どうか…… 幸せになってください………。


誰よりも…… 幸せになってください………。




一生懸命 祈るから………。


心から 願うから………。




だから どうか………。




どうか―――。





Century Lovers

最終話





「っ…ふっ……んっ…」


必死で声をかみ殺す新一の努力を嘲笑うかのように、少しでも平次が触れるとすぐに声が出てしまう。

それでも必死に声を殺す新一に、平次は少しだけ不機嫌の色を滲ませる。


「っ…何で声、我慢してんねん…?」

「っぅんっ…」


平次が喋ると新一のナカに深く侵入しているモノから振動が伝わってきて、更に新一を煽る。


「…っ…声…出せや…?」


「っああぁっ…!」


ぐっとえぐるように腰を進められると同時に、我慢していた新一の口から嬌声が上がる。

すると平次は満足そうに笑って、まるでご褒美だとでもいうかのように新一にキスを落とす。



どうして平次が自分を抱こうと思ったのか。

どうして平次が今自分を抱いているのか。


解らない。



考えようとはするのだが、平次の熱い愛撫に、一瞬で考えることを忘れてしまう。

もう思考力なんて、とっくにどこかへ飛んでしまっているのかもしれない。





ただ、これ以上醜い姿をさらさないように。





これ以上…嫌われない、ように。






「くっ…!」


平次の動きがどんどん早くなり、新一の頭がどんどん真っ白になっていく。


「っあっ…もっ……っと、りっ……!」

「…っああ…一緒に、イこかっ…っ」


瞬間。


目の前が痛いくらい真っ白になって。



怖いほどの快感が身体を駆け巡った。





「っっあ、ああああっ!!」

「っく…ど…っっ!!」





ずっしりと新一の上に体重を預けてきた平次の背中にくらくらとする頭でゆっくりと腕を回した。

荒い呼吸を整えながら、つう、と頬に流れる涙を見られないようにと願いながら瞳を閉じる。


本当に平次の幸せを思うのなら、早く別れればよかったのだ。

それをしなかったのは…自分が、平次と別れたくなかったから。

平次との唯一の繋がりを何としても失いたくなかったんだ。


結局平次の幸せを祈りながら……自分の幸せを 願っていた……。


自分が一番信じられない。


浅ましくて…… 愚かで………。



―― ごめん……な……はっと…り…



そして新一はゆっくりと意識を手放した。










 











ふと新一が目を開けると、そこはまだ薄暗く明け方なのだろうと思う。

ゆっくり起き上がってみるが、ズキンとした身体の痛みに顔を顰める。


力が入らない身体でどうにか身体を起こしてみたものの、ちょっとでも気を抜けば再びベッドの人となってしまうだろう。


眠る平次の横顔を見て、新一はふっと自嘲気味に笑みを作った。


「…馬鹿、だよな…こいつ…」


そっと。平次の髪に触れる。


それだけで愛しさが涙となって頬を伝っていく。


パタッ…と水滴がベッドへ落ちた。




「バーロー…」




ゆっくりと頬を伝う涙をぐいっと拭うと、新一は神聖なモノにするように平次の髪にキスを落とした。


以前は本気で考えていた。


『手遅れになる前に…』と。





だけどそれはずっと前から無駄な足掻きであることを、新一は知っていた。





手遅れも何も…。





すべては始まったと同時に…終わっていた…。





最初から、もう手遅れだった。







離れなければならないのが、こんなに苦しい。

胸を締め付けられるような、酷い痛み。



だけど平次は気づいただろう。

新一を抱いてみて、やっぱりおかしいことだ…と。


平次の重荷になってはいけない。



でも新一はこれっぽっちも後悔なんかしていない。

付き合えたことも、平次を好きになったことも、本当によかったことだと思える。



だって、幸せだった。



本当に――。






新一はそっと平次の髪から手を離して、音を立てないようにベッドを抜け出した。


ダルイ身体に鞭打って衣服を着て自分の荷物を手にする。



そして、一回だけ…。



平次を振り返って……。





笑った。





新一は大切な時計が入っているカバンを両腕で抱きしめると、静かに平次のアパートを後にした。







これで、終わりだ……。


何もかも…幸せだった日々、全て……。


これで……終わらせて、やる……。










 











