その想いは いつも


ココに  ある ――。




Deep Love

act 2



服部平次をいつ好きになったのかと言われると、正直解らない。


ただ、いつのまにか、新一の心の中に。当然のように居た。


気が付いた時にはもう、ライバルだとか。男同士だとか。


そんなこと、関係ないと思えるくらい…好きになってて。





想いを忘れる術なんてなくて。



それどころか。



どんどん、大きくなっていって。

姿を見るだけで、ドキドキする。

声を聞くと、胸が苦しくなる。

笑顔を向けられると、涙が出そうになる。

触れられようものならば。





……死んでしまいそうに…なる……。






だけど、それを口にすることなど出来るはずもないことを、新一は知っていた。


新一は男。平次も男。


平次からしてみれば、恋愛の対象外もいいところだ。

新一のこの想いは迷惑なものに他ならないだろう。


付き合いたいとか。


ずっと傍にいてほしいとか。



そんな気持ちは絶えないけれど、平次の迷惑になるものなら…欲しくはない。



だけど、離れることなんて出来なくて。


それならば、新一の取るべき行動は一つしかなかった。





傍にいるための、唯一の方法は…『親友』であること…。





だから自分の気持ちは押し殺して。


心の中は決して見せずに親友という面をかぶって平次の傍にいた。




卑怯だと、思う…。





だけど。





少しだけ。





あと、少しだけ。






そんな心が消せない。


どんな形だろうと平次の傍にいられる幸せがある。


もちろん、その反面、辛いことも同じくらいあった。


平次に彼女が出来るたびに、新一の胸には嫉妬の二文字が渦巻く。


いけないと思いながらも、彼女達が羨ましいと思ってしまうのだ。


でも、表では平気な顔をする。




ポーカーフェイスは……慣れているんだから……。




どんなショックなことがあったって、平次の傍では、笑っててやる。



平次の幸せの、邪魔になんかならない。



平次の傍にいられるのなら……。





一生………ポーカーフェイスの仮面を被りつづけても……いい――。










 











