こんなにも 切なくなるのは……



きっと 君を どうしようもなく ―――






Century Lovers

Vol.4





平次とキスをしてしまってから2週間、何かと忙しくて二人が会わない日々は続いた。

同じ大学に通っているものの時間やタイミングがずれて、構内ではすれ違いもしなかった。

もちろん電話でのやりとりはかかさなかったが、付き合い始めて2週間も会わないなんてこれが初めてだった。


新一はふいに空を仰いでふう、とため息を吐いた。

平次と会えないのはとても苦しいけれど。



少しだけ…心のどこか奥で……会いたくないと叫ぶ自分も確かに、いる。



「…いつまで…だろ…」


いったい平次はいつまでこんなことを続けるつもりだろうか。

否、いつまでこんなことを続けてくれるのだろうか…?


平次は頭のいいやつだから、すぐに男同士で付き合うなんて異端だと思い直すと考えていた。

だけど実際は何事もなく続いている。


自分がこれ以上平次に心を奪われる前に…幸せになる前に…切ってくれたら、傷は浅いと思っていたのに。



日ごと…夜ごと…。





平次は 新一を幸せにしてしまう。






平次から別れを告げられたときのために心の準備をしなければならないのは、十分すぎるほど解っている。



手遅れに、なる前に…。






これ以上平次を好きになってしまうと、別れろと言われたときに笑って別れてなんてやれなくなるのは目に見えている。


平次を引き止めてしまう。



行かないで…と…。



そんな醜い自分の心なんか見せたくない。





と。ドクン、と。新一の胸が高鳴った。

そして新一は、『彼』が現れることを確信した。

身体が勝手に『彼』が来たことを告げるのだ。もう今では、反射のようにもなってしまった、ソレ。



目を閉じていても…。



『彼』だけは絶対に見失うことは、ない。





「工藤!」





すぐに平次の声が新一の脳内を甘くくすぐる。


声を聞いてしまえば、もう会いたくないと思っていたのが遠い昔のように思えてくる。




会いたかった……会いたかった……。






会いたかった――!!







心が…身体が。荒れ狂ったように叫んでいる。




「服部…」




名前を声に出すだけで、満たされる。


「久しぶり…っちゅーのも変やけど」

「毎日電話、してただろ」


くすっと笑って言うと、平次も笑みを返してくれた。


「工藤今帰りなんやろ?一緒に帰ろおや!」

「あぁ、いいぜ」


そして歩き始めた二人だが、少し話をした後、どちらとも話題が続かず、無言のまま二人は家路を歩いた。


やっぱり電話で話すのと実際会うのとでは天と地ほどの差があることを、新一は肌で感じる。


電話の時なんかよりずっとドキドキして…ずっとずっと、心地がいい。






「…なぁ、怒っとるか?」


「…え?」


沈黙の後口を開いた平次が、覗うように新一を見ていた。



怒る?自分が?何故?



いきなりの平次の言葉に訳がわからず、新一は平次に不思議そうな眼差しを向ける。

平次は苦笑すると新一から視線を外し、ガシガシと頭を掻いて言いにくそうに言葉を紡ぐ。


「あ〜、あん時…無理矢理っちゅう感じでキスしてもうたから…」

「え…?…あっ//」


思い出すと、すぐに自分の顔が赤くなる。

カッと赤くなってしまった新一に平次はくすっと笑った。


平次はおもむろに自分のカバンをガサゴソと探ると、新一に何かを差し出した。


「詫び…っちゅうか……これ工藤にやるわ」

「え?何だ、これ?」

「ええから、ちゃっちゃと受けとってや。開けてええよ」

「え、あ、うん」


差し出されたものを受け取って見ると、それは綺麗にラッピングされたもので。

その綺麗な包装に開けるのが少しもったいないような気もするが、平次に開けていいと言われたので新一はそっとラッピングを解いていく。

そして中から出てきたものに思わず目を見張った。


「服部、これっ…」


平次がくれたものは、以前から新一が欲しいと言っていた時計だった。


平次と一緒に買い物に出かけた際に見つけたもので、新一が一目ぼれをしてしまったシロモノだ。

しかしながら値段が値段で新一は結局諦めることしかできなかったのだ。

そのとき平次が買ってやろうかと言ってくれたものの、そんな高価なものもらうわけにはいかないと新一は首を縦に振らなかった。


「気に入ってくれたか?」


優しい声で問いかけてくる平次に言葉を紡ごうとするが、感動のあまり言葉にならず、新一は何度もコクコクと首を縦に振ることで気持ちを伝える。


「どないしたら工藤は喜んでくれるんか分からへんかったから、オーソドックスなモンになってもうたけど」


新一の反応にホッとして照れくさそうに笑って見せる平次を…愛しいと、思う。



そんなの…本当に簡単なんだぜ…?




