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俺の還る場所は お前―――




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扉が固く閉ざされた工藤新一の部屋の前で、服部平次は立ち往生していた。


「工藤、まだ怒ってるんか?」


扉に向かって話しかけると、少しの沈黙の後、声が返ってくる。


「……怒ってねぇよ。早く大阪行けばいいだろ」


明らかに怒っていると思われる声でそう言われても、説得力など微塵も感じられない。

何を言っても決して開く事のない扉が、その怒りを物語っていた。




何故か知らないが、今週末に大阪へ行くと言った時から、新一の機嫌が悪い。

新一が好きで東京の、新一と同じ大学を受けて見事合格した平次は、今、東京のマンションで新一と同棲している。

平次が実家の大阪へ行く事は何らおかしい事ではないし、以前からちょくちょく新一と一緒に行っていたので、怒る理由にもならないだろう。

自分のとった行動に問題があるのかと考えてはいるのだが、思い当たることはない。

そもそも、少し前までは新一の機嫌は普通だった。

それが悪くなったのは……。

平次は、新一の機嫌が悪くなった時から考え直してみた。


それは、三時間前のこと……。





リビングでくつろいでいる新一にコーヒーを入れる為、キッチンにいた平次に、声が掛けられた。


「服部ー、ケータイ鳴ってるぞ」


ひょいとリビングに顔を出すと、テーブルに置かれた自分の携帯が着信を響かせている。


「あ? ほんまや。ちょお出てくるな」

「あぁ」


小説を読んでいる新一の邪魔にならないよう、携帯を片手に再びキッチンへ戻る。

ディスプレイを確認すると、それは大阪の母親からだった。

内容は、今週末、新一と一緒に大阪に返って来いという事だった。

何やら見せたいものや食べさせたいものがあるらしい。

今週末は特に何か予定しているわけではなかったし、新一の予定も大丈夫だろうと了承して電話を切った。


本格的なペーパードリップしたコーヒーを両手に持ち、待っているだろう新一の元へと急ぐ。


「誰?」


コーヒーを手渡すと、すぐに口をつけながら目線だけで平次を見上げた。

先程の電話の相手の事だと気付くと、苦笑する。


「ああ、オカンからや。何や大阪来いゆうて煩いねん」

「そっか、道理で」


どこか納得したようにクスッと笑みを漏らした新一は、キッチンから聞こえた平次の声だけで電話の相手を推理したらしい。

流石やな、と言うと、当然とばかりに悪戯っぽい笑みと視線が合う。

めっちゃ可愛い、と心の中でひたすら連呼しながら、静華からの言葉を伝えた。


「ほんでな、今週末、大阪帰ることになってしもたんやけど、工藤も来ぃへん?」


そう何気なく提案して、新一の返事を待つ。

いつもならすぐに、笑って、「ん♪ 行く♪」と言うはずの答えがなくて。

一瞬、新一は驚いたような表情を見せた。

そう思ったら、すぐに悔しそうに唇を噛んで、平次を睨んできた。


「え!?く、工藤ぉ?」


睨まれる事など言った覚えがない平次は、本気でうろたえた。


「んなの、お前だけ勝手に行けばいいだろ!! 話がそれだけなら、しばらく俺に話しかけんなよなっ!!」


そう叫んで、新一は自分の部屋に篭ってしまったのだ。





―― ………全っっ然、解らへん…!!





