嘘が許される、唯一の日――



エイプリルフール ―1―



夢にまで見ていた。


ずっとずっと恋焦がれていた、欲しくて堪らなかったソレ。


そんな、愛しい愛しい人からの愛の告白を。




服部平次は、絶望的な思いで、聞いた。





「俺、お前の事が好きだ。 …俺と、付き合って欲しい…」






その言葉を発した愛しい愛しい平次の想い人、工藤新一は、頬を染めながらジッとこちらを見つめてくる。


―― ……何やねんそれ……ごっっつ可愛ぇやないけ!!


男の新一を表す言葉としては適切ではないかもしれないが、そこは恋する男の恋する瞳という事で大目に見て欲しい。

そんな事を考えてみても、新一からの告白を聞いて嬉しさが溢れ出すでもなく、平次の中にはただ苦く重い感情が渦巻いているだけだ。

愛の告白を素直に受け取れない理由が、あった。

普通にこの告白を受けていれば、叫び出すどころか喜びに狂ってしまうところだろう。




そう、『普通』であれば!




『今日』でさえ、なければ!!






4月1日の今日は、全世界共通の………エイプリルフール、だ。







―― 何が悲しゅうて嘘で告白されなアカンねん…


平次は心の中で盛大に溜め息を吐いて、事の発端を思い返した。



春休みの真っただ中、レポート作成と調べ物をする為、2日前から平次と新一は大学へ通っていた。

いつもは平次が新一のマンションへ迎えに行くのだが、珍しく今日は新一が平次のマンションへ迎えに来ていた。

それどころか、朝の弱い新一が、約束の時間より1時間も前にやって来たのだ。

かなり驚きつつもリビングに通し、即行支度をすませてリビングに戻ると話があると言われて。

告げられたのは……偽りの愛の言葉だった。


―― そないなイタズラする為だけに朝早よ来るて、どないやねん…


平次がエイプリルフールを気付いていないと思っているのだろう、新一は期待を隠すことなく瞳に讃えて視線を送ってくる。

ここでどういう返事をしたとしても、『嘘だよ。ひっかかった?』なんて楽しそうに笑うのだろう。

好きで好きで仕方ない人から告白をされて、けれどすぐにその口から嘘であると、好きではないのだと聞かされるのだ。



何の虐めだ。



上げて上げて上げまくって落とすとは、かなり高度な虐めテクニックだ。

本気で泣ける気がする。



「…服部?」


呼ばれてハッと我に返ると、新一が不思議そうな眼で覗き込んできた。


「あ、いや…」


今日がエイプリルフールである事を知っていると、無難な答えを返そうと口を開けて…閃いた。

ここでOKすれば、例え今日1日だけでも、新一と付き合えるのではないだろうか。

この想いは一生叶う事はなく、一生気付かれる事もなく、恋人なんて夢のまた夢だと思っていたけれど。


これはチャンスだ。


今日が終わるまで、新一の口から『エイプリルフールの嘘』という事を聞かないように、言わせないように立ちまわれば、恋人になる事が出来る。


―― それやったらイケる!!


素早く頭の中を切り替えた平次は、にっこりと新一に笑って見せた。


「おおきに、工藤。 ええよ、付き合おうや」

「っ!! ほ、ほんとか!?」

「ホンマやで。 今日から俺ら…」


『嘘』という言葉を言わせない為に、平次は新一の肩をぐっと抱き寄せて、耳元に甘い声で囁いた。


「…恋人同士や…」

「――っ!?」


いきなりの平次の行動に驚いている新一に、念を押すように笑って見せる。


「な?」

「…あ、あぁ…///」


新一は驚きに目を見開いた後、不自然なほど視線を盛大に泳がせて、小さく頷いた。

反応から見ても、これできっと、『嘘』だと言い出しにくくなったに違いない。

第一関門はクリアだ。と、ホッとしたのもつかの間。


フワリ――。


「っ!!」


ふいに新一の香りが鼻をくすぐる。

咄嗟の事で失念していたが、抱き寄せて密着したこの状態……ヤバい……。


ぐらりと、眩暈がした。



「よ、よっしゃ! ほんなら学校行こか!」


理性を総動員させて新一から素早く体を離し、宣言する。


ぎこちないのは重々承知しているが、これが今の精一杯だった。


「あ…うん…そうだな」


不審に思われないだろうかと懸念していたが、呆気なく新一は頷いてくれた。

玄関に向かって先へ進む新一へ、今だけは振り返らないで欲しいと切に願った。

新一を抱き寄せた手が、感動で小さく震えている。


―― あ〜、も〜、何やねん、俺!! 工藤の事好きすぎるやろ!!


分かっていたはずだが、こんな些細な事で思い知らされる。


こんな事だけで……こんなにも嬉しい……。


けれど、この想いだけは決して溢してはいけない事を、自分が誰よりも知っている。


玄関を出るまでには。


震えを落ち着かせて…いつもの自分に戻るから…。


だから、どうか……。


自分だけの想いを、噛み締めさせて欲しい――。

















(2012.4.1)
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