想いが 大きすぎて



言葉に できない―――





Deep Love

act 1





「聞いたぞ、服部」


工藤新一はうどんを食べている箸を止めて、先ほどやってきて向かい側に座った色黒の男に言った。


「ん?何をや?」


その色黒の男、服部平次はパキンと割り箸を二つに割ると両手を合わせて小さくいただきますのポーズをとる。


二人がいるのは大学の学食。

今はお昼時なのだが少し時間が早い所為か、食堂にいる人はそんなに多くはない。

平次と新一は東京の同じ大学に通っている。専攻科目もほとんど一緒な二人が昼食を共にするのは普通のことだった。

何のことか解らないという平次に新一はため息を吐いた。


「また、別れたんだってな?」


そう言うと、平次は一瞬だけ驚いた表情を見せた後、すぐに苦笑する。


「情報早いなぁ…」


平次はバツが悪そうにそう言うが、さして気にしていないように持ってきた定食に箸を伸ばした。


「…向日に聞いた。さっきまでここにいたんだけど、教授に呼ばれて行っちまった」

「あんの野郎…今度会ったら殴っとかなあかんかなぁ…」


大学に入ってからの二人共通の悪友を思い浮かべ、平次は複雑な顔を見せた。

平次の情報は主に悪友の向日がみんなに広めていると言っても過言ではないだろう。

しかし、平次の噂がこんなにも早く広まるのはそれだけの理由ではないことを新一は知っていた。


「服部、自分が有名人だってこと忘れてるだろ」


男らしい体。整ってキリリとした顔立ち。

非の打ち所のない外見に逆に近寄りがたくなりそうだが、平次が纏っている優しいオーラが、平次の周りに人を集めている。

物事の中心にいる人物。それが服部平次だった。


「ん〜?さよか?」


まったくもって有名人の自覚がない平次に新一は盛大なため息を吐き、止めていた食事を再開する。


「せやけど今回は結構続いた方なんやけどな?」

「……何ヶ月だっけ?」


ちらりと視線だけを動かして平次を見る。


「2週間ちょいくらいやな」

「……」


そんなの胸を張って言える程ではないだろう。


新一のため息は止まらないようだった。


「ほんで、また付き合うことになったわ」

「えっ…?」


思わず箸を落として平次を凝視してしまった。


「ん?そないに驚くとこか?」


そう、ここは驚くところではないのだ。


大学にはいってからの平次は付き合ったり別れたりと忙しない。

別れた次の日に新しく彼女ができるという事は何もこれが初めてではなく、むしろ『またか』とため息を吐く方が自然とも思える程だ。

平次はモテる。それはそれは半端ではないくらい、モテる。

告白されることなんか日常茶飯事。ファンクラブまで作れそうな勢いだ。



そんな平次は来るもの拒まずの精神の持ち主らしく、彼女がいないときに告白され少しでもいいなと思ったならば即OKを出していた。

もちろん、彼女がいる間に告白されようものならば、ちゃんと断ることのできる人間だし、誠意をもってその彼女と付き合っている。



しかし、それでも何故か長く続かない。

1週間で別れたり。時には3日で破局、なんてこともあったくらいだった。

それでも少しも人気が落ちないのは、付き合っている間は本当に優しく接していたのだろう平次の態度にあるのだと思う。

態度というよりも、性格と言った方がいいだろうかもしれない。


平次の性格そのものが…とても優しいから…。




そして今回もそれが繰り返された結果にすぎない。

それくらい、平次は告白されては付き合い、すぐに別れては再び告白され、付き合うということを繰り返している。


「あ、いや、ごめん…」


不思議な顔をしている平次に小さく謝り、新一は新しい割り箸を手に取ってパキンと二つに割った。

何事もなかったかのように平次は続ける。


「1個同じ授業取ってる橘美樹いう子なんやけど……知っとるか?」

「う〜ん…解んね…」


一通り自分の記憶をたどってみるが、平次の言う女の子は解らない。

記憶力のいい新一だったが、あまり女の子をじっと見ることをしないので、自然と女の子の顔と名前を覚えるのが少しだけ苦手になった。

と言っても、写真とかを見るのなら全然平気なのだが。

解らないと言った新一に、平次は信じられないというような顔で見てくる。


「ほぉんまに工藤は!もっと回りを見ろっちゅうねん!」

「…無茶言うなよな」


出てしまうため息を隠すこともせずに深く一つ吐くと、新一はうどんを一口頬張った。


「工藤を好き言う子はめっちゃおんねんで!?」


諦めずにまだ力説してくる平次の言葉に、新一は少し眉を顰めた。


「……好きって…違うだろ」

「は?」


少し考えた素振りを見せた後、新一は苦笑した。


「だから、俺が探偵だからさ……何つーの?ファンって感じだろ。恋愛感情とは別のやつ」


