死んでいく『覚悟』と






生きる 『覚悟』 ―――








Deep Love

act 11




―― …ったけぇ……


何だか、とても暖かいと感じる。

いつもなら、寒く冷たいだけなのに、今日は信じられないほど暖かい。


新一はその暖かさを求めるように擦り寄った。

するとその暖かさはビクッとして少しだけ遠くなったが、すぐにその暖かいものが伸びてきて頭を撫でてくれる。

幸せな気持ちになりながら、その暖かい正体を見ようと、新一はゆっくりと瞳を開けた。


「工藤、起きたんか?」

「…ん、〜…?」


誰が話しかけてくるのだろうかと、寝起きの悪い新一はぼーっとしながら考える。


「ホンマ、工藤は寝起き悪いなぁ」


クスクスと笑うその柔らかい声にはとても聞き覚えがある。



―― 誰だっけ…?



「ん?また寝るんか?」

「…起き…る…って…」


起きたいけど、もう少しこの暖かさの中眠っていたい。


「ほな、早よ起きんとな」


ポンポンと頭を軽く叩かれ、閉じかけていた瞳でぼーっと相手を見つめる。




黒い肌。整った男らしい顔立ち。












……………。












「っ!!!」


瞬間、弾けたように新一は目を覚ました。


「おはよーさん!目ぇ覚めたか?」


ニッコリと笑顔を向けてくる人間は、服部平次で。

新一は信じられないものを見たかのように固まってしまった。


「昨日工藤がうなされとったから傍に居ったんやけど」


どうして平次がこんなところにいるのかという理由を新一にも解りやすく説明してくれる。



ふと新一は自分がソファではなくベッドの上にいることに気付いた。

眠ってしまっている間に平次が起こさないようにとベッドに運んでくれたのだろう。



だけど、当の新一はそれどころではない。



何となくではあるが、新一も夢うつつに覚えていることがある。





『っ…そ、ばに……今だけっ…傍に、いろよっ…!』











少しだけでいいから。














夢が覚める、今だけでいいから。




























…… 傍に ……。


































一気に顔に熱が集まる。


「工藤、悪い夢でも見たんか?」

「え…あっ…」


考えに耽っていた新一は平次の問いかけに思わず声が裏返ってしまった。


「何や、まだ寝ぼけとるみたいやな」


明らかに挙動不審な新一にも平次は優しく笑ってくれるので、いくらかは気持ちが落ち着いた。

心の中で深呼吸を繰り返すと、平次に向き直る。


「わ、悪かったな…その…」


モゴモゴと言う新一に気付かれないように平次は小さくクスッと笑った。


「ん?ああ、全然かまへんて!気にすんなや!」


安心させるためにニッと笑って見せると、ようやくホッとしたのか新一の緊張も解けたみたいだった。



「…コーヒー…」


「ん?」


「飲むだろ。淹れてくっから…」



気にするなとは言われたものの、やはりどこか気まずく思った新一は平次から視線をはずすと、適当な理由をつけて平次の返事を聞かずにそそくさと部屋から出て行った。



新一が出て行ってシーンとする部屋に取り残された平次は、ふう、と息を吐き出した。


どうしてか、新一の傍にいると心臓が落ち着かない。

もちろん新一の前では、そういう雰囲気は必死に隠して平然とした顔をつくろってはいたのだが。


そして一人になって考える余裕が出てきた平次は、新一のちょっとした異変に気づいた。



最近の新一は、笑わない。



いや、笑うことは、する。

だけど、その笑顔には心がない。


無理して笑っているような、そんな表情。


人付き合いがあまり上手でない新一が笑顔を向ける人間は少ない。


だけど、仲良くなれば心からの綺麗な笑顔を向けてくれるのだ。



そして、ふと思う。



いつから新一の心からの綺麗な笑顔を見ていないのだろう?

