言葉ではなく 身体で



感じる、想い ―――




Deep Love

act 10




「…泣いてたぞ、彼女…」


ようやく出た言葉が、それだった。


「…は?」


いきなり言われたことに驚く平次を新一はぎゅっと掌に力を入れながら見る。



自分の気持ちは…何があっても隠し通さなければならないが…。


これくらいなら、話せる。



これ以上自分が平次を信用していないと、思われたくない。


「…橘さん…お前の彼女だろ?部外者の俺が言うのも何だけど……あんまり不安にさせるようなこと、するなよな?」


必死にポーカーフェイスを取り繕って、二人の仲を取り持つような言葉を吐く。


また、心にも無いことを言ってしまった。

だけど…傍に、いられるなら…どんな嘘だとしても完璧に突き通してみせる…。



驚いた表情をしていた平次は何となくだとしても何があったのか解ったのだろう、すぐに真剣な顔になった。


「…相談、されたんか?」

「え?」


低くなった声に新一は思わず平次を見た。

平次は何だか怒っているようで…それでいて気まずいような顔をしていたから。本当のことを言うのは少し躊躇われた。


そうだと言ったら、美樹が平次に対する不満を新一に愚痴ったと思われるかもしれない。

この二人がゴタゴタして仲が悪くなってしまうのは…自分の望むところでは……ない…。


「違うって。橘さんが泣いてたから、どうしたのかと思って話を聞いただけだよ」


ふっと笑みを浮かべながらそう言う新一をどう取ったのか、平次は怪訝そうに眉を顰める。


「…工藤から?」

「あぁ…」


新一が頷くと、平次は下を向いたまま何か考えているように黙ってしまった。



新一にはこの沈黙がどうしても重くて。

どうにかして沈黙を破ろうと明るい調子で平次に語りかける。


「で、でも橘さん、すげぇいい子だぜ?俺も話してみてそう思ったくらいだし、人気があるのも頷けるよな!それに可愛いし明るいし、ホント非の打ち所ねぇじゃん」


美樹を誉めることによって少しでも平次がもつ美樹の株を上げようと思っていた新一だったのだが、平次の空気は更に重くなっただけだった。


「…何や、工藤は美樹がタイプなんか?」


そのセリフには他の人が聞いても棘があると感じるだろう怒りが秘められている。


「え?いや、そうじゃなくて…」

「…も、ええわ…」


何とか取り繕おうとした自分の行動が裏目に出たらしく、平次はもうそれ以上その続きをするなとばかりに会話を打ち切ってしまう。


「は、服部!」


マズイと感じて、咄嗟に平次を呼ぶ。


「ごめんっ…俺っ…何か無神経なことしちまって…ごめん…」


自分が良かれと思って言った言葉だとしても、受け取り方は人それぞれだから、平次は悪い方に言葉の意味を理解してしまったのかもしれない。

もしかしたら新一に美樹を取られるとでも思ったのかもしれない。

だとしたら自分が取った行動は平次にとってムカつくと思われるようなことだ。


少しの時間でも平次と嫌な雰囲気になりたくは無い。

自分が傍に居られる時間は限られているのだから、一緒に居るときくらいはせめて平次に笑って欲しい。

自分と一緒にいて、楽しかったと言ってもらえるような人間になろうと決めた。



それに…。



今のうちに心に刻み付けておかなければならない。



笑顔を…忘れないように…。






平次はふう、と息を吐くと、やっと笑顔を向けてくれた。


「工藤が謝ることとちゃうよ」


まだ少し怒りの雰囲気を纏っていたけれど、許してもらえたようで、新一はホッと胸を撫で下ろした。


「せや、風呂、借りてもええ?俺もちょい濡れてしもたから入りたいんやけど」


唐突に話題を変えられた新一は少し驚くけれど、コクリと頷く。


「あ、あぁ、別にいいけど…」


新一の了承を得ると、平次は「ほな、使わせてもらうで」と風呂場へと消えていった。





途端にどっとくる疲れ。

身を投げるようにドサッとソファに座ると、溜息を吐く。


無神経だった自分に、嫌気が差す。





そして……。







嫌われたくないと……切に、願った…。










 











キュッとノズルを捻ると、暖かいお湯がシャワーとなって降ってくる。

平次はしばらくシャワーの雨に打たれ、そして長いため息を吐いた。


―― 工藤を責めてまうて、筋違いやん…


先ほどのことは、急に不機嫌になってしまった平次が悪い。

それなのに新一は100%善意でしてくれたことに罪悪感を抱いて平次に謝ってきた。

新一から美樹に話しかけることなんてしないと平次は解っていた。新一が帰るときに美樹が呼び止めて相談をしたのだろうことは簡単に想像がつく。

そして優しい新一は断ることが出来ず、話を聞いていたのだろうと思う。


話を聞いてもらうだけで癒される、新一の生まれ持った雰囲気をおそらく美樹も体感したはずだ。





…自分が、そうであるように……。





新一は相談されるときは多くを語らない。

ただ傍に座って、話を聞いてくれる。

口を挟むことなく、時々頷きながら、言いたいことがぐちゃぐちゃだったとしても…静かに聞いてくれるのだ。


それは下手に励まされるよりもずっと…癒される…。


話を全て聞き終えてから、どうした方がいいのか新一の意見も聞かせてくれる。

その意見は本当に適確で。

悩みが嘘のように薄らいでいくのが解る。



けれど、その意見が適確だから悩みが消えるのではない。

新一の存在が……傍に居る、ただそれだけで…平次の悩みを嘘のように忘れさせてくれるのだ。



もちろん、その逆もある。

今、平次を悩ませているのは他でもなく工藤新一その人なのだから。

新一が美樹を誉めたとき……平次は心から…嫌だと思った。

平次のためにしてくれたのだろうその行動さえも、素直に喜べなかった。



「…アカン…何してんのやろ、俺…」


自分の行動が自分で解らない。

平次は考えを振り払うかのようにシャワーのノズルを全開にした。










 











