君を縛ってしまいたい――




甘い束縛

〜後編〜



家に帰り着くとコートを脱ぐこともせずに新一は自分のベッドに倒れこんだ。

今新一の頭の中は平次でいっぱいだった。

さっき散々考えたはずなのに、やっぱり考えるのは平次のことだけ。

そして先ほどからずっと、嫌な考えばかりが新一の思考を支配している。

もしも平次が新一に興味を無くしたら。



別れると、言われたら……。



そのことを考えるだけで心が冷えていく。

平次はもう自分のことなど嫌いになってしまっただろうか…?

いらないと……言われてしまったら……。


寒さからくるものではないモノが、ぞくりと身体を震わせた。


女だけではなく男も平次という人物に引き寄せられており、平次の周りにはいつも人が絶えない。

親友なら、その中に気の合う奴がいるだろう。

恋人なら、その中に可愛い…平次にお似合いの可愛い女の子がいる。


だったら、自分は……?


恋人という位置を失えば……友達になんか…親友になど戻れないことを知っている。

どこの位置にいればいい……?

どこの位置にいれば……一緒にいさせてくれる……?



―― 傍に …… いたんだ ……



運命があるならいいと、思う……。

運命の赤い糸なんて代物があるなら…誰と誰が結ばれて……。

誰と誰が結ばれないか、解るから。


平次の運命の人は、きっと自分じゃないと思う。

もっともっと似合いの人はいるのだから……。



だけど。



自分の運命の赤い糸の先にいる人物が平次ではないのなら……。

そんな赤い糸なんか、ほどけてしまえばいいとさえ、考えてしまう。


新一はふう、とため息を吐くと、ぎゅっと瞳を閉じた。


何も持たない自分に平次が愛想をつかせるのは当たり前のことなのかもしれない。

平次が何故新一を選んでくれたのか、ずっと解らない。

周りを見回せば可愛い子や綺麗な女の人はたくさんいる。

平次を本気で好きな子も少なくない。告白をされる事だって珍しくもない。

それなのに、どうしてライバルでもあり親友でもあった新一を好きだと言ってくれたのだろう?



平次が判断を誤るなんてことは、ないと思う。

だけど、もしかしたら。


平次が周りの女の子に目を向ける前に、新一が好きだなんて言ってしまったから…なのかもしれない。


平次の言葉を疑うではないが。



本当に、解らないのだ。



ずっと考えているのに……。





ずっと。ずっと解けないままの……謎……。






自分に自信が、持てない。



事件のときには自信で溢れているのに。どうして平次のことになるとこんなにも弱くなってしまうのだろうか。


最悪な展開だけが頭の中によぎる。


「…寒い…」


新一の呟きも静かに響くだけで。

暖めてくれる腕も、人も…いない。

ぎゅっと拳を握り締めて耐える。


そもそもこれは自分で招いてしまったこと。

自業自得なのだ。

だから、自分が落ち込むなんて、おかしい。



だけど。



だけど…会えなくなるなんて……辛い……。



辛すぎて……



寒すぎて……



こんな凍えそうな日には平次に傍にいて欲しいと願うのに。




夢でもいいから……



一目だけでも、いいから……



顔を……見たい……



そして――― 笑って欲しい ――。



今この瞬間も。笑っていれば……いいと、思う……。



ただ今新一が出来るのは。



平次の幸せが一つも欠けることがないように…願う……唯、それだけ…。










 