新一はよたよたと歩いて自宅に帰り、ひとまずシャワーを浴びた。

まだ薄暗い早朝を一人でふらふらと歩いている新一はさぞかし怪しい人物だったろうと自分でも思う。


ベッドに倒れこむと、新一はようやく安心できた。

ふと窓を見るとカーテンの隙間から光が差し込んでいる。

大学に行かなければと思ったが、その考えもすぐに諦めた。

このダルイ身体で大学になんかいけるわけがない。


だけどこの身体のダルさこそ幸せの証だ。


この嬉しい疲れが一生取れなければいいのに、と思う…。



そして疲れからやってきた睡魔に身を任せ瞳を閉じる。



が、新一がそのまま睡魔に飲まれることはなかった。否、できなかった。




どこか遠くのほうからバイクの音が聞こえてきたことに、新一はガバッと跳ね起きる。

思わず飛び起きてしまい身体が軋んだが、少しだけ眉を顰めただけで新一はベッドから起き上がって窓に近づいた。


なぜならそのバイク音はとても聞き覚えのあるもので…。

どんどん近づいてくるバイクのエンジン音に新一は確信めいたものを持つ。


そしてカーテンを開けて外を見ると、工藤邸の前で見慣れたバイクが停まったところだった。


「は…はっとり…?」


平次はちらりと新一に視線を向けて部屋にいることを確認すると、急いだ様子で門を開けた。

どうして平次がここに、なんてことは今の新一にはどうでもいいことで。

新一は平次を迎えるべく、たどたどしい足取りで部屋を出る。

玄関の扉の開く音が聞こえ、そういえば鍵を閉めていなかったことに気付いた。


「工藤!」


ドタドタという足音と共に平次が新一の前に姿を現した。


「服部、どうし…」


新一が理由を聞く前に平次に抱きしめられる。

いきなりの行動に新一は当然のことながらパニックに陥る。


何が起こっているか解らないグラグラする頭に、小さな平次の声が聞こえた。




「目ぇ覚めたら工藤がおらんから…めっちゃ焦ったで…」




その声色にはようやく安堵できたという響きが含まれていて。



そう言えば何も言わずにアパートから帰ってしまったのだ。平次が驚くのは無理のないことだろう。

だけどまさかバイクで来てくれるだなんて思わなかった。

電話やメールなど連絡手段ならいくらでもあるのに…。


「…わ、悪ぃ…」


平次の体温にホッとした新一は背中に腕を回そうとしてハッと我に返った。

ぎゅっと唇をかみ締め、手を突っ張って平次から離れるが、思うように身体に力が入らないことから足元がふらつく。

平次が咄嗟に支えてくれたおかげで何とか倒れずにはすんだが、平次は心配そうに新一を覗き込む。


「身体、大丈夫なんか…?」


その言葉にカッと赤くなった顔を見せないように、俯き加減でコクリと頷いた。

平次は心配して来てくれたのだろう。

それを思うと、新一の心は嬉しさで満たされる…けれど…。


やっぱり、こういうことは止めなくてはいけない。


平次が言い出しにくいのなら、尚更自分が言わなくてはいけないと、新一は小さく深呼吸をして平次に向き直った。


「な…服部…」

「何や?やっぱしんどいんか?」


平次の心配そうな表情に新一は苦笑する。


「え…や…そ、 じゃなくて…」

「?」


首を傾げる平次に、最後になる言葉を紡ぎだす。


「………わ…」


言葉を言おうとするのに、どうしても声が掠れてしまう。


