけることの方が断然多い。

当たり前のように怒ったり、拗ねたり、笑ったりするから…見落としてしまう。


推理するときの冷静さや、頭の回転などはピカ一だし、自分と対等にはれるのは新一しかいないと思っている。

けれど、その裏側までは…知ってはいなかったのだという事実に気付かされる…。

新一が必死になって隠していたのだろう。だから、気付かなかった。

しかし、だからと言って気付かなくていいわけではないのに…。




自分はいつも大切なところだけを…見落としてしまうのだ…。




「…アホや……」




新一のことならすぐに見抜けるはずなのに。

なのに、こういう重大なことに限って、新一は完璧なほど隠し通してしまう。

どうして言ってくれないのだろうかと新一を恨んでしまうのは致し方ないことだろう。

でも、どうして新一が平次に言わなかったのか…解る、気がする…。




不安に…させてしまうからだと、思う。




いつだって新一は平次に心配を掛けまいとしていることには気付いていた。

だから尚更、このことは知られたくないと考えたのだろう。


―― …ホンマ、ムカつくわ…


憤りで頭が沸騰しそうだ。

平次に嘘を付いてまで発作のことを隠していた新一に対して、ではない。

新一に嘘を付かせ続けていた自分に、だ。


嘘を付くことが…辛くないはずはないのに。


それなのに新一は当たり前のようにいつも傍に居てくれる。

隣に、居てくれる。

平次は切なそうに新一を見やると、暖かいその手を包み込むように握り締めた。










 











暖かい何かに包まれている感じが、する。

この暖かさには覚えがあった。

一回だけだったけど、忘れられるはずが無い温もり…。



―― 服部…



ふっと目を開けると、眩しい光が新一の視界に飛び込んできて、少しだけ目を細める。

それと同時に、平次の心配そうな顔も視界に映った。


「工藤?起きたんか?いけるか?」


心配そうに覗き込んでくるものの、いつもと変わらぬ平次だったことに、新一はホッと胸を撫で下ろした。


「ん、大丈夫…」


少しだけダルい身体を起こすと、平次は出来たばかりなのだろう湯気が立ち上る朝ごはんを新一の枕元のテーブルに置いてくれた。


「食欲あらへんやろうけど、ちょっとでもええから食えや?水もここ置いとくで」

「サンキュ…お前は?」

「あぁ、工藤の眠っとる間に勝手に食べさせてもろたで。」


本当にいつも通りの平次に、新一はふっと笑みを浮かべた。



同情の優しさなら、欲しくは無い。



それは平次も解っているのだろう、心配する素振りは見せるものの、それは決して同情などではない。


「せや、今日約束しとった映画どないする?無理やったらまた来週にでも…」


ふとカレンダーを見ると、今日は映画を約束していた週末だった。


「行く。行こうぜ」


間髪いれずにそう返した新一に、平次は飲んでいたコーヒーのカップをテーブルに置いて新一を見る。


「はぁ?大丈夫なんか?」

「当たり前だろ。んな大げさなもんじゃねぇんだから」


本当に何でもないという風に黙々と朝ごはんを食べながら言ってのける新一に、平次は小さく溜息をついて苦笑した。


「せやな。工藤、めっちゃ楽しみにしとったもんなぁ」


その言葉を聞いて咽そうになったのを必死に堪えた新一は、何とか食物を飲み込んだ。

バレていないとは思ってはいなかったが、バレていると解るとそれはそれで少し癪なのだ。

それと同時に、こんなにも自分のことを解ってくれていることが、嬉しい。



だけど…。



「ごちそーさん。俺、シャワー浴びるから」


平次の作った朝ごはんを綺麗に平らげると、食器を持って立ち上がる。

すぐに平次の腕が伸びてきて、新一が流しに持っていこうとしていたお皿をひょいっと奪われた。


「片付けは俺がしとくわ。工藤は支度せえや」


ニッと笑って、さり気なく手助けしてくれる平次に、新一は胸が熱くなった。


―― 気が利きすぎだっつーの…


朝目覚めると平次が居て。おはようと言える。

まるで一緒に暮らしているみたいに錯角できて、すごく嬉しい。

平次と一緒に暮らせたら…毎日が夢のように幸せだろうと思う。



けれど……。



洗面所に入って扉を閉めた新一は、壁に寄りかかったまま切なそうに眉を顰めて瞳を閉じた。



確信、してしまった。



バレてしまったからには……終わりは、近い……。




だから、今のうちにできるだけ平次と一緒にいたかった。




一緒に映画を観て……ぶらぶら街を歩いて……事件を解決して……。








…長く……。








少しでも、長く……傍にいたいと……想った……。










 











