その一言が…


悲しくて


辛くて


苦しくて






―― 嬉しい ――




Deep Love

act 6



ベッドにバタリと倒れこんだ新一は、ふう、とため息を吐いた。


―― 上手く、笑えてたよな…?


少しだけ自信ないが、本心を隠すポーカーフェイスに慣れていて良かったと思う。

瞳を閉じて唇を噛み締める。



泣いてしまいたかった。









……泣ける ものなら……。









でも本当に長い間泣くなんて行為をしていなかったから、もうどうやって泣くのかさえも忘れてしまっていた。


だからこそ。



涙なんか出ないからこそ。


平次への想いを隠し通せる自信があった。




少しでも平次に嫌な思いをさせないように。自分の気持ちを封印する。



チケットを渡したとき、何だか平次が怒っているようにも見えた。

だけどそれは新一のチケットだからもらえないと遠慮したのだろうと思うことにした。


だって、平次が怒るようなことはしてないはずだから。

どうして喜んでくれなかったのかが、少しだけ解らないけれど。



あの映画は今日観ているはずだから…明日はその感想を聞いて……

彼女との仲が深まったのなら……祝いの言葉を述べて……



頭の中で明日の計画を立てている自分に笑いが出てくる。






―― バカみてぇ…






好きで。好きで。


好きすぎる人の恋を応援するなんて。


呼吸をするのが苦しいほどに、胸が痛い。





だけどやっぱり涙なんか出なくて。









―― 大丈夫だよ、服部……
















―― 俺、邪魔しねぇから ………。
















瞳を閉じるとすぐに睡魔が襲ってきて。


新一はそのまま眠ってしまった。










 











どれくらい眠っていただろうか、新一はピンポーンというチャイムの音で目が覚めた。

ぼーっとする頭で再び眠りにつこうとしたが、再度のチャイムの音でそれも阻まれる。


ゆっくりと起き上がり、寝起きのおぼつかない足取りで玄関へと向かい、ドアを開ける。

と、訪問者を見た新一の眠気は一瞬にして飛んだ。



「は、っとり…?」



夢でも見ているのかと、そう思う。

平次のことを考えていたから……想いすぎたから…夢に平次が出てきてくれたのかと、思った…。

だけど目の前にいる平次は、本物で…。



言葉を失っている新一を前に、平次は何かに気づいたように申し訳なさそうに苦笑した。


「何や、寝とったんかい。起こしてしもてスマンな」

「えっ!?」


どうして解ったのだろうかと驚く新一に、平次は楽しそうにクッと笑う。


「寝ぐせ、ついとるで?」


クスクスと笑いながら平次の手が新一に伸ばされ、そっと髪に触れる。


新一の身体に、電気が走った。

胸の中が、カッと熱くなる。


それを悟られないようにと、寝癖を直してくれている平次から身を引いて、自分で寝癖を直す。


「ど、どうしたんだよ?こんな時間に…?」


寝癖を直しながら平次に問うと、平次はゆっくりと後ろのポケットから何かを取り出して見せた。

平次の手に握られていたのは、今日彼女と一緒に観に行ったはずのあの映画のチケットだった。


「え、何で…?」


そのチケットは封が切られておらず、映画を観ていないということを静かに物語っている。

顔を上げた新一は真剣な表情の平次と目が合う。


「今週の土曜でええか?」

「え?」

「コレ、一緒に観に行く言うたやろ」


新一は一瞬頭が真っ白になっていたものの、差し出されたチケットと平次の言葉の意味を少し遅れて理解した。


「なっ…そ、それは彼女と観てこいって言っただろ!?何で…」

「俺は工藤と観たいねん」

「っ!」


平次の直球な物言いに、思わずぐっと言葉に詰まる。



だけど。



今日で嫌と言うほど実感してしまったのだ。



平次は彼女のモノだということが。









そういう優しさが…痛い…。











「俺はもう観たくねーんだって!だから彼女と…」


ポーカーフェイスを取り繕って言った新一のセリフは、“ダァンッ!!”という平次が壁を殴った音でかき消された。

そんなことをする平次は珍しくて、新一は息を呑む。


「…彼女彼女て…俺らのためやったら何でも我慢できるみたいな口ぶりやな…?」


明らかに怒っているだろう声色に一瞬怯むが、新一は負けじと口を開く。


「が、我慢とか…じゃなくて…俺、本当にもう観たくねぇんだって!!」


叫んだ瞬間、平次に痛いほど強く手首を掴まれた。






「工藤の嘘が見抜けんよーな奴やないで!!見くびんなや!!」






ギリ、と掴まれた手首に走る痛みが、平次の怒りの表れのようで。

新一は今度こそ何も言えなくなってしまう。




怒らせたかったわけでは…ないのに…。










ただ…。










喜んでくれると…そう、信じて……。














気まずい沈黙が流れた後、平次は少しだけ怒りが残る声で呟いた。


「1つ教えといたるわ…」

「?」

「いくら女がおってもな、俺の中の優先順位は工藤が一番なんやで!例外はあらへん!」

「…っ」



どうして…。



どうして平次は…自分が一番欲しい言葉をくれるのだろうか…。




その言葉に、胸が震える。

平次はふうっと息を吐き出すと、気持ちを切り替えて新一の頭をくしゃりと撫でた。


「もう俺に嘘言うなや?」


念を押してそう新一に問いかける平次の瞳は真剣で、新一は思わずその暖かい眼差しに見惚れてしまう。

そしてゆっくりと頷いて見せた。


例えそれが嘘だとしても…頷かないわけには、いかなかった。


そう、それは嘘なのだ。


平次に嘘をつかないことは、これから先ずっとないだろう。

自分の想いが枯れないまでは…嘘をつき続ける。











…少しでも長く、傍にいるために…。











新一の答えに安心したのか、平次はやっと微笑んで見せた。


「工藤、全然我侭とか言うて来ぃへんからな〜…正直、寂しいんやで、そーゆーの」

「…バーロー」


くすっと笑ってそう言うと、平次は心外だとばかりに新一にくってかかってきた。


「ホンマやて!!俺、工藤の我侭なら何でも叶えたりたい思うてんのやで?」


一瞬、言葉に詰まる。


「…何、で…?」


平次の口から続きを言わせたくて、ポツリと呟く。









「そら工藤が大切やからに決まってんやん!」









もう、死んでもいいと…思ってしまう。


たとえ恋愛感情ではなくても。

平次が新一のことを大切な奴だと言ってくれる、その事実が。

新一の胸の中を熱くさせる。


その言葉が聞きたくて、ワザと解らないフリをしてまで平次に言わせた。

卑怯かもしれない。


でも、どうしても…聞きたかった…。


「な、今週の土曜でええ?」


映画の予定を口にする平次に、新一は素直にコクン、と頷く。

すると、平次はニカッと明るい笑顔を浮かべた。


「よっしゃ!工藤は昼からの方がええやろうから、昼か夜に観よか!どっちがええ?」

「…昼」


新一がちょっと躊躇ってからそう言うと、平次は可笑しそうにプッと噴出した。


「せやな、工藤、朝弱いもんなぁ。昼から観よか!」


ニコニコと笑いながら予定を立てる平次を見ながら、新一は幸せをかみしめる。












例えそれが…。


















…儚すぎる夢だと…知っていても…。














平次はちゃんと先約を守ってくれるヤツですvv

まだあまり話しが進んでませんねιιいや、これでいいのです
じっくりと新一の悩む姿を書いていこうと思ってますのでvv
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