何が“恋”で


何が“愛”なのか 解らないけれど





護りたいと 思うんだ





君を―――







誓い

― vol.7




「新一」


新一は立川のその一言で、どれだけ怒っているか痛いくらい解ってしまった。

おそらく、一部始終を見ていたのだろう。

下手な言い訳なんて通じる相手ではないのも、知っている。


「何してんだ?……そんな奴なんかと何してた?」


静かに響く声。口元にうっすら笑みを浮かべてはいるが、目が笑っていない。

咄嗟に新一は庇うように平次の前に立った。

その行動に、更に怒りが増したのだろう、立川は平次を憎憎しげに睨んだ。


「…服部…俺と新一が付き合ってることを知っててどうして手を出すんだ?」


腹立たしげに言い捨てると、小さなため息を一つ吐いた。


「あれで懲りたと思ってたのに……また、身体に教えてやらなきゃならないようだね」


ギラリと、立川の瞳が殺意を含んだ。


立川の怒りは完全に平次に向いている。このままではマズイと思った新一は、冷静になりながら考え、瞬時に結論を出した。



「違うっ!服部のせいじゃねぇ!!お、俺が無理矢理言い寄ったんだっ!」



いきなり弾けたように言った新一を平次は驚いて見た。


「工藤、何言うてっ…!」

「立川には言ってなかったけど、俺、結構、う、浮気するんだぜ!?」


平次が口を挟む前に、新一は次々と言葉を紡いでいく。


「特定の奴だけとなんて、すぐに飽きちまうし」


ぴくりと立川の肩が揺れた。新一の言葉に動揺しているのが隠せなかったらしい。

もう一息だと思った新一は、間髪を入れずに続けた。


「さっきのもちょっとした遊びだしっ…ほ、本当は他にもまだ相手いるんだぜ!?」


新一は頭をフル回転させて、前に見たドラマのセリフを思い出していた。

一途な男と悪女の話だったような気がしたが、興味が無いのでそこまでは覚えていない。咄嗟にドラマの中での男と女の会話を引用したのだ。

嘘でも吐かなければ、この場を乗り切れる自信がなかったから。


一気にそう捲くし立てると、立川の視線は新一に向けられた。


「……新一…僕がこんなに君のことを好きなのに、どうして解ってくれないかな…」

「っ!」


瞳の鋭さに恐怖に刈られる。しかし、新一は心の中で少し安堵した。

最初は平次に向けられていた殺意も、今では完全に新一に向けられている。

立川を煽れるだけ煽ることで、何とか自分に意識を集中させることに成功したようだ。

もちろん自分が危険になることは重々承知している。

それでも、平次を巻き込むわけにはいかないのだ。


「こんなにも愛してるのに、どうして…」

「だからっ、もうしねぇよっ!!」


そう、もう終わりだ。


いい加減決着をつけなければ、いつ平次がまた危険な目にあうか解らないのだから。





「工藤っ!!」


勝手な新一の言い分に平次が黙っているはずがなく、平次は新一の肩に手を掛ける。

新一はぎゅっと拳を固く握り直すと、肩に掛けられた平次の手を荒々しく振り解いた。


「服部は関係ない。余計な口を挟まないでくれ」


キッと睨みつけると、平次は驚きに言葉を失ったようだ。

新一と平次の様子を見ていた立川は、どうやら本当に平次に対する怒りが消え去ったらしく、新一にだけ視線が向けられる。


「そうだね。これは俺と新一だけの問題だ。部外者は他所に行ってくれないか」


「……立川、あっちで話そうぜ」


新一は固まってしまった平次をちらりと見て、これで平次を巻き込まずに済むと思った。が、それと同時に酷く心が痛む。

巻きこまないためとはいえ、平次に酷い言葉を投げつけてしまった。

新一が関係無いと言いきった時に見せた平次の顔が頭から離れない。

ショックを受けている平次を一人になどさせたくはない。

しかし、今の新一にはそうする以外の手段を知らないのだ。


後でたくさん謝ろうと思う。平次がもういいと言っても、たくさんたくさん、謝ろうと思う。


そして。



伝えてもいいだろうか……。





自分の……想いを……。







新一は小さく深呼吸をすると、二人だけで決着をつけるために歩き出そうとした。と、その時。

今まで固まっていた平次が顔を上げた。


「……お前、工藤のこと好きや言うたな」


新一が平次を振りかえると、平次はしっかりと立川を見ていた。

立川は少しだけムッとした顔をして平次を睨む。


「…そうだよ。君なんかより、ずっとね」


“ずっと”のところを強調して言った立川に、平次は初めてキッと立川を睨んで怒りを露わにした。



「ほんなら、何で気付いてやらんねん…」



ピリピリと触れたら切れそうなほど鋭いオーラを醸し出している平次に、立川は息を呑んだ。


「…っ何がだよっ」


負けじと対抗しようとする立川さえも押さえこむように平次は声を荒げた。



「工藤がこないに辛そおな顔しとるっちゅーのに、何で気付いてやらへんねん!!」



「っ!?」

平次のその言葉に、新一は思わず自分の口に手をあてた。

それは……。

それは、新一のことを想って言っている言葉。





「好きやったら、ちゃんとそいつを見たれや!!惚れとる奴泣かせて、何が“愛してる”や!!」





立川は平次の言葉に反論することも出来ず、ただ立ち尽くす。










「好きな奴は、護ったれやっ!!」










平次の声が。言葉が。



心に、染み渡る。










と、いきなりくるりと平次が新一の方に視線を向けた。

そして怒り口調で新一に言う。


「工藤も!」

「えっ」


平次の怒りを買うような発言をして平次が怒ることは解っていた新一だが、実際平次に怒りを向けられるとどうしてもビクッとしてしまう。

まだ覚悟が足りなかったのだろうか?


