秘密を重ねていく   罪  ――― 



Deep Love

act 3



平次の暮らしているマンションに到着し、さっそく平次の部屋へ入れられた。

コーヒーを作るからと新一をソファに座らせて、平次はキッチンに行ってしまう。

平次の口からどんな言葉が出てくるのか想像がつかないが、新一に話してくれるという事実が嬉しい。


しかし、そんな感情を振り払うように新一はぶるぶると頭を振った。

嬉しいなんて、思っちゃいけない。

期待すればするほど、現実を見たとき辛くなるから。


ふう、と息を吐いて久しぶりに来た平次の部屋を見回した。

新一が以前訪れたときと何も変わっていないその部屋に、ふっと笑みが浮かんでくる。


ほどなくして、平次が両手にコーヒーを持って戻ってきた。


「おまっとさん!ほれ、熱いから気ぃつけや?」

「サンキュ」


素直に受け取って冷ましながらコーヒーを口に含む。

平次の入れてくれたコーヒーは、心の底から新一を暖めてくれる。

両手でカップを持って少しずつ味わって飲んでいる新一に、平次は重い口を開いた。



「…なぁ、工藤…」



その口調に、ついに本題にきたことを新一は直感で悟る。

顔を上げて、静かに平次を見つめた。


「ん?何だよ?」



「……工藤、好きな奴居るってほんま!?」



そういう平次の言葉に、新一は目を見開く。


「は?…あ、あぁ…いる、けど……」


どうしてそんなことを聞くのか不思議に思いながらも、嘘をつくことなく頷いた。


「…何でそのこと…」


そこまで言って、向日の顔が頭に浮かんだ。


―― 言わないって言ったくせに…


期待はしていなかったものの、新一は小さくため息を吐いた。

おそらく平次が新一の居ない間に向日を問い詰めただろうことが容易に想像できたから。

平次が何かに気づかないわけがないから。それでも多分、向日は新一との約束を破らまいとはしてくれたのだろう。


新一の口から肯定の言葉が出たことに驚いていた平次だったが、すぐにいつもの調子に戻って新一に詰め寄った。


「誰や!?」


詰め寄る平次に、聞きたいことはコレだったのかと苦笑する。

向日から聞いて驚愕している平次が想像できる。

恐らく、新一本人に聞いていいものなのか考えあぐねたのだろう。

新一から平次に直接ではなく他人から間接的に聞いたものだからますます聞きにくかったに違いない。


体の力が抜けた新一は、瞳を和らげた。


「ん〜?秘密」


―― ごめんな、服部…


心の中で謝って、くすくすと笑いながら言うと、平次もほっとしたのだろう、緊張していた空気が薄れた。


「…向日は知っとるんか?」

「知ってるわけねぇだろ。いるかいないか聞かれたからいるって答えただけ」


いないと嘘をつくのは簡単だったけど…。

例え間違っていたとしても、平次を想うこの気持ちが新一の全てだから…。

平次が好きだとは言えないからこそ。こんなにも想う人はいるのだと、誰かに言いたかったのかもしれない。


「…俺の知っとるやつか?」


平次は珍しく真剣な表情で再び聞いてくる。

いつもの平次なら、新一が言いたくないのだということを察してそれ以上は聞いてこないのにと少し不思議に思いながらも、ニコッと笑って答える。


「さぁな」

「……」


くすくす笑って言う新一に対し、平次は複雑そうな表情をしたままで。


―― やっぱり言わなかったから、水臭ぇとか思ってんだろーな…。


そう自分の中で平次の考えを推理すると、新一は静かに言った。


「…誰にも言うつもりねぇよ……ずっと…」



一生、秘密にして。



心の中だけで、暖め続けて。




平次の顔を見てはっと何かに気づいた新一は、焦って弁解をした。


「あ、別に服部のこと信頼してねぇとかじゃねぇよ?」


信頼は、している。

誰よりも。

平次も新一に色々相談してくれるし、新一も平次に相談を持ちかける。


だけど、この相談だけは口が裂けてもできない。


そんなことをしたら、平次が困ってしまうから。





「ただ……言えねぇだけ……」





ふと瞳を閉じて笑みを浮かべる。


この気持ちは。


絶対に口に出してはならない想い。


想いが溢れそうになるたびに、必死に心に鍵をかけてきた。

それこそ、何百回も。何千回も。


傍にいれる幸せを大切にしようと決めた。



それで心がぼろぼろになっても、本望だと思った。




「……告白とか…せぇへんのん?」

「ん?あぁ。だって、困らせたくも嫌われたくねぇし…」


平次にとって新一の気持ちは重荷になるだけ。


解っているからこそ、言わない…。


新一の言葉に平次が弾けたように口を開く。


「そないな事…」

「…言えなくて、ごめんな…」


そう言う新一の表情が。泣いているように見えて。



平次は。何も。言えなかった……。



その一言で否応にも会話を打ち切られる。


聞くな、と…。


聞いて欲しくないと……新一のオーラが言っていた。



何を言っていいのか解らない様子の平次に、新一はくすりと笑みを浮かべる。


「俺のことより、お前の方が心配だぜ?」

「へ?」


驚いたように新一を見ると、すでに新一はいつもの調子に戻っている。


「何でそんなに続かねぇわけ?」


いつも不思議に思っていることを聞いてみる。

平次は少しだけ苦笑して、天上を仰いだ。


「ん〜、何でやろな〜」

「ソレ、答えになってねぇ…」


