これから幾度 ポーカーフェイスを続けるのだろうか…?



Deep Love

act 5



「服部!」


向こう側から駆け寄ってくる新一を視界に捕らえると、平次はヒラヒラと手を振って見せた。


「おう、工藤!」


いやに機嫌のいいオーラを振りまきながら走ってくる新一に、平次は笑みを浮かべる。

結構な距離を走ったのだろう新一は少し息を切らせていながらも、気にすることなく平次に話しかけてきた。


「あのさ、今日の放課後暇か?」

「大丈夫やで?……あぁ、映画やな?ええよ、付き合うで」


期待の光を湛えている瞳に、平次は少し首を傾げるがすぐに不適な笑みを浮かべて思い当たることを口にする。


「えっ…」


平次の言葉に新一は驚いたように言葉に詰まってしまった。


「ん?ちゃうんか?」

「や…当たってるけど……」


どうして解ったのかという表情をしている新一を見て、笑みを浮かべながら自分の推理を述べる。


「これが初めてとちゃうし。工藤の顔とか見てたら大体解るっちゅうねん」


な、大当たりやろ?と新一を覗き込むと、新一は少し釈然としない表情で平次を睨めつける。


「…お前が鋭すぎんだよ…」


言い当てられたことに驚いたのか、そんなに解りやすいのかと恥ずかしくなったのか、新一は少しだけ頬を染めて剥れている。

そんな新一が可愛くて、平次はくすくすと笑いが零れてしまう。


しかし、あまり笑うと馬鹿にしていると感じてしまう新一なので、平次は話の続きを促してやった。


「ほんで?どないな映画や?」

「あ、そう!これ!」


助け舟を出してやると、思い出したようにぱっと明るい表情に変わる。

先ほど剥れていたのが嘘のような変わりように、新一が本当に見たい映画なのだと伝わってくる。


―― ほーんま、可愛えやっちゃなー♪


新一はポケットから封筒を出すと、その中から映画のチケットを取り出して平次に手渡す。

チケットを見た瞬間、平次は目を見開いた。


「工藤、これ取れたんか!?すごいやん!」


この映画は前からずっと新一が観たいと言っていた映画でもあり、覚えていた。

平次も予告編を見たのだが、それだけでもとても面白そうだと思ったものだ。


「すっげー面白いって評判だし、俺絶対ぇ見るって決めてたんだ!苦労したんだぜ、このチケット取るの!」


入手経由まで楽しそうに話す新一は、本当に嬉しそうで見ているこっちも嬉しくなってしまうのが不思議だ。

そして、誰でもなく平次を誘ってくれたことに大きな喜びを感じる。


思わずくっと笑った平次に気づいた新一は、笑顔を引っ込めて眉を顰めた。


「何でそこで笑うんだよ?」

「いや、工藤は反応が解りやすいなぁ思うて♪」


新一はニコニコと笑う平次を不服そうに見る。


「…それって褒めてんのか?」

「そやで♪」


上機嫌に平次がそう言うが、新一はますます眉を顰めて平次を見た。


―― 褒められている気がしねーんだけど…。


そう言おうとした新一の頭が平次にくしゃくしゃと撫でられたから、言おうとした言葉はそのまま飲み込まれた。

こんな些細なことで幸せを感じてしまう。頬が赤くなっているのがわかる。




いつまでも撫でられていたいけど、それは絶対にしてはいけないこと、だ。

意を決して平次の手を退かせようとしたとき、女の声が響いた。




「平次!」




聞き覚えのある、可愛い声。


以前紹介された平次の……。


「あぁ、美樹か」


す、と頭を撫でていた手が離され、新一はギュッと唇をかみ締める。


―― 彼女…


ツキン、と胸に棘が刺さる。

それを隠してポーカーフェイスの仮面をかぶる。

と、美樹が平次の手にあるモノを見て、声を上げた。


「あっ!それ、入手困難って言われてる『TIME LIMIT』のチケット!?いいな〜!」


本当に羨ましそうに平次が持っているチケットを覗き込む。


「ん?ああ、工藤がチケット取れたんやて。何や、美樹もそういうの観るんかいな?」

「うん!私、映画好きなの!」


ニコッと平次に笑いかける美樹がとても可愛いと思う。

平次の隣にいても見劣りのしない、可愛くて綺麗な女の子。

お邪魔虫は自分なのだから平次に別れを告げて教室に向かおうと考えた新一に、思いがけず美樹が話し掛けてきた。


「ね、工藤くん!そのチケット売ってくれないかな?」

「え…?」