何を言われるかと緊張していた新一に、平次は言葉を続けた。


「俺が工藤にキスしたこと、無かったことにせぇへんで!そんな半端な気持ちでキスしたんとちゃうからな!!」


ドクン、と胸が高鳴る。


―― 俺だって…無かったことになんか、したくねぇよ…


でもそれは何もかも決着をつけた後で伝えようと決心したのだ。




―― 護りたい……から……




突き放すような台詞を言おうと新一が口を開きかけたとき、立川がそれを遮った。


「…工藤にはまだ他に相手がいると解っててもそういうことを言うのかい…?」


そう、そういうことになっている。

嘘とは言え、平次にそんな風に見られるのは我慢が出来ない。

今更、と思うかもしれないが。

新一が何より気になるのは。

平次だけ、なのだ。




だけど、平次がそれを信じてさえくれれば、立川の怒りは新一だけのもので。

平次が傷つくことは無いから。嘘で固められたその言葉を、今は信じて欲しい。



新一が伺うようにちらりと平次を見ると、平次は呆れたように小さなため息を吐いた。


「アホやなぁ。あんなん嘘に決まっとるやん!」

「っ!!??」


立川の瞳が驚きに見開かれる。


ヤバイ、と新一は直感的に感じた。

今嘘がバレてしまえば、平次にも立川の怒りという火の粉が降りかかってしまうのは避けられなくなる。

立川の怒りは新一に向いていないと、危ないのだ。


「う、嘘じゃねぇよっ!!本当に…っ」


そう言いかけた新一の頭に、優しく平次の手が置かれる。


「あないなバレバレの嘘、誰が信じるかい。工藤は嘘つくん下手やなぁ」


平次はくすくすと笑いながら新一の頭をゆっくりと撫でている。


「何であないな嘘吐かなあかんのか解らへんけど、工藤は浮気なんかできへん奴やろ」

「っ…!」



―― そう、だよ……。



浮気、なんて、新一には解らないのだから……。


“浮気”という意味は十分に知っているし、軽い気持ちでするということも理解している。


だけど。




どうやって“浮気”をするのか、解らない。

どうして“浮気”ができるのかも、解らない。


だって平次以外目に入らない。

自分の中の大部分が平次で埋められていて。

自分の視線、身体、心さえも 全て平次のモノなのだから。




そんな新一が、どうして浮気なんかできるだろうか…。




瞬間、立川の殺気がドンッと大きくなった。

立川を見たときには、もうすでに二人の近くまで近づいていて。

新一が平次に逃げるよう言おうとした途端、立川が平次の顔にてに持っていた何かを噴きかけた。


「っ服部っ!!」


平次もいきなりのことでガード出来ず、それを吸い込んでしまう。


何をしたのか問いただそうとした時、平次の視界がぐらりと揺れた。

疲れがドッと押し寄せたみたいに、足に力が入らない。


それより強烈に頭に残る、自分の知らない、甘ったるい香り………。







……違う…………







この香りは嗅いだことがある。







いつ?どこで?




鼻につく、甘い 香り。










……解らない……











「っ……つくづくっ…ムカツク男だねっ…」


立川は吐き捨てるように平次に向かってキツイ視線を向けた。

平次は立っているのも困難で、すぐ後ろにあった木にもたれ掛かるようにして何とか体勢を整えている。

そんな平次の折れているほうの腕を、立川は乱暴に殴った。


