次に君が目覚めたときは




もう一度 君を 抱きしめて





もう二度と君を 離さない―――











誓い

― vol.8



手術は一応成功した。

しかし、大量に出血したことや、救急車で運ばれている途中何度か危ない状態に陥ったこともあり、新一が目を覚ますか解らないと医者は言う。



平次は、ぎゅっと拳を握り締めた。

嘘だと、思った…。

夢だったらどんなにいいか………。


だけど、目の前にいる酸素マスクや点滴の管に繋がれた新一が痛い現実を教える。



新一の病室には医師と看護士以外は入れないと言われていたのだが、平次は何度も何度も頭を下げて頼み込み、少しの間だけならと許可を得た。

しかし、今平次が立っている場所は新一の病室の前。


入ろうと思って足を進めようとするが、今までの自分が新一にしたことを思うと足が動かなくなってしまっていた。


どうして自分が新一の傍にいられるだろう…。


もうそんな資格など…記憶を無くしてしまった時からありはしないというのに……。




だけど…どうしても…。




どうしても新一の傍にいたい……。




そんな葛藤をずっと繰り返していた平次は病室の前で動けないでいたのだ。



自分の不甲斐なさが腹立たしくてならない。


どうして……どうして自分は新一を忘れていられたのだろう……。



一番、大切で…。





誰よりも……愛している、新一を……。










『……誰や…?』と言ったときに見せた新一の表情を覚えている。


信じられないという瞳をして……心底傷ついていた…。



自分が……傷つけた……。



新一を傷つけてしまった自分を殺してやりたかった…。







一人で……たった独りで戦っていた新一。


どれほど心細かっただろうか。


握り締めた拳から、つ、と血が流れ落ちた。

しかし、平次はそんなことなど気にとめず更にぐっと掌を握り締める。


―― こんなもんや、ない…… 工藤が感じた痛みは、こんなもんやないっ!!



眉間に皺を刻んだまま、ふう、と深呼吸をして顔を上げる。

目を反らすことなくしっかりと新一を見つめる。そしてゆっくりと瞳を閉じた。







5分位そうしていただろうか……。




平次は閉じていた瞳を開け、意を決して新一の病室へと足を進めた。



コツン、コツン、と響く自分の足音にさえも緊張してしまう。

ようやく新一に触れられる位置に到着すると、平次は小さく息をついた。

愛しい新一の顔を飽きることなく見つめる。


とても愛しいと……想う……。


この宇宙で唯一人。



明かりが燈るように、平次の胸に居続ける、人。




イスに座ると、新一の方へゆっくりと手を伸ばした。

触れるなんて、許されることではないと頭の中で警報が鳴り響いているけれど。

体は正直で、触れたいと願うままに動いていた……。


新一の手に触れる寸前で躊躇し手を少し引いたが、数回深呼吸をして再び新一へと手を伸ばす。





触れた瞬間……平次の瞳からは涙が零れ落ちた。





自分でも零れ落ちる涙に驚く。





自分が泣くなんて、筋違いだと思う。





だけど、涙が止まらない。








新一の温もりが伝わってくるから……涙は、止まらない……。











離れないと……言ったのに……。











絶対に護ると…誓ったのに――。















もう自分が望むのは許されないことだとしても…。


新一だけは……失いたくない……絶対に――。




「…早よ…帰ってこいや……」



他の誰でもなく。



自分の元へ――。










平次が望むものはたった一つ。








“工藤新一”








ただ、一人だけ――。












 













新一は、綺麗な場所に、いた。


何だか体がふわふわして落ち着かない。だけど決して悪い気分ではなく、むしろいい気分だった。

楽園というものがあるのなら、まさしくそう呼ぶに相応しいだろう。

どうしてこんな場所にいるのか、という考えは今の新一にとってどうでもいいことだった。

ただ、少しだけ体が重い。


その時、遠くのほうから、新一を呼ぶ優しい声が聞こえた。

知らない声だったのだが、誘われるようにゆっくりと足をそちらへ向ける。


その声は甘く、導いていく。


その声の方に歩いて行くと、不思議と体が段々と軽くなっていった。



それがすごく気持ちよくて。



進める速度を上げて、呼びかけてくる声に向かっていく。



こちらに来れば苦しむことは何もない、と。幸せが、待っている、と……甘く響く声が、誘う。








と。思考力を失っていたはずの新一は、その言葉にぴたりと足を止めた。











―― 幸…せ……?










