君の 強さや、優しさ……



弱さも 全部



好き だよ――。



誓い

― vol.3



新一は重い足を引きずりながらも平次が転落した現場に到着した。

大学の東棟の4階、平次が落ちてきた教室に入る。



ふう、と先ほどから止まらないため息を吐いた。





あの後、意識を回復した平次の検査が行われた。

結果は異常ないとのことで、すぐにでも退院できるらしかったが、骨折の様子を見るという意味でも2、3日は入院することになった。


『……誰や…?』


ぎゅっと拳を握り締める。平次の言葉が頭から離れない。

新一が解らないのは、少しだけ混乱しているだけかと思って必死に説明した。

平次は家族や友人、大学のことなどは事細かに覚えていた。

両親が来られないということ伝えると、『ったく、息子が怪我したっちゅーのに……ほぉんま、あんの親は…』と、ため息をついた。


しかし。どんなに説明しても、平次は新一のことを解らないと言う。



そう。平次が忘れてしまったのは、新一のことだけだったのだ。



新一のことだけを忘れるなんて。そんなはずがないと、思った。







……そう、……思いたかった……。







けれど、現実は新一に冷たくて。





平次が新一を思い出すことは、なかった。





平次の瞳は本当に知らない人を見ているようだった。



もちろん、平次は一生懸命思い出そうとしてくれていた。



……優しい、奴だから……。



バツが悪そうにしながら、スマン、と。言ってくれた。


本当は、何が何でも自分のことを思いだして欲しかった。





でも……。





平次にそんな顔をさせるのは……耐えられなかった……。






だから、新一は必死に、言った。


『だ、大丈夫だって!その内、思い出すかもしんねーだろ!そ…それに、俺たち そんなに仲、いい方じゃ…なかった、し…』


多少の嘘も。平次にあんな顔をさせることを考えたら……許されると、思った。



自分は、平次が落ちて来たときたまたま近くにいたから付き添ってただけだと説明して、預かっていた平次の携帯を渡し、それで仲いい友達を呼ぶように言って。


新一は用事があるから、と、病院を出たのだった。





平次が落ちてきたときに味わったのとは違う『恐怖』を感じる。


自分のことを忘れられるのが、こんなにも恐怖だとは思わなかった。





ぶるっと頭を振って、自分の考えを切りかえる。

そう、自分の『恐怖』など、二の次なのだ。


問題は、平次が何者かによって突き落とされたという事実。

4階から突き落とすくらいなのだ。犯人は平次に殺意に近いものを抱いていたのは解る。

早く犯人を捕まえなければ、再びその犯人が平次を襲ってくるということも、十分にあり得る話だ。



もはや自分がストーカーに狙われていることなんて微塵も頭の中に無い新一は、平次を突き落とした犯人を突き止めるべく、現場に来たのだった。






教室を見まわす。得に、変わった様子はないようだ。

あまり使われていないので、机にはうっすら埃が溜まっている。机の下には綺麗に並べられたイスがあった。


そこで、ふ、と目を止める。

窓に近いところにあるイス二つに動かされた形跡がある。

じっくり見ようと近寄った時、後ろから声が聞こえた。



「やぁ、工藤。待ってたよ」



ビクッとして振りかえると、そこには優雅に笑いながらたたずむ一人の男がいた。立川だった。


「……誰だ?」


即座に知らない顔だと判断した新一は、眉をひそめた。


「これは失礼。俺は立川桂。桂と呼んでくれ」


立川はにっこりと笑い、教室に入ってきた。

その行動に、新一は眉間に眉をひそめた。現場の状態をできるだけ荒らされたくはないのだ。と言っても、平次が転落して1日は過ぎてしまったのだから、証拠は残ってない可能性の方が高いのだが。