「ほんで?昨日のは何やったんや?」


学生で混雑する食堂でお昼を済ませた平次は向日に話しかけた。


「は?」


何のことか解らない向日は、首をかしげて平次を見る。


食堂から出ようとしていたところで平次から質問され、思わず入り口で立ち止まってしまう。


平次に背中を軽く押されたことでまた歩き出したものの、平次の質問の意味が解らない。


平次は小さくため息を吐くと、チラリと向日に視線を送る。


「昨日食堂で俺がおらん間、工藤と何や話とったやろ」


その言葉にようやく思い当たった向日は、眉を顰めた。


「昨日も言っただろ?服部には関係のない、くだらねーことだって!」


そう言うといつもならそこで会話が終わるのが普通だったが、今日の平次は何故かしつこく粘る。


「くだらんことやったら言うてもええやん。何や隠してるから言われへんのやろ」


さすが探偵。そういうところは鋭い。

平次の口調は確信に満ちたもので。



これ以上平次に隠し事など通用しないと観念した向日は、ため息を吐いた。


「…言わないって約束したから、言えねぇよ」

ボソッと言うと、平次はあからさまに不愉快な表情をする。

ガシッと向日の胸倉を掴み上げると、不機嫌のオーラを隠すことなく向日に向けてきた。


「何で工藤の秘密をお前が知っとって俺が知らへんねん!不公平やんか!吐け!」

「き、聞きたいなら工藤に聞けばいいだろ!?」


平次の勢いに負けそうになる向日だが、新一との約束もあるので、ぐっとこらえる。


「工藤に聞いたらあかん思うたから向日に聞いてんのやろ!」

「そんなの、なおさら俺は言えねぇっつーの!」

「俺のプライベートは暴露できるっちゅうのに、工藤のだけは言えへんっちゅうわけか!?」


相手をされなくて拗ねている子供のような平次の言い分に、向日は深いため息を吐く。


「…だからぁ…」


言えない、と言おうとした向日は、真剣な平次の瞳に気づいた。


「俺は向日より口堅いで?」


向日には平次のその表情がとても必死に見えた。

こんな平次は初めてだったが、今逃げられてもこの調子だと吐くまでずっと付きまとわれる日々が容易に想像できる。


向こうはガクリ、と肩を落とし、両手を挙げて降参のポーズをとる。


「…ったく…工藤に怒られんの、俺だぜ?」

「すまんな」


ようやく胸倉を掴んでいた手が放され、向日は一呼吸置いて言葉を紡いだ。


「……工藤、好きな奴がいるんだってさ」


「っ!?」


言った瞬間、平次の空気がガラリと変わった。


凍りつく、といった表現がぴったりな態度に向日のほうが驚く。


「…その反応をみると、知らなかったみてぇだな?」

「あ…あぁ…」

「好きな奴いんのかって聞いたら、笑いながら頬染めて頷くんだぜ!?ちょっとあれはカワイすぎだよな〜」



その時のことを思い出しながら語っている向日を他所に、平次はぎゅっと拳を握り締めた。



「…誰や?」


「残念ながら、俺もそれは知らね。核心をつく前にお前が帰ってきたからさ」


「……」



新一に、好きな人…。


もちろん、新一に好きな人がいておかしいということは全く無い。

むしろ、今までその可能性を考えなかった自分が浅はかだったと言える。

平次にも言わなかったことから、何らかの理由があるのだろうということも解る。



だけど…。



胸に、モヤモヤとしたものが纏わりつく。


何故か解らないけれど…。


正体の解らないモノが、心に広がる。



「服部?どした?」

ボーっとしていたのだろう、向日の言葉に平次はハッと我に返った。


「…あ…いや…」


いつものように笑ってみせるけれど。


平次の心は晴れてはくれなかった。










 











一日の大学の講義が終わり、帰り支度をすませた新一は隣にいる平次にちらりと視線を送る。

どうも今日お昼を食べた辺りから、平次の様子がおかしい。

新一は、自分が先に食事を済ませて教授に質問に行っている間になにかあったのだろうと推理した。


何か言いたそうな視線を新一に向けるのに、結局何も言えずに口を閉じる。

講義中もどこか落ち着かない雰囲気で授業を受けていた。


本当に些細な変化だったけど。


新一には、解るのだ。





ずっと、見ていたから。





新一は気づいたその時に「言いたいことがあるなら言え」と言ったのだが、平次は視線を泳がせるばかりで何も言わなかった。

とにかく、言いたくなったら聞くからとは言ったものの、平次が口を開くかは五分五分といったところだろうか。


―― 気なんか使わなくてもいいのに…


小さくため息を吐くと、新一は平次に向き直る。


「それじゃ、俺、帰るから。じゃぁな!」


くるりと平次に背を向けて歩き出そうとした時、焦ったような平次の声がした。


「あ、工藤!」

「ん?」


名前を呼ばれて首だけ振り返ると、平次は意を決したように言った。


「一緒に帰らへん?」


意外な言葉に、新一は呆気にとられてしまう。


「は?誘う相手、間違ってんじゃねぇの?彼女と帰れよな」


心底驚きながらも極めて冷静に対応する。

もしかしたら平次と彼女と新一の3人で帰ろうとでも言うのだろうか。

それは、新一にはかなり辛いことだ。


すると、平次は素っ頓狂な声を上げた。


「美樹?何でそこで美樹が出てくんねん?ちゅうか、美樹は午後から講義あらへんから、もうとっくに帰っとるで」


その言葉に、とりあえず3人で帰るというのではなかったことに新一は少し安心する。


「あかん?」

「え…いや…いい、けど…」


伺うように尋ねる平次に思わず了承の言葉が口から出てしまった。

平次と一緒に帰るのは久しぶりだから、少し緊張する。

新一がOKを出すと、平次は安心したように笑いかけてきた。


「ほんま?よっしゃ、ほんなら帰ろおや!」


不意打ちともいえる平次の笑顔に、新一は呼吸を一瞬だけ忘れてしまった。

それでも平静を保つために心の中で深呼吸をして、ドキドキ煩い心臓を落ち着ける。


そのまま、とりとめもない話をしながら一緒に帰った。

まるで今日一日のおかしな態度が嘘のような普通な平次の行動に、新一は疑問を隠せない。

だけど、変なままでいられるよりは、ずっといい。

小さな幸せを、新一は噛み締める。



分かれ道に差し掛かり、本当に帰ろうとした新一に平次が提案を持ちかけてきた。


「あ、家寄って行かへん?コーヒー出すで?」

「…え?」


やはりいつもと違う平次に少しだけ戸惑う。


だけど。


「どや?」


腹をくくったような平次の顔に、くすりと笑みをこぼす。

何か聞きたいことがあるのだろうと推理したことは見事的中していたようだ。

平次が言いにくそうにしてまで言おうとしていることを、新一は聞かないことはできない。


それに、平次からの誘いを断るなんてことも。





できるわけが、なかった……。






ハイ、ノロノロした展開になってますね(笑)
これからいっぱい新一にやきもきさせたいと思っております
切ないお話になればいいなぁvv(え。/笑)
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