1年に一回だけでいい。





1年に一回だけ、工藤新一という人物を思い出してくれさえすれば……。










例えば 髪の毛や平次が身に着けていた服の切れ端でも、いい。


それを一目だけでも垣間見ることが出来るなら………。





本当に……心から………。





涙が、出るほど………嬉しいと。






幸せだと……思えるんだ………。














と、平次からもらった時計をぎゅっと握り締めた手の甲に、ポツリと冷たいものが触れた。

空を見上げると、ポツポツと雨が降り出していた。


「あかん、雨降ってきおったで。工藤、走ろうや」

「あ、あぁ」


雨宿りするより平次のアパートに直接行った方がいいだろうと考えた二人は、降り出した雨の中走りだす。

新一は、上から降りつける雨から平次からもらった時計だけは濡れないようにと服の下に入れて必死に守る。





始めはポツポツと降っていた雨だったが、走っている内にその雨脚は次第に強くなっていき、家に着いた頃には二人ともずぶ濡れになっていた。

新一は守っていたものの濡れてしまったのではないかと、急いで服の下から時計を取り出してみた。しかし、それは守った甲斐あって少しも濡れてはいなかった。そのことにホッとして、新一は笑みをこぼす。

そんな新一を見て、平次もふっと笑みを浮かべた。


「しかし、ほぉんま、かなわんなー」


容赦なく降り付けてきた雨に平次はぼやきながら、家の鍵をポケットから取り出してドアを開けた。

濡れたまま部屋に入ってタオルを2枚取り出すと新一にも渡してやり、そのまま風呂場へと足を進める。


「サンキュ」


渡されたタオルを受けとって新一が髪の毛を拭いていると、平次が風呂場から顔をのぞかせた。


「工藤先風呂入れや!」

「え、いいよ、俺は。拭くだけでいいし、服部入れよ」

「あかん。風邪引いてまうやろ。ほら、入れて」


平次はぴしゃりと言い放って遠慮する新一の腕を強引に掴むと、風呂場へと引っ張って行った。


「タオルはそこにあるからな。着替えは俺のでええやろ?服は乾燥機に入れといてや!あ、ちゃんと温まらなあかんで?」


てきぱきとタオルの場所を指差し、念を押すように言って聞かせる平次に、新一はくすっと笑う。


「分かった。先、入らせてもらうな」


平次の好意に遠慮なく甘えさせてもらうことにした新一はお風呂に入り、キュッとシャワーのノズルを捻った。

途端に温かいお湯がシャワーとして降ってくる。

その温かさに、自分は思った以上に冷たくなっていたことを知る。


―― 服部、気付いてたんだろーな…


新一は平次の目ざとさを尊敬すらしていた。

よく観察しているというか、事件に遭遇しているとどうしても観察眼というのが鋭くなる。

だけど、平次は新一より目ざとい。


ちゃんと、解ってくれる。


遠慮なく頭と身体を洗わせてもらっていた間に湯船に張っていたお湯がようやくいっぱいになったので、新一はお湯を止め、ゆっくりと湯船に浸かる。

ほっとする。

そういえば、最近シャワーだけでろくにお湯に浸かっていないことを思い出した。

もしかして、それも気付いていたのだろうか?