「悪ぃけど、今忙しいんだ。後にしろよ」


これ以上入ってくるなという意味合いを込めてそう言うものの、立川は足を進めることを辞めない。


「どうしてそんなにツレなくするんだ?」

「だから今は…」


新一の話を聞かない立川を睨んだ。しかし、やはり立川には効果はないらしく、ついに新一に手の届くところまで近づいてきた。





そして。






恐ろしい言葉を口にした。










「約束の一ヶ月を過ぎてしまったことを怒っているのかい?」










その言葉に、体が固まる。


「っ!?…お前、あの手紙の犯人、か…?」

「犯人なんて人聞き悪いな。送り主、と言ってくれ」


ニヤニヤと笑う立川を見ると、ふと、あの文面が新一の頭によみがえってきた。





『貴方に纏わりつく悪を倒し』





自分の推理に、す、と血の気が引いた。





新一はゆっくりと言葉を紡ぐ。




「…まさか……お前が……」




新一の言いたいことが解ったのか、立川が更にニヤリ、と笑った。





「そうだよ。…俺が服部を突き落としたんだ。」


「っ!!…てめぇっ!!」


立川の胸倉につかみ掛かるが、あっさりとその手を取られて逆に捻りあげられてしまった。


「工藤は怒った顔も可愛いけどね。でもあいつのために怒るっていうのは腹が立つ」


ふ、と耳元に息を吹きかけられ、諭すように囁かれた。


「ねぇ…工藤は服部に騙されていただけだよ…あいつと付き合うなんてどうかしてたんだ。でも俺は心が広いから許してあげるよ。だって工藤はもう俺のモノなんだからね」

「っ誰がっ!!」


鳥肌が立った。必死に抵抗しようと体を動かすと、捻り上げられた手に力を入れられ痛みが走った。


「いいの?そんなに冷たいと、俺はまた服部を襲っちゃうかもしれないよ?」

「っ!!んだとっ!!」


せめてもの抵抗にキッと立川を睨む。

立川は楽しそうに続けた。


「服部は確かに強いよ。でも、残念。俺の方が上手なんだ。」


その言葉に、体がこわばった。


そう、不思議に思っていた。


どうして剣道だけでなく武術にも心得がある平次が突き落とされたのか。


もみ合っている間にバランスを崩してしまったところを突き落とされたのかとも考えていた。

しかし。ふいうちだろうが、それなら平次も受身くらいはとるはずだ。それなのにあの日平次はなすがままに地面に叩き付けられたのだ。

ということは。犯人が予想以上に強く、平次が動けない状態だったという結論に行き付く。

何らかの方法で平次の体の自由を効かなくさせた所を突き落としたのだろう。

今対決をしようものなら、間違いなく、落下の衝撃で負傷している平次が、負ける。


今回は命があったからよかったものの。


次もそうだとは限らないのだ。


立川は次こそは手加減などしないだろう。もしかしたら本当に殺してしまうかもしれない。




―― 嫌だっ!!服部!!




「ね、俺の方が強いって解ったろ?服部より俺のほうが工藤を守ってやれるよ」


立川は新一の抵抗がやんだことに気付くと微笑みを浮かべながら新一の腰に手を回した。


そうだ、自分が平次に近づかなければ立川も平次を狙う理由がなくなるだろう。

その間に立川の弱みを握るなり、自主させるなり、方法はいくらでもある。


自分なら、大丈夫だ。


仮にも男だし、そう簡単に言いなりになどなるつもりも ない。

そう、自分に言い聞かせた時、立川から驚くような言葉が放たれた。



「服部、記憶なくしちゃってただろ?」



新一は驚きに目を見開く。


「っ、何でそれっ…」


動揺している新一に、立川は事もなさげに言い放った。


「当然だろ?俺がそういう風にしたんだから」

「っ…んだ、と…?」

「工藤には特別に教えてあげるよ。俺が服部に施したのは黒魔術。ちゃんとした本物だよ」


一言で言うと、信じられない。

思いも寄らない言葉に少しだけ新一の思考回路が停止する。

でも。平次が新一の記憶を無くしているのは、紛れも無い事実だ。


―― 黒魔術…?本当にそんなモノがあるのか…?


嘘かもしれない。しかし、当の本人の表情から真実を見ぬくことは難しかった。

色々思案している新一を見ながら立川はニヤッと笑った。


「でも、服部も対した事ないよね」


服部をけなされたことに、少しだけカチンときて睨む。


「どういう意味だよ?」


新一が平次のことで不機嫌になったのが面白くないのか、立川は複雑な顔をしていた。


「だって、本当に愛してたって言うんなら、あれしきの事で工藤の記憶をなくしたりしないだろう?俺だったら、最愛の工藤のことは忘れられないけどな」


うやうやしく新一の髪の毛にキスを落としてきた立川を振り払うと、新一は下を向いて視線をさ迷わせた。


「っ…」


その言葉が新一に重く圧し掛かっている。

いつもならそんな戯言など軽く流せる。



平次が…傍にいたから……。



しかし、今は平次がいない。それどころか、新一のことを忘れている。

頭から強引に消し去ったはずの不安が再び顔を出した。


―― 何考えてんだよっ!こんな事考えてたら、コイツの思う壺だっ!


唇を噛み締め、必死に不安を消し去ろうと努力するものの、そんな新一をあざけ笑うかのように不安が心を支配し始めていた。










その時。










優しい空気が、新一を   包んだ …。










『工藤!』










―― え?


驚いて顔を上げる。

周りを見ても、何も変わったところはない。いるはずが、ないのだ。

でも…さっきの声は……。








―― 服部…?




ふわっと心の中が暖かくなっていくのが解る。


平次の事を考えるだけで……想うだけで、こんなにも心が暖かいモノで満たされる。


不安など。もう、どこにも……なかった…。







「所詮、あの程度だったんだよ、服部の想いなんて」


言いたい放題言葉を紡ぐ立川に、言い返したい気持ちは強かったが、新一はぎゅっと掌を握って耐えた。

どうせ言っても解らない。



解ってもらおうなんて、これっぽっちも思わない。



もちろん、平次が記憶をなくしたという事実は、新一にとって大きな衝撃だった。


しかし。



新一はちゃんと解っている。


平次の想いが、ちっぽけであるはずないことを。


あんなに自分を愛してくれて。多くのモノを与えてくれた。



あの暖かい日々に 嘘はないのだ。










―― 服部…… お前が俺との記憶をなくしたって………俺は絶対に服部と過ごした日々を忘れない……










服部と愛し合ったあの幸福な時は、消える訳じゃないから……。




俺の気持ちは、変わるわけが ないから――。





新一の中から失われるものなど、何一つないのだ。









そんなにも強い想いがあることを知らない立川を少しだけ哀れに思う。







小さく深呼吸をして。






「……いいぜ…お前のモノに、なってやるよ…」






新一はゆっくりと、瞳を閉じて。





















平次を……… 想った ――。














うわあーっ!!新一が立川のモノになる宣言をしちゃいました!!(まぁ、させたんですけど…/笑)
平次の知らないところでそんな取引が…
平次〜!!早く新一を思い出せ〜!!そして、新一を捕まえとけ〜!!(笑うところ)
『飽きた!』と言われる方もおられるでしょうが、もうしばらくお付き合いくださいませvv
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