あれだけ悩みに悩んで決めた答えなのに、最後まで抗ってしまう心がある。


「工藤?」


ますます訳が解らないといった様子の平次に、新一は再び深呼吸をすると、瞳を閉じる。







「…………別れよーぜ……」




言ってしまって…自分の中の世界が、止まった気がした……。




平次の動きが一瞬止まり、空気が張り詰める。



「っ!?……何…や、て…?」



「お試し期間はもう終わり……俺はもう…お前いなくていいから…」


多分、これを初めに、これからも平次には嘘をついていくのだろう。

否、嘘をつかなければいけないのだ。


これから近くにいさせてくれるとしても…遠くから見ていることしかできなくなったとしても…。


新一は嘘をつき続ける。自分の心にも…。






「……何やねん、ソレ…」


平次のドスの効いた声に、新一はビクッとした。

今までどんなことをしたってそんな風に怒ったりしなかった平次が、今明らかに怒っているだろう瞳で睨んできた。

新一は慌ててフォローをする。


「は、服部、もう俺に気ぃ使わなくていいんだって!俺に合わせる必要なんかねーんだから!」


もう近づくなと言われたくなくて、新一は必死だった。

別れても近くにいさせてもらおうと思っている自分が何だか馬鹿みたいだけど。


―― ここで耐えなくて何時耐えんだよ…!


自分に叱咤して平次に笑みを向ける。


「お前は早く好きなやつ見つけろよ!?協力すっからさ!」


ニッコリと笑った新一に、平次の一層激しくなった怒りが伝わってきた。

調子のいいヤツだと、思われるかもしれない。


だけど……!!


「せやったら工藤は、俺が好きでもない男を抱ける思うてたんか?」

「……え?」


低い声が聞こえたかと思うと、新一は平次に力強く抱きしめられていた。


「っ…っとりっ?」


痛みに眉を顰めるが、平次は手加減することなく更にキツク抱きしめてくる。




「……ホンマ、ムカつくわ…」


平次はポツリとそう言って、痛いくらいに抱きしめていた腕から少しだけ力を抜き、長いため息を吐いた。


「ちゅーか、工藤は絶対解っとる思うてたんやけど……ほんま鈍いやっちゃなぁ」


どういう意味か解らなかったが、平次の怒りはすでになく、何やら落ちこんでいるようだった。



再び長い長いため息を吐くと、ゆっくりと腕を解いて新一を解放した。


「まぁハッキリ言うてへんかった俺が悪いんやろうけどな」


ポリポリと頬を掻きながら視線をさ迷わせる。


「せやけど、ホンマ凹むで…工藤、アホちゃうか…」


一人でぶつぶつ言う平次の口から新一の悪口が言われたことに、新一は眉を顰めた。


「何で俺が…」


訳が解らないと平次に詰め寄ろうとしたとき、平次の視線が新一に向けられる。


その真剣な眼差しには覚えがあった。


昨日…ソファに向かい合って座っているときに見せた…瞳…。


真剣すぎて怖いくらいの、平次の本気の瞳に新一は思わず後ずさる。




そして、驚くべき言葉が平次の口から発せられた。









「俺は工藤が好きや…せやから、別れたらへんで」









その瞬間、新一の思考はすべてストップしてしまう。





固まったまま動かない新一に、平次は再び口を開く。





「お前が好きや」




スキ…? ナニガ…?