「くっ…」

「服部っ!!」


痛みに眉を顰めながらも平次はキッと立川を睨む。


「のやろ……っ!?」


しかし、あの甘い香りに思考力を奪われ、体に力も入らない。


「やめろっ!!服部に手を出すなっ!!」


身体を張って立川と平次の間に入り込むことが出来た新一は、大きく両腕を広げて平次を庇う。


「いくら新一の言うことでもこれは聞けないよ。忠告してやったのに同じ過ちを繰り返すからいけないんだ」

「償いは俺がするっ!!だからっ…」


叫ぶようにそう言う新一の腕をあっという間に捻り上げた立川は、着けていたネクタイを使って新一の両手を後ろで一纏めにした。


「っ!?」


痛みに一瞬顔を歪めるが、それも追いつかないほど素早い動きで、立川はそのまま新一を近くの木にくくりつけた。


「…もう、遅いよ…」


歪んだ光を放つ立川の瞳に、ゾクリと嫌なものが背中を駆け抜ける。

何とかして纏められたネクタイを解こうと力を込めて引っ張るが、擦れるだけで外れそうにない。

それでも一生懸命解こうと新一がもがいていると、信じられないことに、立川が胸元から刃渡り15cmくらいのナイフを取り出して平次に向けたのだ。


「っ!!な、何をっ…」


新一の言葉を無視して、立川はゆっくりと平次に近づいていく。


信じられないというように新一はその光景を見ていた。


「やめろっ!!」


新一は必死にもがきながら叫ぶ。




頼む!!あいつは…服部だけは傷つけるな!!



もう………もう、見たくねぇんだっ………!!






もう………








あんなに心が張り裂けるような思いはごめんだ………























―― 二度と俺の目の前で服部を傷つけさせねぇ!!


























平次の近くにたどり着いた立川は、ナイフをぎゅっと握り直して振りかざした。


平次は振り下ろされるナイフになす術もなく、やられると思って目を強く瞑った。






「服部っ!!!」






新一が平次を呼んだ瞬間、ドスッと鈍い音が 響いた。

























「………」

































「………?」



























いつまでたっても来るだろう衝撃が来ないのを不思議に思い、平次はゆっくりと目を開ける。


その瞬間、目を見開いた。平次は自分の目を疑った。


「……………どうして………だ……?」


立川が低い声で言う。その声は少し震えているような感じさえする。




「……どうして…そいつをかばった……?」



その言葉通り、平次の前には新一が立っている。


そんなことは問題ではないのだ。問題なのは、ナイフの刺さっている場所。

ナイフは、新一の心臓の少し上辺りに深く刺さっていた。射された場所からはおびただしい量の血が流れ出ている。



平次は真っ白になりながらも、混乱する頭の中を一生懸命整理してみる。

新一は先程まで立川によって後ろ手にネクタイで縛られて、そのまま木にくくり付けられていたはずだ。

しかし、目の前には紛れもない、新一がいて。


新一の手首にはまだネクタイが巻き付いている。木にくくり付けられていたネクタイを引き千切ったのだろう。手首が擦れて血がにじんでいる。



それよりも……どうして新一の胸にナイフが刺さっている……?