ゆっくりと周りを見回す。


周りはとても綺麗だ。身体も先ほどと打って変わったように軽くなっている。








だけど……。












……平次が、いない。












―― 服部……?服部……どこに居るんだ……?







急に心細くなって、必死に平次を探す。


その間にも、あの声は更に新一を誘う。幸せになるために、こちらに来いと。




幸せ?

何も考えることなく。ただ暖かい空気に包まれて……。














………違う。












違う……違うっ…!!












平次がいないと、幸せになんかなれない。





―― 服部っ……服部っ!!





確かに楽しいことばかりではなく、苦しいこともたくさんある。



だけど、幸せなのだ。



平次が傍にいる、ただそれだけで。信じられないほど幸せなのだ。






体で感じるだけでなく。










……心が…………幸せだと、感じる……。










平次自身が……新一の“幸せ”そのものなのだ――。
















もう、新一を誘うあの声は、聞こえなかった。










と、その時。新一の後ろから光が差した。














振り返るとその光の中には………。
























「……っはっとり…」










新一は平次を呼ぶ自分の声で、ゆっくりと目を覚ました。

ぼんやりとしていると、少しずつだが、周りの景色がはっきりとしてくる。


最初に瞳に映ったのは。

愛しい、人……。


「く…ど……っ?」


新一が目を開けたことに驚愕している平次と視線が絡み合う。


「っ…は、とり…?」


普通に呼んだつもりだったが、少し掠れた声になっている。声を出すことが、少しだけ苦しい。

それでも目の前にいる人に、声を掛けずにはいられなかった。



「…んで……泣いてんだよ……」


平次の瞳から流れ落ちる涙を見てくすっと笑い、布団の中から手を出してゆっくりと平次の方に伸ばす。

すぐに平次の手に掴まれて、ぎゅっと握られた。


平次の暖かさに、安心する。


「…何でもあらへんよ…」


平次はぐいっと涙を拭って、少し強めに手を握りなおした。

そしてそっと新一の手の甲にキスを落とす。


「……服部…だよな…?」


ぼーっとしながら、平次の存在を確かめる。


「…せや……全部、思い出したで…」

「……そ、か…」


手のひらから平次の暖かさが伝わってくるのが嬉しくて、新一はふわっと笑った。

平次も優しい目をして新一を見つめている。


病室がうっすらと明るくなってきたことから、恐らく日の出前くらいだろう。

何日眠っていたのかと思った新一だったが、すぐに考えることを放棄した。


平次が心配そうな瞳でこちらを覗いてくる。


「……工藤…体辛ないか?」

「ん…大丈夫…だけど…」


ふう、と息をついて目を閉じた新一に、平次は痛いところでもあるのかと眉を顰めた。


「だけど?」


新一はうっすら目を開いて身を乗り出すように問い詰める平次をぼんやりと眺める。


「……ごめ…すっげ、眠い…」


平次が呆気に取られたような表情をしたのをなんとなく視界に捕らえながら、新一は眠そうに言った。

一瞬驚いていた平次だが、ふっと笑みをこぼすと新一の髪をさらりと撫でる。



「ええよ…しっかり休みぃや」



優しい声が、新一の身体に染み渡っていく。







「……っとり……傍に…いろよ、な…」







ぼんやりとした頭でそう告げると、平次がくすっと笑ったのが解った。



「……当たり前やん……」



その返事に心底安心した新一はすぐに睡魔に身を任せる。








「…話したいこと……いっぱいあんのや……」






最後にそう呟いた平次の言葉と零れ落ちた一粒の涙を見ることなく、新一は平次の暖かさに包まれながら幸せな眠りについた。













新一、復活しました〜vv
目覚めるのが少し早すぎかなという思いもあったのですが、まぁ良しとしてください(笑)
色々ありまして、今回は少し短めの話になりましたιιすみませんιι
そして、次は最終回になりますvv
やっと終わる目処が立って嬉しいです
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