だとしたら…。


「…鋭すぎだっつーの…」


思わず笑みがこぼれてしまう。


このまま寝てしまいそうにもなるが、平次が風邪を引いてしまってはいけないと、早めにお風呂から上がった。





平次の服に袖を通すと、袖が余ってしまうことに気付く。

大きいのだ。

何だか平次との体格の差を見せ付けられているようで、新一は少しだけ眉を顰めた。


「服部ー、風呂サンキュー」


リビングにひょこっと顔を出すと、平次と視線が合った。


「っ…!」


平次は新一を見た瞬間、息を呑んだ。


「服部?」


声をかけてみるが、平次は固まったように動かない。


「は、服部?風呂、空いたぜ?」


恐る恐るもう一度平次に声をかけると、平次はハッとしたように新一から視線をそらせた。


「あ、ああ。せやな!ほんなら風呂入るわ!」


慌てたように新一の横を通り抜けて、平次はバスルームへと入っていった。

どうしたのだろうかという疑問はあったが、平次とてぼーっとすることくらいあるだろうと頭を切り替える。


肩にかけたままのタオルで頭から滴り落ちてきた雫を軽く拭うと、新一はカバンの中に入れた時計を手に取った。

途端に新一は無邪気な笑顔を浮かべる。

箱に入れたまま色んな角度から見てみたりと、することも多少無邪気になってしまっている。

大切な人から贈り物をもらったという嬉しさが新一の頭を支配しているので、仕方ないことではあるのだが。

それくらい、新一は平次からの贈り物が嬉しかったのだ。



まだ心臓はドキドキと脈打っている。



まだ顔は驚くほど熱く、赤くなっている。



嬉しくて嬉しくて、涙が出るかと思った。





嬉しさのあまり時を忘れて時計に見入っていると、平次の声が響いた。


「何や、まだ髪乾かしてへんかったん?」


不思議そうに尋ねた平次だったが、新一の手の中にあるモノを見てふと笑みを浮かべた。


くしゃり、と、まだ少し濡れている髪を掻き上げる仕草を見せる平次に、ドキンと新一の胸が高鳴る。

それを悟られまいとわざと平次から視線を反らして下を向き、髪を拭くフリをして顔を隠す。


―― カッコイイ、よな……やっぱり……


笑っている時もふざけている時も、怒っている時でさえ、カッコイイと思う。

でも。カッコイイから平次が好きなわけではない。


平次が平次であるからこそ、好きなのだ。


自分でも何故こんなに好きなのか分からないけれど。



「そないに気に入ってもらえたんやったら、俺も嬉しいわ」


くすくすと嬉しそうに笑いながら新一の正面のソファに腰掛けた平次は新一を見つめた。


「あ、ありがとなっ!大事にする!」


満面の笑みで今更ながらにお礼を言うと、新一はぎゅっと時計を大切に両手で握り締める。

すると、再び平次が息を呑む空気が伝わってきた。


大切にカバンの中に時計を仕舞い込みながら、新一は平次の態度に首を傾げる。




「服部?」






















「…しよか?」




















「え?何を?」


平次の意図が掴めずに眺めていると、平次は立ち上がってゆっくりと新一に近づいてきた。


平次に纏わり着く雰囲気がいつもと違うことに気付いた新一は、少しだけ後ずさりをしてしまう。


「は、服部?何?」


怒っているとかそういう雰囲気ではなく。

真剣な平次の瞳は真っ直ぐに新一を射抜く。


ひどくゆっくりとした動作で新一の傍へ来た平次はそっと新一の耳元に囁いた。












「……セックス、しよおや」










「っ!?」


驚いて言葉も出ない新一に、平次はキスをしかけてくる。

新一は、冗談だと思った。

だけど、平次のキスは本気で。

すぐに深いキスに変わり、新一の欲望を引き出すかのように舌を絡める。


「服部っ…な、 んでっ…っ…やめっ…」


混乱、する。

どうして男の俺なんか抱きたいと思うのだろうか…?

平次の考えることが解らない。



抵抗する新一に、服の下まで侵入していた平次の手がピタリと止まる。


「嫌なんか?」

「そっ…じゃ、なくてっ!!」


必死に言い訳を考えるが、混乱した新一の頭では平次を止める言葉が出てこなかった。


「そんなら、ええやん?」


嫌じゃないと言った新一の答えに心底安心したような笑顔を見せる平次に、新一は抵抗さえも忘れた。

再び仕掛けられる平次の深いキスに、わずかに残っている新一の思考力までも奪い取られる。


「…工藤…」




名前を呼ばれただけなのに。






平次の言葉に逆らうことなんてできるはずもなくて。












その夜、俺は 服部に…… 抱かれた―――。















やー、やっちゃいましたねーιι
えー、一応、エロ……じゃないですね、全然!ハイ、解っとります!
えと…次が、ちょっと、エロくなればなー…なんて…ね……うん…。(笑)

平次の気持ちが解らなくてヤキモキしている新一です。
それと同時に自分の気持ちに必死に待ったをかける、切ない心境ですね。
切ないと思っていただけたならいいなぁvv
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