お風呂から上がって髪を乾かし終えた平次は新一がいるリビングへと向かった。


「工藤?俺、そろそろ帰…」


ひょこっと顔を出してリビングを覗くと、新一の姿がない。

二階にでも上がったのだろうか、と思いながら更に足を進めると、ソファに何か白いものが見えた。




「…寝とる…」


平次の言葉の通り、新一はソファに横になってスヤスヤと眠っていた。

新一の寝顔にふっと笑みを浮かべると、平次は毛布を持ってきて新一に掛けてやる。


―― ホンマ、可愛え顔して眠りよって…


何度か髪を撫でてやりながら、幼い寝顔を見つめる。

もう少し見ていたいけれど新一を起こしてしまいたくはないので、平次はすっくと立ち上がって自分の荷物を手に取った。



と、新一が身じろぎしたかと思うと、いきなりその呼吸が苦しげなものに変わった。


「工藤?」


さっきまでの安らかな眠りが嘘のように、新一は眉を顰めてうなされ始めた。


「っ…う……っ…」


どうするべきか迷ったものの、新一の顔があまりにも苦しそうだったので思わず平次は声をかける。


「おい、工藤!工藤!」


何か悪い夢でも見ているのだろうか。

それならば早く起こしてやって、安心させてやらなければ。


新一の肩を掴んで強めに揺さぶると、新一はハッと目を開けた。

少しだけ焦点の合わない視線を漂わせていたけれど、すぐに平次と目が合った。




すると、新一は泣きそうに顔を歪めて。




きゅっと平次の首に腕をまわして抱きついた。




「っ!?」




新一の体温に、平次の心臓が狂ったように激しく鼓動を刻む。




―― な…んや…これっ……




息をするのもままならないくらい、ドキドキする。

それなのに体のほうは固まったように動かない。

思考回路がどこかへ飛んでしまったかのようだ。


「っ…ふっ……っくっ…」


新一の苦しそうな声に、平次はハッと我に返った。



新一のその声は…酷く辛そうで……。



泣いているのかと、思った。





「く、工藤?いけるか?」


子供をあやすように平次は新一の頭を優しく頭を撫でてやる。


「っと…りっ?……はっと、りっ…」


夢を見ているのか、新一は不安そうに平次を繰り返し呼ぶ。その声に答えるように平次はしっかりと言葉を返す。


「俺はここに居んで!大丈夫や!」


そう言ってやると、平次の首に絡みついた新一の腕の力が少しだけ緩くなって、ゆっくりと瞳が開かれた。


平次を視界に映した新一は本当に安心したようにホッと息を吐くと、再び平次の首にかじり付いた。



「っ…そ、ばに……今だけっ…傍に、いろよっ…!」



平次はその言葉に少なからずショックを受けた。




今、だけ…?




新一はふいにそういった言葉を口にする。

まるで平次と離れることを覚悟したかのような、そんな言葉を。






―― 冗談やないで…!!






いくら新一が嫌がったって、平次は新一の傍から離れるつもりは毛頭ない。


「ずっと傍におったる!嫌や言うても離れたらへんで!!」


荒々しく新一をぎゅっと抱きしめて叫ぶようにそう言うと、新一の身体がビクリと震えた。


「っ〜〜」


新一は感極まったかのようにぎゅうっと平次にしがみ付いている腕に力を込めた。










 











どれほど時間が経ったのだろうか、ようやく規則正しい呼吸を始めた新一に、平次はほっと胸をなでおろした。

眠っている新一の髪を梳いてやりながら、じっと見つめる。



―― 何や、えらい可愛ぇ…



普段全然甘えてこない新一が平次に甘えることなんて、こんなことでもなければ今後もないだろう。

自分でも笑みを浮かべていることに気付かないまま、平次は新一の頭を撫で続ける。





と、新一の首筋につ、と汗が伝った。

ピタッと新一を撫でる平次の手も止まった。



平次の視線は新一の首に伝う汗に釘付けになっていた。



ゴクリと平次の喉が上下する音が静かな部屋に響く。



平次はゆっくりと新一に顔を近づけると、迷うことなく新一の首筋をぺロリと舐めあげた。







―― 甘い……。







今まで口にしたどんなモノよりも、ソレは甘く感じる。




新一のモノなら…何でも甘いのだろう…。






うっとりしながら再び新一の首に顔を近づけたその時、平次のマナーモードにしていた携帯が振動した。

そこで平次はハッと我に返る。



―― っ…俺、何してんねんっ!?



勢い良く新一から飛び退くと、口元を手で覆う。

自分のしてしまったことが信じられない。




暴いてしまいたい…と…。





新一を…新一の全てを……手に入れたい……と…。






例えそれが一瞬のことだとしても……確かに自分は考えてしまった。






「…う…そ、やろ…」






誰に対してもこんな感情抱いたことさえなかったのに…。





平次はブルブルと頭を左右に振るとその考えを振り払おうと無心になる努力をしてみる。

別の部屋へ行こうとも考えたが、先ほどのこともあり新一が心配なのでここに居ることにした。

けれど、どうしても新一の顔を直視することが出来なくて、平次は眠れないまま一夜を過ごした。









平次の気持ちの変化を書いてみましたvv
でも、まぁ、新一が目の前で眠ってたりしたら誰でも襲いたくなりますよねぇvv(変態/笑)
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