支度を済ませた平次と新一はそろって家を出た。

映画を観る前に少し時間があったこともあり、ぶらぶらしようということになった。

映画館の近くにあるデパートの一角で、新一はふと足を止めた。


―― コレ……


新一が手に取ってみたものは、ストラップだった。

銀のプレートに透明な石が埋め込まれている、シンプルなもの。色は青と緑の二色。

その緑のストラップを手にとってじっと眺める。

何はないけれど、ただ、少しだけ……平次のイメージのするソレ。

新一はふっと笑みを浮かべると、ラスト一個だったのもあり、すぐにレジに持って行って会計を済ませてしまった。


「何やぁ、工藤何か買うたんか?」


お金を払って商品を受け取ったとき、トイレから戻ってきた平次が新一の持っているものを覗き込んできた。


「ん。ストラップ♪」


袋から出して携帯に付けて平次にも見せてやると、平次は不思議そうに新一を見た。


「緑?いっつも赤とか青とかしか買わへん、工藤が?」


平次の何気ない質問に、新一はギクッとする。


「べ、別にいいだろ、んなこと!緑の気分だったんだよ!」


悪ぃか、とジロッと軽く睨みつけながら言う新一に苦笑を浮かべた平次は、ふと商品棚に目を留めた。そして新一の買った対になる青い石のストラップを手に取った。


「あ、コレの色違いなんや。それ、ラス一やったん?」

「そーだけど…」

「ほんなら、俺、こっちの青買うわ。こっちもラス一やし」

「えっ!?」


驚いている新一を他所に、平次はさっさとお金を払ってしまった。

それを呆然と眺めている新一の方に帰ってきた平次は二カッと笑った。


「おそろいやな、工藤♪」

「っ!!」


不意打ちでそんなことを言われ、かぁぁ、と顔が赤くなる新一を見て、平次は更に嬉しそうに笑って新一の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「ほぉんま、工藤は解りやすいなぁ♪俺も嬉しいで♪」

「…うっせーよっ」


おそろいと言う言葉は、新一にとって本当に嬉しいものだった。

今までペアリングが欲しいという女の心境が解らなかったが、今ならすごく解る。

おそろいというモノがこれほど嬉しいものだとは、知らなかった。


平次も袋から取り出すと、いそいそと自分の携帯に付けている。


「ほな、行こか」


ストラップを付け終わった平次は、時間を確かめようと腕時計を見た。

と、そのとき、新一がずいっと平次の目の前に何かを差し出した。

見るとそれは先ほど新一が買ったばかりのストラップで。


「ん?どないしたん?」

「…やっぱり、青がいい」

「は?」

「青がいいっつってんだろ」


新一の端的かつ何の修飾語も入っていない言葉に、平次は首を傾げた。

そして、すぐに思い当たった推理を口にする。


「……取り替えろっちゅーことか?」


新一がこくりと頷くと、平次は思わずぷっと噴出してしまった。


「しゃーないなぁ」


クスクスと笑いながら自分の携帯につけたストラップを外し、新一に渡してやる。

その時、ぱっと花が咲いたように笑顔になった新一に、平次はしばし目を奪われた。



―― また、や…///



ドクドクと鼓動が煩いほど高鳴っている。

思わず新一を抱きしめたくなった自分の行動が解らない。

そんな平次に気付かない新一は大事にストラップを両手で包みこむと嬉しそうに笑いながら携帯に取り付け、「行こうぜ」と歩き出した。

新一から渡された時に一瞬触れた指先が熱い気がするのは、気のせいだろう。

平次は新一に気付かれないように深呼吸をすると、足を動かした。




しかし、これで終わりではなかった。

映画館で映画を観ている最中も、正直映画どころではなかった。


―― これ、席、近すぎちゃうんかっ!?


そう、隣に座っている新一の腕と腕とが触れそうで、かなりドキドキしていた。

弾みで少しだけ触れてしまったときなどは、自分でおかしいと思うほどビクッと反応してしまった。

チラチラと映画を観ながら、心の中では新一が気になってしかたがない。

以前ならこんなこと考えなかったはずなのに、自分はどうかしてしまったのだろうか?


―― も、ワケ解らへんわ…


映画に集中しようとするが、新一の笑顔が平次の頭から離れることはなかった。












物々交換ですvv(笑)
ペアっていいですよねvv響がいいですよねvv
さてさて、次はほのぼのからシリアスになる…かも…
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