眠れない日々が……続いた――。

食欲もあまりなく、自分でも少し痩せたと思う。

だけど友人の前ではいつも何でもないような顔をして笑う。

少しでも気を紛らわそうと友人達といつものように、遊ぶけれど。

考えるのは平次のことだけ。

何か足りない。

その“足りない何か”の正体なら解っているのだが。


“服部平次”が、足りない。


今日は友人達ととことんまで遊んで、解散したのが朝の2時だった。

友人の姿が見えなくなると、新一の表情は一変する。

考えないようにしているのに考えてしまう自分の頭が恨めしい。


ふう、とため息を一つ吐くと、それだけ身体が重く感じる。

最近の不衛生が祟ったのか新一の足は鉛のように動かない。

それでも何とか引き摺るように家の近くまで歩いて帰ってきた。

今日も、寒いと思う。

天気予報で今日は春並みの暖かさになると言っていたが、新一はやっぱり寒かった。


と、急に新一の視界がぐにゃりと揺れた。

ぐっと足に力を込めて、壁に手をついて何とか倒れずにすんだ。

フルフルと頭を振って気をしっかり持ち、再び足を進める。

しかし、新一の思いも空しく、新一の身体は重力に逆らうことなく地面に倒れていった。



最後に新一の瞳に映ったのは……。



愛しい人の驚いた顔と……声……。



「工藤!!」







暗転した意識の中、何故か新一の身体は温かかいモノに包まれているようで…安心した。

平次がいないのに安心できるなんて考えられない。

だけどその暖かさはまるで夢を見ているようなフワフワとした気分にさせる。

バカみたいに平次だけを求めて。

バカみたいに平次だけを追いかけるなんて、自分でもバカみたいだと思う。


だけどこの世界の中で。


新一にとって平次だけが。



暖かい人……だった。






ふ、と目をゆっくりと開けると、見慣れた天井が見え、すぐに自分のベッドで寝ているのだと判断した。

ボーっとした頭でどうして自分が家に帰っているのか考えるが、解らない。

どれくらい眠っていたのか解らないが、少しだけ頭がすっきりしている。

ムクリと身体を起こして新一がきょろきょろと辺りを見回してみるが誰も居ない。

そんな小さなことに胸を痛めたりしている自分が少しおかしい。

ため息を吐いたその時、ガチャっと寝室の扉が開かれ人が入ってきた。

驚いてその方向を向いた瞬間、新一はさらに驚いて目を見開いた。


「っ!!」

「っと、起きとったんか、工藤。いけるか?」


優しい声が、響く。


「っと…り…」


搾り出すように出した声もそれがやっとで、後は声にならなかった。

平次はそんな新一に苦笑すると、新一の傍へ近づいてきてベッドの端に座った。


「…痩せたんとちゃう?それにえらい寝不足の顔しとるで?」


心配そうに覗き込む瞳に、新一は首を横に振った。

ずっと会いたかった人なのに。

いざ会ったら何を言っていいのか解らなかった。



それに気付いているのか、平次は新一の言葉を無理に引き出そうとはしなかった。

平次はゆっくりと腕を伸ばしてそっと労わるように新一の左頬に触れると、まるで自分の痛みのように顔を歪めた。


「すまんな……痛かったやろ…?」


平次の温もりに触れると、緊張していた自分の糸が切れるのが解った。

待っていた…。

ずっと…お前だけを………。

新一は平次から視線を外して下を向くと、平次の上着の裾をぎゅっと握った。


「…お…俺っ……」

「ん?」


自分の出した声が泣きそうなほどに震えていることに少しだけ驚いたが、それでもそのまま言葉を続けた。


「…俺………じゃねぇ……」


きゅっと唇をかみ締めると、精一杯の勇気を出して、素直になってみる。


「……俺…お前が…服部がいなきゃ、大丈夫じゃねぇ……」

「く、工藤ぉ?」


初めて新一の素直な気持ちを聞いて素っ頓狂な声を出す平次に、構うことなく強い口調で言った。


「っ…だからっ……!!」


だから、どうか……。


ぎゅっと目を瞑る。

平次が傍にいるだけで、こんなにも暖かい。

意を決して瞳を開けると、ほんの少しだけ上にある平次の目を見て叫んだ。




「……もう…俺を置いて…どっか行くなよなっ!!」




もう二度と、あんな凍えるような思いは御免だと思った。

あんな、苦しくて苦しくてならない思いなど、もう味わいたくは無い。




「傍にっ…居ろよっ!!」




平次が傍にいなければ、新一はずっと寒いままで。

暖かさを、知らない、ままだから…。


瞬間、ぐっと痛いくらいに平次に抱きしめられた。

一瞬息が詰まってしまうくらいキツク抱きしめられたが、それでも心地良い。


「…俺が居らな、大丈夫とちゃうんや…?」


新一は平次の腕の中で素直にコクリと頷いた。

ふっと平次が笑う気配がしたと思うと、更に腕に力を込められた。


「…俺もや…」


ぎゅうっと平次に抱きつくと、平次は一等優しい声で囁いた。


「ただいま、工藤…」


そしてすぐにその囁きは甘いキスへと変わっていった。







長いキスが終わり唇が離れると、平次は新一の瞳を覗き込みながら楽しそうに笑った。


「せやけど、工藤はヤキモチ妬きやったんやなぁvv」


嬉しそうにそう言って笑う平次の顔を新一は睨めつける。


「っ///!なっ、何だよそれっ!!」

「俺が他の奴と話すんでさえも嫌なんやろ♪」


にこにこと笑いながら言う平次のセリフが核心を突いていて、新一はぐっと言葉に詰まる。

押し黙ってしまった新一を愛しそうに見やると、平次はそっと新一の頭を撫でた。


「大丈夫やて」

「っ…何が、だよっ!」

「俺もやから」

「え?」



「俺、な。正直、工藤が俺以外の奴と目ぇ合わすんでさえも、嫌や思うてんのやで?」



真剣な平次の声に、新一は言葉を失う。



「朝から晩までずっと……工藤が俺だけを見てくれたらええて考えとるし」



平次は真剣に言いながら何故か新一の肩を押してベッドに押し倒した。



「どこにも出さへんで…ずっと俺の傍に置いときたい…」



チュッと首筋にキスを落として自分の所有印を刻み込むと、その証をペロリと舌で舐める。


「えっ、ちょ…はっとりっ…!?」


あれよあれよという間に新一のシャツのボタンが全て外されたことに、新一は焦って抗議の声を上げる。

が、もちろんそんなことで平次が止まるはずもなく、新一の身体にキスマークを刻んでいっている。





「一日中……工藤を抱きたい…」





欲望を交えた、熱っぽい声でそう言われ、新一は頭の芯がクラクラした。


「っっ!!」


平次の熱さに、眩暈がする。


「今日は寝かせてやれへんからな…」


切羽詰った声でそう囁かれ、熱いキスを仕掛けられた。

落ちてくる唇に翻弄されながら、新一は明日の大学は絶対行けなくなるだろうことを考える。


が、すぐに考えることを止めて、愛しい人からのキスを受け止める。



二人の夜は終わりそうになかった――。














〜 fin 〜
おおお終わりました〜vv終わりました〜vv(しつこい/笑)
一万を踏んだにしもと様に捧げますvv
リクは『平新で二人の喧嘩(大喧嘩)』ということでしたが、いかがでしたでしょうか〜vv
本当にのように遅くなりまして申し訳ないですιι
キリリクはつい力が入ってしまうので完成が遅くなってしまうことに気付きましたιι(え、これで?と言わないでください/笑)
今度は平次にあたふたさせるような喧嘩も書いてみようかな、と考え中です
少しでも楽しんでいただけたなら、とても幸せですvv
Index > Top > ノベRoom > 甘い束縛2