今思い返しても、どこのどの辺が新一のカンに障ったのか、不思議でならない。


新一の怒りが解けるまで放っておいた方がいいのかと考えるが、自分が耐えきれないと即座に答えを出した。


せっかく一緒の家に住んでいるのだから、少しでも近くにいたい。


平次の言葉が新一を傷つけたのなら、早く謝って抱きしめてやりたい。



愛しい人に、触れたい。




「…工藤…開けてや……」


「っ……」




言うと、部屋の中で息を飲む気配がした。


「工藤の顔見られへんの……めっちゃキツいねん……」


これ以上新一の顔を見れないなんて、本当にどうにかなってしまいそうだ。


「……っ…」


中の気配を探ると、何やら戸惑っているような感じで。

でもまだ、何か許せない理由があるのだろう、返事はない。

理由があるなら、面と向かって堂々と罵ってくれた方が万倍マシだ。


理不尽に平次に怒ってしまって、後悔しているだろう新一を、一人になんてさせたくはない。


そっと閉じられたドアに手を触れ、目を閉じた。








「…工藤……愛してる……」








瞬間、部屋の中でガタンッと椅子が引っくり返ったかのような大きな音がして。

バンッと、勢いよくドアが開き、新一が顔を出した。


「お、お前っ…今、何てっ…!?」


頬を赤く染めて、期待するような瞳が向けられている。

その言葉を聞きたいが為に、あれだけ固く閉ざしていた扉を簡単に開けた新一は、思わず微笑んでしまうほど可愛い。

すぐさまその身体を腕の中に納める。



「……愛してんで、工藤…」



生粋の日本人の自分があまり言う事のないセリフに、新一は耳まで真っ赤にして、背中に腕を回してきた。


「…………も……もっ回……///」


恥ずかしそうにねだる唇にキスを落とし、望みの言葉を耳へ囁いた。










* * * * * * * * * *










天の岩戸を開くことに成功した平次は、そのまま新一の部屋へ入り、ベッドに腰掛けながら新一を後ろから抱きしめる。


「なぁ…何であないに怒っとったん? 俺、何や気に触ること言うた?」


やはり新一を怒らせてしまった原因が気になって、そう問いかけた。

すると、新一は泣きそうなのを必死に我慢しながら、ぽつりと呟いた。


「……お前……大阪、帰るって……」

「? そんなん今回が初めてちゃうやろ?」


以前から一緒に大阪に行っていたのに、どうして今回だけ、と首を傾げる。


「……だって……大阪…帰るって…言った……」


新一は同じ言葉を繰り返すだけで。


そしてふと気づいた。


新一が繰り返して言うのは『大阪に帰る』という言葉だということに。

そこで初めて、自分のセリフに思い当たった。


「もしかして……工藤は俺が大阪に“行く”やのォて、“帰る”言うたのが気にいらんかったんか?」


一瞬、抱きしめている新一の身体がビクッと跳ねて。そのまま、静かに頷いた。


「…俺……当然のように、ここが俺たちの家だと思ってた……のにっ………」


東京で同棲するようになって、1年あまり。

もちろん、大阪で暮した十数年の時間には到底及ばないけれど、それに匹敵するくらい、毎日が充実していて。

だから、もう、新一にとっての『家』は、ここだった。

そう、平次も思ってくれていると信じていた。



それなのに。



唐突に告げられた、『大阪に帰る』の言葉。



「まだ、お前の帰る場所が大阪にあるんだと思ったら………すっげぇ、悔しくてっ……」


無意識であればある程、その現実が大きいものなのだと突き付けられているようで。

すごく、哀しくなった。




俺の還る場所は、服部、だから。




服部の還る場所も、俺であって欲しい……、と。




そう、思った。






「…ごめん…これは俺の我侭なんだ……」


ポツリと告げると、後ろからキツクキツク抱きしめられ、そのままベッドに押し倒された。


「わっ!?はっと…!?」


すぐに降ってきた甘い口付けに、反射的に目を閉じて甘受する。

唇がそっと離れてから、ゆっくり目を開けると、嬉しそうに破顔した平次が映った。


「スマン、正直、めっちゃ嬉しい♪」

「…え?」

「俺にとっても、ここが家やから……工藤が同じ事考えててくれて、嬉しいねん♪」


その言葉に、今まで胸の中でわだかまっていた塊が、呆気なく消えていくのが解る。

自分でも単純だと思うが、嬉しいものは嬉しいのだ。


「バーロォ…」

「ま、大阪帰るっちゅーのは、ホンマ言うと、場所なんてあんまり考えてへんかったから言うてしもたんやけどな?」

「?何だよ、それ?」


首を傾げると、クスクスと笑いながら、キスの雨が降ってくる。



「場所なんて、どこでもええねん。工藤がおるところが、俺の帰る所なんやから」



「っ…!///」



すぐに赤くなる新一の頬を手の甲で撫で、一等優しく囁いた。







「俺の居場所は、工藤やから…」







新一がいる場所が、平次の唯一の居場所になるのだ。



告げると、新一は泣きそうな顔でふわっと微笑む。


「うん…俺も……」


ありったけの想いを言葉にしても、そう返すのが新一には精一杯で。

けれど、なんとかしてこの暖かい気持ちを伝えようと、キュッと平次の首に腕を絡めつけて抱きついて、耳元に、そっと、囁いた。




「……お帰り、服部…」




新一が、平次の居場所だと言うのなら、自分はいつまでも、一緒にいて。




包み込むような愛情を、与えてやれたら、いい。




そう、想う―――。









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(2009.07.14)

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