平次の言葉を頭が理解するまで軽く30秒はかかっただろう。


「え…な、に…?」


新一からようやく出た言葉がそれで、まだ混乱しているのが覗える。


平次は尚も伝える。



「工藤が、好きなんや」



新一は信じられないとでも言うようにふるふると首を横に振る。


平次は新一の瞳をしっかりと捕らえたまま、想いを口にする。



「好きや…工藤が、好きや…」



新一は平次の言葉を信じたくないのではなく、本当に信じられないのだろう。


そう思った平次は新一が信じるまで言葉を続けた。



「工藤、好きや…」



新一は尚も信じられないような表情だったが、その瞳からはポロポロと涙が零れ落ちた。

頭では解らなくても、平次の心からの言葉は新一の心に届いているのだろう。


平次はその涙を舐め取り、唇に軽いキスを落とす。



「…好きや…」



唇が触れた瞬間、新一の身体がピクリと反応した。

呆然といった状態の新一の瞳から落ち続ける涙を親指で拭ってやり、平次は笑顔を向けた。








「ほんまに、好きやで」








ドクン…と。新一の心臓が、ようやく…動き出す。



平次の声が、暖かくしみ渡る。





ずっと。





ずっと ずっと ずっと 欲しかった、モノ……。








ずっと。





ずっと ずっと ずっと 焦がれて……焦がれ続けて……。








その一言だけで……。







その一言だけが……。







新一に世界一の幸せを与えられる。




















身体が、怖いくらいに震えて。今自分がいるところは現実ではないような気さえもして。


新一は拳を固く握り締めたまま、口を開く。






ずっと言ってはいけない言葉だと思っていて…我慢、していた。





付き合ってもらっている間も、決して言わなかった言葉…。






今なら…言っても……伝えても、いいだろうか…?






「…っきだっ…」






本当は、ずっと伝えたかった。



口に出すことはとっくの昔に諦めたはずの、言葉…。










「…き……好、きだ…っ…好きだっ…俺っ、お前のことが…本当にっ……」










この想いは…本当に受け止めてもらえるのだろうか…?









ソコに平次は いてくれるのだろうか…?






















瞬間、息も出来ないほど強く…強く抱きしめられた。


「俺も工藤が好きや!お前だけしか…愛せへん…!」


「っ!!」



その答えを聞いて、ようやく新一は平次の背中に腕を回してしがみ付いた。


「っ…と…りっ…」



やっと…やっと、追いついた。


走り続けて……ずっと、走り続けて…ようやく届いた、想い…。



「待たせて、堪忍な…」



ふるふると横に首を振ると、平次は愛しそうに笑って口付けを送ってきた。

平次から与えられるキスに、新一はうっとりと身を任せる。



吐息も、何もかも奪われるようなキスが続いて…新一は不意にひょいっと抱き上げられた。

どうしたのかと平次に視線を送る新一の耳元で、平次が熱っぽく囁く。


「…な…もっかいしよぉや……抱きたい…」


そう囁いている間に迷うことなく歩き出した平次は、新一をお姫様抱っこしたまま寝室へと到着した。


壊れ物を扱うようにベッドに下ろして、平次は性急に新一を押し倒す。


「…嫌か?」


少しだけ不安の混じった眼差しを向けられた新一は、ふっと笑みを浮かべた。



―― バーロー…嫌なわけ、あるかよ…



新一は平次の首に腕を絡めると、ぐいっと引き寄せ唇を重ねた。



「俺…お前が すっげぇ、好き…」


「…俺もやで…」



いつから平次が自分を好きになってくれたのかは解らないけれど…。

甘く囁いてくれる平次の声に、もうどうでもいいと思えてくる。


そして瞳を閉じると。


新一は再び、自分からキスをしかけていった――。










幸せになろう。



この恋が ずっと続きますように―――。



二人が 永遠に 離れませんように―――。













〜 fin 〜
終わった〜!!終わりました〜!!
感動です!!よく完成させた、私っ!!(アホ)
ここまで書くのに、とても長い時間がかかってしまったので、喜びもそれだけ大きいですvv
とは言え、3話まで書いた後めっきりと筆(?)が進まなくなっていたので、正直完結するかなって心配してたのですιι
いや、完成しないかもとか思ってました、ハイιι

今回 いっぱい新ちゃんを泣かしてしまいましたが、ハッピーエンドになってくれてよかったですvv
とりあえずこれは平次視点からも書きたいかなぁと考えております(考えているだけですが/笑)
え…Hシーン、全っっっっっっっっっ然大したことなくてホンマすんませんでしたιι前戯、はぶいてごめんなさいιι
私の文才ではここまでが精一杯みたいですιι
もちろん、これから精進していっぱいエロいシーンも書いていきたいですけどvv

ここまで読んでくださって本当にありがとうございましたvv
少しでも心に響く作品になっていればとても嬉しく思いますvv
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