徐々に頭の霧が晴れていく中、平次の心に冷たいものが流れ落ちてくる。


「……どうして………」


壊れた機械みたいに同じ言葉を繰り返す立川に、新一はいつもの不敵な笑みを見せた。





「……お…前……には………解ん……ねぇ…よ…………… ………一生………」





そう言い終わった後、新一の体がぐらりとゆれた。


「工藤っ!!」


はっと我にかえり、倒れた新一を何とか受け止めることに成功した平次は、新一の胸の傷の酷さに眉を顰めた。


「アホッ!!何でこないなことっ…!!」


平次はすばやく新一の着ている血に染まったシャツを破り、そのシャツで包帯を作って新一の傷口を塞ぐ。


「………っとり…………え………は………?」


新一がか細い声で何か言っている。応急処置をしながら、平次は新一の言葉に耳を傾けた。


「え!?何や!?」

「…お前、は…? ……服部は……大……丈夫……か……?」


その言葉を聞いた瞬間、平次は泣きたくなった。


「お…俺んことより、工藤やろ!!こないな時に何言うてんねん!!」



―― 何で………何で工藤は、自分がこないな状態のときに人の心配なんかしてんねんっ……



「っ………ケガ…とか………」

「っ!!」


声を出すのも苦しそうなのに、新一は必死に平次の心配をしてくる。


「っ…俺は全然大丈夫や!!」



平次がそう言うと、新一は2、3度辛そうに肩で息をして………









………フワリと……綺麗に笑った。








平次は息が詰まるような衝撃に襲われた。


「〜〜っんの、アホ!!自分の状態分かってへんやろ!!」


応急処置を済ませたものの、新一の血が止まることがない。縛ったシャツの下から血が出てくる。


―― あかん……血ぃ止まらへん!!


「後で治ったら何でこないなことしたか、ちゃんと聞かせてもらうで!!ええな!!」


平次は自分の着ているシャツも脱ぎ、包帯に換えて新一に巻きつけていく。


その横顔を見ながら、新一は意識が朦朧としてくるのを感じた。


―― 何でって……んな事……決まってるじゃねぇか……そんなの………


「っ…とり…」


鉛のように重たくなった自分の右腕を一生懸命持ち上げて、そっと平次の頬に触れた。

平次が驚いたように新一を見る。



こんなときなのに…自分だけを見てくれる平次の瞳が……何だか……、嬉しくて………。



そんな顔も………本当に………




















「……………き………… …好き……だよ………」

















「!?」



すべてが……本当に、好きだと、思って………。









こんな偽りだらけの 世の中で……






この想いだけが、真実だから………。





















好きだよ、服部…………


















お前を……… 愛してる―――――。

































そこで新一の意識はなくなった。



















『……好き……だよ………』


新一のその言葉を聞いた瞬間、平次の中で何かが音を立てて壊れた。


「………く………どぉ…?」


急に視界がクリアになっていく。


覚えている。


立川に呼び出されて、そのまま突き落とされて。自分は記憶をなくしていた……



それで………?



ふと下に視線を向けると、胸から血を流して倒れている新一が目に入った。

急速に冷えていく心。


「工藤ぉおっ!!」






悲痛な叫び声は、空に響いて。







空気に、溶けていった。

















ぎゃーっ!!!新一刺されちゃいましたーっ!!(をい。/笑)
新一を愛でたい気持ちは本当にあるのですっ!!あるのですが、こんな展開に…ιιす、すみませんιι
そしてようやく記憶を取り戻した平次。ショック療法ってカンジですかね??
とにかく、ようやく一番書きたかった部分を書くことができましたvv満足vv
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