新一の推理を述べると、平次は呆気に取られた顔をする。


「……それ、ほんまに言うてんのか?」

「だったら何だよ?」


平次の言う意味が解らず首を傾げて見せると、平次は額に手をあててがっくりと項垂れる。

次は平次が深いため息をつく番だった。新一は平次の態度にムッとする。


「感じ悪いぞ?」

「せやかて、工藤があんまりにも解ってないもんやから…」


ほんまに東の名探偵か?などと言う平次に少しだけカチンときたから、怒った素振りを見せてみる。


「も、いい!服部も早く食えよな!」


新一はぷいっと平次から顔を反らして、食事に専念する。


すると、平次がぷっと笑うのが聞こえた。


「何で笑うわけ?俺、怒ってんだけど?」


謝るかと思っていたのに違う反応を返された新一は驚きながらも、反らしてすぐに平次の方に顔を向けるのが躊躇われ、視線だけ平次に移した。


新一の言葉に反応もせず肩を震わせて笑う平次に、本当に何かしてしまったのかと不安になった新一は思わず名前を呼んでいた。


「服部?」


不安そうな新一の気持ちが解ったのか、平次は笑いながらではあるが顔を上げた。


「いや、工藤の反応って可愛えなて思うて」

「っ!!」


ボンッと一気に自分の顔が赤くなったのが解る。

平次にもそれは解ったのだろう、頬杖をつきながらニヤニヤと新一の反応を楽しむように見ている。


「ば、バカにすんなよなっ!」


赤くなった顔を見られた照れ隠しに、平次を睨みつけてみるが、真っ赤な顔では効果はないだろう。

それでも睨んでみるのは、負けているようで悔しいからかもしれない。




と、新一のすぐ後ろから声が聞こえた。


「いや〜、俺も可愛いと思うけどなぁ」


その意見に驚いて振り向くと、いつのまにか手に昼食を乗せたおぼんを持った向日が立っていた。


「っ!向日?!」


ニヤニヤと笑う向日に、平次は手招きをして自分の隣の席のイスを引く。


「おう、向日!こっちに座れや!」


笑顔の平次に誘われるように平次の隣に行くと、向日は腰を落ち着けた。


「サンキュ!や〜、工藤は何か分かんねんだけど可愛いんだよな〜。な、服部!」


向日が同意を求めるように平次に視線を向けると、先ほどまでの平次の雰囲気がガラリと変わった。


「ほんで?今日は色々と工藤に吹き込んでくれたみたいやないけ?」


ニコニコと笑ってはいるのだが、その言葉には棘がある。


「……あ」


自分でも忘れていたのだろう、向日の顔色が少しだけ青くなる。

―― バカ…

新一は心の中でそう呟いた。


「あ、あははっ…まぁまぁ、服部くん!」


平次は乾いた笑いを浮かべる向日の頭をコツンと軽く殴る。


「せやから向日に教えるの嫌やったんや」


ため息を吐く平次に向日はくってかかる。


「あ、そんなこと言うなよな!服部の情報を知りたいって奴はごまんといるんだからさ!」


「ほー。俺のプライバシーはどないなるんや?」


「申し訳ないが、この国は民主主義だからな!意見の多いほうが勝つことになってんだよ!」


「こぉの…」


そこで新一は我慢できずにぷっと吹き出した。


いきなりくすくすと笑いだした新一に、二人は毒気を抜かれたように新一を見る。


「お、お前らおもしろすぎっ」


腹を抱えて笑う新一を二人はぼーっと見ていたかと思うと、向日は感嘆のため息を吐いた。


「……ホント、可愛いよなぁ、お前」

「え…は?」


しみじみと言う向日の言葉が分からずに、新一は首をかしげた。


「自覚なしですかい。どー思います、服部さん」


二人でひそひそ話をする姿に、新一は少しだけ焦ったような声を出す。


「な、何だよ、二人して?」


話題についていけない新一を見ると二人で顔を見合わせて笑った。


「何でもあらへんよ。さ、メシ食おか」

「そーだな!」


しばらく納得がいかなかった新一だが、問い詰めても白状はしないだろう事を経験で悟っていた。

まぁいいかと思い直すことにして、冷めないうちにとうどんに箸を伸ばす。

そしていつものようにくだらない話で盛り上がったりしながら、お昼の時間は過ぎていくのだった。







すぐに次の授業の時間となり、じゃんけんで負けた平次がぶつぶつ文句を言いながらも3人分の食器を食堂に返しに行った。


それを見計らってか、向日が身を乗り出して新一に耳打ちしてくる。


「な、な!工藤は好きな奴とか、いんのか?」



突然のその質問に少なからず驚きはしたものの。





“好きな奴”と言われて脳裏に浮かんだ人物を想って。





新一はふっと笑みを浮かべた。





「……いるよ…」






心から。好きな人は、いる。






「えええっ!マジかっ!?」


答えを聞いた向日は本当に驚いたように素っ頓狂な声を上げた。