考えてみるけれど、新一の笑顔を最後に見た日が思い出せないほど昔で。









――焦った…。








新一のはにかむような笑顔が。


ぱっと花が咲いたような笑顔が。





平次は何より好きだったのに――。





思い出せない自分が、腹立たしい。


そして、そんなことにずっと気づけなかった自分を殺してやりたいと思う。





















と、新一がいるキッチンからガシャーーーンッという大きな音が響いた。


「っ!な、何やぁ!?」


驚いてソファから立ち上がると、急ぎ足でキッチンへと向かう。

恐らくは何からの拍子に躓いて鍋などをひっくり返してしまったのだろうと思いながら、ひょいっとキッチンを覗き込んだ。




「工藤、どないし…」




そう言いかけた平次の視線の先には、倒れて苦しそうに胸元を押さえている新一が居た。

平次が頭で考えるよりも早く、身体が新一の元へと走っていた。



「工藤ぉ!!!!」


急いで新一を抱き起こすと、新一は額に汗を浮かべたままうっすらと目を開いた。


「っ…と、り…」


新一の視界に驚いている平次が映った。



とうとうバレてしまった。






知られたくなかったのに……平次にだけは……。






ぎゅっと目を瞑ると、ありったけの冷静な声を出した。


「っ…さ、わぐな…っ…いいか、ら……じっとしてれ…ば…」


慣れている様子で痛みに耐える新一に、平次は目を見張った。


「まさか…前からあったんか、ソレ!?」

「っ……ち、がっ……」


新一のそのセリフだけで解ってしまう。違うと言う新一の瞳から平次は簡単に嘘を見抜いた。


「何で言わへんねん!?何時からや!?」

「…っ………」


「っ!!そないに前からか!?」


何も言わなくても、新一の本当に小さな変化で平次は解ってしまう。











だから。


















だから、平次の前でだけは倒れたくなかったのに。



















「アカン!病院行くで!!」


関を切ったように新一を抱いて立ち上がろうとした平次の腕を、新一は弱弱しく押しのけた。


「っ…め、だっ…やめ、ろっ…」


声を出すのも苦しそうなのに新一は必死に平次を止める。

平次にはどうしてか解らない。


「何でや!?工藤そないに苦しんで…」

「や、めっ…」


新一はそれでも頑なに首を横に振り続ける。


痺れを切らした平次は救急車を呼ぼうと、ポケットの携帯電話を取り出して番号を押す。

が、すぐに新一の手が伸びてきて電源を切られた。


「何すん…」

「びょ、いん……行っても…変わ、んね…よ…」










「っ!!」










平次の悔しそうに顰められた顔が一瞬のうちに驚愕へと変わる。

新一はしまったと思った。

些細な自分の言葉で、全て平次にバレてしまったことを知った。



フォローしなくてはと腕に力を入れて立ち上がろうとするのだが、全然力が入らない。


胸の痛みは更に酷くなっている。


ぐらぐらする視界の中、平次を見ると、平次はショックで固まったように動かない。


新一の近すぎるところに「死」を見たのだ。衝撃は大きいだろう。
































だけど……。






































新一は自分を落ち着けるために深呼吸をしようとするが、とても深呼吸とは言えないような荒々しい呼吸ばかりが繰り返される。



それでも、力を振り絞って力強い声で平次を呼んだ。










「服部!」




「っ!」





弾かれたように我に返った平次は、ようやく新一を見た。

新一は焦点が合わない瞳で…けれどもしっかりと平次を見返して、気力の限りで微笑んだ。




































「大丈夫、だ…から。俺、死なねぇか、ら…」



































それだけ言うと、ぷつっと力尽きたように新一は平次の腕の中で意識を失った。














平次の腕の中は暖かくて……。















このまま死ねたら……どんなに幸せだろう……。
























新一は自分が人より早く死を迎えるだろうことが、解っていた。

あの薬の所為で身体が伸び縮みしたのだから、寿命が縮まっていても何ら不思議は無い。

それだけの負担を身体は受け続けてきたのだから。


もしかしたら、明日死んでしまうかもしれない。明後日かもしれない。


新一は、自分の心の中で覚悟はしている。



コナンから新一に戻ることができたあの日から。



もちろん、そう簡単になんか死んでやるつもりなどない。







新一は、どこまでも「生きる」つもりだった。















平次が、いるから。














解毒薬を飲む前日、平次から電話があった。


大丈夫なのか、とは言わなかった。


ただ、絶対工藤新一として戻って来いと、言った。


その飾りの無い言葉が嬉しかった。


そして新一に戻ってからも、暇を見ては新一に電話をかけ続けてくれたのだ。












―― ホント…心配性だよな…服部は…

































そう、心配するから。














































不安にさせてしまうから。



































































…泣いて…くれるだろうから…。









































































だから、死ねない――。


















とうとうバレちゃいました
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