呆れるようにため息を吐くと、コーヒーを一口飲む。

コトッとカップをテーブルに置くと同時に、平次がボソリと呟いた。



「……本気になれへんねん…」



「…え?」


驚いて顔を上げると、真剣な顔した平次と視線がぶつかる。


「可愛えとは思うけど……どうしても好きになれん……」


苦笑しながらポリッと頬を掻く平次に、ますます新一は目を見開く。

だって、平次がこういう話をしてくれるなんて思わなかったから。

平次から相談事は結構良くあるほうだと思う。

だけど、平次が恋愛の話をするなんてこと今まで一度も無かったのだ。

新一としてはとても聞きたかったのだが、以前聞こうとしたとき平次が困ったような表情をしたから…聞いてはいけないことだと思って…。

新一は平次の言葉に目をぱちくりさせる。


「…何で?可愛いと思ったんなら…」

「そんなん、自分がいっちゃん知りたいわ」


平次は深い溜め息を吐き、新一に向かって苦笑して見せた。


「…何でなんやろな…」


新一はその言葉に含まれる、微かな平次の辛さを感じ取った。

長く続かない、そのことは平次にとっても悩みの種だったのだろう。

彼女ができると、その彼女に誠実であろうとする平次。

だけど実際は少しも続かない。

そのことが平次を苦しめていたのだと、解った…。

平次のその表情があまりにも痛々しくて。

思わず新一の口からは言葉が出ていた。



「…焦ること、ねぇんじゃねぇの?」

「工藤?」


不思議そうに新一の名前を呼ぶ平次と視線を合わせず、テーブルに目線を置いたまま新一は続ける。


「運命って、本当にあるらしいぜ?」

「何の話や?」


新一の話の意図がつかめない平次をあえてスルーして、新一はキュッと拳に少し力を込めた。


「…自分と結ばれる相手は、ずっと前から決まってるんだってよ……何度生まれ変わっても、同じ相手と結ばれるって……」


どんなに離れていても、惹かれ合う 運命――。


「だから、これから服部が好きになれる女の子は見つかるって!俺が保証する!」


そこまで聞いて平次はようやく新一が励ましてくれているのだということを悟った。

解りにくくはあるが優しい新一に、平次は思わず笑みを浮かべる。


「服部、いい奴だから、絶対大丈夫だって!」


そう一生懸命励ましてくれる新一の頭に触れようと手を動かしかけた。

が、その平次の行動は次の新一の言葉によってピタリと止まった。




「俺でよかったらいつでも協力してやるからな!」




嬉しいはずの、その一言なのに…。



平次は固まったように動けなかった。

チリッと心のどこかで音がしたのは……気のせいだと、思う…。


自分の意見を言い終わった新一は、平次の反応が薄いことに首をかしげながらも、コーヒーのお替りをしようと立ち上がる。


「コーヒー、お替りもらうな?」


そそくさとキッチンへ行こうとすると、後ろから平次の声が飛んできた。


「く、工藤!」


少しだけ驚いて平次を振り返ると、平次は自分でもどうして声をかけてしまったのか解らないといった表情をしていた。


「服部?」


新一が首をかしげると、一瞬躊躇った後、平次はふっと瞳を和らげた。



「おおきにな、工藤」



「ん…」


新一は御礼を言う平次にフワッと笑ってそのままキッチンへと入った。





平次の死角に入ったところで、新一は自分の心臓のあたりの服をぎゅっと握り締めた。

ドキドキと心臓が落ち着かない。

協力してやる、と言ってはみたものの、心がそれを拒否しているのが解る。

平次がいつか好きな人を見つけて新一の傍から離れて行くのが、とても怖い。

好きな奴なんか見つからなければいいのに、と、一瞬だけ考えてしまった自分の頭をゴッと殴る。


―― バカ!何考えてんだ、俺は…… ごめん、服部……


平次には幸せになって欲しい。

平次が幸せになるためなら、自分の感情なんて二の次で。

平次の幸せのためなら何でもしようと、固く誓ったのだ。

例えそれで自分の心が引き裂かれようとも構わない、と。

新一が邪魔なのだと平次が言えば、すぐにでも離れる覚悟も、ある。


―― んな事、あいつが言うわけねーけどな…


優しい平次のことを思って、ふっと笑みを浮かべた。

本当に新一が邪魔になったとしても、優しい平次はそれを口にすることはないだろう。

だからこそ、安心して平次に協力することもできるのだ。

平次が選ぶ人に悪い奴はいないから。



今までの彼女達でもそうだった。

みんな良い子ばっかりで。みんな可愛い子ばっかりで。

みんな……平次を本当に好きな子ばっかりだった…。

早く平次が本当に好きな女の子を見つけられればいいと思ったことも、ある。

否、本心では望んではいなかったけれど。



だけど。



平次が彼女と別れるたびにホッとしてしまう自分が腹立たしかった。

平次が一人に絞ってくれればそんな醜い感情に支配されることはないだろうと思ったのだ。

けれど、それが実現してしまうととてつもなく辛いのだろう。


それでもそれだけが……平次の恋人になれない新一にとって唯一の選択肢だった。






選べる選択肢が、無かった。







ただ、それだけの…こと…。








なかなか先に進みませんιι
とりあえず限りなく長編にしようと目論んでますので、これでいいのだと…思い…ますよ…(笑)
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