いきなりの言葉に、新一は驚いて固まってしまう。


「美樹!何言うて…」


平次が諌めるような声を出すと、美樹は平次の服の裾をきゅっと握ると甘えたような声を出した。


「だって、平次と映画館行ったことないじゃない!デートしようよ!」




―― デート…。




些細な言葉が棘となって新一の心に刺さっていく。


「これは工藤のモンやで!?それに工藤と観に行くて約束したし…」


ため息をつきながら彼女を嗜める平次を、新一はちらっと見やる。



彼女のための、言葉。



彼女のための、視線。





彼女のための……平次……。






「あ、そだよね…変なこと言っちゃってごめんね、工藤くん!」


美樹は、ぺろ、と舌を出して申し訳なさそうに謝る。

会話する二人を余所目に、新一はチケットを持っていない手をきゅっと握り締める。


―― 服部たちに譲ったら…少しは喜んでもらえんのかな…?


手の中にある1枚のチケットをジッと見ると、ゆっくりと顔を上げた。


「いいよ」

「へ?」


平次の素っ頓狂な声が聞こえたが、ニコッと笑って美樹にチケットを差し出す。


「これ、やるよ。二人で観て来いよな」


驚いた顔で新一を見上げていた美樹は、我に返るとぱっと表情が華やいだ。


「え〜、本当!?ありがとう、工藤くん!」

「せ、せやかて工藤…!」


嬉しそうに飛び跳ねる美樹に笑顔を浮かべたままチケットを渡すと、今度は平次のほうに向き直る。


「いいって。彼女の方を優先してやれよ」


ぽん、と平次の肩に手を置いて………すぐに、離れた……。


「うわ〜、工藤くんってすごい良い人〜!本当にありがとうね!」

「いいよ。二人で楽しんできて」


感謝を告げる美樹の言葉を聞いている新一に、平次は眉を顰める。


―― 何で工藤が遠慮せなアカンねん!!


やっぱりおかしいと思った平次は新一の肩に手を掛けて、力強く言い放った。


「あかん!これは工藤が苦労して手に入れたチケットやろ!それを工藤抜きで使うわけにはいかん!」


新一は、肩に平次の手が掛けられると驚いたように目を見開くが、それも一瞬のことで。


笑みを深くすると、す、と平次の手を避けるように新一は身を引いた。







ズキン、と。




どこからともなく痛みが走る音が平次に聞こえた気がした。






「気にすんなって。俺、別にそこまで観たかったわけじゃねぇし…」


にっこりと笑って言う新一の言葉に、平次は眉を歪ませる。


―― さっきと言うてることちゃうやん!


嘘だということはバレバレである。

先ほど一緒に観に行こうと言っていた新一は、見ているこっちが微笑ましくなるほどウキウキしていたのに。

いつもとは全然違う、本当に楽しそうな表情をしていたくせに。

新一の身体中全てが、その映画をずっと楽しみにしていたのだと物語っていた。



ずっと前から新一が観たがっていたのを平次は誰より知っていた。

だけど今は新一の完璧なポーカーフェイスで。新一の心情を読み取ることができない。

苦労して取ったチケットを、どうして意図も簡単に譲り渡したりできるのだろうか。



新一が我慢するくらいなら、女との約束など全部蹴ってもいいのに。

別れることになっても、後悔などこれっぽっちもしないというのに。



どうして……。




新一は難しい顔をしている平次に気づくと、苦笑を漏らす。


「マメじゃない男はモテねぇぞ?」


やっぱりもらえないと口を開きかけた平次より先に、新一が言葉を発した。


「後で映画の感想くらいは聞かせろよ!それじゃ、俺は行くな!」


二人にニッコリと笑顔を見せて新一は平次が口を開く前にスタスタと歩いて行ってしまった。



美樹は「本当に優しいね、工藤くんって!モテるの解るなぁ」と笑顔で言いながら、映画を観るための予定を立て始めた。



平次は返事を返しながらもぎゅっと自分の拳を握り締める。




何故だか解らないけれど。





行き場のない怒りが。







平次の中を駆け回っていた。













切ないって思っていただけるようなモノになってましたら、嬉しいですvv
「身を引かなければいけない、切なさ」を書いてみました
…玉砕(笑)
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