違う答えを予想していたのだろうことは、その様子で見て取れる。


「んだよ、いたら悪ぃのかよ!?」


少しだけ眉を顰めると、向日は慌てて弁解し始めた。


「いやいや!悪い!居るとは思わなくてさー」

「どういう意味だよ?」


更に眉を顰めて向日を見ると、向日はぽりぽりと頭を掻いた。


「ん?だって、工藤あんまり遊びに行かねぇし、そういう噂聞かねぇし…」


そういえばそうだ、と、向日の言い分に妙に納得してしまった新一は、それ以上追及できなかった。

遊びに誘われるものの、OKしたことが何回あっただろうか?

片手で足りるくらいだったと思うが覚えていない。


そもそも、前に皆で遊びに行ったのはいつだったかと悩んでしまうほど昔のことに思える。

それもそのはず、何かと理由をつけて遊びにはいかないようにしていたのは他でもなく新一自身なのだから。

遊びに行ってしまったら。いつどんなところからこの想いがバレるか解らなかったから、誘いにはあまりのらなかったのだ。

自分では隠し通すつもりだったとしても、胸から溢れ出る感情を知られるかもしれないと思ってしまった。


それほどに。


溢れ出てしまいそうだったのだ。




想いが……。





一度バレてしまえば噂などすぐに広まるので、新一はその噂されるのを根元から断つために遊びにいかない。



バレることが嫌なのではない。



バレてしまったら、駄目なのだ。





「…まぁ皆には隠してるし……」


ぼそっと呟いた新一の後ろから、いきなり平次が割り込んできた。


「何を隠してんのや?」

「っ!?」


突然現われた平次に、新一は心底驚く。


少しだけパニックに陥ってしまい、上手くごまかしの言葉がでてこない新一に気づいたのだろう向日が助け舟を出してくれた。


「何でもねーよ!服部には関係ないことだから、気にすんな!」


カラカラと笑う向日の性格がありがたいと新一は思う。

その向日の態度でいつものようなくだらない話をしていたのかと平次は納得したのだろう。

特に追求することもなく、時計をちらりと見上げた。


「ほんなら講義に行こか?次は西棟やったよな、工藤」


確認をとる平次に新一はこくんと頷いて席を立った。





三人は食堂を一緒に出、出口のところで次の講義の違う向日とは分かれることになる。



そのまま軽く会話をして分かれたものの、途中止めになってしまった先ほどの話題のことが気になった新一は平次に少し待ってくれるよう頼み、向日を追いかけた。


「向日!」


呼びかけて走り寄る新一に気づいた向日はニッと笑いかけてくる。


「ん?どしたよ、工藤?忘れモンか?」


思わず追いかけてしまった新一だったが、首をかしげる向日にどう言っていいものか解らない。


「…えと…さっきのこと、だけど…」


つい向日には好きな人が居ると言ってしまったのだが、それが広まるとすこしだけマズイ。

好きな奴は誰かと問いただされるのも目に見えてしまうから。

できればそういう事態は避けたい。


しどろもどろに言葉を紡ぐ新一を見ていた向日はふっと笑って新一の背中をぽんっと叩いた。


「分ぁかってるって!言わねぇよ!」


任せろとばかりに胸を張る向日の言葉を信じていいものかと新一は眉を顰める。


「……」


新一の態度で何を考えているのか解った向日は苦笑した。


「あ、信じてねぇな?」


心外だなぁ、と笑いながら一言洩らすと、しっかりと新一を見る。


「何か理由があんだろ!?これでも、言っていいことと悪いことの区別はつくんだぜ?」


向日の顔は笑っていたが、瞳の色はいつもの冗談を言うものではなく、本気が伝わってきた。

向日らしいと言える言い方に、新一はくすっと笑う。


「ん…じゃ、悪いけどよろしくな」

「おう!それじゃな!」


手を振って人ごみに紛れていく向日が見えなくなると、新一は少し息を吐いてぎゅっと唇を噛み締めた。






言えない、理由……。





どうしても秘密にしなければならない恋を。

新一は、していた。










止めなければならないと、解っているのに。



止められない想いがあることを……知った………。
























ごめん……。























俺…………

















服部が…………。




















好き なんだ―――。









新一の片思いですvv
そして平次はなんと、彼女もち…。
切ない系で頑張ろうと思いますvv
このお話は少しずつ、少しずつ進んでいくお話にしようと思ってます
長編になるのか今のところ未定ですが、多分長編になるんだろうなぁιι
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